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昼休みも十分にとったといえず、大事な時間もふいにされてしまったので、俺は非常にはらわたが煮えくり返っていた。
西覇も不機嫌極まりない顔をしていたが、それ以上に俺も不機嫌だった。
人が髪を染めた途端、掌を返したような押し付けの好意に胸糞が悪くなる。
俺が髪を染めたのは、西覇との時間がもっと作りたかっただけで、そのほかの奴等にくれてやる時間なんか露ほどもない。
授業が終わるチャイムと同時に俺は教科書を持ち帰る気分にもなれず、からっぽの鞄を担いで立ち上がると椅子を蹴って、教室から出ようと扉に向かう。
「瀬嵐君」
楠木の不快な声と、その取り巻きどもに行く手を塞がれ、俺は持っていた鞄を握り締めて深くため息を漏らした。
いい子ちゃん達は、帰って塾でも行ってろっての。
「どけ。邪魔だ」
「あの生意気な一年生なら、制裁を加えておいたよ。今頃泣いているんじゃないかな」
半笑いで言った楠木の胸倉を掴もうとすると、取り巻きどもが数人がかりで俺の腕を万力で掴む。
「テメェら、西覇にナニした?!」
「一年生の首席だよね。少しばかり綺麗な顔してるけど、でも、全然君とはつりあわないよ。この学校の空手部の僕の友達に頼んで、生意気な口が利けないようにするように言ったんだ」
俺は掴みかかられたやつらを腕を振って振り払い、バタンバタンと音をたててなぎ倒す。
乱闘だと大声をあげるクラスメイトが、非常にわずらわしい。
空手部の奴等………って、全国大会級の奴等だった気がする。
ふざけんな、一般生徒に手を出していいと思っているのか……。
流石に空手の猛者どもに絡まれたら、あの細っこい体じゃ、喧嘩慣れしていても危険かもしれない。
「何が目的なんだよ」
「だから、君が僕のパートナーになればいいんだよ。そうしたら、あの一年生にはもう手出ししないよ」
自分の手は汚さずに、明らかに自分の目的を力ずくで遂げようとする目の前の男が気に入らなかった。
明らかに脅迫だ。
「そんなんで、俺がオマエを好きになると思っているのか?」
「別に、好きにならなくてもいいですよ。貴方を手に入れたいのです」
「……最、悪だな。オマエ」
俺は別に男が好きなわけじゃない。
ただ、西覇が欲しいと思っただけだ。誰でもいいわけじゃない。
他の誰でもいいわけじゃない。
「それにあの一年生より、僕のほうが抱き心地はいい筈です」
根拠のない自信に溢れている男に、俺は深くため息をついた。
西覇は、今、大丈夫なのだろうか。すぐに飛び出して駆けつけたいのに、教室の扉はガタイのいい男達に塞き止められている。
「西覇が怪我とかしてたら、テメェぜってえに許さねえからな」
何度も引き剥がしているのに腕にしがみつこうとする男達を振りほどきながら、石壁のような男らへ突進しようとする、俺の目の前にたった楠木は、勝利を確信したようににっといやらしい笑いを浮かべた。
「僕が彼らに制裁をストップするように言ったら、僕と付き合ってくれますよね」
何よりも……西覇が大事だ……。
だから…………。俺はそれを守るためなら。
なんでもできると、思った。
西覇に危害を加えられたらと思うと、いてもたってもいられず、目の前の楠木の言葉に分かったと答えようと口を開いた。
「遅いと思って迎えにきたら、喧嘩ですか」
制裁を受けている筈の西覇の声が響いて、教室の前の扉から鞄を抱えた帰り支度で俺の教室へと臆した様子もなく入ってくる。
顔にも服にもまったく乱れはなく、髪筋ひとつも艶やかで綺麗である。
「西覇、無事だったか……」
「成春さんは無事じゃなさそうですね。っと、離してくださいね。僕のですから」
クラスの面々が見ているのにもかかわらず、所有の宣言をすると、俺の腕を掴む男達の腕を掴んで、鮮やかなしぐさでごきごきっと音をたてて間接を外す。
屈強な男達が、教室の床で転げまわるのを冷静な目で見下ろし、
「不器用なもので、うまく剥がせなくてすみません。でも、これは、多勢に無勢の成春さんを助けるための正当防衛です」
と、鋭い目つきのままでそういい置き、するっと視線を楠木へと向けた。
「……ちょっかいだしたら、どうするか覚えてますよね?副会長さん」
楠木は、周りで悶える親衛隊を恐怖の眼差しで見つめて、じりじりとあとじさる。
「き、きみは、あの空手部のレギュラーをどうしたんだ」
「ああ……アレも副会長の手先だったんですね。僕は手荒い勧誘かと思いましたので、裏庭にお誘いして軽く試合をしてあげました。今頃、いい夢見ているかも知れませんね」
ふっと笑って、逃げ出す楠木を見送る男は、優等生の首席とは程遠いような気がした。
ちょっとでも心配した俺は、西覇の力を完全に見誤っていたらしい。
なんだか力が抜けてしまい、思いっきり肩を落として力なく笑う俺に、西覇は困ったような表情を浮かべた。
「成春さんは、やっぱり今までどおりの方が、変な虫がつかなくてよかったかもしれませんね」
俺の腕を引いて廊下に出ると、眼鏡の奥の鋭い瞳を曇らせた。
金髪の頃は誰にも見向きもされなかった。
怖がられて距離をとられていた。
「……そうだな。西覇に害が及ぶとなると……俺……」
何かされそうになったと聞くだけで肝が冷える。
いてもたってもいられなくなる。
俺の全部を明け渡してしまってもl惜しくないと思える。
それがスキだってことなんだろうとは思うけど。
「心配してくれたんですね」
ちょっとだけ、声のトーンがあがって嬉しいと思ってくれているのが分かる。
階段をくだりながら、腕を引く西覇の首筋を眺める。
「いてもたってもいらんねえくらいに……」
「……成春さん……。そんな可愛いことばっかいわないでください」
首筋が少し赤らんで見える。
ぎゅっと握った手のひらが熱い。
「オマエが、大事だ……だから……」
「成春さん…………僕は大丈夫だから。変な脅しとかには負けないで。僕を信じて」
振り返った西覇の顔は、きりっとした男らしい表情で思わず、強く頷いた。
多分、西覇は、この学校で最強の男だ。
だから、俺は、信じて一緒にいよう。
どんなに卑怯な手を使われても、きっと西覇は屈しないだろう。
囲まれていると気づいたときには手遅れだった。
高校を出てからずっと俺らはつけられていたのだろう。
15人以上の気配がすぐ近くの周りにはあって、逃げる道もなく詰んでいることはすぐに分かった。
ぬかったなというのが、正直な気持ちだ。
「西覇……」
「大丈夫。気づいてますよ。」
目の前に立つ男の制服は、あの時と同じ忌まわしい東高の黒に赤ラインの制服である。繁華街でもなく、この辺にはいないはずの学区なのに、どうしてこれほどの数がいるのか不思議で仕方なかった。
名前がかければ入学できるとまで言われているレベルで、そこは、手が付けらない悪の巣窟だと聞いている。
それに……前に俺を追いかけてきて輪姦したやつらも東高だった。
もう二度と会いたくないと、思っていたのに。
条件反射で足が竦みそうになり、俺は奥歯をぐっとかみ締める。
この数じゃ、西覇だってどうにかできるレベルじゃない。
西覇が最強だといっても、一高だけでの話であり東高のこの数になんか太刀打ちができるはずがないのだ。
「成春…………、とりあえず、アッチに逃げてコレでアニキ呼んでください」
西覇は俺のコートのポケットにスマホを突っ込んで、後ろ右脇にある横道を指差す。
「オマエを置いて逃げれるわけねェ……だろ」
ここで一緒に戦って、それでも共倒れになるならそれでもいいと思っている。
自分だけ助かろうなんて、できるはずがない。
「………僕は貴方が大事です」
「ざけんな、俺だって同じなんだよッ!!」
声をあげると西覇は、深く吐息を吐き出して俺の首筋に向けて、ガッと手刀を打ち下ろした。
俺は予想外の攻撃に受身をとることもできず、地面へどさりと転がった。
「……すみません。オレは貴方を守りたいんです」
西覇の声が遠くからして、意識はすううううっと暗闇へと落ちていった。
目が覚めると喧騒が遠くから聞こえる。
………西覇……っ!
ふらつく感覚にまっくらな路地を這いずるように声がするほうへと向かい、影からのぞき見ると10人くらいの東高のやつらが呻きながら倒れており、血だらけの西覇が5、6人に囲まれて嬲るように痛めつけられている。
………ッ……。
飛び出して助けようかと体を持ち上げると、コートのポケットから西覇のスマホが覗いて見えた。
このまま飛び出していっても、西覇の足手まといにしかならないことは明白だった。
ぐったりとした西覇の体を抱えて東高のやつらがその場を後にしようとするのを、俺は尾行するように少し離れて後をつけながら西覇のスマホの電話帳の一番上のアニキという項目の電話番号をタップした。
コール音がむなしく響く。
でねーのかな……くそ。とりあえず今のところ活路を見出せるのは、西覇の伝説とまでいわれるアニキの力しかない。
ヤクザ並みといわれる東高のやつらに対抗できそうな知り合いは彼だけだ。
”……ッ……ンだよ、セーハ?”
しつこくコールすると、やや疲れたような掠れた声のハセガワ兄の声がした。
風邪でも引いてるのか。
マジで運がねえかも。
「あ。すみません、俺………ええっと西覇の……」
みなまで言わせずに、ハセガワ兄は俺を特定したらしく、声の感じが少し変わる。
”……あ、あ、オマエ、セーハの彼氏か。………セーハ、怪我でもしたァ?”
「いや……喧嘩に巻き込まれて……東高の奴等に拉致されて……」
瞬間ふっと電話の先の空気が変わる。
喧嘩という言葉に彼は反応したらしい。
”……どこ?”
「ええっと、今は大山の方面です」
東高は大山の先の尾道という場所にある。
”……ヤス、とりあえずちんこ抜いて。セーハを助けに行く”
って今、セックス中かよ………ってそんな最中で平気でしゃべってるって、ホントに何もんだよ。
いや、常識で考えちゃだめなんだろうけど。
伝説の人っていうのは、きっとそういうものに違いない。
”……ン…っ、っと、連れ込まれた場所とか分かったら電話くれ。そっち向かうわ。何人くらい?”
「15人以上いましたけど、西覇が10人は倒したんで」
”5くらいなら…まあ体力ねえけどいけるかなァ。ヤス、バイク乗せてって。10分くらいでいくから、とりあえず、場所だけよろしく”
一方的に話すと通話が切れてしまい、俺は東高のやつらの背中を追うことに専念した。
西覇も不機嫌極まりない顔をしていたが、それ以上に俺も不機嫌だった。
人が髪を染めた途端、掌を返したような押し付けの好意に胸糞が悪くなる。
俺が髪を染めたのは、西覇との時間がもっと作りたかっただけで、そのほかの奴等にくれてやる時間なんか露ほどもない。
授業が終わるチャイムと同時に俺は教科書を持ち帰る気分にもなれず、からっぽの鞄を担いで立ち上がると椅子を蹴って、教室から出ようと扉に向かう。
「瀬嵐君」
楠木の不快な声と、その取り巻きどもに行く手を塞がれ、俺は持っていた鞄を握り締めて深くため息を漏らした。
いい子ちゃん達は、帰って塾でも行ってろっての。
「どけ。邪魔だ」
「あの生意気な一年生なら、制裁を加えておいたよ。今頃泣いているんじゃないかな」
半笑いで言った楠木の胸倉を掴もうとすると、取り巻きどもが数人がかりで俺の腕を万力で掴む。
「テメェら、西覇にナニした?!」
「一年生の首席だよね。少しばかり綺麗な顔してるけど、でも、全然君とはつりあわないよ。この学校の空手部の僕の友達に頼んで、生意気な口が利けないようにするように言ったんだ」
俺は掴みかかられたやつらを腕を振って振り払い、バタンバタンと音をたててなぎ倒す。
乱闘だと大声をあげるクラスメイトが、非常にわずらわしい。
空手部の奴等………って、全国大会級の奴等だった気がする。
ふざけんな、一般生徒に手を出していいと思っているのか……。
流石に空手の猛者どもに絡まれたら、あの細っこい体じゃ、喧嘩慣れしていても危険かもしれない。
「何が目的なんだよ」
「だから、君が僕のパートナーになればいいんだよ。そうしたら、あの一年生にはもう手出ししないよ」
自分の手は汚さずに、明らかに自分の目的を力ずくで遂げようとする目の前の男が気に入らなかった。
明らかに脅迫だ。
「そんなんで、俺がオマエを好きになると思っているのか?」
「別に、好きにならなくてもいいですよ。貴方を手に入れたいのです」
「……最、悪だな。オマエ」
俺は別に男が好きなわけじゃない。
ただ、西覇が欲しいと思っただけだ。誰でもいいわけじゃない。
他の誰でもいいわけじゃない。
「それにあの一年生より、僕のほうが抱き心地はいい筈です」
根拠のない自信に溢れている男に、俺は深くため息をついた。
西覇は、今、大丈夫なのだろうか。すぐに飛び出して駆けつけたいのに、教室の扉はガタイのいい男達に塞き止められている。
「西覇が怪我とかしてたら、テメェぜってえに許さねえからな」
何度も引き剥がしているのに腕にしがみつこうとする男達を振りほどきながら、石壁のような男らへ突進しようとする、俺の目の前にたった楠木は、勝利を確信したようににっといやらしい笑いを浮かべた。
「僕が彼らに制裁をストップするように言ったら、僕と付き合ってくれますよね」
何よりも……西覇が大事だ……。
だから…………。俺はそれを守るためなら。
なんでもできると、思った。
西覇に危害を加えられたらと思うと、いてもたってもいられず、目の前の楠木の言葉に分かったと答えようと口を開いた。
「遅いと思って迎えにきたら、喧嘩ですか」
制裁を受けている筈の西覇の声が響いて、教室の前の扉から鞄を抱えた帰り支度で俺の教室へと臆した様子もなく入ってくる。
顔にも服にもまったく乱れはなく、髪筋ひとつも艶やかで綺麗である。
「西覇、無事だったか……」
「成春さんは無事じゃなさそうですね。っと、離してくださいね。僕のですから」
クラスの面々が見ているのにもかかわらず、所有の宣言をすると、俺の腕を掴む男達の腕を掴んで、鮮やかなしぐさでごきごきっと音をたてて間接を外す。
屈強な男達が、教室の床で転げまわるのを冷静な目で見下ろし、
「不器用なもので、うまく剥がせなくてすみません。でも、これは、多勢に無勢の成春さんを助けるための正当防衛です」
と、鋭い目つきのままでそういい置き、するっと視線を楠木へと向けた。
「……ちょっかいだしたら、どうするか覚えてますよね?副会長さん」
楠木は、周りで悶える親衛隊を恐怖の眼差しで見つめて、じりじりとあとじさる。
「き、きみは、あの空手部のレギュラーをどうしたんだ」
「ああ……アレも副会長の手先だったんですね。僕は手荒い勧誘かと思いましたので、裏庭にお誘いして軽く試合をしてあげました。今頃、いい夢見ているかも知れませんね」
ふっと笑って、逃げ出す楠木を見送る男は、優等生の首席とは程遠いような気がした。
ちょっとでも心配した俺は、西覇の力を完全に見誤っていたらしい。
なんだか力が抜けてしまい、思いっきり肩を落として力なく笑う俺に、西覇は困ったような表情を浮かべた。
「成春さんは、やっぱり今までどおりの方が、変な虫がつかなくてよかったかもしれませんね」
俺の腕を引いて廊下に出ると、眼鏡の奥の鋭い瞳を曇らせた。
金髪の頃は誰にも見向きもされなかった。
怖がられて距離をとられていた。
「……そうだな。西覇に害が及ぶとなると……俺……」
何かされそうになったと聞くだけで肝が冷える。
いてもたってもいられなくなる。
俺の全部を明け渡してしまってもl惜しくないと思える。
それがスキだってことなんだろうとは思うけど。
「心配してくれたんですね」
ちょっとだけ、声のトーンがあがって嬉しいと思ってくれているのが分かる。
階段をくだりながら、腕を引く西覇の首筋を眺める。
「いてもたってもいらんねえくらいに……」
「……成春さん……。そんな可愛いことばっかいわないでください」
首筋が少し赤らんで見える。
ぎゅっと握った手のひらが熱い。
「オマエが、大事だ……だから……」
「成春さん…………僕は大丈夫だから。変な脅しとかには負けないで。僕を信じて」
振り返った西覇の顔は、きりっとした男らしい表情で思わず、強く頷いた。
多分、西覇は、この学校で最強の男だ。
だから、俺は、信じて一緒にいよう。
どんなに卑怯な手を使われても、きっと西覇は屈しないだろう。
囲まれていると気づいたときには手遅れだった。
高校を出てからずっと俺らはつけられていたのだろう。
15人以上の気配がすぐ近くの周りにはあって、逃げる道もなく詰んでいることはすぐに分かった。
ぬかったなというのが、正直な気持ちだ。
「西覇……」
「大丈夫。気づいてますよ。」
目の前に立つ男の制服は、あの時と同じ忌まわしい東高の黒に赤ラインの制服である。繁華街でもなく、この辺にはいないはずの学区なのに、どうしてこれほどの数がいるのか不思議で仕方なかった。
名前がかければ入学できるとまで言われているレベルで、そこは、手が付けらない悪の巣窟だと聞いている。
それに……前に俺を追いかけてきて輪姦したやつらも東高だった。
もう二度と会いたくないと、思っていたのに。
条件反射で足が竦みそうになり、俺は奥歯をぐっとかみ締める。
この数じゃ、西覇だってどうにかできるレベルじゃない。
西覇が最強だといっても、一高だけでの話であり東高のこの数になんか太刀打ちができるはずがないのだ。
「成春…………、とりあえず、アッチに逃げてコレでアニキ呼んでください」
西覇は俺のコートのポケットにスマホを突っ込んで、後ろ右脇にある横道を指差す。
「オマエを置いて逃げれるわけねェ……だろ」
ここで一緒に戦って、それでも共倒れになるならそれでもいいと思っている。
自分だけ助かろうなんて、できるはずがない。
「………僕は貴方が大事です」
「ざけんな、俺だって同じなんだよッ!!」
声をあげると西覇は、深く吐息を吐き出して俺の首筋に向けて、ガッと手刀を打ち下ろした。
俺は予想外の攻撃に受身をとることもできず、地面へどさりと転がった。
「……すみません。オレは貴方を守りたいんです」
西覇の声が遠くからして、意識はすううううっと暗闇へと落ちていった。
目が覚めると喧騒が遠くから聞こえる。
………西覇……っ!
ふらつく感覚にまっくらな路地を這いずるように声がするほうへと向かい、影からのぞき見ると10人くらいの東高のやつらが呻きながら倒れており、血だらけの西覇が5、6人に囲まれて嬲るように痛めつけられている。
………ッ……。
飛び出して助けようかと体を持ち上げると、コートのポケットから西覇のスマホが覗いて見えた。
このまま飛び出していっても、西覇の足手まといにしかならないことは明白だった。
ぐったりとした西覇の体を抱えて東高のやつらがその場を後にしようとするのを、俺は尾行するように少し離れて後をつけながら西覇のスマホの電話帳の一番上のアニキという項目の電話番号をタップした。
コール音がむなしく響く。
でねーのかな……くそ。とりあえず今のところ活路を見出せるのは、西覇の伝説とまでいわれるアニキの力しかない。
ヤクザ並みといわれる東高のやつらに対抗できそうな知り合いは彼だけだ。
”……ッ……ンだよ、セーハ?”
しつこくコールすると、やや疲れたような掠れた声のハセガワ兄の声がした。
風邪でも引いてるのか。
マジで運がねえかも。
「あ。すみません、俺………ええっと西覇の……」
みなまで言わせずに、ハセガワ兄は俺を特定したらしく、声の感じが少し変わる。
”……あ、あ、オマエ、セーハの彼氏か。………セーハ、怪我でもしたァ?”
「いや……喧嘩に巻き込まれて……東高の奴等に拉致されて……」
瞬間ふっと電話の先の空気が変わる。
喧嘩という言葉に彼は反応したらしい。
”……どこ?”
「ええっと、今は大山の方面です」
東高は大山の先の尾道という場所にある。
”……ヤス、とりあえずちんこ抜いて。セーハを助けに行く”
って今、セックス中かよ………ってそんな最中で平気でしゃべってるって、ホントに何もんだよ。
いや、常識で考えちゃだめなんだろうけど。
伝説の人っていうのは、きっとそういうものに違いない。
”……ン…っ、っと、連れ込まれた場所とか分かったら電話くれ。そっち向かうわ。何人くらい?”
「15人以上いましたけど、西覇が10人は倒したんで」
”5くらいなら…まあ体力ねえけどいけるかなァ。ヤス、バイク乗せてって。10分くらいでいくから、とりあえず、場所だけよろしく”
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