炎上ラプソディ 

怜悧(サトシ)

文字の大きさ
35 / 36

35

しおりを挟む
シェンは対の指輪を眺めて、相手の意図を探るような表情を浮かべる。
これは本気か睦言か。
「そういうセリフは、運命の番とやらにとっておけよ。オレはベータだからな、アンタを番にはできない」
告げると統久は、手を伸ばして指輪を掴んで、視線を逸らして肩をそびやかせる。
「願望を口にしちまった。気にするなよ。まあ、ーー孕むくらいはできるけどな……。俺は運命の番の種は孕めないから。どんなに、心底愛してたとしても、さ」
カチャカチャと金属音を鳴らして、視線を落として小さく笑う。
「オマエのお陰で目的は果たした……。ありがとう。後はテキトーに任務をこなすけど、親父も最近は早く結婚しろとばかりに見合いばかりさせるし……、アルファはみんな遠野みてえな、どっかいけ好かないヤツらばかりだし」
身体を寄せたままで、見合いしたくないなと呟いてから、統久はシェンに向けて言葉を繋ぐ。
「アンタは運命の番と出会っているのか」
だとしたら、それ以上のものはない。
どんなアルファでもその事実を知って結婚すると言う奴はいないだろう。どう足掻いても、運命の番への執着は消えない。
例え別のアルファと番ったとしても、その執着ゆえに奪われてしまうこともある。
そうすれば、彼も不幸になる。
それは周知の事実だ。
「ああ……。でも、弟だからね。禁忌に触れちまう。つがうなど、できない」
多分違和感はこれだ。
シェンは、ぐっと統久の腕を掴んだ。
どんなに手に入れたいと願っても、彼の心にはずっと運命の番がいるのだ。支配する側にはそんなことはたまったものじゃないだろう。
現にオレも……。
正直すぎるこの人が隠しごとなど出来ないだろうけどな。

「いつか、アンタがそのしがらみを断ち切れたら……これをオレは渡したいと思うよ」

シェンは、統久の手から指輪を奪うと、彼は小さく口元を緩めて笑う。

「しがらみなど、切れるわけがない。だけど、そんな都合のいいことは、誰にも頼めないよな。悪かったな」


「オマエが孕め孕めというから、ついその気になっちまったよ」
どこか自嘲して呟く口調に、シェンはその気にさせるように言っていたのだからと返して、目を伏せる。
「それを言うなら、みんな自分の都合だよな。……番をもたないアンタが苦しむのをオレはみたくないんだよ。オレがどうもしてやれんのがわかるし……後悔はされたくない。大事な人が苦しんでいたら、オレは……」
オレはきっと何とかしてやって欲しいと、きっと彼を引き取りたいと言い出すアルファに差し出してしまうだろう。
目に見えてわかる苦しくて辛い将来を、回避したいのはオレのエゴだろう。
相性がいいのも、信頼出来る相手であるのもお互いに告げなくても分かっている。
「……そうだな」
統久はどこか遠い目をしてシェンが正しいと告げて、深く頷いた。
「シェンは、年下だけど……俺より大人だよなあ」
「……大人じゃねえよ。大体予想つくだろ………」
「俺は世間知らずだからさ。……オメガなのは12歳の判定で分かってたんだが、18歳までヒートがこなくてさ、学生時代は普通に学校に通えたし……アルファとかより俺様は優れてたから、そんなもんかと思ってたし、誰も差別はしなかったんだよ」
差別というか区別なんだろうけどなと、呟いて唇を舐める。
「……さっきまでの記憶がないのが素なら、性欲をいつも意志の力で抑えてるのか」
「そんなに難しくはない。とは言ってもヒートを抑えるのはできない。色々ごちゃごちゃ考えないでいいなら、セックスのことばかりになりそうなくらいの欲はあるよ」
腕を絡めてふわりとフェロモンをまとわせ誘うような仕草をみせる統久に、シェンは軽く目を見開いて首を横に振る。
流石に体力は限界である。
「別に悪いもんじゃない。いつか……大事なやつができたら、子供を産める身体だからさ」
「……そうだな」
「まあ、それまで相手してよ。いいだろ、シェン」
からかうように体をのしかかって顔を覗きこむ様子に、シェンはごくりと息を呑む。
「いや、オレは……アンタに自分を大事にしろと」
「……大事にしてるって。仕方ないだろ、性欲は発散しないと止まんないんだから。抑制ばっかしてると、ヒートで大爆発して辛いし。シェンも気に入ってるみたいだし、構わねえだろ」
甘い匂いを漂わせる相手に拒否権は行使できないようだ。
「ちょいまて、それを餌にまたなんか厄介事押し付ける気だろ」
今回はホントに死ぬほど危険だったじゃないかと身を引くと、統久は楽しそうに笑いそんなことないけどと告げて耳元に唇を当てる。

「さあて、次は辺境の海賊共を一掃するか」
「やべえッて、やつらはホントにやべえから……んぐ……ッ」
絡む腕と押し当てられた唇に吸い寄せられて、シェンは次第にその体を強く抱き返した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...