竜攘虎搏 Side Tiger

怜悧(サトシ)

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脅迫して犯したのに、セックスが気持ち良かったなんて言われてしまったら、ヤッたことはオレのしたかったことにはなってないと気づいてしまった。
「屈服したじゃねえか。セックスしただろ?」
「アンタが悦んじゃったら意味ねえの。わかる?イヤだ、ヤメテっていうのを……無理矢理じゃねえと」
 卑怯な手を使って手に入れたなら、とことん嫌われてしまったほうが楽だ。屈辱をまったく感じてくれないのなら、もっと更に酷いことをしなくてはという気持ちになってしまう。
 ……これ以上、オレはそんなことはしたくないのに、だ。
「どうすりゃ、アンタは嫌がってくれるんだ?」
「……富田君は、俺に嫌がらせしてえの?」
 吐くような思いで告げた言葉に、意味が分からないといった表情で眞壁はオレを緑の目で見返す。
 どんなに犯しても屈辱を感じてはくれないのなら、一体これからどうすればいいのだろう。
「そうだよ。……じゃあ、眞壁。アンタ、オレのオンナになれ」
 そうだ。いっそのことこの男を自分のモノにしてしまえば、自分のモノだと思うことができれば腹が立たないのかもしれない。
「え……オンナ?俺が着れるスカートあるかな、リップとか化粧とか……塗ったらいいのか?」
「がふっ、げほげほ、ちょ、まてまて、アンタ、何考えてんだ?」
 首を傾げた眞壁が、どうしたものかと口にした台詞にオレは再度むせて咳き込んだ。
 女装しろっていう話では、断然ない。見たくもない。
「いや、女になれっていうからさ。スカートでもはいたらいいのかなって」
「それは、断じてオレも見たくねえ。それにアンタが着れるようなそんなでっけえ服はねえだろ」
 イケメンではあるが、その鍛え抜かれた肉体で女装したとしても、需要はなさそうである。
 オレの言葉に眞壁はうんうんと頷いてそれもそうだなと納得したように返事をした。
「だよねぇ、オーダーメイドするしかないし、公共のひとたちに迷惑なんじゃないかなあと思うんだ。客観的に」
「だーかーら、セックスだけじゃなく、オレのモンになれって言ってるんだよ」
「富田君のモノ?」
 合点がいかないような表情でオレを戸惑ったように見返してくる。ちゃんと言葉を選ばないとなかなか眞壁は理解してくれないようだ。
「だから、オレの……恋人になれって…………コト」
 勢いで口にした単語の響きが甘すぎて、気恥ずかしくなってもごもごと声が小さくなってしまう。
「コイビト?……オマエ、俺のこと嫌いじゃねえの?」
「……嫌いだ」
違う。…………ずっと、あこがれていた。
憧れが失望に変わった時に、それと一緒に多分もっと違うものも生まれたような気がする。
だから彼に対しての苛立ちばかりが募って仕方がなかった。
オレが精一杯の告白をしたのに対して、眞壁はひどく驚いたような顔をして見つめている。
まあ、そうだよな。驚かないわけがない。
「それ、ホントに俺への嫌がらせなのか?オマエ自身への嫌がらせじゃなくて」
 不思議そうな顔で返ってきた答えは、オレの言葉に対しての問いかけ。
そりゃそうだ、オレは眞壁に嫌いだと言っておいて、まったく正反対の提案をしているのだ。
「コイビトは、恋してねえとなれねえんだぞ」
心底不思議そうな顔をして、首を傾げて真意をさぐるようにオレをじっと見てくる。
もし、オレが眞壁を好きだと言えば、眞壁はオレにいい返事を返してくれるのか?そんなこと、ねえだろ。
オレは、コイツが嫌いだ。大嫌いだ……。
「アンタなんか…………嫌いだ。だからオレは……アンタをオレのオンナにしてえんだよ」
 憧れすぎて、追いつけねえから、大嫌いだ。
ずっと、ずっと前から、追いつきたくてしょうがねえくらいに、恋焦がれている。
だけど、そんなこと言えっこない。
ぎゅうっと目を瞑ると、眞壁の顔がすっと近づいてくる。
何か言おうと口を開いた途端に、眞壁の唇が覆いかぶさってきて、カレー味の舌先がオレの唇へ押し込まれる。
角度を変えてためすように唇を吸い上げられて、オレもその舌をなぶるように舐め返した。鼻から漏れる呼気は熱く、外れた口元が緩くなって唾液が溢れていた。
「………なあ、ドキドキしたか?」
ゆっくり離れて糸を引く唾液を眺め、眞壁は目を伏せた。
「なんだよ、急に」
 伸ばされた掌が胸に当てられて、訳が分からずオレはドキドキしてないと首を横に振った。
 破裂しそうに心臓がバクバクいっていて触れている掌にも伝わっているのにもかかわらず、分かるような嘘を吐いた。
「キスしてドキドキすんのが、恋だよ。……キスしてドキドキもしないのに、お付き合いはできません」
オレの答えにすっと緑の目が細められ、真面目な顔で拒否を返された。
オレがここまで言ってんのに、悟るくらいのことしろよ。
どうして、コイツはわかんねえんだよ。
イライラがバンッと限界を超えた。
「だったら…………もうイイ。アンタなんか、オレの精液便所にしてやるから」
オレはガンッと床を蹴り、眞壁のでかい体を床に押し倒す。
手に入らないなら、このまたぶっ壊してしまえばいい。
オレの気持ちもこいつ自身も。
凶暴なキモチばかりが先走って、のしかかったその体を押さえつけた。
「何、キレてんだよ…………」
 ずっと分からないままでいればいい。
「アンタをオレの性奴隷してやるって言ってンだよ。毎日ハメ倒して、ぶっ壊してやる」
 悔しくて仕方なくて覆いかぶさって肩を揺すると、眞壁はオレを跳ね返すこともなく、ぼんやりした目つきで見上げている。
「っ、おい、聞こえてるのか」
 力なくぐったりとした様子に不安になって問いかけるが、呼吸をせわしなくさせて、眞壁は辛そうに眉を寄せた。
「……ゆか………は………やだ……よ……」
 ぜいぜいと呼吸の合間に漏らす声も、すっかり掠れてしまっていて聞き取りづらい。組み敷いた体が抱いた時よりもずっと熱をもっているのがわかる。
 汗ばんだ額に手を当てると。燃えるように熱く汗ばんでいた。
「……熱、あンじゃねえか。何でいわねえんだよッ」 
 必死で声をかけるが、焦点は合わないようで朦朧としている様子だった。
 床に転がしておくわけにはいかねえな。
眞壁の重たい身体を抱き上げてベッドに転がして、衣服を脱がせた。肌にびっしり汗をかいて、だらだらと筋肉質な体の上を伝い落ちていく。
「なあ……やさ…………しく、シて……」
「バカヤロ、すっげえ熱出してる奴を痛めつけるような男じゃねえ。みくびンじゃねえよ」
思わず怒鳴りつけてしまったが、あんな卑怯な真似をしたオレに信用なんてあるはずはないなと思いなおす。
さっき出しておいたタオルで体を拭い、ぜいぜいと繰り返す呼吸が尋常じゃなくて、オレも変な冷や汗が出る。
さっきのセックスで内臓が傷ついたのか、クスリの後遺症なのかどちらかで、体が発熱しているのだろう。
体力も相当使ったと思うし、安静にしておくのが普通なのに、なんで平気そうな顔してメシとか用意してんだ、こいつ。
ありえねえし、無茶しすぎだろ…………。
心配で、仕方がなくなる。
あんなに怒りに任せて罵倒していたというのに、だ。
この感情が何なのかは、鈍感なオレにだって分かる。
分かりたくもないのだが、分かってしまう。
体を繋いだから起こる情なのか、それとも元々持っていたものなのかどうかは分からない。
オレはずっと、欲しかった。この男にオレのことを認めて欲しくて仕方がなかった。
オレの存在を憧れの人に認めてもらいたくて、近くにいてもかなわないから、外に出た。それなのに、外に出たって、何一つ変わらなくてイラついて仕方がなかっただけだ。
人の家の洗面所を勝手に使わせてもらうのは気が引けたが、バケツを見つけて水を汲んでくると、タオルを濡らして眞壁の頭の上を冷やすように乗せた。
オレも他の奴のように、眞壁さんって呼んで慕っていた頃もあった。あんな風に純粋に慕っていられたらよかったのに。
熱にうかされながら、優しくして欲しいと言われて、どんなに酷いヤツだと思われているんだろうと思うと、酷く悲しく感じた。
脅迫までして、身体を自由にして穢したのは自分自身なのに、勝手な言い草である。
オレは、この人を好きなのだ。
そんなことも素直に言えないくらいに気持ちは歪んでしまっているけど、好きだと思っているのは間違いない。
だからさっきは拒絶されて、感情的になった。
こんな卑怯な男なんて拒絶なんかされて、当たり前だというのに。
何度かタオルを取り替えていると、ぼんやりと眞壁はオレを見上げる。
「……きもち、いい……。ありが、と、な……」
熱で潤んだ目でそんなことを言われると、最中のことを不謹慎にも思い出して下半身が熱をもつ。
「……いいから………寝とけよ」
ごわごわの金髪を撫でると安心したように、目を閉じてモゴモゴとつぶやく。
「………Danke …………schon(ありがとう)」
また、天使語かよ……。なんだよ、ダンケシェってなんだろう。起きたら聞いてみるか。
この人がどうして、最大の人数を誇る派閥をもっているのか、言われなくてもわかっている。
飄々としていて掴みどころがないのに、仲間想いで仲間のためなら単身どこにでも駆けつけるし、報復だって厭わない。
それでいて威張ることもなく、無邪気で少し抜けていて人好きのする性格をしている。
そんなことは、昔から知っている。知ってるっていうのに。
始めたゲームは、ケリをつけるまで終わることはできない。
自覚したところで、本当に彼を手に入れることなどできないし、期待なんか……もう、できない。
 だったら、それなら……。
この体だけでもオレのモノにしてしまっても、いいよな。
 
視線の下で漸く落ち着いたように眠りに落ちた眞壁を見下ろして、その手をぎゅっと掴んで決意を新たにした。

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