俺たちの××

怜悧(サトシ)

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夏休み編

初恋と限界 →side Y

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オレの初恋は8歳の時、それから彼に恋焦がれていた。

その日、東流は2年のリレーの選手に選ばれて居残り特訓だった。
だからオレは一人で帰り道を歩いていた。
近くの小学校とはいえ歩いて十分はかかる。
思えば、東流が特訓を終えるまで待ってれば良かったのだが、長くなりそうと言っていたので、先に帰ったのだ。

そういうときに限ってなのか、狙ってなのか、上級生がオレの目の前に立ちはだかった。

「今日はぼでぃがーどいないみたいだな」

アホ面をさげてオレの目の前にいたのは、見た目からいって6年生だ。
体も大きくてとてもかないそうにない。早く逃げないととんでもないことになるような気がした。
同級生にはそうでもないが、上級生にはよくからまれる。
だから、いつも東流が一緒に帰ってくれてるのだ。
「本当に女より可愛い顔してるんだね」
いつものようなからかいにぐっと拳を握り締める。
ケンカの方法はいつもトールから習っていた。
だけど、5対1で6年生とは体格差もある。
ここは戦っても怪我するだけで意味が無い。

オレは地面を蹴って駆け出した。
一刻も早く逃げ出そう。
やばい時はできるだけ走って時間を稼げ。
その分相手の体力も消耗できる。
それが東流の言い草であった。

「足の速さでかないっこないじゃん。ひだか君」

回り込まれて後ろを見ると、他にもぞろぞろとやってくる。
囲まれた。
ガクガクと膝が震えて動けない。
……助けて。こわい、よ。

「こわがっちゃってるの。あらら、かわいいね」
じりじりと寄ってくるのを見て、思わず後退し、石につまづいてしりもちをついてしまう。
動けない恐怖と、少しづつちかづいてくる上級生にオレはおびえ切っていた。
「へっへっへ、いーな、怖がってるのかわいー、ちゅーとかしちゃおっか」
「いーなー、俺もちゅーしたいぞ」
笑いながら近寄ってくる、いがぐり頭の上級生の顔がこわい。

ちゅーとかマジできもい。
やめろ。やめろ。やめろ。
ぶっちゅううううっと濡れた唇がはりつくように唇にひっつき、涙がでてくる。
きもちわる……い。

「テメェら、何してんだ、コラ」

ガツンガツンと人を殴る音が聞こえる。
くっついていた唇もはがれて、上級生は地面にごろんと転がって痛がって泣いている。
「……だいじょうぶか?ヤス」
泣いているオレの腕を引いて抱き起こしたのは東流だった。
オレの顔を覗き込んで慰めるように背中をとんとんと叩く。
「うえええ……トールぅうう」
「泣くな。どうした?」
「ちゅーされたあ。.........うえええええ」
ぼろぼろと泣き喚くオレを東流は、じいーと見つめて、なにを思ったなかぐっと抱き寄せて、ちゅっと唇をくっつけて清めるようにぺろぺろと舐める。
東流の優しいしぐさが気持ちよくて、涙が引っ込んだ。
「よっし、これで、しょーどく。もう大丈夫だ」
オレはあっけにとられて、きょとんと東流を見上げた。
一体なにが、だいじょうぶなんだろう。

「おれもさ最初のちゅーだし、そしたらよ、ほら、ヤスとおそろいだろ」

太陽のような笑顔で言われると、まぶしくて頷くしかなかった。

それが、オレの初恋だった。

叶うはずがない、初恋で、諦めるつもりでずっと傍にいた。

なのに、諦められなくなった。


「ナズと別れた」
東流がそう切り出したのは、3月の終わり、街での喧嘩のあと少し痛めた腕を缶ジュースで冷やしていたときだった。

そんなに打ちひしがれた様子でもなく、諦めているでもなく事実を俺に伝えたといった様子である。
東流のカノジョの金森波砂かなもりなずなは、オレの叔母にあたる人で性別以外はオレにそっくりな容姿をしている。
たまに双子かときかれるくらいだ。
叔母さんだということを言うと波砂に怒られるので、親戚ということにしている。

嘘ではない。

「急にどうしたんだ」
波砂とはもうかれこれ3年は付き合っていたのに、急に別れる理由が気になった。
まさか……。

「トール、別に好きな人ができた?」

波砂も東流が好きでしょうがない様子だった。
別れるならそれくらいしか思いつかなかった。
オレにそっくりな波砂だから、ギリでなんとか許容できた。
叔母だし、波砂と結婚したら、東流とは親戚になれる。
繋がりも今より深くなるとは考えていた、でも、それ以外だったら……。

オレはずっと東流のことが好きで仕方がないのだ。どんな手を使っても手にいれたいと思うほどに。
「……いや。俺はまだ、ナズが好きだけどよ……。フラれた」
「なんで?」
本当に心から波砂のこころが分からなかった。

「もう喧嘩やめろって……。もう、ヤスも小さくねえんだから、始終一緒にいねえでも自分の身くらい守れるからってさ」

多分、波砂にはオレの気持ちは見抜かれている。
だからと言って彼氏を譲る気は無いという宣言のつもりだったのか。
「……で?」
「喧嘩が好きってわけでもねえけどよ、今更、喧嘩やめましたから、襲わないでくださいとかムリだろ?オマエ独りのときに大勢に狙われたらやべえし」
トールはごくごくとコーラを飲みながら、ふっと笑い口元を緩める。
「それに、オレと付き合ってるとナズにも被害及ぶ可能性あるしな。今のところ、デートはズボンできてくれっていってたから、ヤスだと思われて被害あってねえけどさ」
そりゃ、女子高生だし波砂もデートも可愛い格好でいけなかったら辟易するだろう。
彼氏がそんな学校でも恐れられる不良っていうのも、友達になかなか紹介しずらいし、色々考えた末のことは思う。
でも、東流は波砂よりもオレを選んだのだ。
いや、オレの安全?を選んだ結果なのか。それと、オレと一緒にいることなのか……。
いや……波砂が狙われないように遠ざけたのか……。

どちらにせよ、波砂よりもオレを優先したのは確かなのだ。

「なあトール、欲求不満なら新しいAVあるから、オレの部屋にこないか?」
「ヤスのAVなあ……。ちょっとなあ、アレだ、変態くせえのばっかだぞ」
笑いながら腰をあげて、いつもと変わらぬ快活な口調で言うと東流はオレの腕を引いた。
「まあ。夕飯作ってくれんならいくぜ」
東流の飯の好みは、中学から弁当を作り続けているので、すべてオレの頭の中にインプットされている。
好きな人を落とすには、まず胃袋から……というのもあるらしい。

離れる前に、手に入れよう。
もう。遠慮はしない。

初恋はかなわぬものというけれど。

「じゃあ今日はハンバーグ作ろっか」

変わらない風景なんて、きっとないけど。
手にしたいものは、ちゃんと手を伸ばさなきゃいけない。

それが、きっかけだ。

この、計画を思いつく、きっかけ。
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