俺たちの××

夏休み編

※蝉時雨と告白 →sideT

気がつくと俺は、康史の部屋のベッドに腕を拘束されたままだった。
汗や体液でベタベタだった体は綺麗に拭かれて寝かされていた。 

頭の中はまだぼーっとしていて、何も考えることができずにいる。 

ありゃ、夢、じゃねーよ、な。
そうだ……俺は………犯されたんだ。 

身体は重くてなんとなくだるい。
まだ尻の奥がじんじんと熱と疼きを帯びているのが分かる。
縛られた手足が窮屈だが、身体には大した痛みはない。
最近は殴られても、あまり痛みとか感じたことはないし、力が出ない以外に問題はない。
なんで、康史がこんな真似をしたのか、全くわからない。
欲求不満なら、喜んで相手になる女はいるだろう。
実際に女をとっかえひっかえしているのは知っている。
俺をはけ口にする意味が全くわからん。

「目ぇ覚めたか、トール？」 

TVを見ていたらしい康史は、俺のみじろぎに気がついたのか立ち上がると、いつもと変わらない表情で見下ろした。 

｢…………何の、つもり、なんだ？」 

叫びすぎて声が嗄れてしまったのか、喉にひっかかるような掠れた声でようやく問いかけた。
怒りや敵意とか、普段は簡単に湧き上がるのに康史相手にはまったく湧かない。
ただ、セックスの最中に何度問いかけても、康史が無言でにただ俺を抱き続けている様子が怖くて仕方がなかった。
されていることの意味が分からず不安で仕方がなかった。

暴力じゃ敵わないから、性的暴行だってなら、どんだけの憎しみだろうか。
日頃の恨みつらみがたまってのことなのかとか、考えれば考えるほど辛くて仕方がなくなった。
何か康史を傷つけることをしたかと、記憶を辿るが、何も思い当たる節がない。

 康史はギシッとベッドの淵に腰をおろし、指を俺のペニスへと絡めた。 

「ッ…………ヤス……もう、よせ……、よ」 

ヤバイな。
もう、泣いちまいそうだ。
泣いた記憶なんて、殆どないっていうのに、コイツにここまで嫌われているのかと考えるだけで目頭が熱い。
実際に犯されたこととか、俺にとっちゃどうでもいいことだ。
身体が熱くてダルいのはどうにもならねぇけど、本気で抵抗しようと思えば、脚を蹴りあげて康史を跳ね除けることくらいはできたはずだ。

しなかったのは、何故だ。

あんなことをされてたのに、俺はどこかで、それでも康史を傷つけたくないとか、考えてたのだ。

被害者は、俺だってのに……康史には手がだせない。

康史は俺の表情をどうとったのか、目をそらして、
「鈍感なトールは気づかなかったかもしれねえけど、オレは、お前にずっと欲情してたんだ。トールを縛ってケツにオレのちんぽ突っ込んで泣かせたいって思ってた」 

おだやかな表情で、綺麗な顔に似合わない酷い言葉を口にして、ペニスを優しいとも言える指の動きで擦りながら、康史は独白する。 
俺に欲情とか言われても、意味がわからない。

「……ゥッ……。やめ………ろッ……馬鹿……ッ、やろ、ッ」 

ジンジンと熱が身体を這い上がってくる。
またこんな行為を繰り返されるのか。

ミーンミーンと甲高いセミの声だけがぐるぐると耳障りに響く。

涙が出そうだ。

そんなに、俺が憎いっていうのか、よ。
なあ。答えろよ。

今なら、まだ、元に戻れるかもしれない。
そんな願いで制止を口にしたが、康史は頑なに首を横に振った。

「やめねえよ。夏休みの間トールの体をオレが支配してやる。オレなしじゃ生きられなくしてやる。大丈夫、オマエの親には2人で旅行に行くって言っといたから」 

康史の考えがよくわからずに、ただ逃げなくちゃいけない気持ちでいっぱいになる。
ビニールテープを引きちぎろうと腕に力を込めるも、肌に食い込む痛みだけが増して、まったくどうにもできない。 
俺が焦れば焦るほど、それを眺める康史の表情は面白がるようなものへと変わる。 

なんでだ。 

何故、こいつはこんな真似をしやがる。 

「……ざけンじゃね……ッ、ぶッ……殺、ス、ぞ」 
康史を傷つけることなんか出来やしないのに、みっともなく威嚇をして喚けば、平然とした康史の表情にぶつかった。

喧嘩ばかりしている俺の後ろからついてきて、いつも一緒になんでもできた同士の康史に、俺はこんな言葉を言いたくなかった。 

「怖くないよ、オレ。トールを怖いと思ったことはない」 

静かに語る康史が、逆に俺は怖かった。 

俺は、今まで何かを怖いなんて思うことはなかった。なのに、いま、唇に震えが走るほど、怖かった。ひどく恐怖していた。 
支配されることが、怖いのか。

いや、違う。

いま、俺は何にこんなに恐怖しているっていうんだ。

「…………俺が……気にいらねえなら、謝るから……ッ…も、ッ、やめてくれ………」 
堅くなっていくペニスを弄るのを止めない康史に、身を捩って抗議の声をあげるが、聞き入れる気はないらしく指の動きを速めて顔を覗き込んだ。 

俺とは違い、モデルにもスカウトされるような端正で綺麗な顔立ち。 

学校の女子がファンクラブなんかを裏で立ち上げるのも知っている。 
昔から綺麗で大事でたまらなくて、守ってやりてえと心から思ってきた存在。

「気に入らない所なんか無い。それが問題なんだ。トール」 

「ねえなら……こんな事…………ッ…すんな、外せェ」 

セミが泣いている。

康史の顔も泣き出しそうに歪んでいる。 

俺にひでえことしてるのは、そっちの方なのに、何でそんな顔をするんだ。 

一人暮らしなのに、性格を表すようにお洒落で片付いた部屋。 
去年、康史の父親が九州に転勤になってここから離れたくないからと始めた一人暮らし。 
地方で進学するのもつらいからとか、適当に理由を言っていたけれど……。 

昨日から夏休みに入っていて、親ぐるみの付き合いの康史に旅行だと言われたら探さないだろう。

まだ、さっき塗られた媚薬の効果が残っているのか、触れられただけで感じてしまう。 

俺の完勃ちしたペニスからは、透明な液体が開ききった鈴口からは後から後から零れ落ちてベッドへと滴り落ちる。
康史の指は気を良くしたように、既に熱に疼いてひくつき始めたアナルに浅く埋められる。 

「言っただろ、トール。オレなしじゃ生きられなくしてやる。ずっとそう思っていた」 

「――ッ……ン………な………、何で…だ…ッ……、ヤス……ッ…、、、」 

指の動きに吸い付くように胎内が蠢き、康史の指を飲み込んでいく。 

「すげえ淫乱な動きしてるね。まあ、たっぷり塗った薬のせいかもしれねえけどな。……何で？……ずっと、そう思ってたンだ。オマエを犯したらどんなに気持ちいいかって。ずっと前から…………見ててむかつくンだよ、それだけだ」

 康史の指が奥を擦り、追い上げていく。 

耳元で囁かれる言葉に、俺の中の優しい思い出ばかりが音をたてて崩れていく。 
泣きたくは無いのに次から次へと涙が溢れ出る。 

信じていた。 
何も言わず、ついてきてくれる康史だけが俺の支えだった。 

壊れていく。 

ジージーとうるさく響くセミの声だけが、俺の耳に焼きついた。