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二章
176.ラルフ様の加減(※)
しおりを挟む「そっか、ルカくんハリオさんのこと追いかけて行ったんだね」
ニコラは最近仕事が忙しくて、ルカくんを見送れなかったことを残念そうにしていた。
ルカくんはハリオがあと半年近く戻ってこないことが分かると、翌朝には出立しちゃったからね。
シルは夏の日差しが眩しい庭でパンと遊んでいる。シルの隣にはエルマー様がいる。
僕は今回のハリオの件で、またシルに驚かされた。誰かがシルに入れ知恵したとか、シルを使ったって可能性もあるんだけど、自ら動いてるんだとしたら末恐ろしい。
ハリオに手紙なんていつ書いてたんだろう?
そういえば僕たちが刺繍している横で紙に何か書いている時があった。もしかしてあれはハリオに手紙を書いてたの?
何書いてるか聞いておけばよかった。
「え!? ハリオを追いかけてルカくんがラビリントに行ったの?」
やっと新婚旅行から戻ってきたフェリーチェ様にルカくんたちのことを話すと、挨拶もできずに旅立ってしまったことを残念がっていた。
そしてクロッシー隊長の対応に呆れていた。
まだルカくんからもハリオからも手紙は届いていない。色々あって二人の関係を修復中なのかもしれない。
「ハリオとルカくんのことは分かったんだけど、あの子はなんでここにいるの? 見たところ侍女が一人しかついていないように見えるんだけど」
エルマー様の存在はやっぱり気になるよね……
僕もちょっと意味が分からないんだ。
ラルフ様曰く、これでも頑張った結果なんだとか。
初めエドワード王子と奥様はエルマー様がシルに懐いたから、シルをエルマー様の友人として王宮に通わせようとしたそうだ。ちなみにシルだけでなく僕も奥様たちのお茶飲み友達として一緒に招くつもりだったらしい。そんなの無理だよ。
そこでラルフ様が断ると、次の策を持ってきた。
じゃあこれでどうだ? この案はどうだ? とラルフ様が断る度に、次々提案を持ってきて、ラルフ様は断り続けた。
そして最後に残ったものがエルマー様に身の回りの世話のための侍女を一人つけて、うちに遊びに来るという案だった。
それもラルフ様は拒否したんだけど、これ以上の譲歩できない。ラルフ様が拒否するなら僕に直接許可をとりに行くとエドワード王子が言い出した。
いつもはそこで奥様が止めてくれているんだけど、今回ばかりは奥様もエドワード王子の味方だった。
それで仕方なくラルフ様は許可を出した。
──と、ここまでは僕がラルフ様から聞いた話だ。
「あの子がシルと友達になりたいと願った結果、こんな感じに落ち着きました」
「うん? 全然分からないね。まあいいや、自分で調べるし」
僕もラルフ様にザックリと聞いただけだから、どんなやりとりがあったのか詳しくは知らない。フェリーチェ様が調べた結果を僕も教えてもらうことにしよう。
「シュテルター隊長、結構頑張ってたみたい。愛だね~」
なんて言いながら、フェリーチェ様は調べた内容を書いた紙を僕に渡してくれた。
初めの頃は、シュテルター邸に使用人が少ないため毎日馬車を出すのが大変ならば、王宮から迎えの馬車を出す。ちゃんと近衛騎士を護衛としてつける。なんて提案があった。
そんなの無理。近衛騎士に囲まれている王族が乗る馬車なんかで迎えに来られたら、僕は倒れてしまう。
ラルフ様が僕に内容を伝えなかった理由が分かる。
日当や報酬を出すみたいな金で解決する内容もあったし、僕のプレートアーマーを作らせるなんてバカみたいな提案もあった。よくラルフ様は拒否してくれた。
最後の方は、うちに来ることを細かく詰めていったような感じだった。うちに来る人数を、一族と護衛や侍女複数名から、一人ずつ減らしていく提案をされていたようだ。それで最終的に残ったのがエルマー様本人と世話係の侍女だ。
やり取りの数は数えきれないくらい多くて、長期に渡ってしつこくされていたことが分かる。
もしかして僕とシルが王宮に呼ばれた頃からずっと続いてたの? ラルフ様はずっと一人で僕のことを守っていてくれた。
僕の旦那様はとても頼もしい。
ああ、ラルフ様早く帰ってきて。
いつも僕のことを守ってくれるラルフ様に、僕は一体何ができるんだろう? 僕ができることなんてたかが知れてる。
刺繍もラルフ様より下手だし、ラルフ様を喜ばせるテクニックだってない。上に乗っても上手く動けないし、いつも僕はラルフ様に啼かされるだけで……
口でしてあげるのだって、飲んだら怒るし。ラルフ様のを飲むのは僕のご褒美みたいなものだ。
……いい案が思い浮かばない。
早く帰ってきてほしいと思う日に限って、ラルフ様の帰りは遅かったりする。ラルフ様が帰ってきたのは、夕食を終えてみんなが部屋に引き上げてしばらく経ってからだった。
「ラルフ様、僕とシルのことずっと守っていてくれたんですね。ありがとうございます。僕もラルフ様に喜んでもらえることをしたいけど、いい案が浮かびません。僕にしてほしいことはありますか?」
「ずっと俺のそばにいてほしい。マティアスを独り占めできるんだから、それ以上の喜びはこの世に存在しない」
そんなに? 独り占めしていいよって言ったのそんなに嬉しかったの?
「今夜も僕を独り占めしますか?」
「する」
ラルフ様は被せ気味に即答した。
そしていつも通り、次の瞬間に僕はベッドの上で裸だった。
「ラルフ様、愛してます」
「俺もマティアスを愛している」
「今夜はラルフ様にとことん付き合います。加減しなくていいよ」
「分かった」
ふふ、またラルフ様の「分かった」が出た。半分信用できないいつもの分かったを聞くと、なぜか安心した。
加減……本当にいつもは加減してたんですね。
「すまないマティアス、もう時間切れだ」
「そう、ですね……」
加減しなくていいって言ったのは僕だけど、朝日が昇っても終わらないなんて思わなかったよ。時間切れってことは、今日ラルフ様がお休みだったら、いつまで放してもらえなかったんだろう?
僕は上半身を起こすことすらできず、ベッドの中から輝くような笑顔で出勤するラルフ様を見送った。
これはもっと本格的に体を鍛え直す必要がある。僕はラルフ様の体力、というか精力を甘く見ていた。
半年でルカくんを変えた凄腕のリヴェラーニ夫夫に弟子入りした方がいいのかもしれない。
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