僕の過保護な旦那様

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二章

63.グラートと使用人

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 そういえば、ラルフ様に聞きたいことがあったんだった。
 僕のことを抱き枕みたいに抱きしめて寝ているラルフ様の顔を下から覗き見る。たまにまつ毛がピクピクと震えている。

 最初は寝ている時に触れただけで距離を取られたり、首に手をかけられたりしたこともあったのに、こんなに密着して眠れる今は幸せだ。

「ラルフ様、ずっと側にいてください」
 誰にも聞こえないくらいの声で独り言を呟いてみる。

「当たり前だ」
「え? 起きてたんですか?」
「マティアスの言葉は一語一句逃さない」
 うん? よく分かんないけど、起こしてしまって申し訳ない。
 じゃあ起こしてしまったついでに聞いてみよう。

「ラルフ様、聞きたいことがあります」
「なんだ?」
「グラートが独房にいるのは何故ですか? グラートも捕まっているんですか?」
 ルーベンの時はすぐに動いたのに、グラートはそのまま放置してるの? 僕が関わってないから?

「あいつ、か……」
 ラルフ様は言いたくないみたいで、眉間に皺を寄せて黙ってしまった。そんな風にされるとますます気になるんだけど。
 僕がジッとラルフ様の目を見つめると、仕方ないと諦めたのか、ふぅーっと息を吐いてから口を開いた。

「あいつは色恋で問題を起こした。何度も」
「色恋?」
「あいつは女好きなんだ。他の騎士の彼女や嫁、妹や姉、母親にまで馴れ馴れしく話しかけたり、触ったりする」
 そうなんだ……子犬のように可愛く寄ってこられたら、女性も警戒心なくそれを許してしまうのかもしれない。

「それでトラブルになって反省のために独房に?」
「そうだ。うちのメイドにも同じように接したらしい。ロッドやハリオが間に入って止めたと聞いている」
 そうなんだ……
 そんなことになっていたなんて知らなかった。ロッドはよくグラートの面倒を見ていると思っていたけど、もしかして監視役?

「マティアス、他の男の話がそんなに気になるか?」
 もしかして嫉妬ですか? 僕の背中から腰にかけてをゆっくり撫でている。
「男でも女でも面白い話は好きですよ」
「俺だけじゃダメか?」
「なんて言うんですかね、物語を面白いなって思って読むのと同じ感覚です。愛してるのはラルフ様だけですよ」
「マティアス……愛してる」
 ギュッと抱きしめられると、胸と胸が空気が通る隙間も無いくらいピッタリと、吸い付くようにくっついた。
 朝なのに、そのまま僕はラルフ様に身を任せてしまった。ラルフ様が嫉妬なんてするから、愛されたくなってしまったんだ。

 痛たた、加減……
 もうタルクのことは解決したんだから出勤しても大丈夫なんだけど、僕はちょっと腰の諸事情で予定通りお休みした。申し訳ない。


「え? みどりのもうないの?」
 シルが残念そうな顔でそう言った。しまった。シルがお気に入りのキウイのドライフルーツは昨日エドワード王子にあげてしまったんだった……
 ヴィートに頼んでキウイのドライフルーツを取り寄せてもらおう。もしくは王都で卸しているお店を聞こう。

 エドワード王子のこともあるし、すぐに手紙を書かなければ。
 僕はすぐにヴィートに宛てて手紙を書いた。
「リーブお願いね」
「畏まりました」

 手紙を配達してくれる人に頼んでもいいんだけど、プロッティ子爵のお屋敷は近いからリーブに頼んだ方が早い。王都に卸している店があれば、そのまま情報を持ち帰ってくれる可能性もあるし。

 リーブが戻ってくるまではシルと遊んだ。
 お絵描きに夢中になっているシルの絵を眺める。これは僕とラルフ様とシルだよね。だが、三人とも網のようなものを上半身に纏っている。まさかこれってチェーンメイル?

「シル、この服はどういう服なの?」
「これはまもるの。てきからまもるふく」
 やっぱりこれはチェーンメイルだ。こんなの普通の人は着ないんだよって教えた方がいいのか迷う。
 赤い屋根の教会に行ったり、公園に行くようになって街の人を見る機会も増えたから、そんな勘違いはしないと思うけど、大丈夫かな?
 教養を教えるのって難しい……

 シルがお昼寝をしている間に、メアリーとリズとミーナにグラートが迷惑をかけたみたいだったから、話を聞きにいった。

「メアリー、リズ、ミーナ、ラルフ様の部下のグラートに馴れ馴れしくされたって本当? 嫌なことされたなら、言ってくれればよかったのに」

 ちょうど三人が休憩していたから聞いてみたんだけど、三人はちょっと困った顔をして顔を見合わせた。

「お伝えせずすみません。馴れ馴れしくされたというか、揶揄われたのではないでしょうか」
 メアリーが言葉を選ぶようにそう言った。メアリーの本当の歳は分からないけど、推定四十代だから、歳が半分くらいのグラートに馴れ馴れしくされても揶揄われたと思ったのかもしれない。

「私も同じだと……マティアス様、すみませんでした」
「私もです。お断りしましたので問題ありませんが、その、すみませんでした」
 言わなかったことを咎めたいわけじゃない。謝らせたいなんて思ってない。ちょっと心配だっただけ。

「謝らないで。問題にしたいわけじゃないよ。グラートが色恋で問題を起こして謹慎してるらしいから、心配になっただけ。困ってないならいいんだ」
「マティアス様、その辺りは問題ありません。私たちは自分の身は自分で守ることができますので」
 そうなんだ。守られてばかりの僕には、そんな風に堂々と言えることが眩しかった。

 ん? グラート相手でも自分の身は自分で守れるの? グラートはラルフ様の部下で騎士だよ?
 もしかして、彼女たちは結構強いんだろうか?
 自分の身は自分で守れるって言うくらいだから弱くはないと思うけど、僕は男なのに自分だけすごく弱い気がしてちょっとショックだった。
 それならこの際、チェルソにも強いのかを聞いてみたい。

「チェルソ」
「マティアス様、どうかされましたか?」
「チェルソは戦えるの?」
「一応基礎は学んでいますが、この屋敷の皆さんと比べると自信はありません」
 僕はチェルソの言葉に少しホッとした。

 僕も学校で剣の構え方とか護身術の基礎は学んだ。剣は実戦で使えるとは思えないけど、護身術はいけると思うんだ。相手がプロの殺し屋でなければ。

 たぶん……
 ラルフ様に一瞬で組み敷かれることを考えたら自信がなくなってきた。今は袖の内側に付ける小型ナイフがあるから大丈夫だと思う。

 その後、チェルソと今日のおやつや夕飯の話をしていたら、リーブがドライフルーツを買って帰ってきた。
 ヴィートは不在だったんだけど、プロッティ子爵家の使用人に王都で買える店を聞いて買ってきてくれた。いつでも買えることが分かってよかった。
 王都は各地から色んなものが集まって便利だな。

「あ、みどりのだ!」
「リーブが買ってきてくれたんだよ」
「リーブありがとう!」
 ティータイムの時、リンゴとベリーのコブラーの横にキウイのドライフルーツを添えてあげたらシルが喜んでいた。
 シルのお礼に、リーブの綺麗なお手本みたいな微笑が、デレっと崩れる。
 リーブの笑顔を崩せるのはシルだけだ。

 
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