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二章
20.旦那様の部下
しおりを挟むシルがうちに来たことを知った僕の両親や兄たち、ラルフ様の両親と兄たちもシルに会いたがった。
みんなと会うのは僕たちの結婚式以来だ。
結婚式も親族だけを呼んだささやかなものだった。本家の当主でもないので、お披露目する必要もない。
それと、ラルフ様が大勢の人を呼ぶことを嫌がったんだ。
「数の脅威というのは馬鹿にできない」
結婚式の話ですよね? 周りを敵に取り囲まれるような結婚式を想定しているのですか?
結婚式当日も色々あった。
「ラルフ様、まさかとは思いますが剣を持ち込んでいませんよね?」
「剣は持っていない」
目を逸らしながら言うから、絶対に怪しいと思って服の中を調べたら、袖の内側に小さなナイフを仕込んでいた。ポケットには石も入っていた。石はなぜ?
もちろん回収した。いつの間に……
「俺はマティアスを守らなければならない」
「何も起こりませんよ」
そう言ったのに、ラルフ様は自分の部下五人呼んで警護に当たらせた。
彼らは結婚式のひと月ほど前に王都に戻ったばかりだ。戦後処理ということで、戦地の周辺の観察や近隣の村の復興を手伝っていたのだとか。
分隊長になったと戦場からの手紙に書いてあったのに、今まで彼らの姿を見なかったのは、戦後処理をしていたからだ。ラルフ様一人だけ先に戻ったのは、勲章をもらうためだった。それならなぜ授与式を忘れるんですか。
彼らはまるで戦場から戻ったばかりのラルフ様のように、チェーンメイルを着込んで剣を背負っていた。さすがラルフ様の部下って感じだ。彼らであれば、ラルフ様が騎士団で暴走した時にも止められたんじゃないかな。
眼光も鋭く、結婚式に参加する親族たちも教会の人たちもビックリしていた。
僕もラルフ様を知らなければ、震えていたかもしれない。
おかげで結婚式の後、庭で開いたガーデンパーティーも、かなり静かなものになった。
ということがあって、親族と言えどうちに気軽に遊びに来たりする人はいない。
ラルフ様の部下はたまに来るけど。
ようやく彼らもチェーンメイルを脱いで、剣を背負わなくなった。
まぁ、彼らがチェーンメイルを脱いだタイミングで、ラルフ様はチェーンメイルを着込んで戦場跡地に旅立ったんだけど……
ラルフ様が僕の仕事先に迎えにこられない時、リーブやメイドの誰かではなく、ラルフ様の部下の誰かが迎えに来るようになった。
王族でもあるまいし、騎士がわざわざ迎えに来るとか恐れ多いんですけど。しかもこの人たちってその辺の騎士より強いんですよね? たまに纏う空気がピリッとして緊張します。
それで彼らと少し話すようになった。王都は安全で騎士も巡回しているという話を何度もしていると、ようやく理解してくれた。ここもラルフ様と似てるから、面白いなって思った。
ガチガチに武装している彼らを怖くないと思ったのは、前にラルフ様がしてくれた戦場の話があったからかもしれない。星を眺めてみんなで外で寝たとか、小鳥の巣を守ったとか。
迎えに来てくれた日は、そのまま家で夕食を食べて行ってもらったりしているから、今では彼らとも結構仲良しだ。
ラルフ様が戦場跡地に行って家を空けている間、巡回を強化してくれたり、僕の送り迎えもしてくれた。
彼らはラルフ様の信頼が厚い。そして彼らもまたラルフ様のことを絶対的に信頼しているように見える。ラルフ様の指示は絶対だ。だから結婚式にも、参列者ではなく警護担当として並んでいた。
そこは剣を置いて参列者として並んでほしかった。うちは王侯貴族ではなく一般家庭なんですから。
シルも、この家に来た頃は怖がっていたけど、すぐに慣れて、今ではみんなに遊んでもらっている。
よく慣れたよね。シルは他の人には心を閉ざしていたのにラルフ様に慣れたくらいだから、こういうタイプの大人の男性は平気なのかもしれない。
じゃあ僕はなんで初めから話してくれたんだろう? ラルフ様の夫だから? きっとそうだ。そういうことにしておく。
彼らにまで、家の敷地内では剣を抜くなとは言えなかったから、帯剣は許しているけど、手紙を届けにきた人や商人が訪れるだけで剣に手をかけるのはやめてもらいたい。
お金持ちの家でもないんですから、うちのような普通の家を襲撃する人なんていませんからね。
ラルフ様が増員されたみたいで初めの頃は僕も緊張していた。というか大変だった。
さすがラルフ様の部下というか、ハリオが初めてお店に迎えにきてくれた時は、草まみれで引き抜いた草を頭に被っていたんだ。そして隣のお菓子屋さんの柱の影に隠れきれていない筋骨隆々の体が見えた。
めちゃくちゃ見たことある光景に、デジャヴかなって思って笑いそうになった。
そして僕は見た。後ろからメアリーが話しかけた時に一瞬で距離を取ったのを。部下の人もあの早技が使えるらしい。
ロッドとグラートが初めて迎えにきてくれた時は、泥に塗れてお菓子屋さんの柱の影に二人で立っていて、泥で顔が分からなかったから、めちゃくちゃ怖かった。
この二人は最初兄弟なのかと思ったけど他人らしい。でもグラートがお兄ちゃんお兄ちゃんって感じでロッドに懐いている感じがちょっと微笑ましい。そこにシルが加わると更に微笑ましさ倍増です。
ルーベンが初めて迎えにきてくれた時は、僕が店の裏口から出た時に、どこからか分からないけどシュタッと上から降ってきた。屋根で待ってた? まさかね。
他のみんなは普通に待っててくれるようになったけど、彼だけは今でもたまに空から降って登場することがある。シルはとても喜んでいるけど、僕は慣れない。
アマデオが初めて迎えにきてくれた時は、普通に裏口を出たところで待ってた。一番普通の人かもしれないと思ったけど、チェーンメイルを脱ぐのは彼が一番最後だった。慎重な性格なのかもしれない。
シルと一番仲良しなのがアマデオだ。なぜなら彼は器用で、シルに度々おもちゃを作ってくれるから。
今は部下のみんなもだいぶ落ち着いている。このままみんなも平和な王都に慣れてくれるといいな。
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