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本編

43話 職人達とネイルケア その14

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暫くしてエレインとサビナが荷物を持って下りてきた、カトカも黒板を数枚持ってついて来ている、

「ちゃんと紹介した事が無かったと思いますので、先に」

エレインはユスティーナの様子とレアンの様子を伺う、エレインの隣りではサビナとカトカが神妙な面持ちである、

「そうね、会食のおりにはお見かけしてましたけど」

「うむ、知っておるが直接関わる事はなかったのう、ライニールの同窓であったか、そう聞いておるぞ」

ユスティーナとレアンは確かにと頷いた、

「そうですね、大変失礼しました、私はサビナ・ベルカ、こちらがカトカ・クルセク、共にバーク魔法学園、ホルダー研究所、研究員であります、ライニールさんとは私が同窓でした、学科は違いましたが共通の友人がおりまして仲良くさせて頂いておりました」

サビナが恭しく頭を垂れ、カトカもそれに倣って頭を下げた、

「御叮嚀にありがとう、研究所となりますとどのような研究を?」

「はい、魔法全般に関する事になりますが、主に魔法陣とそれに類する事、他には・・・」

サビナが事務的にその職務を説明する、やや堅苦しすぎる感はあるが、相手は領主の細君と娘である、お互いに時折見かけていた仲であるが礼儀を欠くことはできなかった、

「補足させて頂ければ、その上で、現在、サビナさんは美容服飾研究会を率いているのです、兼務といった感じでしょうか」

エレインがサビナの説明が一段落ついたあたりで口を挟んだ、

「まぁ、美容と服飾ですか・・・」

これは興味深いと目を剥くユスティーナである、

「まだまだ始まったばかりでして、看板ばかり大きくて恥ずかしいのですが、その名に負けないよう奮闘しているところです」

サビナが恥ずかしそうに答え、

「始まったばかりはその通りなのですが、やわらかクリームの研究開発が進んでいます、それと服飾に関しても書籍作りに励んでいらっしゃいます、どちらも女性のみならず男性にも有効な研究と思います、楽しみにしておきましょう」

エレインがさらに補足を加える、

「まぁ、あのクリームはソフィアさんが作ったのではなくて?」

「はい、ソフィアさんから研究開発を引き継いでおります、それとソフティーに関してもですし、先日から爪の手入れについてもですね」

続けてエレインが説明し、

「今日も爪の手入れの件で材料を集めて来たところです」

サビナが肩に下げた革袋へ視線を移す、それでなんとか本日の本題へと話題が移りかわった様子である、

「材料?」

「はい、えっと、ソフィアさん、取り敢えず一通り揃えました確認をお願いします」

「はいはい、どれー」

ソフィアは若干離れて様子を見ていたが、サビナに呼ばれ同じテーブルを囲む、サビナは革袋を丁寧にテーブルに置いた、見た目に反しかなりの重量があるようであった、

「えっと、顔料として販売されているもの、これは普通に販売されているものです、それと、店の人に用途を言って相談したんですね、で、そうなるとって、店の奥からいろいろ持って来てくれました」

「店の奥って・・・大丈夫なの?」

「なんか、売りだそうとして上手くいかなかった品らしくて、ただ同然で貰ってきました、使えたら大量に買ってくれって笑ってましたけど、ソフィアさん分かります?」

「どれのこと?」

ソフィアが革袋を覗いて問う、革袋の中には木箱が数個、壺が数本乱雑に納まっていた、

「出しますね」

サビナが革袋から次々と仕入れた品をテーブルに並べる、

「この木箱が顔料ですね、絵画用との事です、で、こちらが定着用の保護ニスとの事です、仕上げに塗布するんだとか、で、これも顔料ですね、で、こっちは木用のニス、照りを出す為に使うとか、他にも・・・」

並べられた品をサビナが一つずつ解説していく、その説明を聞く限りにおいてはまるで美容の品とは思えない、なんとも工業的でとげとげしい品物ばかりである、

「あー、ガクエンチョウセンセーの絵具だー、ミナ、これ使ったよー」

ミナが木箱の一つを開けて叫んだ、

「そうじゃのう、同じに見えるのう」

レインもミナの後ろから覗き込む、

「へー、あ、あの絵の時かー」

ソフィアがマントルピースの上に飾られたミナとレインの絵へ視線を移す、

「うん、あのね、水に入れて使うんだよ、でね、でね、出来たらね、黄色いのを塗るの、でも、乾くと黄色じゃないの」

どうやらミナは保護ニスの事を言っているらしい、先程のサビナの説明とも合致する、

「へー、凄いね、本格的だったんだねー」

「うん、面白かったー、また書きたい」

「そうね、そのうちまた書こうねー」

「うん、えっと、ニャンコ書きたい、あと、葡萄とかー」

「ニャンコに葡萄か・・・ニャンコは難しそうだなー」

「寝てるニャンコ書くのー、動いてるのは難しいのー、言うこと聞かないしー」

「なるほど、それなら書けるわね」

本題とはだいぶズレたところで楽しそうなソフィアとミナである、

「随分買ってきましたね」

カトカが黒板に何やら書き込みながら一つ一つの品を確認する、

「そうね、でも、半分くらいは試しに使ってみてって貰ったもんよ」

「へー、随分あれですね、太っ腹な問屋さんですね」

「うん、ほら、普通の人?が買いに来る事がないからって、喜んでたわ、どうしても職人さんとかばかりで、そういうのしか売れないんだって」

「あー、そういう事ですか」

カトカとサビナが何やら納得し、

「カトカが行けば全部ただだったかもねー」

「えー、またそういう事言うんですかー」

「えー、じゃないわよ、あんたも仕入れ担当の仕事おぼえないとでしょ」

「そうですけどー、サビナさんがいる内はいいかなーって」

「そうも言ってられないでしょ」

「じゃ、書記係交代して下さいよ」

「えっ、そういう事言うの?性格ワルー」

「サビナさんだって、この程度は出来ないとですよー」

ニヤニヤと黒板を振るカトカである、

「随分あるのねー、見た事無い物ばかりだわ」

「ふふん、細工職人のところにはこういうのがいっぱい転がっておりますぞ」

「あら、そうなの?」

「はい、あそこは面白い品ばかりです、顔料はそれこそ色ごとにもっと大きい壺に入って置いてありますよ、母上も今度行きましょう」

「そうね、こういうのも面白そうね」

ユスティーナとレアンも楽しそうにしている、

「あ、で、どうでしょうこの染料なんですが・・・」

サビナが木箱を開いてソフィアに向ける、中にはさらに壺が2つ並んで入っており、それを開けると乾燥させた葉っぱであろうか、粉末状に細かく砕かれたものが入っている、一目で葉である事が分かったのはその濃い緑色の為であった、片方は濃い緑、もう片方は青みがったった同じく濃い緑である、

「うーん、なんだろう、染料よね、どう使うのかしら?・・・」

流石のソフィアもその品を見ただけでは首を傾げざるをえない、しかし、

「ほう、これは懐かしいの、ヘンナじゃな、こっちはインディゴか良い色じゃのう」

レインが楽しそうに覗き込む、

「ヘンナ?インディゴ?」

「レイン、知ってるの?」

サビナとソフィアが驚いて問う、

「うむ、知っとるぞ、この匂いはヘンナ独特のものじゃな、これで髪を染めるのじゃ、赤くするのは見た事があるのう、このインディゴも同じじゃな、青色に染まるぞ、中々に綺麗なのじゃ」

当たり前の事の様に答えるレインである、

「赤くなるの?これが?」

不思議そうに壺を除くサビナである、見た目は緑色である、珍しい茶と言われたら疑う事無く信じてしまうほどであった、これで赤く染まる事がまるで想像できない、

「へー、どう使うの?」

「確か、お湯に溶いてそれを髪に塗るんじゃったかな?ただ、素手でやってはいかんぞ、手まで染まってしまう」

「へー、へー、なるほどねー、えっ、これは貴重なもんなんじゃないの?」

「はい、南方からの輸入品だそうです、向こうの植物を使うとかなんとか」

「そっかー、そっちは行った事ないからなー、でも、もしかしたら見たかしら?気付かなかったのかな・・・悔しいな」

ソフィアが珍しくも不愉快そうに下唇を噛んでいる、

「えっ、ソフィアさんでも悔しい事あるんですか?」

サビナが驚いている、

「そりゃ悔しいわよー、面白そうじゃない、やってみたいかな・・・いや、今日はこっちね、これは一旦置いておきましょう」

ソフィアはパタパタと染料を片付け、

「では、そうね、実験が必要よね」

顔料の入った木箱に向かうと、

「どうすればいいかな・・・爪に近い物・・・陶器の皿でいいかしら」

厨房に入って数枚の皿を手にして戻るソフィアである、そして、

「それでは、実際に爪に色を乗せる前に試して行きましょう」

どうやらソフィア自身の探求心に火が着いた様子である、サビナを差し置いてその場を仕切りだした。
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