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本編
43話 職人達とネイルケア その15
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「サビナいるー・・・って、何やってるの?」
暫くしてユーリがフラリと顔を出した、しかし、食堂内の惨状を見てピタリと足を止める、
「あ、えっと・・・その、所長もどうですか、楽しいですよ」
「えへへ、美しいなー、シアワセー」
サビナは忙しく手を動かしながらも冷静に答え、カトカは自身の指先を見てうっとりとしている、
「ユスティーナ様、動いちゃダメー」
「はいはい」
ユスティーナはミナとレインにその両手を預けており、
「母上、この色でどうかのう?」
「あら良い色ね、可愛らしい」
「少し濃いと思いますが・・・」
「薄く塗ればいいのよ、ソフィアさんもそう言っていたでしょ」
「それもそうですね、はい、では、これにしましょうか」
それと同時にレアンとなにやら皿を覗き込んでいる、その隣りではソフィアとエレインがこちらも何枚もの皿を見下ろし、
「黒はどうでしょう?今一つ想像できませんわね」
「そう?良い色だと思うけどね」
「うーん、もっと明るい色の方が・・・どうしても正装は白が基調になりますので、目立ちすぎるかと・・・」
「なるほど、服との取り合わせも必要になるのか・・・」
「はい、それと、その人の肌の色も、リシア様は素肌が白いので黒は浮き過ぎるような気がします、アフラさんは色黒なので、黒でも馴染むでしょうし」
「肌の色はねー、でもまぁ、好みじゃないの?リシア様は赤だろうし、奥様方は・・・どうだろう?白・・・かな?白の調色もしておきますか」
「そうですね、白と一言で言っても難しいですよね」
「そうねー、青白いのと黄色がっているのとでは印象が全然違うからねー」
「あー、こういうのはどうなんでしょう、調色に長けた職人さんっているのかしら?」
「・・・画家とか?」
「そうなりますよね・・・芸術畑の人か・・・伝手が無いなー」
「それなら任せるのじゃ、お抱え画家が居るぞ」
「え、ホントですか、流石領主様」
「なんじゃ、その言い様は、まぁ良いが、そうだのう、銀細工の職人とも引き合わせたかったからのう、今度ゆっくりと顔合わせするか?」
「ありがとうございます、レアン様、やはりパンはパン屋ですわ」
「ふふん、その通りじゃ、で、この色が良いぞ、どうじゃ」
レアンが手にする皿に視線を移すエレインとソフィアである、
「えっと、どういうこと?」
ユーリは気配を消してサビナに近寄る、
「はい、昨日、ソフィアさんが爪に色を乗せるって言ってたじゃないですか」
「そうね」
「それです」
「はっ?始めちゃったの?」
「すいません、色々あって、色だけに」
「そういうのはいいから、で、どんな感じ?」
「こんな感じです」
サビナは指先をユーリに差し出した、昨日磨いた人差し指の爪が黄色に塗られ、さらに独特の光沢も帯びている、さらに別の爪は別の色で塗装されていた、
「ショチョー、私の青なんですよー、ミナちゃんが選んでくれたんですー、カトカは青なのーって」
カトカも嬉しそうに指先を見せる、確かに、こちらも綺麗な青色に塗られ、柔らかく輝いていた、
「へー、なるほど・・・これは面白いわね・・・この光沢は何?」
「保護ニスですね、色を乗っけて乾いた後に保護ニスを塗ってます、で、保護ニスが乾いてから研磨してます、今、ミナちゃんとレインちゃんがユスティーナ様のをやってます、仕上げですね」
サビナの視線の先では、ミナとレインがまさに職人の目つきで腕を動かしている、しかし、今回はマスクをしていない、ユーリが吸い込まれるように3人に近寄り、
「これは美しい・・・なるほど、うん、素晴らしいな」
思わず素直な感想が口をつく、ユスティーナの爪には10本全部に朱色が塗られていた、実に上品な色味である、それを一本ずつミナとレインが研磨しており、その仕上げの前後ではその輝きがまるで違っていた、磨き上げたそれはサビナとカトカのそれと同じくツヤツヤと輝き、磨く前のそれはくすんだ暗色である、
「ふふ、美しいでしょう、楽しいですわよ」
ユスティーナがニコニコとユーリを見上げる、
「はい、これほど美しくなるとは思いませんでした、この色も良いですが、輝きも素晴らしいですね、いや、凄い」
「ふふ、そうですね」
嬉しそうなユスティーナと驚きと称賛を隠せないユーリがミナとレインの作業を見守り、
「ふー、出来たー、ソフィー、出来たー」
研磨作業を終えたミナが満足そうにソフィアを呼ぶ、
「はいはい、ユスティーナ様どんなもんでしょう?って、あら、ユーリも来たの?」
「来たのって、そりゃ来るわよ、上にカトカもサビナも居ないし」
「うふ、仕上がりは最高ですわ、ミナちゃん、レインちゃん、ありがとう」
「えへへー、良かったー」
「うむ、まぁ、出来は悪くないかのう」
ミナは安心したのか肩の力を抜いてだらしない笑顔となり、レインはこんなもんだろうと肩を回す、
「なに?みんな集めてやるんじゃなかったの?」
ジロリとソフィアを睨むユーリである、
「あー、なんか、突発的に?そういう流れ?的な?」
ソフィアは適当に答え、
「あ、ユスティーナ様、こちらユーリです、研究所の所長ですね、サビナさんとカトカさんの上司です」
何とも雑に紹介する、
「まぁ、ユーリ先生ですね、時折見かけておりましたが、ちゃんとした挨拶はまだでしたわね」
「あ、これは失礼を、ユーリ・ホルダーです、お会いできて光栄でございます・・・って、すいません、何度かお会いしておりましたよね」
「ふふ、そうですわね」
二人は笑顔を浮かべつつもどこか場違いな感じが拭えずギクシャクと挨拶を交わす、
「それでは、次はレアン様ね、レアン様はどうします?」
「うむ、この色にするぞ」
レアンが大事そうに手にしていた皿を突き出す、
「はい、じゃ、色を乗せて・・・そうだ、こういのうはどうかしら・・・」
ソフィアはさらに一計を思い付いたらしい、
「ミナ、ちょっと来て、レアン様、こちらにお座り下さい」
ミナを呼びつけてまたなにやら始めるソフィアである、
「まったく、カトカ、ちゃんと記録とっているんでしょうね」
ユーリはキッとカトカを睨み、
「勿論です、ふふ、ショチョー、キビシーナー」
だらけきった面相のカトカである、あー、これは駄目な状態のカトカだわとユーリは頬を引きつらせた。
「これはまた・・・会長、集まってからではなかったですか?」
「あー、ほら、ユスティーナ様がいらっしゃったから・・・なんか、そういうノリ?」
「ノリですか・・・まぁ、ユスティーナ様とレアン様の接待になったのであれば良い事としますか」
テラがやれやれと溜息を吐いた、学生達が店舗に入りマフダが事務所へ戻った為そろそろかとテラとマフダが寮へ入ると、どうやら今日予定されていた実験は終わった後の様子である、食堂のテーブルには様々な器具が並び、何やら嗅ぎ慣れない匂いに満たされていた、ユスティーナとレアンの姿は無い、帰宅したのであろう、
「かわいいなー、いいなー、どうやったのー」
「うふふー、かあいいでしょー、三毛ニャンコなのー、レインのは白ニャンコでー、お嬢様は黒ニャンコなのー」
「へー、いいなー、かわいいなー」
ミナがニコニコとマフダに自慢して見せているのは、小さな親指の爪に書かれたこれまた小さな猫の模様である、小さな丸い点に、小さな突起物が二つついただけのようであるが、それをミナはニャンコと言い張り、そう言われてみればそうであろうなという程度の模様である、
「えーと、では、どうします?ジャネットさん達も来るんじゃないですか?」
「そうね、その時は改めてかしら・・・でも、良い感じでしょ」
エレインはニヤニヤとテラへ指先を見せた、その爪は根本が緑色、爪先は青色の2色に塗装されている、
「・・・それは、認めます、とても何というか斬新というか・・・派手というか・・・」
「うふふ、ソフィアさんがね、一色で塗るだけでは楽しくないかしらって、こういう柔軟な発想が必要なのですわよ、お洒落はこうでなくては」
「そうですね、それは認めます、で、どうやるんですか?」
「はい、私も知りたいです」
テラはじっとりとした目でエレインを見つめ、マフダはキラキラと輝く瞳である、
「そうね、それはあれね、皆が集まってからね」
「・・・会長・・・そういうのをいけずって言うのですよ」
「いけず?」
「意地悪とか、性根が悪いとか、にくたらしいとかそんな意味です」
「へー、会長いけずだー」
マフダが珍しくも調子に乗ってエレインをからかう、
「まぁ、人をそんなふうに言う人には教えて上げませんよ、ねー、ミナちゃん」
「んー、なにがー?」
「テラさんとマフダさんが意地悪だーって言うんですー」
「そうなのー?エレイン様は優しいよー、意地悪だけどー」
「意地悪は合ってるんだ・・・」
「会長、援軍になってませんよ」
「・・・そうみたいね、ま、いっか」
結局困ったように微笑みあう3人と、不思議そうに見上げるミナである、
「なるほどね、でも、あれでしょ、身体に良いものがどうのって言ってなかった?」
ユーリがカトカの記した黒板を見ながらサビナに聞く、
「はい、それについては経過観察かなと思います、ユスティーナ様とレアン様には重々御理解頂いた上で御協力頂きました」
「そっか・・・ま、顔料っていってもね、結局石砕いたり、草の汁だったりするんだから口に入らなければ問題無いわよね」
「恐らく、ただ、医学科にも別途確認して見ようかと思います、害もそうですし、かぶれたりする場合があるかと思います、その際にはすぐに落とすようにとお二方にも言ってあります」
「そうね、でも、そんな簡単に落ちる?」
「大丈夫ですね、乾いた保護ニスは保護ニスを塗ると落とせるみたいです、顔料は水で落ちます」
「そっか、ならいいか・・・って、え、こんな短時間でそこまで検証したの?」
「はい、出来ましたね、ソフィアさんが同時進行で進めました、助手が多かったのも幸いしたかと、ユスティーナ様もレアン様も楽しそうに作業してましたので、はい」
「それにしてもよ・・・ソフィアってばやり方を知っていたんじゃないの?昨日はなんかタロウがどうこうのって言ってたけど・・・ミナとレインのやってたのは研磨?」
「そうです、なんと研磨剤は小麦粉です」
「えっ?それで研磨になるの?」
「なるみたいですね、少なくともただ布で磨くよりかは艶も輝きも出てました」
「なんだっけ、砥の粉だっけか、あれでは駄目なの?」
「はい、やってみたら削りすぎてしまうようです、で、より柔らかくて細かい粉という事で小麦粉です」
「なるほどね・・・それでいいならいいのかな・・・ま、その辺も要検証よね・・・で、あんたのそれはなに?」
ユーリがサビナの左手を指差す、その爪は全て塗装されていた、昨日磨いた爪は当然として磨いていない爪もである、挙句、それぞれに違う色であった、何とも派手である、
「あー、調子に乗って色々と、色もそうですが、保護ニスを塗らない状態で保つものなのかなというのと、磨いて無い爪に塗った場合とですね」
サビナがユーリの前に左手を差し出す、その説明の通りである、色の違いはもとより質感も輝きも違う5つの爪であった、
「ふーん、そっか、検証の為か・・・でもこうみると分かり易いわね・・・磨いた爪は人差し指だけでしょ、中指が保護ニスが塗っていないもの?」
「はい、やはり磨いていないと下地の形が透けますね、保護ニスも同様です、無いとあれです、顔料を乗っけただけというのが丸わかりです、お洒落ではありますが、美しいとはいえないですね」
「確かに、なんか、子供の遊びに見えるわね、泥汚れみたい・・・なるほど・・・これは面白いわね・・・」
「はい、もしかしたら保護ニスだけでもいいんじゃないかってソフィアさんは言ってました」
「へー、あー、なるほど、それもそうね・・・」
ユーリはサビナの手を観察しつつ、
「で、そのソフィアはどこ?」
「厨房じゃないですか?」
「ちょっと、ソフィー」
ユーリは黒板をテーブルに置いて腰を上げた。
暫くしてユーリがフラリと顔を出した、しかし、食堂内の惨状を見てピタリと足を止める、
「あ、えっと・・・その、所長もどうですか、楽しいですよ」
「えへへ、美しいなー、シアワセー」
サビナは忙しく手を動かしながらも冷静に答え、カトカは自身の指先を見てうっとりとしている、
「ユスティーナ様、動いちゃダメー」
「はいはい」
ユスティーナはミナとレインにその両手を預けており、
「母上、この色でどうかのう?」
「あら良い色ね、可愛らしい」
「少し濃いと思いますが・・・」
「薄く塗ればいいのよ、ソフィアさんもそう言っていたでしょ」
「それもそうですね、はい、では、これにしましょうか」
それと同時にレアンとなにやら皿を覗き込んでいる、その隣りではソフィアとエレインがこちらも何枚もの皿を見下ろし、
「黒はどうでしょう?今一つ想像できませんわね」
「そう?良い色だと思うけどね」
「うーん、もっと明るい色の方が・・・どうしても正装は白が基調になりますので、目立ちすぎるかと・・・」
「なるほど、服との取り合わせも必要になるのか・・・」
「はい、それと、その人の肌の色も、リシア様は素肌が白いので黒は浮き過ぎるような気がします、アフラさんは色黒なので、黒でも馴染むでしょうし」
「肌の色はねー、でもまぁ、好みじゃないの?リシア様は赤だろうし、奥様方は・・・どうだろう?白・・・かな?白の調色もしておきますか」
「そうですね、白と一言で言っても難しいですよね」
「そうねー、青白いのと黄色がっているのとでは印象が全然違うからねー」
「あー、こういうのはどうなんでしょう、調色に長けた職人さんっているのかしら?」
「・・・画家とか?」
「そうなりますよね・・・芸術畑の人か・・・伝手が無いなー」
「それなら任せるのじゃ、お抱え画家が居るぞ」
「え、ホントですか、流石領主様」
「なんじゃ、その言い様は、まぁ良いが、そうだのう、銀細工の職人とも引き合わせたかったからのう、今度ゆっくりと顔合わせするか?」
「ありがとうございます、レアン様、やはりパンはパン屋ですわ」
「ふふん、その通りじゃ、で、この色が良いぞ、どうじゃ」
レアンが手にする皿に視線を移すエレインとソフィアである、
「えっと、どういうこと?」
ユーリは気配を消してサビナに近寄る、
「はい、昨日、ソフィアさんが爪に色を乗せるって言ってたじゃないですか」
「そうね」
「それです」
「はっ?始めちゃったの?」
「すいません、色々あって、色だけに」
「そういうのはいいから、で、どんな感じ?」
「こんな感じです」
サビナは指先をユーリに差し出した、昨日磨いた人差し指の爪が黄色に塗られ、さらに独特の光沢も帯びている、さらに別の爪は別の色で塗装されていた、
「ショチョー、私の青なんですよー、ミナちゃんが選んでくれたんですー、カトカは青なのーって」
カトカも嬉しそうに指先を見せる、確かに、こちらも綺麗な青色に塗られ、柔らかく輝いていた、
「へー、なるほど・・・これは面白いわね・・・この光沢は何?」
「保護ニスですね、色を乗っけて乾いた後に保護ニスを塗ってます、で、保護ニスが乾いてから研磨してます、今、ミナちゃんとレインちゃんがユスティーナ様のをやってます、仕上げですね」
サビナの視線の先では、ミナとレインがまさに職人の目つきで腕を動かしている、しかし、今回はマスクをしていない、ユーリが吸い込まれるように3人に近寄り、
「これは美しい・・・なるほど、うん、素晴らしいな」
思わず素直な感想が口をつく、ユスティーナの爪には10本全部に朱色が塗られていた、実に上品な色味である、それを一本ずつミナとレインが研磨しており、その仕上げの前後ではその輝きがまるで違っていた、磨き上げたそれはサビナとカトカのそれと同じくツヤツヤと輝き、磨く前のそれはくすんだ暗色である、
「ふふ、美しいでしょう、楽しいですわよ」
ユスティーナがニコニコとユーリを見上げる、
「はい、これほど美しくなるとは思いませんでした、この色も良いですが、輝きも素晴らしいですね、いや、凄い」
「ふふ、そうですね」
嬉しそうなユスティーナと驚きと称賛を隠せないユーリがミナとレインの作業を見守り、
「ふー、出来たー、ソフィー、出来たー」
研磨作業を終えたミナが満足そうにソフィアを呼ぶ、
「はいはい、ユスティーナ様どんなもんでしょう?って、あら、ユーリも来たの?」
「来たのって、そりゃ来るわよ、上にカトカもサビナも居ないし」
「うふ、仕上がりは最高ですわ、ミナちゃん、レインちゃん、ありがとう」
「えへへー、良かったー」
「うむ、まぁ、出来は悪くないかのう」
ミナは安心したのか肩の力を抜いてだらしない笑顔となり、レインはこんなもんだろうと肩を回す、
「なに?みんな集めてやるんじゃなかったの?」
ジロリとソフィアを睨むユーリである、
「あー、なんか、突発的に?そういう流れ?的な?」
ソフィアは適当に答え、
「あ、ユスティーナ様、こちらユーリです、研究所の所長ですね、サビナさんとカトカさんの上司です」
何とも雑に紹介する、
「まぁ、ユーリ先生ですね、時折見かけておりましたが、ちゃんとした挨拶はまだでしたわね」
「あ、これは失礼を、ユーリ・ホルダーです、お会いできて光栄でございます・・・って、すいません、何度かお会いしておりましたよね」
「ふふ、そうですわね」
二人は笑顔を浮かべつつもどこか場違いな感じが拭えずギクシャクと挨拶を交わす、
「それでは、次はレアン様ね、レアン様はどうします?」
「うむ、この色にするぞ」
レアンが大事そうに手にしていた皿を突き出す、
「はい、じゃ、色を乗せて・・・そうだ、こういのうはどうかしら・・・」
ソフィアはさらに一計を思い付いたらしい、
「ミナ、ちょっと来て、レアン様、こちらにお座り下さい」
ミナを呼びつけてまたなにやら始めるソフィアである、
「まったく、カトカ、ちゃんと記録とっているんでしょうね」
ユーリはキッとカトカを睨み、
「勿論です、ふふ、ショチョー、キビシーナー」
だらけきった面相のカトカである、あー、これは駄目な状態のカトカだわとユーリは頬を引きつらせた。
「これはまた・・・会長、集まってからではなかったですか?」
「あー、ほら、ユスティーナ様がいらっしゃったから・・・なんか、そういうノリ?」
「ノリですか・・・まぁ、ユスティーナ様とレアン様の接待になったのであれば良い事としますか」
テラがやれやれと溜息を吐いた、学生達が店舗に入りマフダが事務所へ戻った為そろそろかとテラとマフダが寮へ入ると、どうやら今日予定されていた実験は終わった後の様子である、食堂のテーブルには様々な器具が並び、何やら嗅ぎ慣れない匂いに満たされていた、ユスティーナとレアンの姿は無い、帰宅したのであろう、
「かわいいなー、いいなー、どうやったのー」
「うふふー、かあいいでしょー、三毛ニャンコなのー、レインのは白ニャンコでー、お嬢様は黒ニャンコなのー」
「へー、いいなー、かわいいなー」
ミナがニコニコとマフダに自慢して見せているのは、小さな親指の爪に書かれたこれまた小さな猫の模様である、小さな丸い点に、小さな突起物が二つついただけのようであるが、それをミナはニャンコと言い張り、そう言われてみればそうであろうなという程度の模様である、
「えーと、では、どうします?ジャネットさん達も来るんじゃないですか?」
「そうね、その時は改めてかしら・・・でも、良い感じでしょ」
エレインはニヤニヤとテラへ指先を見せた、その爪は根本が緑色、爪先は青色の2色に塗装されている、
「・・・それは、認めます、とても何というか斬新というか・・・派手というか・・・」
「うふふ、ソフィアさんがね、一色で塗るだけでは楽しくないかしらって、こういう柔軟な発想が必要なのですわよ、お洒落はこうでなくては」
「そうですね、それは認めます、で、どうやるんですか?」
「はい、私も知りたいです」
テラはじっとりとした目でエレインを見つめ、マフダはキラキラと輝く瞳である、
「そうね、それはあれね、皆が集まってからね」
「・・・会長・・・そういうのをいけずって言うのですよ」
「いけず?」
「意地悪とか、性根が悪いとか、にくたらしいとかそんな意味です」
「へー、会長いけずだー」
マフダが珍しくも調子に乗ってエレインをからかう、
「まぁ、人をそんなふうに言う人には教えて上げませんよ、ねー、ミナちゃん」
「んー、なにがー?」
「テラさんとマフダさんが意地悪だーって言うんですー」
「そうなのー?エレイン様は優しいよー、意地悪だけどー」
「意地悪は合ってるんだ・・・」
「会長、援軍になってませんよ」
「・・・そうみたいね、ま、いっか」
結局困ったように微笑みあう3人と、不思議そうに見上げるミナである、
「なるほどね、でも、あれでしょ、身体に良いものがどうのって言ってなかった?」
ユーリがカトカの記した黒板を見ながらサビナに聞く、
「はい、それについては経過観察かなと思います、ユスティーナ様とレアン様には重々御理解頂いた上で御協力頂きました」
「そっか・・・ま、顔料っていってもね、結局石砕いたり、草の汁だったりするんだから口に入らなければ問題無いわよね」
「恐らく、ただ、医学科にも別途確認して見ようかと思います、害もそうですし、かぶれたりする場合があるかと思います、その際にはすぐに落とすようにとお二方にも言ってあります」
「そうね、でも、そんな簡単に落ちる?」
「大丈夫ですね、乾いた保護ニスは保護ニスを塗ると落とせるみたいです、顔料は水で落ちます」
「そっか、ならいいか・・・って、え、こんな短時間でそこまで検証したの?」
「はい、出来ましたね、ソフィアさんが同時進行で進めました、助手が多かったのも幸いしたかと、ユスティーナ様もレアン様も楽しそうに作業してましたので、はい」
「それにしてもよ・・・ソフィアってばやり方を知っていたんじゃないの?昨日はなんかタロウがどうこうのって言ってたけど・・・ミナとレインのやってたのは研磨?」
「そうです、なんと研磨剤は小麦粉です」
「えっ?それで研磨になるの?」
「なるみたいですね、少なくともただ布で磨くよりかは艶も輝きも出てました」
「なんだっけ、砥の粉だっけか、あれでは駄目なの?」
「はい、やってみたら削りすぎてしまうようです、で、より柔らかくて細かい粉という事で小麦粉です」
「なるほどね・・・それでいいならいいのかな・・・ま、その辺も要検証よね・・・で、あんたのそれはなに?」
ユーリがサビナの左手を指差す、その爪は全て塗装されていた、昨日磨いた爪は当然として磨いていない爪もである、挙句、それぞれに違う色であった、何とも派手である、
「あー、調子に乗って色々と、色もそうですが、保護ニスを塗らない状態で保つものなのかなというのと、磨いて無い爪に塗った場合とですね」
サビナがユーリの前に左手を差し出す、その説明の通りである、色の違いはもとより質感も輝きも違う5つの爪であった、
「ふーん、そっか、検証の為か・・・でもこうみると分かり易いわね・・・磨いた爪は人差し指だけでしょ、中指が保護ニスが塗っていないもの?」
「はい、やはり磨いていないと下地の形が透けますね、保護ニスも同様です、無いとあれです、顔料を乗っけただけというのが丸わかりです、お洒落ではありますが、美しいとはいえないですね」
「確かに、なんか、子供の遊びに見えるわね、泥汚れみたい・・・なるほど・・・これは面白いわね・・・」
「はい、もしかしたら保護ニスだけでもいいんじゃないかってソフィアさんは言ってました」
「へー、あー、なるほど、それもそうね・・・」
ユーリはサビナの手を観察しつつ、
「で、そのソフィアはどこ?」
「厨房じゃないですか?」
「ちょっと、ソフィー」
ユーリは黒板をテーブルに置いて腰を上げた。
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