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本編

29話 エレイン様とテラさんの優雅?な一日 その1

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翌日、ソフィアが寮内の掃除を終え、ミナとレインに計算の課題を出した頃合いで、テラが大荷物を持って食堂へ降りてきた、

「あら、おはようございます」

「テラさんだー、どうしたのー」

ソフィアとテラが気兼ねない朝の挨拶を交わし、ミナが手足をバタバタさせる、

「お引越し?」

ソフィアが大荷物を見る、

「はい、本日から事務所に住み込みですね、この歳で新生活ですよ、まったく」

テラは困ったように笑うが、大して気にしてはいない様子である、それどころかどこか楽し気に見えた、

「そっか、少し手伝う?まだ荷物あるの?」

「あ、大丈夫ですし、申し訳ないですよ、荷物はこれともう一つくらいなので・・・商人は身軽にしないと、それが家の身上なんです」

大きな革袋をポンと叩いた、

「そっか、手伝う事あったらなんでも言ってね、あ、こっちで暮らすのなら食事はどうするの?考えてる?」

「屋敷の厨房を使う予定です、あのお屋敷に実質一人暮らしですからね、もう、贅沢ですよ」

「あー、でも掃除とか大変そうじゃない?」

「掃除はオリビアさんが空いてる時にやってるみたいですよ、メイド付きのお屋敷ですね」

「ま、本当の御貴族様みたい」

当たり障りの無い会話が交わされ、では、とテラが事務所へ向かった、

「またねー」

ミナが大きく手を振り、テラもニコヤカに振り返す、

「本格的になってきたわねー」

ソフィアは微笑みつつ、ミナとレインの黒板に視線を戻した、今日はカトカは休みである、昨日はサビナが休みであった、二人は交代で休みを取る事としたようである、健全な事だとソフィアは理解を示し、研究所を空にしないあたりに二人の生真面目さが表れてもいた、よって本日のカトカとの共同研究も休みとなっている、食堂の一角に積まれた書類は放置され、壁の黒板に書かれた図面類もそのままでやや寂しそうに食堂の壁を彩っている、

「足し算と引き算は良い感じかしら?」

ソフィアが呟くと、

「むふー、でしょ、でしょ、オリビアにも褒められたのよ」

ミナの嬉しそうな顔に、そっかーとソフィアも微笑む、

「そうじゃの、あれだ、後は暗算が出来れば尚良いの」

レインの厳しい言葉に、

「むー、暗算は時間がかかるの、時間かければできるの」

「そうか?買い物の時は難しそうにしとるじゃろ」

「あれは、レインが速いのー、お店の人も速いしー」

「そうなのか、なら今日はゆっくりと暗算して良いぞ、店の者にもそう言ってやるわ」

「むー、レインも一緒にやってー、間違ってたら嫌だからー」

「それは当然じゃ」

レインはフンと鼻を鳴らす、

「そっか、じゃ、これを暗算でやってみて、最初は簡単なのからね」

ソフィアが黒板に数字を羅列し、

「はい、ゆっくりでいいわよ、しっかりやってみなさい」

ミナは黒板を両手で持って、

「うんとね、うんとね」

と呟きつつ真剣な目が数字を追い、

「はい、これ」

計算結果を書きつけるとソフィアへ見せた、

「あら、合ってるわね、うん、じゃ、次はちょっと難しく、二桁よ」

はい、とソフィアは黒板をミナへ返した、

「むー」

とミナは唸りつつも真剣な視線は変わらない、暫くして、

「はい、これ」

ソフィアへ黒板を見せるミナ、

「うん、合ってる、なるほど、時間はかかるけど正確ね、うん、じゃ、少しずつ慣れていきましょう、数を熟せば速くなっていくわよ」

「うん、分かった」

ミナの素直な返事にソフィアはニコニコと微笑みつつ、次のお題を黒板へ記入していった。



「なるほど、これは分かり易いですね、それに確かに売れそうです」

事務所ではテラとエレインが木簡を間に置いて話し込んでいる、エレインは昨日迄のクレオノート家との一連の出来事を報告しつつ、成果物として出来上がった調理法が記された木簡についてテラの意見を求めたのであった、

「カトカさんが書いてくれたのだけど、読みやすいし分かり易いのよね、やはり本職というか文字を扱っている人は違うように感じるわね」

「そうですね、確かになかなか書ける文章では無いように思えます、作業を文章にするというのは・・・なるほど、想像は出来ますが実際に書くとなると難しいかもしれないですね」

「それで、これも商品として確立したいなと思いつつも、まずは鏡屋さんからね、で、昨日ね、また、良い案があってね、少々贅沢な感じになるんだけど、こういった感じはどうかしら?」

エレインは席を立つと壁の黒板へ向かう、白墨を手にして悩みながらも単語を書き付けていく、

「まずは、ガラス鏡、これは最重要、次に軽食屋、さっきも言ったけど見た目は華やかなんだけど、材料費はそれほどでもないのよ、勿論味も良いしね、強いて言うなら手間がかかるかしら?」

エレインはこれもまたこの二日程度で新たに開発された料理の事を議題に上げた、仔細を言葉で説明しているが、やはり実際に見ていないテラはやや半信半疑であるらしい、

「はい、想像するのは難しいですが、その言葉を信じます」

テラは真面目な口調で正直な感想を口にした、

「で、これも昨日ね、ユスティーナ様の言葉から思い付いたのだけれど、貴賓室?打ち合わせ室?会議室?・・・会議室がいいかしら、そういった場所の提供ね、これは貴族様方には重宝されると思うのよね、ま、貴族向けでなくても大店さんとかでも使えるような感じかしら?よく考えればそういった場所の提供というのは商売として存在してないのよね、たぶん、だけど・・・聞いた事ある?」

「・・・無い・・・ですね、打ち合わせの場ですか、それは、あれですか会議をする双方、どちらかの屋敷や事務所では駄目なのですか?」

「うん、それがユスティーナ様曰く、客として対等な状態で話せる事が貴重らしいのよね、どうしても客としてどちらかに赴く場合は、主として迎える、客としての礼儀、そういったものが存在するのよ、特に貴族となると、私はほらそういうのは経験ないけど、上下の問題もあるだろうし、メンツの問題もあるんじゃないかな?そうね、父や母がめんどくさそうに愚痴っているのは聞いた覚えがあるかしら」

「なるほど、そう考えると、そうですね、主として迎える場合には何らかの趣向が必要でしょうし、茶にしろ茶請けにしろ気を使うでしょうし」

「客として訪問するにしても、主側に恥をかかせてはいけない・・・なめられるような事も問題・・・それはどちらもか、まぁ、そう言った感じで恐縮する場合もあるであろうしね」

「それが会食等であれば、まぁ、何とでもなるんでしょうけど、明確な問題に対しての場となれば、議論の点で問題が生じるのでしょうか?それではあれですね、あまり宜しく無いでしょうね」

「そうだと思うわよ、私達はこうやって好きに言い合えるけど、立場のある人でさらにその場に縛られてでは議論も何もないのでしょうね、恐らくだけど、上の人の元へ下の者が行った場合、大概がそうなんでしょうけど、そうなると結局上の人の意見がゴリ押しされて、下からの良い意見をその場に出す事もできない・・・とか?」

「なるほど、実感は難しいですが、理解は出来ました、想像の範囲内ではありますけど」

テラは腕を組んで考え込む、

「そうね、昨日の打合せは、内容は別にしてね、領主様と学園長が2階の貴賓室を使ったのね、で、打合せの結果としては学園長側の案で通ったみたいなの、この2者の力関係はどちらが上かは私には分からないけど、領地に係わる問題で領主側が学園側の意見を受け入れたわけだから、ある意味で異例の事なのかもね、でも、良い会談であったのは想像できるかな、打合せ後は両者とも満足した様子だったしね、これが、領主様の御屋敷や、学園の事務室であったならまた違った結果にもなったのかしら?そう考えると、やはりそういう場を提供するのも面白いかなと思うのよ」

「そうですか、では、具体的に考えましょう、まずはそちらの3つを盛り込むとして、1階を軽食のお店、2階をガラス鏡店、3階に会議室、で、軽食の店には食料庫と従業員用の控え室、2階にはガラス鏡用の倉庫、3階には会議室が1部屋か2部屋でしょうか、それと事務室・・・大雑把に考えましてもかなり大きな店舗が必要になりますね」

「うんうん、そうか、そうよね、そうなると」

エレインはテラの意見を取り入れつつ黒板に理想とする配置図を書いていく、3つの長方形を描きその中を雑な直線で区切り必要と思われる施設を書き入れた、

「あー、これはあれね、確かに大規模ね」

「そうですね、この御屋敷程度の大きさが欲しくなりますね」

二人は共に大きく溜息を吐いたのであった。
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