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本編

28話 Art and recipe on the plate その9

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「むふー、美味しいね」

結局、レアンとユスティーナの焼き菓子が作られ、出来立てのそれをミナはパクついて御満悦となる、

「うん、美味しいのう、母上の手料理は初めてじゃ」

レアンも感慨深げに焼き菓子を頬張る、こちらもとても嬉しそうな笑顔である、焼き菓子は至極単純な品であった、小麦粉と砂糖、それから山羊のバターを混ぜ合わせ隠し味として少量の塩、それとミカンの皮を使用している、母娘二人は実に楽しそうに作業を進め、ケイランが甲斐甲斐しく手伝い、カトカが一連の作業を文章へと書き起こした、

「良かったわ、お店で出されるような品ではないけど、お茶うけには丁度良いのよね」

謙遜しつつユスティーナは微笑む、

「そんな事はないですよ、ミカンの皮が良い風味になっております、とても美味しいです」

ケイランも絶賛し、皆も同じような感想を口にする、

「調理法の方も纏めてみました、これで、合っていると思いますが、どうでしょうこれを見ながら実際の作業は出来るものでしょうか?」

カトカは焼き菓子を口にしながら木簡を覗き込んでいる、

「どんな感じ?」

ソフィアが覗き込み、うんうんと頷きつつ目を走らせる、

「そっか、あれね、作業毎に別けて書いた方が良いかもね、それと先に材料を書いておいて、調理の前に揃えておけるように?下準備と作業を明確に別けるとそれだけでも見やすくなるんじゃない?」

「ふんふん、作業毎と、材料と、下準備ですね」

そうなると、とカトカは別の木簡を取り出し各項目を箇条書きで仕上げた、この辺の作業の速さは流石に手慣れたものである、

「はい、こんな感じでどうでしょう、あ、でも焼き菓子そのものの大きさとか、焼き加減に関しては不明瞭ですね」

「あー、それはほら、味よアジ、作った人によって変わるのも面白い点だと思うわよ」

ソフィアが適当に答えつつ木簡を手にする、

「なるほど、これなら大分読みやすいし、分かり易いわね、エレインさんどう?」

木簡はテーブルに置かれ皆がそれを取り囲む、

「確かにこれであれば分かり易いですね、それと作業が別れて羅列されている所も良いです」

「そうじゃの、なるほど、用意する物が最初に明確になっているのも良いな」

「そうね、付け足すとすれば、題名があればより想像しやすいですね、うーん、例えばですが、クレオノート家の焼き菓子とか、ユスティーナ様直伝焼き菓子とか、焼き菓子である事を先に謳えばより理解が速いかなと」

エレインは失礼かなと思いつつも適当な料理名を口にした、

「む、では、より優雅にじゃ、クレオノート家の夕べとか、クレオノート家のお茶うけ・・・では俗っぽいのう」

レアンが首を傾げる、

「まぁ、それは捻りすぎです、クレオノート家の焼き菓子で良いでしょう、でもカラミッド様に了解を得てからかしら、家名を使うには家長の了承が必要ですからね」

「はい、では、この品を持って父上の元へ、あ、その前に、どうであろう、この調理法というか、この木簡は売り物になるであろうか?」

レアンが根本的な疑問を口にした、一同はうーんと悩みつつ、

「種類を増やせば売れると思いますね、それと、お店のブロンパンのパンの部分とか、それとあれですスポンジケーキとか、実際の品を食して、自宅でも作ってみたいって人はいると思いますよ」

「そうですね、お店でもそういう問い合わせは時々あります、丁寧に断っておりますが、知りたい事ではあるのでしょうね」

「そっか、そうなるとあれじゃない、泡立て器も一緒に売れるんじゃない?それとあれ溶岩板のあれ」

「なるほど、それと先程カトカさんが提案された、大きさの統一されたスプーンとか、ボールとか・・・」

「それで利益を出せばいいのか、あれ、軽食屋さんが道具屋さんになってきたぞ」

「であれば、ソーダ粉末もですわね、一般販売の際にどのように展開しようか悩んでいたのですが、このような調理法と一緒に販売すれば良いのですよ、ただもう少し種類が必要かなとも思うのですが」

「それもありましたね、うん、いけると思います」

活発に意見が出される中、ライニールは楽しそうにその光景を眺め、ミナとレインは焼き菓子を静かに食している、やがて、

「無くなったー、ミナも作りたいー」

ミナの声に一同は再び驚いて視線がミナへと集まる、

「ミナ、食べ過ぎよー」

ソフィアの非難に、

「でも、食べちゃった、美味しかったし」

ミナはまったく悪びれる様子も無い、

「もう、ミナは、まったくー」

レアンが困ったように笑い、

「うむ、では、もう一度じゃ、今度は私だけで作りたいのだが、どうだろう母上?」

「ん、良いわよ、私は口出ししませんからね、ケイランも手を出しちゃ駄目よ」

「はい、承知致しました」

「む、厳しいのう、では、やるか、ミナ、レイン、手伝うのじゃ」

「うん」

ミナはピョンと飛び上がり

「そうか、仕方ないの」

レインはヤレヤレといった風情である、

「あら、ミナさんとレインさんには手伝って貰うの?」

ユスティーナが不思議そうに問うと、

「勿論です、二人は私の右腕と左腕ですぞ」

「あらあら」

ユスティーナは柔らかく微笑み、ミナとレインは鼻息を荒くして腕捲りをするのであった。



「そうですね、では、ユスティーナ様にはマヨソースを伝授致しましょうか」

ソフィアは事の大元を思い出した、

「では、そちらの調理法も記録致しましょう、使う使わないは別として、有ると便利かと思います」

カトカが別の木簡を用意する、

「エレイン会長としてはどうなのです?納得していないのであれば、無理にとは思いませんが」

ユスティーナは冷静であった、やはり政に関わる立場にある事もそうであるが、無理強いをしない点で育ちの良さが見て取れるようである、

「そんな、ユスティーナ様にそこまで気を使われてはこちらが困ってしまいます、それに、クレオノート伯家であれば有効に、そして大事に使っていただけるものとも思いますし、ソフィアさんの秘密を独占できないのは少々残念ですが、レアン様にもユスティーナ様にもバレてしまいましたからねここはソフィアさんの件も含めて、是非秘密を共有致しましょう」

エレインはニヤリと笑みする、笑いに変えて場を和ませる事にしたようであった、

「まぁ、それは嬉しいです、そうね、ソフィアさんを共有するというのは実に良い案です」

ユスティーナとエレインはなにやら怪しげに微笑み合いゆっくりとソフィアへ視線を移す、

「あー、あはは、えっと、何でしょうかねー」

ソフィアはあれヤバイかな等と思いつつも、自分から言い出した事でもある為引くに引けなくなってしまった、

「さ、ソフィアさん、是非、御教授を、久しぶりに焼き菓子を作ったのでとても楽しいのです、マヨソースは確か、以前頂いたソースでしたわね」

「そうですね、はい、では、材料から集めましょうか」

やる気になったユスティーナに引っ張られるようにソフィアのマヨソース作りが始められ、カトカはその作業を真剣に書き留め、ケイランはユスティーナを手伝い、エレインも興味深くその作業に見入る、そうしてその日の作業は続いたのであった。
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