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第2章
013 土星の輪とウイルス
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「土星ベースからスミス宛に掲示板に書き込みです」
護衛の仕事をしている時にアリスが言った。スミスは操縦席についている。
「なんだ?」
「土星の外周から地球まで鉱物を運ぶのを警備して欲しいそうです。なんでも価値のあるものだそうで」
まだ開発の手が伸びていない土星の輪の採掘らしい。
「輸送は1週間後、この仕事が終わって間がありません」
「ちょっと厳しいな。断れ」
「了解」
変な話を聞いた。土星の輪で怪物に出会ったのだそうだ。輸送を公開しているのも少し変だ。なんでも他の傭兵に声を掛けまくっても、みんなから断われるのだそうだ。
「ふうん、怪物ねえ」
太陽系で異種生命体は見つかっていない。土星の輪ならあり得るか。しかし人間相手なら言葉も通じるが異種生命体ならどうだろう。
「アリスはどう思う?」
「異種生命体という線は捨て難いのですが、薬物中毒の線もありますね」
「薬物中毒?」
「おそらく、鉱物を掘り出して揮発する薬物にあたったのではないでしょうか。これだと、いないものが見えたり、仲間が化け物に見えたりします」
「ふむ。中毒ねえ」
「細菌に感染して姿形が変わる場合もありえます。この場合、迂闊に近づくと感染する事もあります」
「細菌感染か。地球であったな」
「ああ、300年前、火星の王朝の遺跡を盗掘したグランデサラム帝国の兵士が感染した事件ですね。あの時はプリサンド王国の渡航制限をしたり、グランデサラム帝国への渡航を止めたり、大変でした」
「昔だな」
「む、昔…」
アリスは口篭った。記憶はアリシアを元にしているからトラウマも共有しているのだろうか。
「まあ行く事もないだろう。土星に気をつけていればいい事だ」
航路上に変な宇宙船はない。
「警護終了しました。今日も宙賊はいなかったね」
無事イプシロン3は地球の宙港に到着した。アリス2は白の装甲をしているので、遠くからよく見える。宙賊は白い宇宙船がどれだけの火力を持っているか、操縦しているのが「更地のスミス」と理解しているのだろう、襲ってこない。
「ああ、お疲れ」
無線機から聞こえてくる宙航士の声に返事をする。これでこの警護も終わりだ。アリス3のいる木星の宙域に帰投する。
木星の宙域は次元エンジンの航路と近く便利な為、アリス3を置いておくのに都合が良い。アリス3のドックにアリス2を入れて、電子脳に整備をさせる。
「土星ベースから至急メールです。宛先、全傭兵。内容は土星の輪で相次いで宇宙船が遭難。宙賊の可能性があるので調査・討伐をお願いしたいです」
アリス3から至急メールが読み上げられた時、スミスはアリシアとアリス3の海岸でのんびりしていた。もちろん本物ではない。3次元で投影された映像だ。
「スミス、どうする?」
アリシアはその体型にスクール水着しか合わなかったので、しぶしぶ紺色の水着を着ている。胸元のネーム記入枠には、ひらがなで「ありしあ」とマジックで書いている。マニアが喜びそうな格好は、この姿になっても見分けがつくように、自分で書いたものだ。
「どうするって宙賊が関与していたら、傭兵として放置できないだろう」
「休暇中に失礼、宇宙船スチュワートから至急メールです。これ名称からして土星に行った傭兵ですね。スミス宛になっています。文面は、感染した。変異が始まる前に、更地のスミスの力で宇宙船を破壊してくれというものです」
「感染?」
「なんか発症すると感染を増やす為に、病原体が意識を乗っ取るみたいです。で変異をする。至急メールの発信元は、それがわかったのでしょう。自分もろとも破壊してくれとのことです。空気感染の厄介なやつのようです」
「あー、これはパンデミックだ。返信しろ。了解したと。アリス、爆弾226を宇宙船に撃ち込むぞ。ミサイルがあっただろう。あれを使う。傭兵の自己犠牲精神に応えるぞ」
「226?セットしているのは強力な2260よ。今から変えていたら間に合わないわ」
アリシアがびっくりしたように声を上げる。
「大丈夫だ。アリシアが大好きな更地の爆弾だ。そのままミサイルで発射する」
「別に私が好きなわけじゃない」
「ではアリス2を発進させます」
木星の近くから、次元エンジンの作動域まで移動する。
「計算よし。転移まで100カウント」
電子脳は、複雑な位置計算をこなし跳躍のカウントを始める。その間にミサイルの準備をする。
「飛びます」
窓から見える景色が歪む。
「宇宙船スチュワート、至急電を打ったのは、そちらか?こちらはアリス2、傭兵のスミスだ。応答されたい」
しかし返答はない。しかも全速で火星に向かっている。
「これは種族を広げる動きですね。火星は人間の生活域がシェルターになっています。ぶつかって、ひとつを破壊すれば空気感染でそこにいる生命に感染します」
「なるほど、宙港にやんわりと着陸する必要はないか。やはり撃破しかないか。傭兵の宇宙船スチュワート、こちらはアリス2。依頼により宇宙船を爆破する。聞いていたら応答されたい」
返答はなかった。緊急の周波数でも呼びかけるが返答はなかった。
「ミサイル発射用意。2260を使用するので発射したら後退」
「発射したら後退、了解」
「準備よし、宇宙船の胴体を狙います」
アリシアが躊躇なく照準をつける。多分発信の傭兵は意識を侵食されているのだろう。
「発射」
強力な後退が掛かった。ミサイルはウイルスに感染した宇宙船を捕らえた。青白い光が走る。宇宙船スチュワートを中心にした半径1km の火の玉ができる。
「傭兵に黙祷」
火の玉がなくなるまで黙祷をする。ウイルスに感染したまま人間の生活区域に戻れば大変な事態は避けられない。スミスは宇宙局に報告を送った。
「傭兵はクルバート、かなりの古参でした。ウイルスを体を張って防いだことを宇宙局は重く見ます。それからウイルスを撃退したスミスの功績も合わせて報告します。ありがとう。こちらは土星局」
クルバートか。自分がウイルスで変わりつつある中で、よくぞ爆死を選んだものだ。しかし更地のスミスという名も捨てたもんじゃないな。スミスは自分だったら爆死することを選ぶだろうかと思った。
護衛の仕事をしている時にアリスが言った。スミスは操縦席についている。
「なんだ?」
「土星の外周から地球まで鉱物を運ぶのを警備して欲しいそうです。なんでも価値のあるものだそうで」
まだ開発の手が伸びていない土星の輪の採掘らしい。
「輸送は1週間後、この仕事が終わって間がありません」
「ちょっと厳しいな。断れ」
「了解」
変な話を聞いた。土星の輪で怪物に出会ったのだそうだ。輸送を公開しているのも少し変だ。なんでも他の傭兵に声を掛けまくっても、みんなから断われるのだそうだ。
「ふうん、怪物ねえ」
太陽系で異種生命体は見つかっていない。土星の輪ならあり得るか。しかし人間相手なら言葉も通じるが異種生命体ならどうだろう。
「アリスはどう思う?」
「異種生命体という線は捨て難いのですが、薬物中毒の線もありますね」
「薬物中毒?」
「おそらく、鉱物を掘り出して揮発する薬物にあたったのではないでしょうか。これだと、いないものが見えたり、仲間が化け物に見えたりします」
「ふむ。中毒ねえ」
「細菌に感染して姿形が変わる場合もありえます。この場合、迂闊に近づくと感染する事もあります」
「細菌感染か。地球であったな」
「ああ、300年前、火星の王朝の遺跡を盗掘したグランデサラム帝国の兵士が感染した事件ですね。あの時はプリサンド王国の渡航制限をしたり、グランデサラム帝国への渡航を止めたり、大変でした」
「昔だな」
「む、昔…」
アリスは口篭った。記憶はアリシアを元にしているからトラウマも共有しているのだろうか。
「まあ行く事もないだろう。土星に気をつけていればいい事だ」
航路上に変な宇宙船はない。
「警護終了しました。今日も宙賊はいなかったね」
無事イプシロン3は地球の宙港に到着した。アリス2は白の装甲をしているので、遠くからよく見える。宙賊は白い宇宙船がどれだけの火力を持っているか、操縦しているのが「更地のスミス」と理解しているのだろう、襲ってこない。
「ああ、お疲れ」
無線機から聞こえてくる宙航士の声に返事をする。これでこの警護も終わりだ。アリス3のいる木星の宙域に帰投する。
木星の宙域は次元エンジンの航路と近く便利な為、アリス3を置いておくのに都合が良い。アリス3のドックにアリス2を入れて、電子脳に整備をさせる。
「土星ベースから至急メールです。宛先、全傭兵。内容は土星の輪で相次いで宇宙船が遭難。宙賊の可能性があるので調査・討伐をお願いしたいです」
アリス3から至急メールが読み上げられた時、スミスはアリシアとアリス3の海岸でのんびりしていた。もちろん本物ではない。3次元で投影された映像だ。
「スミス、どうする?」
アリシアはその体型にスクール水着しか合わなかったので、しぶしぶ紺色の水着を着ている。胸元のネーム記入枠には、ひらがなで「ありしあ」とマジックで書いている。マニアが喜びそうな格好は、この姿になっても見分けがつくように、自分で書いたものだ。
「どうするって宙賊が関与していたら、傭兵として放置できないだろう」
「休暇中に失礼、宇宙船スチュワートから至急メールです。これ名称からして土星に行った傭兵ですね。スミス宛になっています。文面は、感染した。変異が始まる前に、更地のスミスの力で宇宙船を破壊してくれというものです」
「感染?」
「なんか発症すると感染を増やす為に、病原体が意識を乗っ取るみたいです。で変異をする。至急メールの発信元は、それがわかったのでしょう。自分もろとも破壊してくれとのことです。空気感染の厄介なやつのようです」
「あー、これはパンデミックだ。返信しろ。了解したと。アリス、爆弾226を宇宙船に撃ち込むぞ。ミサイルがあっただろう。あれを使う。傭兵の自己犠牲精神に応えるぞ」
「226?セットしているのは強力な2260よ。今から変えていたら間に合わないわ」
アリシアがびっくりしたように声を上げる。
「大丈夫だ。アリシアが大好きな更地の爆弾だ。そのままミサイルで発射する」
「別に私が好きなわけじゃない」
「ではアリス2を発進させます」
木星の近くから、次元エンジンの作動域まで移動する。
「計算よし。転移まで100カウント」
電子脳は、複雑な位置計算をこなし跳躍のカウントを始める。その間にミサイルの準備をする。
「飛びます」
窓から見える景色が歪む。
「宇宙船スチュワート、至急電を打ったのは、そちらか?こちらはアリス2、傭兵のスミスだ。応答されたい」
しかし返答はない。しかも全速で火星に向かっている。
「これは種族を広げる動きですね。火星は人間の生活域がシェルターになっています。ぶつかって、ひとつを破壊すれば空気感染でそこにいる生命に感染します」
「なるほど、宙港にやんわりと着陸する必要はないか。やはり撃破しかないか。傭兵の宇宙船スチュワート、こちらはアリス2。依頼により宇宙船を爆破する。聞いていたら応答されたい」
返答はなかった。緊急の周波数でも呼びかけるが返答はなかった。
「ミサイル発射用意。2260を使用するので発射したら後退」
「発射したら後退、了解」
「準備よし、宇宙船の胴体を狙います」
アリシアが躊躇なく照準をつける。多分発信の傭兵は意識を侵食されているのだろう。
「発射」
強力な後退が掛かった。ミサイルはウイルスに感染した宇宙船を捕らえた。青白い光が走る。宇宙船スチュワートを中心にした半径1km の火の玉ができる。
「傭兵に黙祷」
火の玉がなくなるまで黙祷をする。ウイルスに感染したまま人間の生活区域に戻れば大変な事態は避けられない。スミスは宇宙局に報告を送った。
「傭兵はクルバート、かなりの古参でした。ウイルスを体を張って防いだことを宇宙局は重く見ます。それからウイルスを撃退したスミスの功績も合わせて報告します。ありがとう。こちらは土星局」
クルバートか。自分がウイルスで変わりつつある中で、よくぞ爆死を選んだものだ。しかし更地のスミスという名も捨てたもんじゃないな。スミスは自分だったら爆死することを選ぶだろうかと思った。
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