一番悪いのは誰

jun

文字の大きさ
上 下
8 / 36

王妃の拳

しおりを挟む


「あら、珍しい組み合わせね。どうしたの、フェデリカ、ファビオ。
フェデリカは謹慎中ではなくて?」

「お母様に至急ご報告したい事がございます。先ずはこれを。
こちらは隣国の聖女様のご令孫様が刺繍なさったハンカチでございます。
お守りとしてどうぞお使い下さい。
侍女のスーザンにもございます。」

「まあ!聖女様の⁉︎素敵な刺繍ね。」
と王妃様はハンカチを手に取ると、

「・・・・・・・・あら…」

「お母様?何か変わりましたか?」

「フェデリカ⁉︎これは何⁉︎あーなんて事なの・・・私はなんて事を…」

「お母様、正気になられましたか?」

「ええ、ええ、頭の靄が晴れました。あの子とお茶を飲んだ日からずっと遠くから自分を見ていた感じなのよ。
自分なのに思ってもいない事を口にしているの…。それにあの子はドナルドにまで・・・それを私は・・・笑って許していたのよ・・。」

「お母様、リンカ様とお父様は肉体関係があると思ってよろしいのですか?」

「ええ、夜になるとこっそりドナルドの自室に来るのよ…それを私は許していたの・・・なんて事を…息子の嫁なのに…」

「お母様、お父様にこのハンカチをお渡し下さい。まだ間に合います。
どうかお母様のお力でお父様をお救い下さい。」

「・・・泣いていては駄目ね、さあ、フェデリカ、何があったのか説明なさい。」

フェデリカ様が妃殿下と初めて会った時の不快感から先程の陛下の愚行までを説明した。
長い、長い時間だった。

黙って最後まで聞いた王妃バーバラ様は、

「フェデリカ、今までたった一人でよく耐えました。
ごめんなさいね、これからは私がいます。
安心なさい。
でも、どうして貴方はこの魅了に耐えられたの?」

「たまたまファビオの奥様になられたローラ様にハンカチを頂いた事があったのです。
リンカ様に会ったばかりのお茶会でリンカ様に態と、当時5歳の私に7歳のリンカ様はお茶をかけたのです。
その時、ローラ様がハンカチで私のドレスを拭いてくれたのです。
そのハンカチの刺繍がとても美しくてそのことを伝えたら新しいハンカチを下さったのです。
とてもお優しいローラ様を私は忘れた事はありません。
ローラ様はお祖母様に頂いたのだと言っておられました。当時の私は聖女様の存在を知りませんでしたが、とても大事にそのハンカチを持っていたのです。
後にローラ様のお祖母様が聖女様だと知りました。
それから私はそのハンカチをお守りとして大事にしてきました。
ローラ様にお会いしていなかったら今、私はこうしてはおりませんでした。」

「そう、そんな事が…。
そのローラ様はファビオの奥様なのね。
新婚なのにローラ様に寂しい思いをさせてしまっているのね…ごめんなさいね、ファビオ。

こんな事さっさと終わらせます!

先ずは反撃する為に邪魔なドナルドを排除するわ!
今のままでは何をされるか分からないもの!
さあ、皆んな行くわよ!」

今度はバーバラ様を先頭に陛下の元へ向かった。


入り口の護衛が止めるのも聞かず、
バ──────ン!とノックもせず、陛下の執務室のドアを開けると、

「ドナルド───!」と言ってハンカチを顔にバチンと押し付けた。

「バーバラ、何をする⁉︎」

「ファビオ!」の呼びかけに自分が持っているハンカチも押し付けた。
フェデリカ様も。

暴れていた陛下が動かなくなった。

椅子に座ったまま俺達にハンカチを押しつけられたまま、静かに嗚咽を漏らした。

三人はハンカチを外すと、
「あんな事したくなかった・・・あんな女となどやりたくなどなかった・・・イヴァンを殴りたくなどなかった・・・でも抗えなかった…。
済まない…バーバラ…お前の目の前で私は…」

「やってしまった事はもうどうしようもないわ、ドナルド。
今はリンカをなんとかしないと!その為にここに来たのだから。」

そして、フェデリカ様がまた説明し、俺も途中で媚薬の件と先程のイヴァン様の言葉を話した。

「ハア────本当に情けない。恐らく早い段階で我らはリンカにしてやられておったのだな…。
バーバラを裏切り、息子を殴り、娘の話しを聞きもしない…聞けば聞くほど酷い有様の己が許せない・・・。
誰かイヴァンを呼んできて欲しい。

イヴァンに合わせる顔もないが、父として息子に謝りたい。」

フェデリカ様と俺がイヴァン様を呼び行こうとすると、

「私が行くわ。フェデリカとファビオが二人でいるのは余り良くないわ。
ファビオは私に付いてきてくれる?」

「御意」

バーバラ様の少し後ろを歩いていると、

「ファビオ、貴方はリンカの魅了には一度もかからなかったのよね?」

「はい。私は会った瞬間苦手だと思いましたから。恐らくローラのハンカチを持っていたからだと思います。」

「奥様とはいつからのお付き合いなの?」

「幼馴染みなのです。ですから子供の時からの付き合いになります。」

「まあ!初恋の方と結婚したのね!素敵ねぇ~。私とドナルドは子供の時に婚約したけれど、熱烈な恋愛で結婚したわけではなかったから、隙があったのかしらね…。
ローラ様を大事にしてね。」

「はい。私はローラを愛しておりますから。」

「フフ、早くこんな事終わらせてローラ様の所へ帰ってあげてね。」

「はい、正直早く帰りたいです・・・」

「私も頑張るから、ファビオももう少し手伝ってね!」

「はい!」

こんなに王妃様と話した事はなかった。
イヴァン様もフェデリカ様も聡明で優秀な方々だ。ジーノ様とはまだあまり関わってはいないが、きっとお二人と同じで優秀なのだろうな。
あんなハンカチさえ・・・・・・

「あ!」

「キャッ⁉︎何、ファビオ⁉︎」

「ハンカチです!陛下のハンカチ、取りました?」

「あ!」

二人で人目も気にせず走って陛下の執務室へ戻り、陛下から妃殿下から貰ったハンカチを回収し、ついでにバーバラ様が持っていたハンカチも回収した。

「「「「ハア─────」」」」

「危なかったわ、またドナルドがおかしくなるところだったわ。」

「お前達が駆け込んできた時は心臓が止まるかと思ったぞ!」

「そうですわ、まさかお母様が走ってくるなんて…。」

ハハハと笑って誤魔化し、再び王妃様とイヴァン様を呼びに行き、執務室で頬を腫らした息子を見た王妃様が激怒して、イヴァン様を連れて再び走って戻ると、思いっきり陛下に拳で頬を殴った。

「貴方は!貴方は、息子を拳で殴ったのですね!これはイヴァンの分です!
こんなに王太子の顔を腫らすなど、私は許しませんよ!」
と肩で息をしながらも綺麗なパンチを繰り出した王妃は、とてもカッコよかった。















しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

うーん、別に……

柑橘 橙
恋愛
「婚約者はお忙しいのですね、今日もお一人ですか?」  と、言われても。  「忙しい」「後にしてくれ」って言うのは、むこうなんだけど……  あれ?婚約者、要る?  とりあえず、長編にしてみました。  結末にもやっとされたら、申し訳ありません。  お読みくださっている皆様、ありがとうございます。 誤字を訂正しました。 現在、番外編を掲載しています。 仲良くとのメッセージが多かったので、まずはこのようにしてみました。 後々第二王子が苦労する話も書いてみたいと思います。 ☆☆辺境合宿編をはじめました。  ゆっくりゆっくり更新になると思いますが、お読みくださると、嬉しいです。  辺境合宿編は、王子視点が増える予定です。イラっとされたら、申し訳ありません。 ☆☆☆誤字脱字をおしえてくださる方、ありがとうございます! ☆☆☆☆感想をくださってありがとうございます。公開したくない感想は、承認不要とお書きください。  よろしくお願いいたします。

2番目の1番【完】

綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。 騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。 それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。 王女様には私は勝てない。 結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。 ※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです 自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。 批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…

寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。 ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。 シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。 言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。 ※設定はゆるいです。 ※溺愛タグ追加しました。

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……

希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。 幼馴染に婚約者を奪われたのだ。 レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。 「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」 「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」 誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。 けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。 レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。 心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。 強く気高く冷酷に。 裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。 ☆完結しました。ありがとうございました!☆ (ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在)) (ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9)) (ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在)) (ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))

結婚なんてしなければよかった。

haruno
恋愛
夫が選んだのは私ではない女性。 蔑ろにされたことを抗議するも、夫から返ってきたのは冷たい言葉。 結婚なんてしなければよかった。

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

完結 この手からこぼれ落ちるもの   

ポチ
恋愛
やっと、本当のことが言えるよ。。。 長かった。。 君は、この家の第一夫人として 最高の女性だよ 全て君に任せるよ 僕は、ベリンダの事で忙しいからね? 全て君の思う通りやってくれれば良いからね?頼んだよ 僕が君に触れる事は無いけれど この家の跡継ぎは、心配要らないよ? 君の父上の姪であるベリンダが 産んでくれるから 心配しないでね そう、優しく微笑んだオリバー様 今まで優しかったのは?

政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。

処理中です...