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第一部 無駄な魔力と使い捨て魔法使い
「何でもしますから!」
しおりを挟む「わかり、ました」
そんな覚悟を込めて、ロットは答えた。
覚悟を決めたロットを遮るように村長が割って入る。
「待ってくだされ。それは死ぬつもりで頑張るだけで本当に死ぬわけではないんでしょうな?」
村長はとても慌てていた。
勇者の冗談めかして言うその言葉が、本当にロットの命を奪ってしまいそうな気がしたからだ。
目の奥が笑っていないという表現が適切だろう。
冷たささえ感じる柔らかい笑みは村長の嫌な予感を刺激するには十分だった。
そしてそれはロット自身も感じていたことで、たとえ言葉通り自分の命を奪われたとしても妹が助かるならいいという思いも嘘ではなかった。
だからこそ黙って勇者を見ていた。
「ふふ、ロットは覚悟があるみたいだよ。
村長、僕はこんな嘘をつかない、それはよく知っているよね。
ロットはこれから命をかけて妹ちゃんを救うんだ。
邪魔するなら村長でも許せないよ?」
そこまで言うと村長から目線を外しロットにやり方を伝えるために近寄った。
村長はその迫力に、その言葉にそれ以上の意見はできず、孫のように成長を見守っていたロットが死ぬかもしれないという現実に力なくへたり込んだ。
ロットは村長のそんな姿にいたたまれない気持ちになるものの、それでも決意は揺るがない。
「ロット、今から言うことを守るんだ。そうすれば妹ちゃんを助けられる。……まあ君が死ぬ可能性はあるけどね」
「はい、大丈夫です」
「いい返事だ。いいかい、君が行うのは魔力の贈与だ」
贈与?と首を傾げるロットに続けて説明する。
「贈与というのは文字通り、君の魔力を妹ちゃんに送る。
そうすることでこの子の中に巣食う魔力種の栄養となる。
魔力種はある程度魔力を吸い取ると落ち着くからね」
ソイルの誕生日の節目、体調を崩すことが多かったが、誕生日を終えた数週間は体調の良い日が続いていた。
そして波があり、体調のいい日や悪い日が満ち引きのようにぶれていたことをロットは思い出した。
なるほど、妹が食われてしまう代わりに自分自身を食わせればいいのか。
そして死ぬかもしれないのは、この魔力種の吸い取る量が大きく、勇者である目の前の男でさえ疲れるからと躊躇するほどなのだ。
ただの村人である自分自身ににソイルの代わりに魔力与えて生き延びる可能性は低いということなのだろう。
そう考えたロットは、それでも妹を死なせるよりマシだと判断し、結んだ口元をより固め、ゴクリとつばを飲み込んだ。
「それで、どうやって送ることができるんですか?」
なにか特別な魔道具でも使うのか、はたまた勇者様ならではの手法があるのだろうか、そうロットは身構える。
「なに、簡単さ。手をしっかり握って、頑張れ、生きろ、ソイル頑張れって励まし続ければいいよ」
それだけ?
そんな表情をロットはしていた。
脅すように死をちらつかせて来たのは覚悟を見るためで、やはり勇者というだけあって助けてくれるのだろうか。
そんな甘い考えは村長も抱いており、口に出した。
「おぉさすが勇者様じゃな」
先ほどとはうって変わりシワの寄った顔を嬉しそうに歪ませている。
「なにか勘違いしてるみたいだけど僕は助けないよ。
ロット、君は今までもそうやって妹ちゃんが倒れたときは励ましたんじゃないかい?」
言われてみて考える。
ロットは確かに、妹が辛そうになればなるほどそばに行き、手を握り、たくさんの声をかけていた。
そして夜が明けて朝を迎える頃には妹は寝静まり、自分自身は疲れからドロのように眠っていたのだ。
夜通しの看病疲れと思っていたが、どうやらそうすることで魔力を贈与することができたらしかった。
そう理解したロットは勇者の言葉を待った。
「そうやって思いをのせて相手に触れることで魔力はわずかにだけど相手に伝わるんだ。
今まではそれでなんとかなってきたかもしれないけど、今回のこの子の様子を見る限り、魔力消費はかなりの量を予想される。
だから僕が受け渡しをしてロットの魔力が無駄なく妹ちゃんに伝えられるように手伝うんだよ」
ま、それでも魔力の消費は激しいし恐らく普通の人なら死ぬ量は確実に取られるけどね。
と付け足す。
つまり今までは妹という容器に魔力を注ぐとき、自分の容器から手で掻き出して溢しながら入れていたのを、勇者という管で俺とソイルを繋いでくれるということか。
そう納得の行ったロットは早速ソイルの手を握る。
その手は弱々しく小さい。
きっとこのままでは消えてなくなってしまうだろう、そんな予感を感じさせるほどか弱い手。
やはり死が迫っているかもしれないということが実感してくると手が震えるのがわかった。
しかしそれは自身の死ではなく、妹の死を予感してのことだった。
なんとしても助ける。
そんな決意のもと必死に妹に声をかけ始めた。
後ろでは勇者がそんなロットの肩に触れ、ソイルの肩にも手をおいた。
少し前にソイルにやったように淡い光がロットとソイルの肩で漏れ出だす。
ロットは自身の魔力が流れてソイルに移っていくその感覚を今までで一番はっきりと感じていた。
そして励ましの言葉が始まる。
「頑張れ、生きろ!お兄ちゃんが絶対助けてやるからな。誕生日終わったら美味しいもの食べような!お出かけもしような!」
そんな励ましの声はロットが死んでしまうかもしれないという切ない思いを抱いた村長が見守る中、嵐が静まり朝日が差し込むまで行われた。
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