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第四章 スクーデリア争乱

シンディの指令

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 四、五人単位でパーティを組み、それぞれのパーティが一対一で行う模擬戦。以前チューヤ達がデヴィッド教官と戦った訓練場だ。

「ねえ、チューヤ」
「ああ、随分と腕を上げたな、あいつら」

 魔法攻撃をする者を守りつつ、前衛が火花を散らす。その前衛を躱しつつ、遊撃のアタッカーが魔法使いを潰しにかかるが、防御用の魔法でアタッカーの接近を許さない。そんな一進一退の攻防が繰り広げられていた。

「魔法使いだけが集まって訓練していた時には分からなかった。前線で身体を張っている者がいるからこそ魔法使いが活きる事を」
「そうよね。チューヤとマリが一緒にいる事で、随分と戦いやすくなってビックリしたもの」

 カールとスージィが昔を懐かしむように言う。

「まあ、ボク達落ちこぼれクラスは、そういう役割分担は早めに師匠から教わってたからね。でも遠距離攻撃出来る人ってあんまりいないから、魔法使いがいるとホントに助かるよ」
「つまり、どっちが欠けてもよろしくねえって事だ。確かに魔法は強力だが、それを鼻にかけるお偉方がバカなんだ」

 それに答えるマリアンヌとチューヤも訓練場から目を離さずにいる。
 二つのパーティの戦いは、徐々に戦況が傾いていた。それは魔法使いの差だ。片や大きな魔法で決めようとする者と、威力はそこそこだが手数で相手を崩して行く者と。
 手数で相手を崩している方は少しずつ相手にダメージを与えているが、大きな魔法を狙っている者は、幾度も邪魔されて発動出来ずにいる。当然、優勢なのは手数で勝っている方だ。

「カール、どう見る?」
「今劣勢の方が逆転するだろう」
「へえ、どうしてそう思うの?」

 スージィがカールに今後の展開予想を聞いてみると、彼女にとっては予想外の答えが返ってきたようで、その根拠を訊ねた。

「魔法使いはその火力で相手を倒すのがオーソドックスな使い方だ。小威力で速射性の高い魔法で相手を削るのも悪くはないが、その実相手の策略に乗せられている可能性もある」
「なるほど……」

 結局その模擬戦はカールの見立て通りとなった。小刻みに魔法を繰り出していたパーティは結局相手を仕留めきれず、そのまま攻撃を凌ぎ切った魔法使いが大きな魔法を放って勝負あり、だ。

「魔法使いを主役に立てたパーティが勝ち、主役不在のパーティが負け、か」
「なかなか興味深い模擬戦だったね」

 チューヤとマリアンヌがそんな感想を漏らしたところで、後ろから声が掛かった。

「パーティ戦闘において魔法使いの正しい使い方をした方が勝ったってところだな」
「「「「師匠!」」」」
「まあ、その『正しい』ってのも軍における魔法使いの運用の事であって、お前らには全然当てはまらないんだけどな!」

 四人の背後で笑みを浮かべて立っていたシンディがそう言うと、四人は黙ってそれに頷く。

「学校長の許可が下りた。お前達四人には今日から十日間、臨時で教師をしてもらう」
「はぁ!?」
「ギルドへの依頼なら文句はねえだろ? 学校から報酬は支払われるし、ジル先輩にも話は通してあるから。それじゃあがんばれよ! ああ、王都にいる間はアタシの家を使って構わない」

 なかなか突拍子もないシンディの指示だが、彼女がこう言ったからにはそれはもう覆らないだろう。その点については四人の諦めは早かった。

「師匠はどうするんすか?」
「ああ、アタシはちょっと裏でいろいろやる事があってね。アタシの留守の間、可愛い生徒達をきっちり鍛えてくれよ?」
「はあ……」
「ほら、早速行って来い!」

 なんだか気の乗らなそうなチューヤの背中を押し出すようにすると、そのままシンディは背を向けて去っていった。

「しゃーねえな、行くか」

 チューヤがそう呟くと、四人はゾロゾロと訓練場へ向かって行く。
 四人共、内心は複雑だ。いきなり元同級生が現れ、今からお前達の指導するからちゃんと言う事を聞けよ、なんて言っても素直に受け入れてくれる訳がない。少なくとも自分ならいい気分はしないと考える。

「よっ、みんなご苦労さん」

 そうは言っても自分達の師匠が考えなしにそんな指示を出す訳がない。仕方なしにチューヤが愛想笑いをしながら訓練中の生徒達に声を掛けた。

「お? チューヤじゃん!」
「きゃー! カール君だわ!」
「マリ! 久しぶり!」
「スージィだぜ! 相変わらずおっぱ――ゴフッ!?」

 訓練の手を止めて四人を囲むように元級友達が集まって来る。中には不穏な発言で悶絶させられた者もいるが。

「あー、実はな、シンディ師匠の言い付けで、少しの間お前らの指導をする事になったんだ」

 頭を掻きながら、申し訳なさそうにチューヤが切り出すと、一瞬その場が静寂に包まれた。

「うおお! マジかよ!」
「ありがてえ! きっちり教わってお前らの技盗んでやるぜ!」

 直後、歓声があがる。

(あれ? 意外にも大歓迎?)

 予想外の成り行きに、キョトンとするチューヤだった。

 
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