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二章 立志

分かり合えた? ちげえよ

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 水と油の二人が折り合った。
 天変地異の前触れか。マリアンヌとスージィの脳裏にはそんな不安がよぎる。

「ね、ねえ……チューヤもカールも、大丈夫? 頭とか打ってない?」

 心配そうにそう声を掛けるマリアンヌに、チューヤとカールは同時に顔を顰め、彼女に向き直った。

「失礼なヤツだな!」
「失礼な事を言うな。私はまともだ」

 口調こそ違えど、同じような内容をほぼ同時に口にした二人の声がユニゾンする。
 それを聞いていたジルがクスリと笑いを零した。

「いや、済まなない。君達は似た者同士なのだね」

 苦笑しながらのジルの声に、二人は露骨にイヤな顔をしながら互いにソッポを向く。
 ジルとて分かってはいる。この二人は分かり合ったのではない。自分達はどこまでいっても決して交わる事のない平行線だ。その事をお互いに理解し、その一点だけ折り合った。それだけの事だ。
 だが、自分の強固な信念を貫く。例え共にくつわを並べて戦う事があっても、慣れ合う事はしない。本当に似ているじゃないか。そう思って苦笑するジルだった。

▼△▼

 生き残りの騎士一人、そして盗賊の少女一人が一行に追加され、馬車の中は少々窮屈だ。この二人はロープで拘束されている。その状態でジルのキャラバンは森から街道へ出て、次の目的地である宿場町へと向かう。
 馬車の中では二人の捕虜に対して護衛の二人が尋問に当たっている。
 騎士達はデヴィッドの命で動き、その騎士達が賊を雇い、賊諸共消し去る腹積もりだった。
 しかし、全く戦力を見誤っている。
 デヴィッドとて、模擬戦で自分が殺されかけた相手だ。どれだけの全力を差し向ければよいのか想像がつきそうなものだが。
 
「それはデヴィッド様も分かっていた。だからこそ賊を雇い、疲弊したところを我等が襲う予定だったのだ」

 そんな思惑も、ジルやチューヤ達の戦闘力が想定の遥か上だったため、盗賊は時間稼ぎにすらならず、騎士達も蹂躙されてしまった。
 確かに、護衛の一人で騎兵のリンダが先触れの為に次の宿場町へと先行し、戦力が減少したところで仕掛けた盗賊の判断は間違ってはいないだろう。

「フッ……魔法戦士養成学校を途中で逃げ出した子供が四人増えたところで、大した事はないと高を括っていたかい?」

 騎士の供述を聞いていたジルが、半笑いでそう語る。そして続けた。

「確かにこの子達は養成学校をドロップアウトせざるを得なかった、道を外した者達アストレイズかも知れない。でもね、まともに課程を修了していたら、みんな軍のドラフト1位候補だよ」
「……」

 実際に彼等の力を目の当たりにした騎士は、ジルの言葉を全面的に認める事しか出来なかった。悔し気に俯いたまま無言になる。
 これ以上、この騎士から得られる情報はないと判断した護衛達は、続いて少女の方の尋問に移った。
 手荒い真似はしていないとは言え、圧倒的な力を持つ面々と同じ馬車の中に突っ込まれ、しかも縛られているともなれば、その表情は怯えと諦めが同居していた。
 
「なるほど。ジル様、こいつは被害者と言っていいでしょうな」
「そうですね。直接戦闘に参加していた訳でもねえし、そもそも武芸はからっきしだって話です」

 この少女には虚言で切り抜けるなどという余裕はなく、実際ありのままを話していた。それは尋問していた護衛達に、それを見ていたジルにも伝わっていた。

「ふむ。やはり君は私の商会で預かろう」

 そんなジルの言葉に、チューヤ達四人の視線が少女に向く。心配するような、そんな視線だ。

「ん? どうしたんだ? そんなに心配しなくても、私がしっかりと更生させてやるぞ?」

 四人の視線に気付いたジルがそう言うが、彼等が少女に浴びせる視線は心配から気の毒なものを見るものへと変わった。時折見せる、ジルの常軌を逸した愛情表現を見れば無理もない事だが。
 しかしそれでも、この少女に選択権はない。従わされていたとは言え、賊の構成員として襲撃に参加していたのだ。ジルに縋らなければ罪人として処理される将来しかない。

「よろしく……お願いします」

 不安と不安と不安をその瞳に湛えながら、少女はジルに頭を下げた。
 ジルはそれを見て満足気に頷く。
 そうこうしているうちに、キャラバンは宿場町へと到着した。
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