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二章 立志

さあ、どうしよ?

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 カールは氷結の魔法を解除すると、バランスを失ったバーサク・ファングが左右に分かたれ、重厚な地響音を立てながら倒れた。
 流れ出る血液はカールの魔法により凍らされ、新鮮な状態のまま保存される。

「ちっ……便利な野郎だぜ」

 自分には到底無理な芸当を易々とやってのけるカールを見て、チューヤが面白くなさそうに吐き捨てた。
 そしてそこにスージィとマリアンヌも駆け付けて来た。

「カール! 凄い!」

 若干興奮した様子でマリアンヌがそう言えば、スージィは若干の悔しさを滲ませながらも称賛の言葉を贈る。

「もう、随分先に行かれちゃった感じ! でも、追い付いてみせるからね!」

 そう宣うスージィに、他の三人から憐れみの籠った視線が浴びせられた。

「な、なによ……?」

 三人に言わせれば、スージィはスパルタなんて言う事も生温い程のシンディの特訓を受けていない。そんな彼女が簡単に追い付くなどという発言をしてしまう事が憐れでならなかった。
 
「おめえ、俺達は普通の訓練でここまで強くなったとでも思ってんのか?」
「え?」

 チューヤの一言に不思議そうに返すスージィだが、カールもマリアンヌもチューヤに同意して頷いている。何よりあのカールですらチューヤに同意している事が尋常な事態ではない。
 スージィの額から冷や汗が滴り落ちる。

「そんなに……?」

 恐る恐るそう訊ねるスージィが見た反応は、三人共ハイライトが消えた瞳で遠くを見るという光景だった。

 


 ともあれ、四人はファングとハウンドの死骸を集め、皮を剥いだ。変異種の毛皮は丈夫な為、衣類や防具の素材として喜ばれる。しかし、ハウンドは残念ながら価値があるのは毛皮だけ。皮を剥ぎ終わった残りの部位はスージィの魔法で深い穴を掘り、埋めてしまう。
 
「さて、コイツどうするよ?」

 残るは大型の変異種であるバーサク・ファングの死骸。一応、カールの魔法で冷凍されている状態だが、果たして価値があるのが毛皮だけなのか判断がつかない。
 そこでマリアンヌが提案してきた。

「チューヤが街道まで持って行けばいいんじゃない? ボクも手伝うからさ!」

 綺麗に二等分にされたと言え、バーサク・ファングの体躯は巨大だ。身体強化無しでは一人の人間が運べる重量ではない。現状、それが可能なレベルで身体強化出来るのはチューヤとマリアンヌだ。
 街道まで出てしまえば、通り縋りの人に訊ねる事も出来るし、運よく商人が通りかかればそのまま買い取ってくれるかも知れない。
 四人には妙案に思えた。
 この時点では。
 
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