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二章 立志
猛攻
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土のバリケードを完成させたスージィが前方に注意を向ければ、マリアンヌが鮮やかなステップでハウンドの噛みつき攻撃を躱し、カウンターで喉笛を切り裂いていた。
派手に返り血を浴びているが、ゴーグルのレンズ部分は不思議と血飛沫を浴びていない。
使っている本人にもどういう理屈でそうなるのか分からないが、シンディから貰ったゴーグルには色々と秘密があるらしい。
一つ、色付きのレンズ部分はマリアンヌが魔眼持ちである事を周囲に悟らせないため、ダークな色合いになっている。例え魔眼・白を発動させた状態だろうと外部からでは判別できない。
そしてもう一つは視界を塞ぐ事がないように、レンズに何らかの付与魔法が施されている事。とにかく、どんな事象が起ころうと視界はクリアに保たれる。
まさに如何なる環境下でもマリアンヌの魔眼がフルに活かされる逸品と言える。
同性であるスージィが思わず見惚れる程の、マリアンヌの華麗なヒット&アウェイ。しかも複数を相手に全くの無傷。
この魔眼を敵に回せばどれほど恐ろしいか、スージィは身に染みて分かっている。それ故、マリアンヌが魔眼持ちである事を悟られないようにするためのゴーグルなのであろう。
(なんか悔しいけど! 今は私の出来る事を!)
スージィは今にもこちらに向かって来ようとする三匹のハウンドの手前に、魔法陣を構築して土で覆い隠した。
土で覆い隠された事で魔法陣の存在に気付かないハウンド達は、そのまま真っ直ぐ接近してくる。彼等の標的はスージィの前で二匹を相手取っているマリアンヌだ。
しかしマリアンヌの魔眼・白は隠した魔法陣までも認識している。彼女はチラリとスージィへアイコンタクトを取ると、僅かに口角を上げてニヤリと笑みを浮かべた。
スージィもそれに笑みで返す。そして。
「突き上げよ岩槍!」
魔法陣を埋め込んだトラップエリアにハウンドが侵入した瞬間、手にした捻じれた木の杖を振り上げた。
――ドツドツドツ!
鋭い岩槍が肉を貫く鈍い音が三度。そして貫かれたハウンドが三匹がそのまま岩槍にぶら下がる。
まるで、これ以上近付くならば、貴様達もこうなる運命だという警告のように。
同時に、マリアンヌが近くにいる最後の一匹の横っ面に、後ろ回し蹴りを食らわせる。
――ギャワン!
派手に吹き飛ばされたハウンドが、体勢を立て直して唸り声をあげ牙を剥く。そしてマリアンヌに向けて飛び掛かろうとした瞬間、ハウンドの眉間から派手に血が噴き出した。
マリアンヌが振り返ると、石礫の魔法を放ったスージィが得意気に笑みを浮かべていた。
△▼△
「はっはー! どんどん来い! どんどん!」
マリアンヌの指示で、藪に隠れているハウンド達に向かったチューヤは、小細工無用とばかりに正面から斬って捨てていた。
「師匠の剣、すっげえ斬れるぜ! ヒャッハー!」
藪に潜んでいたハウンド達を一瞬で血祭りにあげると、野生的な気配察知能力を発揮して次の獲物へと疾走を開始する。言わずと知れた、群れのもボス、バーサク・ファングだ。
ファングの周辺には、親衛隊とでも言うべき精鋭達が十匹ほど控えており、その内の四匹がチューヤの足を止めるべく襲い掛かってくる。
「雑魚はすっこんでろぃ!」
身体強化を掛けた状態の疾走から、更にもう一段ギアを上げた。突然のスピードアップにハウンドは間合いを見誤る。
気付いた時には既に、チューヤは自らの横を駆け抜けていた。
チューヤが二頭の間を駆け抜けると同時に、剣を左右に一閃、二閃。二本の銀色の煌めきが糸を引いたように奔る。そしてその銀の糸から血飛沫が噴き出した時、二匹のハウンドは声を上げる間もなく両断されていた。
血飛沫を浴びる前にその場を駆け抜けていたチューヤは汚れる事なく、向かってきた一匹に勢いそのまま飛び蹴りをくらわす。
チューヤの身体強化の能力が上がっているのか、はたまた纏魔を発動させていたのか、蹴り飛ばされた一匹は爆散し肉片となる。
「コラー! バカチューヤー! ミンチにしちゃったら売れないじゃないかー!」
「うっ……」
その様子を魔眼・白で見ていたマリアンヌからクレームが飛んできた。
今回の目的は、あくまでも路銀を稼ぐためのものである。変異種の毛皮や牙や骨、肉や内蔵など、種族にもよるが商人に売却する事でそれなりに金になる。それを爆散させてしまっては意味がない。
「なっ!?」
気を取り直したチューヤがもう一匹を仕留めんと、両手で剣を構えるが、そのターゲットの一匹が氷の矢に貫かれて絶命した。
△▼△
「全く……奴に任せておいては売るものがなくなってしまう」
先程チューヤの獲物を横から掻っ攫ったのはカールの魔法攻撃だ。アイスニードル。威力の割には燃費がよく、速射性も高い為、好んで使う技の一つだ。
そしてシンディからの餞別であるエストック。今まで使っていたワンドと比べて格段に魔力を効率よく使える。その上接近戦ではそのまま剣と使えるため、カールはこのエストックをメインウェポンとして使っていた。ただ、エストックは刺突用の細身の剣であり、然程耐久性は高くない。故に従来使っていたエストックも所持しており、左右に二本のエストックを佩いているという風変わりな感じになっている。
(高性能な魔法発動媒体を使うと、こうまで負担が違うものなのか……)
今までのワンドと比べて格段に早く強い魔法を放てる事に加え、負担も少ない。カールは次々と魔法陣を構築していき、アイスニードルを撃ち込んでいる。
まるでエストックの切っ先で絵画でも描くが如く、水色に輝く魔法陣が出来上がっていく様は芸術的ですらあり、スージィもマリアンヌも一瞬見とれた程だ。
新しい得物を手に入れたカールの殲滅スピードは凄まじく、ハウンド達は全く近寄る事すら許されずに氷の矢に貫かれていく。そして、息絶えていくハウンドの遺体の損傷も少ないのが特徴だ。
(あーあ、これはまた、チューヤと喧嘩になりそうだなぁ)
派手に敵を破壊していくチューヤと、派手さはないが確実に命だけを刈り取っていくカール。正反対なのに根底が似ている二人が衝突する未来を幻視したマリアンヌは、小さくため息を吐いた。
派手に返り血を浴びているが、ゴーグルのレンズ部分は不思議と血飛沫を浴びていない。
使っている本人にもどういう理屈でそうなるのか分からないが、シンディから貰ったゴーグルには色々と秘密があるらしい。
一つ、色付きのレンズ部分はマリアンヌが魔眼持ちである事を周囲に悟らせないため、ダークな色合いになっている。例え魔眼・白を発動させた状態だろうと外部からでは判別できない。
そしてもう一つは視界を塞ぐ事がないように、レンズに何らかの付与魔法が施されている事。とにかく、どんな事象が起ころうと視界はクリアに保たれる。
まさに如何なる環境下でもマリアンヌの魔眼がフルに活かされる逸品と言える。
同性であるスージィが思わず見惚れる程の、マリアンヌの華麗なヒット&アウェイ。しかも複数を相手に全くの無傷。
この魔眼を敵に回せばどれほど恐ろしいか、スージィは身に染みて分かっている。それ故、マリアンヌが魔眼持ちである事を悟られないようにするためのゴーグルなのであろう。
(なんか悔しいけど! 今は私の出来る事を!)
スージィは今にもこちらに向かって来ようとする三匹のハウンドの手前に、魔法陣を構築して土で覆い隠した。
土で覆い隠された事で魔法陣の存在に気付かないハウンド達は、そのまま真っ直ぐ接近してくる。彼等の標的はスージィの前で二匹を相手取っているマリアンヌだ。
しかしマリアンヌの魔眼・白は隠した魔法陣までも認識している。彼女はチラリとスージィへアイコンタクトを取ると、僅かに口角を上げてニヤリと笑みを浮かべた。
スージィもそれに笑みで返す。そして。
「突き上げよ岩槍!」
魔法陣を埋め込んだトラップエリアにハウンドが侵入した瞬間、手にした捻じれた木の杖を振り上げた。
――ドツドツドツ!
鋭い岩槍が肉を貫く鈍い音が三度。そして貫かれたハウンドが三匹がそのまま岩槍にぶら下がる。
まるで、これ以上近付くならば、貴様達もこうなる運命だという警告のように。
同時に、マリアンヌが近くにいる最後の一匹の横っ面に、後ろ回し蹴りを食らわせる。
――ギャワン!
派手に吹き飛ばされたハウンドが、体勢を立て直して唸り声をあげ牙を剥く。そしてマリアンヌに向けて飛び掛かろうとした瞬間、ハウンドの眉間から派手に血が噴き出した。
マリアンヌが振り返ると、石礫の魔法を放ったスージィが得意気に笑みを浮かべていた。
△▼△
「はっはー! どんどん来い! どんどん!」
マリアンヌの指示で、藪に隠れているハウンド達に向かったチューヤは、小細工無用とばかりに正面から斬って捨てていた。
「師匠の剣、すっげえ斬れるぜ! ヒャッハー!」
藪に潜んでいたハウンド達を一瞬で血祭りにあげると、野生的な気配察知能力を発揮して次の獲物へと疾走を開始する。言わずと知れた、群れのもボス、バーサク・ファングだ。
ファングの周辺には、親衛隊とでも言うべき精鋭達が十匹ほど控えており、その内の四匹がチューヤの足を止めるべく襲い掛かってくる。
「雑魚はすっこんでろぃ!」
身体強化を掛けた状態の疾走から、更にもう一段ギアを上げた。突然のスピードアップにハウンドは間合いを見誤る。
気付いた時には既に、チューヤは自らの横を駆け抜けていた。
チューヤが二頭の間を駆け抜けると同時に、剣を左右に一閃、二閃。二本の銀色の煌めきが糸を引いたように奔る。そしてその銀の糸から血飛沫が噴き出した時、二匹のハウンドは声を上げる間もなく両断されていた。
血飛沫を浴びる前にその場を駆け抜けていたチューヤは汚れる事なく、向かってきた一匹に勢いそのまま飛び蹴りをくらわす。
チューヤの身体強化の能力が上がっているのか、はたまた纏魔を発動させていたのか、蹴り飛ばされた一匹は爆散し肉片となる。
「コラー! バカチューヤー! ミンチにしちゃったら売れないじゃないかー!」
「うっ……」
その様子を魔眼・白で見ていたマリアンヌからクレームが飛んできた。
今回の目的は、あくまでも路銀を稼ぐためのものである。変異種の毛皮や牙や骨、肉や内蔵など、種族にもよるが商人に売却する事でそれなりに金になる。それを爆散させてしまっては意味がない。
「なっ!?」
気を取り直したチューヤがもう一匹を仕留めんと、両手で剣を構えるが、そのターゲットの一匹が氷の矢に貫かれて絶命した。
△▼△
「全く……奴に任せておいては売るものがなくなってしまう」
先程チューヤの獲物を横から掻っ攫ったのはカールの魔法攻撃だ。アイスニードル。威力の割には燃費がよく、速射性も高い為、好んで使う技の一つだ。
そしてシンディからの餞別であるエストック。今まで使っていたワンドと比べて格段に魔力を効率よく使える。その上接近戦ではそのまま剣と使えるため、カールはこのエストックをメインウェポンとして使っていた。ただ、エストックは刺突用の細身の剣であり、然程耐久性は高くない。故に従来使っていたエストックも所持しており、左右に二本のエストックを佩いているという風変わりな感じになっている。
(高性能な魔法発動媒体を使うと、こうまで負担が違うものなのか……)
今までのワンドと比べて格段に早く強い魔法を放てる事に加え、負担も少ない。カールは次々と魔法陣を構築していき、アイスニードルを撃ち込んでいる。
まるでエストックの切っ先で絵画でも描くが如く、水色に輝く魔法陣が出来上がっていく様は芸術的ですらあり、スージィもマリアンヌも一瞬見とれた程だ。
新しい得物を手に入れたカールの殲滅スピードは凄まじく、ハウンド達は全く近寄る事すら許されずに氷の矢に貫かれていく。そして、息絶えていくハウンドの遺体の損傷も少ないのが特徴だ。
(あーあ、これはまた、チューヤと喧嘩になりそうだなぁ)
派手に敵を破壊していくチューヤと、派手さはないが確実に命だけを刈り取っていくカール。正反対なのに根底が似ている二人が衝突する未来を幻視したマリアンヌは、小さくため息を吐いた。
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