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 夕食後、もう一度薬は飲んでおこう。そう誓いながら律は中途半端になっていた料理を再開させたところで、紫藤が帰ってくるとなると明日の朝食用の食材が足らなくなるということを思い出した。

「コーヒー切らしてたんだった……あー、卵も買い足さないと駄目だなぁ」

 あれこれと足りないものが浮かんでくる。律一人であれば気にすることもないのだが、二人分ともなるとそうもいかなくなってしまう。
 同居の名目上は家事手伝いとなるのだから、こういうところで手を抜きたくはない。きっと、紫藤は気にもしないのだろうけれど。こういったところで性格というものは出てしまうものだと、律は苦笑した。

「お昼食べたら買いに行ってこよう」

 幸い身体の調子も良いので、散歩を兼ねて買い出しをしてしまおうと、手早く残りを片付けるついでに昼食を済ませてしまう。皿によそらずそのまま摘んで食べるのは行儀が悪いが、誰も見ていないのだから気にすることもないだろう。

「ご飯が美味しい……」

 そんな些細な幸せを噛み締めながら、後片付けを済ませて外へ出た。
 初夏の陽気は心地良く、自然と足取りも軽くなる。日差しは少し強いが、汗ばむ程でもなく過ごしやすい。
 以前の出来事もあってか、律はあれ以来なるべく人混みを避けていた。しかし、今はメンタルや体調が安定しているからか、前ほど恐怖心を抱かずに外を歩くことができている。

(黒川先生様々だ)

 今回のことやバースのことで黒川には散々お世話になってしまっているので、本当に黒川には頭が上がらないの一言に尽きる。律の中で黒川の株は爆上がり中で、運命の番が紫藤ではなく黒川であったらと思ったことも多々あるくらいだ。そんなことを言えば迷惑になってしまうとわかっているので、口には出していないが。

(運命って、残酷だよね……)

 馴染みのスーパーに到着すれば、慣れた手つきで買い物かごに必要なものを入れていく。途中あれが安いこれが美味しそうと、余計なものも増やしてしまったが、冷蔵庫に空きは作ってあるし問題はないはずだ。

(さっき作った料理もあるし、夕飯はそれともう一品くらい作れば大丈夫そうかな)

 今日はあまり買い込まずに程々にしておこう。明日の夕飯は紫藤のリクエストを聞いてから買いに行けば良いし、あとは少し重たくなってしまうがミネラルウォーターを買っておけば事足りる。
 会計を済ませて外へ出れば、先程よりも少し傾いており幾分日差しが和らいでいた。日が沈むのも大分遅くなり、時計を見なければ今が何時かわからない程には外が明るい。

(そういえば紫藤さん何時に帰ってくるんだろう)

 今日帰ってくることに間違いはないだろうが、それが夕方なのか深夜なのか……帰ってくると言うから夕飯は一緒に食べるものだと思い込んでいたが、どうなのだろうか。

「聞けば良いんだろうけど、なんか……そういうのアレだよね」

 恋人でもなんでもないのだから、そういったことを態々確認するのも躊躇してしまう。重たいとは思われたくないが、せめて何時に帰宅するのかくらいメールに記載していてくれても良いのにと、律はぷりぷりと怒りながら歩きなれた帰路についた。
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