34 / 41
33
しおりを挟む
(えー……なんだか凄い車が止まってる)
マンションの下、丁度この間黒川に送って貰った辺りだろうか。遠目から見てもわかる黒塗りの高級車が横付けされていた。
よくドラマや映画に出てきそうな高級車の外には、これまた期待を裏切らない黒いスーツに身を包んだ男が立っている。運転席にも同様に、同じ出で立ちの男が座っていた。
まるでそこだけが別世界のようで、住宅やマンションの立ち並ぶ周りの景観からはとても浮いて見える。
(絶対一般社会の人たちじゃないよね、アレ)
どうみてもその筋の人か、良くて要人のSPといったところだろうか? どちらも律の想像や憶測に過ぎないが、そう思わせる独特な雰囲気を醸し出していた。
触らぬ神に祟りなし。そのことわざに倣い、厄介事に巻き込まれないようにと平静を装いながら、黒塗りの車の横を通り抜けていく。
黒スーツの男とは視線を合わせないように、極力不自然さを出さないように普通を装って目の前を通り抜ける。
(どうしよう、何だかすっごく見られてる)
もしかすると顔に出ていたのだろうか? それとも何か気に障ることがあったのだろうか?
外に立っていた男から刺さるような視線を感じ、身体が縮こまりそうになってしまう。車内にいるもう一人の男に何やら耳打ちをしていたが、厄介事に巻き込まれる前にと律は足早にマンションの中へ逃げ込んだ。
「心臓に悪いよ、まったく……」
このマンションにその筋の人間でも住んでいるのかもしれないと、思わず身構えてしまう。そうだとすれば、ここに住まわせてもらっている間は関わりを持たないようにしたいと強く願ってしまう。
大きくため息を吐き出しながら、律はエレベーターに乗り込んでボタンを押す。壁に寄りかかりながら再度ため息を吐き出していると、ポケットの中で携帯が震えた。
相手は望で、先刻送ったメッセージの返信だった。そのお陰でいくらかほっこりと和み、そのままエレベーターを下りる。
(あれ……紫藤さん、帰ってきてる?)
ドアを開けようとしたところで、既に鍵が開いていることに気が付いた。予想以上に早い帰宅に嬉しい反面、久しぶりに会う紫藤に少し戸惑いもある。
(大丈夫、普通に接すれば良いんだ。普通に)
幸いまだ薬も効いているので、この時点で紫藤の匂いを感じ取ることは出来ない。きっと大丈夫だと言い聞かせ、律は玄関のドアを開いた。
「ただいま戻りまし――」
戻りましたと言おうとしたところで、玄関に靴が二足並んでいるのが目に入った。一足は紫藤の靴で間違いないが、もう一足の革靴は見覚えがないものだった。
(紫藤さんのお客さん?)
ここは紫藤の家なのだから、来客があったとしても不思議はない。リビングから話し声がするので間違いはないが、律もリビングのキッチンに用があるのでどうしたものかと悩んでしまう。
マンションの下、丁度この間黒川に送って貰った辺りだろうか。遠目から見てもわかる黒塗りの高級車が横付けされていた。
よくドラマや映画に出てきそうな高級車の外には、これまた期待を裏切らない黒いスーツに身を包んだ男が立っている。運転席にも同様に、同じ出で立ちの男が座っていた。
まるでそこだけが別世界のようで、住宅やマンションの立ち並ぶ周りの景観からはとても浮いて見える。
(絶対一般社会の人たちじゃないよね、アレ)
どうみてもその筋の人か、良くて要人のSPといったところだろうか? どちらも律の想像や憶測に過ぎないが、そう思わせる独特な雰囲気を醸し出していた。
触らぬ神に祟りなし。そのことわざに倣い、厄介事に巻き込まれないようにと平静を装いながら、黒塗りの車の横を通り抜けていく。
黒スーツの男とは視線を合わせないように、極力不自然さを出さないように普通を装って目の前を通り抜ける。
(どうしよう、何だかすっごく見られてる)
もしかすると顔に出ていたのだろうか? それとも何か気に障ることがあったのだろうか?
外に立っていた男から刺さるような視線を感じ、身体が縮こまりそうになってしまう。車内にいるもう一人の男に何やら耳打ちをしていたが、厄介事に巻き込まれる前にと律は足早にマンションの中へ逃げ込んだ。
「心臓に悪いよ、まったく……」
このマンションにその筋の人間でも住んでいるのかもしれないと、思わず身構えてしまう。そうだとすれば、ここに住まわせてもらっている間は関わりを持たないようにしたいと強く願ってしまう。
大きくため息を吐き出しながら、律はエレベーターに乗り込んでボタンを押す。壁に寄りかかりながら再度ため息を吐き出していると、ポケットの中で携帯が震えた。
相手は望で、先刻送ったメッセージの返信だった。そのお陰でいくらかほっこりと和み、そのままエレベーターを下りる。
(あれ……紫藤さん、帰ってきてる?)
ドアを開けようとしたところで、既に鍵が開いていることに気が付いた。予想以上に早い帰宅に嬉しい反面、久しぶりに会う紫藤に少し戸惑いもある。
(大丈夫、普通に接すれば良いんだ。普通に)
幸いまだ薬も効いているので、この時点で紫藤の匂いを感じ取ることは出来ない。きっと大丈夫だと言い聞かせ、律は玄関のドアを開いた。
「ただいま戻りまし――」
戻りましたと言おうとしたところで、玄関に靴が二足並んでいるのが目に入った。一足は紫藤の靴で間違いないが、もう一足の革靴は見覚えがないものだった。
(紫藤さんのお客さん?)
ここは紫藤の家なのだから、来客があったとしても不思議はない。リビングから話し声がするので間違いはないが、律もリビングのキッチンに用があるのでどうしたものかと悩んでしまう。
12
お気に入りに追加
402
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
噛痕に思う
阿沙🌷
BL
αのイオに執着されているβのキバは最近、思うことがある。じゃれ合っているとイオが噛み付いてくるのだ。痛む傷跡にどことなく関係もギクシャクしてくる。そんななか、彼の悪癖の理由を知って――。
✿オメガバースもの掌編二本作。
(『ride』は2021年3月28日に追加します)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
Ωの不幸は蜜の味
grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。
Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。
そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。
何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。
6千文字程度のショートショート。
思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
花婿候補は冴えないαでした
いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。
本番なしなのもたまにはと思って書いてみました!
※pixivに同様の作品を掲載しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした
雨宮里玖
BL
《あらすじ》
昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。
その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。
その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。
早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。
乃木(18)普通の高校三年生。
波田野(17)早坂の友人。
蓑島(17)早坂の友人。
石井(18)乃木の友人。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる