愛 need you ーあなたに愛されなければ呼吸すらできないー

橋本しら子

文字の大きさ
上 下
11 / 41

10

しおりを挟む
「え! じゃあ、律はその人の家で同居してるってこと?」
「ちょっ、声が大きいよ望!」
 
昼下がりのカフェの店内は賑やかだ。店内の洒落たBGMも喧騒で遠くに聞こえる。
 その中で向かい合って席に座っているのは、まるで鏡合わせでもしたように良く似た二人だった。

「ごめん、あんまりにものビックリしたから」
「わかる……わかるけど」

 律は気持ちを落ち着かせるように、グラスの水を飲み干した。目の前にいる律とよく似た少年、音無望おとなしのぞむもゆっくりとコーヒーに口を付けた。

「久しぶりに連絡くれたから何かと思ったけど、予想斜め上だった」
「僕だってこんな事態想像もしてなかったよ」

 頬杖を付きながらセットのケーキを突いている律は口を尖らせる。それを見た望は宥めるようにまあまあと律をあやす。
 側から見ると微笑ましい双子みたいな二人。実際は同い年の従兄弟同士なのだが、本当によく似ているとは律も望も思っている。
 そんな気心しれた相手で、知り合いの唯一のオメガの彼だからこそ、今回の出来事を相談したかった。

「何て言うか、大変だったんだね」
「大変だったなんてものじゃなかった……」

 げっそりとした表情を浮かべる律をみて望は哀憐の情に絆された。

「でもさ、その紫藤さんって言う人信用して大丈夫なの?」

 医師免許を持っている大学の医務員、それ以外はなにも知らない男のところに転がり込んだ従兄弟を心配する望。
 因みに、望には紫藤に襲われたことは話していない。ただ、バースが変異した際に色々と『』と伝えてあるだけだ。

「あの人のことは僕もまだよく分からない。一緒に住んではいるけど、実際本当に一緒にいるだけで会話も殆どないから」

 あの日、紫藤に連れられて帰ったのは彼の部屋だった。

『今日から、ここがキミの部屋だから。自由に使ってくれて構わないよ』

 状況の理解が追いつかないまま告げられた言葉に、更に混乱したのは記憶に新しい。

「大学内ではほとんど合わないし、マンションに戻っても顔は合わせないからなぁ」
「それって大丈夫なの?」

 紫藤は帰宅した後、部屋に篭りきりなのだ。律がいるからなのか、元からそうだったのかは解りかねるが、生活スタイルが謎に包まれすぎていた。

「あの人、なんで僕を部屋に置いてくれてるんだろう?」
「それ、一度ちゃんと聞いてみたら良いんじゃない?」

 その方がお互いの為じゃないかな、と言う望の言葉は尤もだと律も思っている。
 ただ、怖いのかもしれない。理由を知るのが。

「そう……だよね。やっぱりちゃんと聞いた方が良いよね」

 なんの目的があって赤の他人であるのに部屋に置いてくれるのか。
 それが親切心なのか、あのときのことに少しでも罪悪感でも持ってくれているのかは紫藤本人にしかわからない。

「もしさ、それで気まずくなったら、僕も一緒に新しい部屋探すから」
「ありがとう、望」

 心強い望の言葉に少し気が楽になったような心地がした。
 それを邪魔するかのように、テーブルの上に置いてあった望のスマホの通知音が鳴る。

「ごめん、音切ってなかった」
「大丈夫だよ、他には聞こえてなかったみたいだし」

 少し慌てていた望だったが、幸いにも周りは皆話に夢中で気付いていない。通知を確認した途端にまるで花が綻んだような、そんな優しい表情を浮かべていた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

元ベータ後天性オメガ

桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。 ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。 主人公(受) 17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。 ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。 藤宮春樹(ふじみやはるき) 友人兼ライバル(攻) 金髪イケメン身長182cm ベータを偽っているアルファ 名前決まりました(1月26日) 決まるまではナナシくん‥。 大上礼央(おおかみれお) 名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥ ⭐︎コメント受付中 前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。 宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

幸福奇譚

安馬川 隠
BL
『僕はとても幸せです』 気に入られたら終わりな人に気に入られてしまった彼の話。 ※倫理的ではないシーンがあります

Ωの不幸は蜜の味

grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。 Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。 そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。 何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。 6千文字程度のショートショート。 思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。

【完結】運命の番に逃げられたアルファと、身代わりベータの結婚

貴宮 あすか
BL
ベータの新は、オメガである兄、律の身代わりとなって結婚した。 相手は優れた経営手腕で新たちの両親に見込まれた、アルファの木南直樹だった。 しかし、直樹は自分の運命の番である律が、他のアルファと駆け落ちするのを手助けした新を、律の身代わりにすると言って組み敷き、何もかも初めての新を律の名前を呼びながら抱いた。それでも新は幸せだった。新にとって木南直樹は少年の頃に初めての恋をした相手だったから。 アルファ×ベータの身代わり結婚ものです。

オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜

トマトふぁ之助
BL
 某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。  そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。  聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

処理中です...