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「え! じゃあ、律はその人の家で同居してるってこと?」
「ちょっ、声が大きいよ望!」
昼下がりのカフェの店内は賑やかだ。店内の洒落たBGMも喧騒で遠くに聞こえる。
その中で向かい合って席に座っているのは、まるで鏡合わせでもしたように良く似た二人だった。
「ごめん、あんまりにものビックリしたから」
「わかる……わかるけど」
律は気持ちを落ち着かせるように、グラスの水を飲み干した。目の前にいる律とよく似た少年、音無望もゆっくりとコーヒーに口を付けた。
「久しぶりに連絡くれたから何かと思ったけど、予想斜め上だった」
「僕だってこんな事態想像もしてなかったよ」
頬杖を付きながらセットのケーキを突いている律は口を尖らせる。それを見た望は宥めるようにまあまあと律をあやす。
側から見ると微笑ましい双子みたいな二人。実際は同い年の従兄弟同士なのだが、本当によく似ているとは律も望も思っている。
そんな気心しれた相手で、知り合いの唯一のオメガの彼だからこそ、今回の出来事を相談したかった。
「何て言うか、大変だったんだね」
「大変だったなんてものじゃなかった……」
げっそりとした表情を浮かべる律をみて望は哀憐の情に絆された。
「でもさ、その紫藤さんって言う人信用して大丈夫なの?」
医師免許を持っている大学の医務員、それ以外はなにも知らない男のところに転がり込んだ従兄弟を心配する望。
因みに、望には紫藤に襲われたことは話していない。ただ、バースが変異した際に色々と『世話になった』と伝えてあるだけだ。
「あの人のことは僕もまだよく分からない。一緒に住んではいるけど、実際本当に一緒にいるだけで会話も殆どないから」
あの日、紫藤に連れられて帰ったのは彼の部屋だった。
『今日から、ここがキミの部屋だから。自由に使ってくれて構わないよ』
状況の理解が追いつかないまま告げられた言葉に、更に混乱したのは記憶に新しい。
「大学内ではほとんど合わないし、マンションに戻っても顔は合わせないからなぁ」
「それって大丈夫なの?」
紫藤は帰宅した後、部屋に篭りきりなのだ。律がいるからなのか、元からそうだったのかは解りかねるが、生活スタイルが謎に包まれすぎていた。
「あの人、なんで僕を部屋に置いてくれてるんだろう?」
「それ、一度ちゃんと聞いてみたら良いんじゃない?」
その方がお互いの為じゃないかな、と言う望の言葉は尤もだと律も思っている。
ただ、怖いのかもしれない。理由を知るのが。
「そう……だよね。やっぱりちゃんと聞いた方が良いよね」
なんの目的があって赤の他人であるのに部屋に置いてくれるのか。
それが親切心なのか、あのときのことに少しでも罪悪感でも持ってくれているのかは紫藤本人にしかわからない。
「もしさ、それで気まずくなったら、僕も一緒に新しい部屋探すから」
「ありがとう、望」
心強い望の言葉に少し気が楽になったような心地がした。
それを邪魔するかのように、テーブルの上に置いてあった望のスマホの通知音が鳴る。
「ごめん、音切ってなかった」
「大丈夫だよ、他には聞こえてなかったみたいだし」
少し慌てていた望だったが、幸いにも周りは皆話に夢中で気付いていない。通知を確認した途端にまるで花が綻んだような、そんな優しい表情を浮かべていた。
「ちょっ、声が大きいよ望!」
昼下がりのカフェの店内は賑やかだ。店内の洒落たBGMも喧騒で遠くに聞こえる。
その中で向かい合って席に座っているのは、まるで鏡合わせでもしたように良く似た二人だった。
「ごめん、あんまりにものビックリしたから」
「わかる……わかるけど」
律は気持ちを落ち着かせるように、グラスの水を飲み干した。目の前にいる律とよく似た少年、音無望もゆっくりとコーヒーに口を付けた。
「久しぶりに連絡くれたから何かと思ったけど、予想斜め上だった」
「僕だってこんな事態想像もしてなかったよ」
頬杖を付きながらセットのケーキを突いている律は口を尖らせる。それを見た望は宥めるようにまあまあと律をあやす。
側から見ると微笑ましい双子みたいな二人。実際は同い年の従兄弟同士なのだが、本当によく似ているとは律も望も思っている。
そんな気心しれた相手で、知り合いの唯一のオメガの彼だからこそ、今回の出来事を相談したかった。
「何て言うか、大変だったんだね」
「大変だったなんてものじゃなかった……」
げっそりとした表情を浮かべる律をみて望は哀憐の情に絆された。
「でもさ、その紫藤さんって言う人信用して大丈夫なの?」
医師免許を持っている大学の医務員、それ以外はなにも知らない男のところに転がり込んだ従兄弟を心配する望。
因みに、望には紫藤に襲われたことは話していない。ただ、バースが変異した際に色々と『世話になった』と伝えてあるだけだ。
「あの人のことは僕もまだよく分からない。一緒に住んではいるけど、実際本当に一緒にいるだけで会話も殆どないから」
あの日、紫藤に連れられて帰ったのは彼の部屋だった。
『今日から、ここがキミの部屋だから。自由に使ってくれて構わないよ』
状況の理解が追いつかないまま告げられた言葉に、更に混乱したのは記憶に新しい。
「大学内ではほとんど合わないし、マンションに戻っても顔は合わせないからなぁ」
「それって大丈夫なの?」
紫藤は帰宅した後、部屋に篭りきりなのだ。律がいるからなのか、元からそうだったのかは解りかねるが、生活スタイルが謎に包まれすぎていた。
「あの人、なんで僕を部屋に置いてくれてるんだろう?」
「それ、一度ちゃんと聞いてみたら良いんじゃない?」
その方がお互いの為じゃないかな、と言う望の言葉は尤もだと律も思っている。
ただ、怖いのかもしれない。理由を知るのが。
「そう……だよね。やっぱりちゃんと聞いた方が良いよね」
なんの目的があって赤の他人であるのに部屋に置いてくれるのか。
それが親切心なのか、あのときのことに少しでも罪悪感でも持ってくれているのかは紫藤本人にしかわからない。
「もしさ、それで気まずくなったら、僕も一緒に新しい部屋探すから」
「ありがとう、望」
心強い望の言葉に少し気が楽になったような心地がした。
それを邪魔するかのように、テーブルの上に置いてあった望のスマホの通知音が鳴る。
「ごめん、音切ってなかった」
「大丈夫だよ、他には聞こえてなかったみたいだし」
少し慌てていた望だったが、幸いにも周りは皆話に夢中で気付いていない。通知を確認した途端にまるで花が綻んだような、そんな優しい表情を浮かべていた。
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