愛 need you ーあなたに愛されなければ呼吸すらできないー

橋本しら子

文字の大きさ
上 下
12 / 41

11

しおりを挟む
「望、もしかしてだけど彼女出来たの?」
「え!」
 
途端にボンっと音が出そうな勢いで、望の顔は赤くなった。どうやら本当に彼女が出来たのかもしれない……先を越されてしまったようで、少し寂しい気分になる。

「いや、彼女って言うか……ルームシェアしてる人と言うか……」
「は? 望も誰か一緒に住んでる人いたの?」
「それを、今日律に言おうと思ってたんだよ!」

 同じタイミングで同居人が居ることを報告しようとしていたなんて、そんなところまで本当に似ているらしい。
 しかし、律とは違い望は同居人とは上手くいっているようだ。

「僕もちょっと色々あったんだけど、それは今度ちゃんと説明するね」
「色々って……聞き捨てならないけど」
「そこは聞き流してくれたら嬉しいな。まぁ、それをどうにかしてくれたのが、今ルームシェアしてる梔月…えと、蘇芳さんて言う人なんだ」

 蘇芳梔月すおうしづき。その人が望の恩人であり、同居人らしい。

「何だろう……すごく既知感を感じる」
「わかる。僕も思ったから」

 流石にここまで似たり寄ったりな状況に置かれていたことに、二人揃って視線を明後日の方へ向けてしまった。

「で、その蘇芳さんは望を大事にしてくれていると」
「え」
「見てればわかるよ。望、その蘇芳さんから連絡来てるの見て凄い嬉しそうだったし」

 再び赤くなった望を見て、正直かわいいとすら思ってしまった。同じ顔なのに。

「……律はさ、運命の番って信じる?」
「運命の番。アルファとオメガの?」
「そう」

 どこかで聞いたことはあった。恐らくは授業の一環で聞いたのだとは思う。
 本能的なレベルで惹かれ合うが、出会える確率はとても低いとかそんな都市伝説染みたものだったはずだ。

「まさか、その人」
「うん、多分僕の運命の番なんだ」

 よもやの出来事に驚きを隠せなかった。オメガがアルファに出会うことすら稀な世の中で、まさかそんなドラマみたいな出会いがあったなんて。
 ベータがオメガに変異するより遥かに珍しい出来事ではないのだろうか?

「それ、結婚報告と受け取って良い?」
「なんで! 飛躍しすぎだよ!」
「照れなくて良いって」

 揶揄うようにお祝いは何が良いかと尋ねれば、望は耳まで真っ赤にしながら手で顔を隠してしまった。

「で、さっきのはその蘇芳さんのお迎えの連絡?」
「……うん」

 タイミング良く再び望のスマホに通知が来る。蘇芳と言う相手も、望のことを大事にしてくれているようだ。
 中には一方的なアルファもいる。おっとりとしている望のことが心配ではあるが、その辺りの心配は無用かもしれない。
 それよりも、一方的なアルファで脳裏に浮かんできた人物の顔を払うように、律は首を横に振った。

「律?」
「何でもないよ」
「そう? あ、蘇芳さん」

 店内の窓の外、遠目でも分かる黒塗りの高級車。それを見た望は嬉しそうに微笑んだ。
 まさかあの高級車の持ち主が望の同居人なのか? 望に一体何があってそんな相手と出会ったと言うのだろうか? 律は軽く頭痛を覚えてしまった。

「ごめん、律。今度ちゃんと紹介するから」
「うん、わかってる。また連絡するよ」

 じゃあ、と自分の分の会計を済ませて店を出て行く望を見送る。その際に見えた、赤みの強い髪色の男が蘇芳と言う人物なのだろう。望は花のような笑みを惜しげもなく向けていた。
 それを羨ましく思いながら、律は氷の溶けた味のしないアイスコーヒーを飲み干した。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

暑がりになったのはお前のせいかっ

わさび
BL
ただのβである僕は最近身体の調子が悪い なんでだろう? そんな僕の隣には今日も光り輝くαの幼馴染、空がいた

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

Ωの不幸は蜜の味

grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。 Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。 そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。 何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。 6千文字程度のショートショート。 思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。

嘘の日の言葉を信じてはいけない

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
嘘の日--それは一年に一度だけユイさんに会える日。ユイさんは毎年僕を選んでくれるけど、毎回首筋を噛んでもらえずに施設に返される。それでも去り際に彼が「来年も選ぶから」と言ってくれるからその言葉を信じてまた一年待ち続ける。待ったところで選ばれる保証はどこにもない。オメガは相手を選べない。アルファに選んでもらうしかない。今年もモニター越しにユイさんの姿を見つけ、選んで欲しい気持ちでアピールをするけれど……。

元ベータ後天性オメガ

桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。 ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。 主人公(受) 17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。 ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。 藤宮春樹(ふじみやはるき) 友人兼ライバル(攻) 金髪イケメン身長182cm ベータを偽っているアルファ 名前決まりました(1月26日) 決まるまではナナシくん‥。 大上礼央(おおかみれお) 名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥ ⭐︎コメント受付中 前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。 宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

花婿候補は冴えないαでした

いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

噛痕に思う

阿沙🌷
BL
αのイオに執着されているβのキバは最近、思うことがある。じゃれ合っているとイオが噛み付いてくるのだ。痛む傷跡にどことなく関係もギクシャクしてくる。そんななか、彼の悪癖の理由を知って――。 ✿オメガバースもの掌編二本作。 (『ride』は2021年3月28日に追加します)

処理中です...