うさぎの耳はロバの耳

斑猫

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デザートにアケビ

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「あ、村が見えてきました」

狼になったイルさんの背に乗って森を抜け
る。速いし早い。
あっという間に着いたよ。
自分の足で歩いたら村に着くのは夜になる
と思う。

最初は背に乗るのを遠慮したんだけれど
すっかりイルさんからどんくさい子認定
された私。怪我もしてるからと問答無用で
背に乗せられた。

「ニケ、俺はその辺で着替えて来る。
今度はふらふらしてどこかに行くなよ?」

ふらふらして湖で溺れた事を根に持たれて
いるようだ。信用ないな。もう!

「大丈夫です。ここでちゃんと待ってます」

預かっていた荷物をイルさんに手渡す。
イルさんは頷くと茂みの陰に入って行く。
人化すると素っ裸らしいので服を着なけれ
ばならない。不便だよね。
服を脱がないで獣化すると服が破れる
らしい。

うさぎは獣化すると体が小さくなるので
服は破れない。
ただし人化する時はやっぱり裸だ。

そういえば私は獣化できなかった。
それもあって出来損ないと蔑まれた。
そもそもイルさんの言うように私が人族
なら獣化なんてする訳がない。

自分の耳を両手で引っ張る。
なんで私の耳はロバの耳なんだろう?

あ、あれ?
上を見上げたら木の上にアケビが生って
いる。アケビだぁぁ~~じゅる。

私はアケビの生っている木を登り始めた。
やだな。こんな村の近くにアケビの蔓が
あったなんて気がつかなかった。ふふ!

ズボンっていいかも。
スカートだとこんなに大胆に木登りでき
ないもんね。

よし。もう少しでアケビに手が届く。
木の枝に掴まって手を伸ばす。

あ、もう少し!

必死で手を伸ばすとボキッと音がする。
掴まっていた枝が折れた。

落下する私。

「きゃあ~~!!」

ボスっと抱き止められた。
人化したイルさんだ。

「ふらふらするなと言ったのに……ニケ。
なんで木に登っているんだ」

「ごめんなさい。あそこにアケビが……」

「アケビ?」

上を見上げるイルさん。
私をそっと地面に下ろすと怪我がないか
確認する。

「怪我はないようだな。あんな高い所に
登るなよ。危ないだろう?」

「ごめんなさい。アケビが……大好物で」

ああ~食べたかった。
残念。もう少し低い所に生ってくれたら
良かったのに。

未練がましくアケビを眺めていたら
イルさんが腰に差した剣を抜く。

その場で上に向かって軽く素振りした。
シュン!と音がするとアケビが空から
降ってきた。左手でそれをキャッチする
イルさん。

「ほら、デザートだ」

私にアケビを手渡してくれる。

「わぁ!凄い!今のどうやったの?」

あんなに離れていたのに剣を一振りした
だけでアケビを切り落とした。
アケビの蔓はスパッと切られている。
スゴいなぁ。

尊敬の眼差しでイルさんを見ると心なしか
顔が赤い。あれ?照れてる?

「いいからほら、早く食っちゃえよ」

照れ隠しにぶっきらぼうに言うイルさんが
なんか可愛い。アケビが三つ……。

「イルさんも一つ食べません?」

「大好物なんだろう?全部食べていいぞ」

「一緒に食べたいです」

「ふむ。アケビか。久しぶりだな。なら
一つもらうよ」

「もらうって、イルさんが採ってくれた
のに……ありがとうございます」

「ニケ、俺に敬語はいらないぞ?名前も
別にさん付けしなくていい」

う~ん。見るからに年上で恩人のイルさん
にタメ語っていいのかな。
でも、ご本人のお言葉だ。よし。

「は~い。じゃあ……イル?」

「お、おう!」

あ、真っ赤になって狼耳がピョコンと出た!
あ、尻尾も出てる。
ズボンに穴は開かないのかな?
ぶんぶん尻尾を高速で揺らしている。

イルって可愛いかも。

イルと二人でアケビを食べた。
目茶苦茶甘かった。





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