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しおりを挟むコクヨウと出会って早一週間。随分懐いてくれていると思う。まだギルドの連絡はない。調査は難航しているのだろうか?暇すぎて、俺にはどうにも出来やしない事ばかりに思考が巡る。俺は14から冒険者をしているから冒険者歴は長いが、冒険者ランクはCだ。
今回のような危険度の高い可能性のある調査は冒険者ランクB以上に任される。万が一何かあっても生きて逃げ延び、情報を伝達出来る者を選ぶのだ。
しかし…コクヨウは動物にしてはやけにこちらの話を理解している節がある。コクヨウはもしかして天才なのか?などという親バカ丸出しな思考に陥る。
「なぁ、コクヨウお前頭良いよな?」
「み?」
「いや、ちゃんと俺の言うこと理解してるだろ?」
「みー」
コクヨウはなんだそんなことか…と言わんばかりに俺の話に興味を失いまた俺の腹に顔を伏せた。目も閉じたので眠るつもりなのだろう。子供だけあってよく眠る。確かに今の時間は昼時で暖かな日差しが心地よく眠るのにはいいだろう。
やることもないし、俺も眠ってしまおう。寝そべっているソファでブランケットを掛ける。コクヨウはもふもふした毛があるが一応掛けておく。暑かったら勝手に出るだろう。
眠ってから暫く、日はまだ傾いていないのでそう長い時間寝ていたわけでもない。しかしタシタシと俺の頬を叩く肉球に起こされた。
「…どうした…コクヨウ」
「み!!」
初めは腹でも減ったのかと思ったがどうやら違うらしい。ドアに顔を向けて前足を上げたのだ。そちらを指し示すように。
「あ?…ん…誰か来たのか?」
「みー」
「…そうか。起こしてくれてありがとな」
「み!」
起こされて間もなく、コンコンとノックが聞こえた。本当に来たな…俺には全くわからなかったが矢張りコクヨウは耳などが良いのだろうな。起き上がった俺の膝に乗るコクヨウを抱き上げて、ドアに向かって如何する。
「誰だ?」
「俺だ、ギルドから遣いが来てるぜ」
「ああ、わかった。すぐに行くと伝えてくれ。」
「おう」
ドアの外にいるのは宿の店主だったようだ。外にも出られるよう手早く準備を整えて、下に降りる。宿に来てくれたのは、伝言を頼まれた俺の顔見知りの冒険者だ。
「お!来たな、待ってたぜタカミ」
「ラウさん!久しぶりですね」
「おう、忘れないうちに伝えるが、暇な時にギルドに顔出せってよ。受付行きゃあいいらしいぜ」
「わかりました。わざわざありがとうございます。」
「おう、ところで…その獣はなんだ?前からそんなの連れてたか?」
「あー、最近飼い始めたんすよ」
「そうか、まぁいい。飲もうぜ!久しぶりに奢ってやるからよ」
「いいんですか?ありがとうございます」
「おうよ」
ラウさんは俺の先輩冒険者で、俺よりも4つ上の先輩だ。体格もよく、しっかりと筋肉のついた均整の取れた身体付きだ。デカくて威圧感もあるし三白眼で鋭い目付きなので、初対面の人には怖がられがちだが優しい人なのだ。俺が冒険者になりたての頃も気に掛けてくれて、色々教えてもらったものだ。初めのうち稼げない時にも飯を食わせてもらった。後輩として可愛がって貰っている。有り体に言って俺の恩人なのである。
「この街に帰って来てたんすね」
「ああ、つい先日帰ってきた。ダンジョンは良かったがよ、ゆっくりしたくなってな。」
「そうなんですね、冒険話聞かせて下さいよ」
「おう、じゃあまずタダクダンジョンに辿り着くまでの話からだ。俺はこの街からタダクまで乗り合いの馬車の護衛依頼を受けたんだ。」
タダクというのは今居る街スールエから一番近いダンジョンのある街だ。ダンジョンでは土系の魔物が多く出るのが特徴だ。取れるダンジョン素材は、土魔石や武器などに使える鉱石なんかだ。
武器を新調しようとする冒険者に人気のダンジョンだ。素材の鉱石を持ち込めば費用が抑えれるからな。俺もそのうち行こうと思っている。ダンジョンでの出会いや、ダンジョンで気をつけたほうがいい事なんかを聞かせてくれた。
俺達が盛り上がっている間、コクヨウはご飯を食べて俺の膝でおとなしくしていた。大人しいのを見て、ラウさんがコクヨウに手を伸ばした。するとさっとその手を避け、毛を逆立てて威嚇して拒否していた。ラウさんは少し残念そうだった。
「すみません…」
「いや、いいんだ。懐かれたことねぇからよ…」
なんとも言えない哀愁が漂っている。ラウさんは煽るように酒を飲み干す。その後もなかなかのペースで飲み、潰れてしまった。宿に部屋を取りラウさんをベッドに連れて行った。
「オヤジさん、これで足りるか?」
「おう、足りてるぜ。」
金銭の支払いも終えて部屋に戻る。ラウさんに付き合ってそこそこ飲んでしまったので、俺も酔っている。
「コクヨウ、わりぃが寝るからよ…」
「みー…」
なんとも呆れたという返事が帰ってくるが、もう限界だ…眠い…
「おやすみ…コクヨウ」
「みー」
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