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フラッシュバック

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(『気になっている男といっしょになれる』ですって? ジョエルの言葉の意味がわからなさすぎる。わたしの気になっている男って、いったいだれのことなの? アレックスは、違うわよね。彼は標的なのだから)

「気になっている男」を即座にアレックスと結び付けた自分に、またしても驚いたし困惑した。

「ナオ。さぁ、どうする? いや、尋ねるまでもないな。なぜなら、きみの返事はもう決まっているのだから。だったら、さっそく屋敷へ戻ろう。今後の打ち合わせをしたい」

 ジョエルの両手が伸びてきて、先程のマシューと同じようにわたしの両肩をつかんだ。

(今日は災厄の日かなにかなの? つぎからつぎへと、いったいなんなの? わたし、なにかいけないことでもしたのかしら? というか、ジョエルはやはりアレックスを害そうとしているのね。一度目の人生と同じだわ。ジョエルは、アレックスとわたしにとって敵だわ。わたし、どうするの? いったんジョエルに従うふりをし、二重スパイになる? だけど、わたしより彼の方がこういうことにかけては一枚も二枚も上手なはず。愚かな思いつきでアレックスを傷つけてしまってはなにもならない。だったら、ここはうまくかわしておいた方が無難ね)

「いえ、宰相閣下。わたしは、いますぐ夕食の準備などがありますので」

 とりあえず、やんわり拒否してみた。が、わたしの回答にたいしては、ジョエルの両手に力が入っただけだった。それだけではない。彼の渋カッコいい顔が急速に近づいてきた。

(なによ。これだったら、さきほどのマシューと同じパターンだわ)

 ジョエルからは、マシューのように強烈な酒精の臭いがしないだけマシ、などという問題ではない。

「あの、宰相閣下。そろそろ行かないと……」

 さらに控えめに訴えた。

「侍女の仕事などもうやらなくていい。なぜなら、きみはおれの側にいるのだから」

 訴えは却下された。ジョエルの顔がさらに近づいてくる。

 背筋の寒気が止まらず、恐怖心はいまにも爆発してしまいそう。

 ジョエルに刺殺されたときや毒入りのスープを飲んだアレックスの姿が、フラッシュバックする。

 訂正。フラッシュバックするどころか、それらの光景が目の前にはっきり浮かんだ。

「宰相っ!」

 その瞬間、アレックスの怒鳴り声が耳に飛び込んできた。

 同時に、プツンと意識が途切れた。
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