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不適切なキャロライン

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 居間に入って来たのは、キャロラインだった。

 彼女は、在宅していたのだ。

 どこかに遊びに行くことなく。あるいは、まだ就寝することもなく。

 キャロラインもまた、自分の屋敷にいるにもかかわらずその恰好はバッチリきまっている。つまり、父親同様完璧なボディを完璧なドレスで包んでいる。

 くどいようだけれど、今夜はわたしだけがお邪魔する予定だった。

(彼女のこの恰好がわたしを歓迎するものだとは、とうてい考えられないのだけれど)

 キャロラインのドレスは、デザインも色合いもド派手であることはいうまでもない。それだけでなく、胸元のカットはかなりきわどく、腰やお尻のラインはさらにきわどい。

 健全な男性なら、気を惹かれ瞳を奪われるに違いない。

(そういう場で男性の気を惹くのならこの恰好でもいいかもしれないけれど、アレックスと婚儀が決定しているレディの恰好ではないわよね)

 わたしには理解の出来ない恰好だから、というわけではない。というよりか、わたしにはぜったい似合わない、というかぜったいにする勇気のない恰好だからというわけではない。ましてや、けっしてやっかみとか悔し紛れでいうわけではない。

 彼女の恰好は、不適切であると思わざるをえない。

 彼女の恰好は、近い将来王妃になる、さらにはこのカニンガム王国の国母となるレディの恰好には相応しくないと感じずにはいられない。

 ある一定の年齢以下には規制がかかりそうなきわどい恰好のキャロラインは、居間に入ってくるなりアレックスに抱きつこうとした。

(まぁいいんだけど)

 礼儀を重んじるわたしにとって、「親しき仲だからこそ礼儀など必要ない」と思っているであろう彼女のその行動が信じられない。

「キャロライン、やめてくれないか」

 が、その瞬間、アレックスは全力で彼女を拒否った。それこそ、身をひいて全身全霊でもって彼女を拒んだのだ。

 ちょっとだけ胸がスカッとした。

 訂正。「ざまぁみろ」と、心の中で思った。

「そうですね。ふたりきりではありませんもの。皇太子殿下もようこそ」

 が、キャロラインは前向き思考である。アレックスの意図を力いっぱい読み違えたばかりか、つぎなる「好みの男性」に切り替えようとパトリックに近づきかけた。

「だれだったかな?」

 パトリックもまた、そんなキャロラインを全力で拒んだ。しかも面識がないふうを装って。

 心の中で「ざまぁみろ」と快哉を叫ばずにはいられない。
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