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悪趣味きわまれり

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(うわーっ!)

 マクラウド公爵家の玄関の大扉をくぐった途端、その光景に度肝を抜かれた。

 さすがに言葉は発しはしなかったものの、これがひとりきりだと叫ぶなり唸るなりしていたかもしれない。

 アレックスとパトリックと近衛隊の隊員たちとパトリックの従者たちも、声には出さないけれどエントランス内を見まわしている。

 とにかく、立派なのである。

 というよりか、ド派手なのだ。

 しかも、いい意味でド派手なわけではない。

 これはあくまでも個人的な見解にはなるけれど、あまり趣味がいいとは思えないド派手さなのだ。

 つまり、悪趣味きわまりない。見栄と自己顕示欲の象徴という感じなのだ。

(よくもまぁ、これだけ悪趣味に飾れるものよね)

 ある意味、感心してしまう。

 見渡すかぎり、キラキラとさまざまな装飾が施されている。

 絵画や彫刻やオブジェに始まり、カーテンや敷物やタペストリーまで。とにかく、なにもかもがすごすぎる。

 語彙がなさすぎるけれど、「とにかくすごい」としか表現のしようがない。

「こちらへどうぞ」

 全員がエントランスを呆れ返って、もとい感心して見まわしていると、マクラウド公爵家の執事が控えめに促してきた。

 気を取り直し、執事の後に続く。

「パトリック、誤解しないでくれ」

(数枚あれば、わが家の借金を返せそう)

 価値のありそうな絵画が並ぶ廊下を歩きながら、アレックスが囁いた。

 アレックスは、わたしの手を握ったままである。つい先程、彼の握力が弱まったので手を引こうとした。

 が、その瞬間またギュッと握られてしまった。したがって、そのタイミングを失してしまった。

「アレックス、心配するな。わが帝国にもこういうのは存在するからな。だが、こいつはさすがに負けたな」

 パトリックが囁き返した。

 おもわず、笑ってしまいそうになった。

 どこの国にも、こういうのはあるらしい。

 案内されたのは、大きな居間だった。

 もちろん、大きな居間内も悪趣味きわまりない装飾品や調度品で溢れ返っている。

「こちらでしばらくお待ちください」

 執事は、酒を提供するよう数名のメイドに告げると出て行った。

 それはともかく、厨房では食事の変更をする為に大騒ぎしているだろう。

 もともと、マクラウド公爵家を訪れるのはわたしだけだった。それが人数が増えたのである。

 しかも、人数の問題だけではない。

 国王の座を継ぐ王子と大国の皇太子という、超重要人物が追加されたのだ。

(そうよね。アレックスはともかく、パトリックとその従者たちは、食べる物が限られている。いまさら彼ら用のメニューを準備することは、さすがに出来ない。彼らが食べられそうなものは、あまりないかもしれないわね)

 それこそ、サラダやフルーツくらいかも。

 そんな心配をしてしまう。

 もっとも、パトリック主従だけでなくアレックスとわたしもまったく期待をしていないのだけれど。

 とりあえず、ビロード張りの長椅子に座ってお茶を飲むことにした。

「殿下っ!」

 永遠とも思える時間が経過した頃、耳障りなほど甲高い声とともに居間の扉が音高く開いた。
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