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 アレックスと執事長のメルヴィンが皇族を迎えてからアレックスが挨拶をしている間に、わたしは皇族の付き人たちを違う食堂に案内し、彼らに食事をしてもらう予定にしている。

 ディーマー帝国は、カニンガム王国より南に位置している。カニンガム王国には暑い夏と寒い冬があり、暑くもなく寒くもない春と秋がある。それから、雨ばかりの雨期まである。が、ディーマー帝国はずっと温暖らしい。個人的には、冬の寒さが苦手なので温暖な気候しかないというディーマー帝国がすこしだけうらやましい。

 この大陸には、軍事力を誇るとか他国を侵略するいわゆる軍事大国と呼ばれる国々がある。昔は、ディーマー帝国もその軍事大国のひとつだった。その時代には、カニンガム王国はディーマー帝国を怖れ慄いていたらしい。が、ディーマー帝国で何年も大飢饉が続いたことがあった。その際、わが国が率先して援助を行った。律儀で義理堅いディーマー帝国は、それ以降恩義を感じてかわが国をいたずらに脅かすことはなくなった。

 ディーマー帝国は、いまだに軍事国ではある。しかし、カニンガム王国も含め他国をムダに脅かすことはない。

 軍事力の際立つ国、と表現した方がいいかもしれない。

 残念ながら、両国はそこまで仲がいいというわけではない。もちろん、カニンガム王国がディーマー帝国にムダにベタベタしたり媚びを売ったりということもない。

 だから、今回のディーマー帝国の皇族の来国は意外だった。

 宰相のジョエルは、皇族のだれが来るのかさえ教えてくれていなかった。いずれにせよ、だれが来ようとこれまでの皇族とはすこし違うのかもしれない。

 とりあえず、皇族の付き人たちはフレンドリーで紳士的な人たちである。

 褐色の肌は健康的で、白い歯が眩しいくらい。いずれも正装でだれもがカッコよくきまっている。

 違う食堂に彼ら向けの食事を準備しているので、簡単に説明しておいた。

 なにかあればすぐに声をかけてもらうよう、お願いすることも忘れない。

 彼らは、うれしそうに食事を始めた。

 それを見届けてから彼らが食事をする食堂を後にした。

 アレックスのいる食堂に行く前に厨房によった。料理長のケヴィンは、すでに前菜やスープをカートにのせてくれている。

「ナオ、頼むぞ」
「はい、料理長。大丈夫ですよ。ディーマー帝国の皇族は、きっとよろこんでくださるはずです」

 ケヴィンの表情は、いつもの彼のそれとは違ってじゃっかんかたいような気がした。

 彼に微笑みつつそう声をかけると、彼は途端に笑顔になった。
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