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アレックスのお蔭で
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大広間で行われているパーティーの様子をうかがい、メルヴィンや上級侍女たちに声をかけた。それから、ディーマー帝国の皇族と食事会が行われる食堂へと向かう。
ディーマー帝国の皇族は、すでに宮殿に到着していて貴賓室でひと休みしている。
執事長にメルヴィンにかわり、副執事長がその接待をしてくれている。副執事長は、メルヴィンの長男。つまり、ベンフィールド家の次期当主である。
それはともかく、食堂に行って様子を確認し、そのつぎは厨房へ行こうとした。食堂へ料理を運ぶ為である。
厨房へ行こうとしたそのタイミングで、アレックスがやって来た。
(まだ時間前なのに、どうしたのかしら?)
不思議に思いつつ、アレックスに挨拶をした。彼は大廊下の淡い灯りの中、その美貌にさわやかな笑みを煌めかせた。
アレックスのうしろには、王族を警護する近衛隊の隊士たちが目を光らせている。
ちなみに、わたしの前の人生では、王族を警護する為の近衛隊もまた宰相のジョエルに飼われていた。アレックスが国王の座を追われる際、近衛隊の隊長みずからがアレックスを拘束して森の中にある「物見の塔」へと連れて行き、そこに閉じ込めてしまったのである。
もちろん、いまは隊長も含めて完璧に警護しているけれど。
「やあ、ナオ」
「王子殿下、ご挨拶申し上げます」
そんな未来のことはともかく、あいかわらずアレックスは輝きまくっている。というよりか、異彩を放っている。
わたしのいまの人生の彼は、自信と生命力に溢れている。前の人生では、彼はわたし以外の人たちにたいしてただやさしいだけの人だった。王子としても王族の一員としても、ひたすら受け身だったしヤル気がなかった。
アレックスは、諦めと絶望と屈辱にまみれて殺さるという結末を迎えた。
彼は、自分が心から蔑んでいるわたしによって毒が仕込まれたスープを飲まされたのだ。
長年幽閉され、加齢と疲弊とでくたびれきったアレックスにくらべれば、いま目の前にいる彼の方が断然素敵であることはいうまでもない。
もっとも、わたしを揶揄ったりいじったりするのは控えて欲しいけれど。
それはともかく、大廊下をせわしなく移動している多くの人たちは、彼に挨拶をするというよりか敬意を払っている。彼は、それにたいしてわざわざ足を止めて応じている。
アレックスのそんなささやかな行動が、多くの人たちに感銘を与えるのだ。
「ナオ、パーティーは無事に始まったようだね」
「はい、殿下。宰相閣下の采配の下、いまのところは順調に進んでいるようです」
「宰相? きみのお膳立てのお蔭だよ」
アレックスがなにか言ったみたいだった。しかし、侍女が通りかかってそちらに気を取られてしまったので、よくきこえなかった。
「申し訳ありません。なにかおっしゃいましたか?」
「いや、いいよ。それよりも、おれたちだな」
「はい、殿下。それにしても、すこしはやくないですか?」
「ああ。はやめにきて、きみと打ち合わせをしておいた方がいいかなと思ってね。ほら、料理のことだよ。きみは、料理長と来賓用にとメニューを考えていただろう? おれも知っておいた方がいいのではないかな?」
(生真面目なアレックスらしい)
おもわず、笑ってしまった。
「ナオ、なんだい? おれは、なにか可笑しなことを言ったかい?」
「殿下、失礼いたしました。それでは、ご説明いたします」
「ああ、頼むよ」
食堂に入ると、いまから出す予定のメニューについてアレックスに説明をした。
彼が気をきかせてはやめに来てくれてちょうどよかったのかもしれない。
メニューのことで打ち合わせが出来ただけではない。彼に説明している間だけでも、わたし自身緊張をせずにすんだからである。
そして、いよいよ本番を迎えた。
ディーマー帝国の皇族は、すでに宮殿に到着していて貴賓室でひと休みしている。
執事長にメルヴィンにかわり、副執事長がその接待をしてくれている。副執事長は、メルヴィンの長男。つまり、ベンフィールド家の次期当主である。
それはともかく、食堂に行って様子を確認し、そのつぎは厨房へ行こうとした。食堂へ料理を運ぶ為である。
厨房へ行こうとしたそのタイミングで、アレックスがやって来た。
(まだ時間前なのに、どうしたのかしら?)
不思議に思いつつ、アレックスに挨拶をした。彼は大廊下の淡い灯りの中、その美貌にさわやかな笑みを煌めかせた。
アレックスのうしろには、王族を警護する近衛隊の隊士たちが目を光らせている。
ちなみに、わたしの前の人生では、王族を警護する為の近衛隊もまた宰相のジョエルに飼われていた。アレックスが国王の座を追われる際、近衛隊の隊長みずからがアレックスを拘束して森の中にある「物見の塔」へと連れて行き、そこに閉じ込めてしまったのである。
もちろん、いまは隊長も含めて完璧に警護しているけれど。
「やあ、ナオ」
「王子殿下、ご挨拶申し上げます」
そんな未来のことはともかく、あいかわらずアレックスは輝きまくっている。というよりか、異彩を放っている。
わたしのいまの人生の彼は、自信と生命力に溢れている。前の人生では、彼はわたし以外の人たちにたいしてただやさしいだけの人だった。王子としても王族の一員としても、ひたすら受け身だったしヤル気がなかった。
アレックスは、諦めと絶望と屈辱にまみれて殺さるという結末を迎えた。
彼は、自分が心から蔑んでいるわたしによって毒が仕込まれたスープを飲まされたのだ。
長年幽閉され、加齢と疲弊とでくたびれきったアレックスにくらべれば、いま目の前にいる彼の方が断然素敵であることはいうまでもない。
もっとも、わたしを揶揄ったりいじったりするのは控えて欲しいけれど。
それはともかく、大廊下をせわしなく移動している多くの人たちは、彼に挨拶をするというよりか敬意を払っている。彼は、それにたいしてわざわざ足を止めて応じている。
アレックスのそんなささやかな行動が、多くの人たちに感銘を与えるのだ。
「ナオ、パーティーは無事に始まったようだね」
「はい、殿下。宰相閣下の采配の下、いまのところは順調に進んでいるようです」
「宰相? きみのお膳立てのお蔭だよ」
アレックスがなにか言ったみたいだった。しかし、侍女が通りかかってそちらに気を取られてしまったので、よくきこえなかった。
「申し訳ありません。なにかおっしゃいましたか?」
「いや、いいよ。それよりも、おれたちだな」
「はい、殿下。それにしても、すこしはやくないですか?」
「ああ。はやめにきて、きみと打ち合わせをしておいた方がいいかなと思ってね。ほら、料理のことだよ。きみは、料理長と来賓用にとメニューを考えていただろう? おれも知っておいた方がいいのではないかな?」
(生真面目なアレックスらしい)
おもわず、笑ってしまった。
「ナオ、なんだい? おれは、なにか可笑しなことを言ったかい?」
「殿下、失礼いたしました。それでは、ご説明いたします」
「ああ、頼むよ」
食堂に入ると、いまから出す予定のメニューについてアレックスに説明をした。
彼が気をきかせてはやめに来てくれてちょうどよかったのかもしれない。
メニューのことで打ち合わせが出来ただけではない。彼に説明している間だけでも、わたし自身緊張をせずにすんだからである。
そして、いよいよ本番を迎えた。
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