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恐怖の朝礼
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前の人生では、朝礼や他の集まりのときにはいつも片隅で俯き目立たないようにしていた。堂々と胸をはって前を向き、周囲を見まわすことなどしたことがなかった。
朝礼や集会が始まるまでのひととき、周囲の人たちと挨拶を交わすことさえなかった。それどころか、噂話や愚痴を言い合うなど、わたしにとってはとてつもなくハードルが高かった。
(こんなに大勢の人たちが働いているのね)
こうして見まわしてみて、王宮で働いている人たちの多さに驚いてしまった。
もちろん、これですべてではない。今日休みの人やすでに働いている人もいる。
(これだけの人がいるなんて、さすがは王宮ね。それはともかく、どこに行こうかしら)
生まれかわってあたらしいバージョンのわたしの立ち位置を確認すべく、周囲を見まわした瞬間である。
「副侍女長、おはようございます」
「おはようございます。副侍女長」
「副侍女長、おはようございます」
食堂の入り口近くにいる侍女や執事や雑用人たちが、いっせいにこちらを振り返ったのだ。
(ひええええええっ!)
多くの人たちの視線と悪意にさらされ、以前のように心も体もすくんでしまった。
「副侍女長、ギリギリでしたね」
「副侍女長、みんな待っていたんですよ」
「侍女長、いまかいまかと待ち構えていますよ」
みんなの顔……。
他人の悪口や誹謗中傷をささやくどの顔も、たいていは意地悪で陰湿な表情をしている。
以前はそんな表情や悪意ある視線に耐えきれず、俯いているの頭を垂れる勢いで大理石の床を穴が開くほど見つめた。
が、生まれかわってあたらしいバージョンのわたしは違う。
そんなものにはめげず、みんなを見返した。
(んんんんんっ?)
だけど、なにか様子が違う。
みんな笑顔なのだ。いくつかある窓から射しこむ朝の陽の光の中、みんなの笑顔が輝いている。
(あれ、どうしてみんな笑顔なの? これはなにかの罠? もしかして、わたしを持ち上げどん底に突き落とそうとでも?)
だとすれば、朝一番からずいぶんと手が込んでいる。
しかし、「役立たず」なわたしにたいしてそんな計画を立てて実行に移すなんて、手間暇かけるわけはない。時間も労力もムダなだけ。
(だったら、これはなに?)
様子が違いすぎるので、心の中で警戒しまくってしまう。
「副侍女長、待っていたのですよ」
そのとき、甲高い声が飛んできた。
前の人生のときとちっともかわっていないその独特のソプラノボイスの持ち主は間違いない。
侍女長マリア・ビリンガム。そのレディしかいない。
ビリンガム伯爵家は、代々王宮で働く全使用人たちを束ねる役を仰せつかっている名門中の名門。
子女は侍女長、子息は執事長と代々引き継がれている。
マリアも例外に漏れず、まだ若いときにお母様から引き継いで侍女長を務めている。
わたしのもっとも苦手な人物でもある。
前の人生では、命と人生だけでなくいろいろなものを奪われた。彼女またそんなわたしからいろいろなものを奪ったひとりである。
もしも彼女がいなかったら、あるいは彼女がああではなかったら、わたしの前の人生はもう少し違ったものになったかもしれない。マシな人生が送れたかもしれない。
その結果、もしかすると殺されずにすんだかもしれない。
「副侍女長っ!」
いま、その彼女がわたしに向ってきている。しかも、すさまじい勢いでまっすぐこちらに向ってくる。
朝礼や集会が始まるまでのひととき、周囲の人たちと挨拶を交わすことさえなかった。それどころか、噂話や愚痴を言い合うなど、わたしにとってはとてつもなくハードルが高かった。
(こんなに大勢の人たちが働いているのね)
こうして見まわしてみて、王宮で働いている人たちの多さに驚いてしまった。
もちろん、これですべてではない。今日休みの人やすでに働いている人もいる。
(これだけの人がいるなんて、さすがは王宮ね。それはともかく、どこに行こうかしら)
生まれかわってあたらしいバージョンのわたしの立ち位置を確認すべく、周囲を見まわした瞬間である。
「副侍女長、おはようございます」
「おはようございます。副侍女長」
「副侍女長、おはようございます」
食堂の入り口近くにいる侍女や執事や雑用人たちが、いっせいにこちらを振り返ったのだ。
(ひええええええっ!)
多くの人たちの視線と悪意にさらされ、以前のように心も体もすくんでしまった。
「副侍女長、ギリギリでしたね」
「副侍女長、みんな待っていたんですよ」
「侍女長、いまかいまかと待ち構えていますよ」
みんなの顔……。
他人の悪口や誹謗中傷をささやくどの顔も、たいていは意地悪で陰湿な表情をしている。
以前はそんな表情や悪意ある視線に耐えきれず、俯いているの頭を垂れる勢いで大理石の床を穴が開くほど見つめた。
が、生まれかわってあたらしいバージョンのわたしは違う。
そんなものにはめげず、みんなを見返した。
(んんんんんっ?)
だけど、なにか様子が違う。
みんな笑顔なのだ。いくつかある窓から射しこむ朝の陽の光の中、みんなの笑顔が輝いている。
(あれ、どうしてみんな笑顔なの? これはなにかの罠? もしかして、わたしを持ち上げどん底に突き落とそうとでも?)
だとすれば、朝一番からずいぶんと手が込んでいる。
しかし、「役立たず」なわたしにたいしてそんな計画を立てて実行に移すなんて、手間暇かけるわけはない。時間も労力もムダなだけ。
(だったら、これはなに?)
様子が違いすぎるので、心の中で警戒しまくってしまう。
「副侍女長、待っていたのですよ」
そのとき、甲高い声が飛んできた。
前の人生のときとちっともかわっていないその独特のソプラノボイスの持ち主は間違いない。
侍女長マリア・ビリンガム。そのレディしかいない。
ビリンガム伯爵家は、代々王宮で働く全使用人たちを束ねる役を仰せつかっている名門中の名門。
子女は侍女長、子息は執事長と代々引き継がれている。
マリアも例外に漏れず、まだ若いときにお母様から引き継いで侍女長を務めている。
わたしのもっとも苦手な人物でもある。
前の人生では、命と人生だけでなくいろいろなものを奪われた。彼女またそんなわたしからいろいろなものを奪ったひとりである。
もしも彼女がいなかったら、あるいは彼女がああではなかったら、わたしの前の人生はもう少し違ったものになったかもしれない。マシな人生が送れたかもしれない。
その結果、もしかすると殺されずにすんだかもしれない。
「副侍女長っ!」
いま、その彼女がわたしに向ってきている。しかも、すさまじい勢いでまっすぐこちらに向ってくる。
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