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近道をした末路

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 庭師たちの朝は早い。すでに何名かの庭師が作業を始めている。

 馬車道から庭園へと入った。

 宮殿の使用人や関係者専用の通用口までの近道をちゃんと覚えているのに驚いた。

 というか、足が勝手に動いている。頭ではなく、体が覚えているということかもしれない。

 まだわたしが侍女になった頃、庭園にはバラ専用のエリアがあった。そのバラ園を横切るのが、通用口までの最短ルートなのである。

(この近道、だれも使わないなんて損しているわよね)

 だれもこの近道に気がついていないのかもしれない。あるいは、気がついているとしても近道なんて王宮で働いている者のすることではないと思っているのかもしれない。

 わたし自身、王宮付きの侍女としての自覚がないというわけではない。しかし、時間の短縮とかなにかを省略するとかは、可能であればやった方が効率的だと思っている。

 仕事でもそう。なにもかもマニュアル通りというのは、ときとして時間がかかったり非効率的であったりする。

『臨機応変にすべし』

 というわけで、わたし個人はそうしている。だけど、みんなからすればそれが怠慢であったりサボっていると感じるみたい。

 そして、「役立たず」と判断される結果となる。

(たしかに、すこしでもラクにとか負担にならないように、という意図もあるけれど)

 王宮のルールや慣習が正義であり、それ以外が悪という風潮。

 それは、仕方のないこと。

 前の人生のわたしは、ずっとそう思っていた。そのように諦めていた。だから、従っていた。というよりか、従わざるを得なかった。

 それなのに、結局は不慮の死を迎えた。理不尽にも殺されてしまった。

 従ったとしても死んでしまう。ということは、従わなくてもいいのでは?

 という極論にいたった。


 バラ園の柵をピョンと飛び越えつつ、その極端な発想に自分で苦笑してしまった。

 早歩きから助走をつけ、もうひとつの柵を飛び越えた。

 じつは、バラ園はいつも閉じられている。

 わたしがまだ王宮付きの侍女になる前、事故があったらしい。バラ園そのものは取り壊されることはなかったけれど、その事故以降庭師以外は中に入ることが出来なくなっている。

 だから、柵が二重に設置されていて、近道の際にはそのふたつの柵を飛び越えるのである。

 もちろん、歳をとってからは飛び越えるどころか助走をつけることさえ出来なくなったけれど。

 それどころか、死ぬ大分と前からこの近道さえ使わなくなった。

 だからこそ、死に戻ったいまこの近道が新鮮でならない。ひさしぶりにジャンプまでした。というか、柵を飛び越えることが出来た。

「この若さに乾杯ね。『役立たず』のわたしでも、若いときには柵を飛び越えることなど造作もなかったのよ。まぁ、小さくて痩せているから身が軽いというのもあるのかもしれないけれど」

 自分の心身の若返りがうれしくなり、つい声に出して言っていた。

 若さだけではなく、わたしの体型にも乾杯したくなった。

(とはいえ、背が低いから存在を悟られず、予期せぬ場面を見聞きしてしまったり、知りたくないことを知ってしまったりということもあるけれど)

 向こうから見えないから、意図せずそれらが発生してしまう。

 わたしが殺されてしまったことについても、そもそもそれが原因のひとつなのだ。

「おやおや、ずいぶんとお転婆なんだな」

 そのことに思いいたった瞬間、そんな声が飛んできた。

「キャッ!」

 突然のことに、口から勝手に悲鳴が飛び出していた。

 しかもその拍子にちょっとしたくぼみに気がつかず、おもいっきりつまずいてしまった。

「おっと」

 前のめりに倒れ込みそうになったけれど、だれかに抱きとめられた。

「お転婆の上にドジッ娘でもあるな」

 分厚い胸板、それから筋肉質な両腕。

 抱きとめられたそのがっしりとした胸元から視線を上げた。

 朝の陽の光をバックいし、驚くほどの美貌がそこにある。

 美しい顔に浮かぶ美しい笑み。小説みたいだけれど、歯までキラキラ輝いている。

 まるで王宮内にこれみよがしに設置されている絵画や彫刻の人物のように美しい。 

 元国王、いいえ、いまはまだ王子であるアレックス・リチャードソンが、キラキラ光り輝きながらわたしを見おろしている。
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