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三 天狗と優斗とオレの話(3)
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「ん?」
「わっ。急に飛び出してきて、どうしたんだ?」
今日は久々に母さんたちの帰りも遅いし、優斗が降りてこないなら一緒に魔永久とごはんを食べる予定だったんだが、キッチンにつくやいなや急に魔永久が俺の手から飛び出してきてた。
オムライス、そんなに食べたかったのかな?
「なんか、鳥くさい」
「鳥? オムライスの中に鶏肉入ってるから?」
そんなに匂うか? どちらかというと、ケチャップの匂いしかいないけどな。
「違う。そんないい匂いじゃない。山ン中で泥くっさい修行を無駄に積んだ汗くせぇ鳥の匂いがするって言ってんのっ!」
「なんだそれ」
そんな限定的な鳥いるのか?
「おいっ! そこにいるんだろっ!」
魔永久が階段に向かって叫ぶと、上からゆっくりと誰かが降りてくる。
オレは階段から降りてくる白い靴下を履いた足を見て、とても驚いた。
同時に、声をあげる。
「優斗っ!?」
オレをずっと避けていた優斗が、自分から俺のいるところに来てくれた。
「……マモルの弟?」
「そうだよ、魔永久。だから、優斗に剣先向けないでくれるか?」
「あれぇ? 他に誰かいたと思ったんだけど……」
でも、そこには優斗以外誰もいない。きっと魔永久の勘違いかなにかだろう。
「マモル、そいつ早く仕舞って」
「あ? なんだこのガキ。後から出て来て偉そうに」
「いやいやいや。誰でも日本刀が自分に向かって剣先向けてたら怖いだろ。ほらほら。オムライスはあとで作るからちょっと待っててくれよ」
「マモルも甘やかすなよ。弟君も、もう齢十を超えてるんだろ? 平安時代だと大人に属するんだぞ?」
「今は平安時代じゃないだろ。でも、優斗も魔永久のことをそいつ呼ばわりは良くないな。魔永久はオレたちのことを助けて……」
「頼んでない」
「……優斗」
なんでそんな言い方を……。
「魔永久、ごめんな。ちょっと優斗の機嫌が悪いみたいで……」
なんて言えばいいのかわからなかった。優斗にも、魔永久にも。
「はぁ、いいよ、いいよ。ボクは大人しく腕の中にいるからいいよ。でもさ、マモル。さっきの話じゃないけど、馬鹿正直なのは褒められることばかりじゃないんだよ。ちょっと考えて、話し合った方がいい」
「魔永久?」
どういうことだ?
「……すぐ人に聞くのはいいところも悪いところもあるってこと。じゃ、オムライスできたら声かけて」
そういうと、魔永久はさっさとオレの腕の中に入ってしまった。
「うぇ……」
俺の中では見慣れた景色だったが、初めて見る優斗には中々気持ち悪い様子だったのか舌を出される。
隠した方がよかったのかな……。
「ごめんな、優斗。あ、そうだ。 腹は減ってるか? 何か食べるか? ごはんがいいか?お菓子がいいか? 飲み物は?」
オレはせっせと優斗の場所を用意して、何が欲しいかを聞きながらお菓子を出して、ジュースを注いで。いつもみたいに世話を焼きはじめた。
どうせ優斗は何も言わない。全部出せばどれか当たるだろう。
なのに。
「……ごはんが食べたい」
「えっ?」
いま、なんて?
「ごはん」
「あ、ああっ。わかった」
「なに?」
いや、だって。
今までオレの質問に答えてくれたことなんてほぼないのに。なんで今日は答えてくれるのか。驚かない方が無理ってもんだろ?
しかし、そのまま素直に言ってしまえば絶対に優斗の機嫌は悪くなる。
正直に言ってなにが悪いのかわからないけど、優斗は昔からわがままだしなぁ……。
「なんでもない。今日オムライスだけどいいか?」
優斗が一緒にたべるだなんて思ってなかったから、卵足りるかな? 最悪、俺の卵を魔永久にあげれば……。
「は? いやだけど。オムライス嫌いなの知ってるだろ?」
「え」
まさか断られるとは思っていなかったので、思わず聞き返してしまった。
「だから、それいやがらせかって聞いてんだよっ!」
「あ、いや、ごめん……」
優斗がオムライスを嫌いだなんて今日初めて知ったことだ。
オムライスが駄目なら、ラーメンでも……。
「違うのを作るから少し待っててくれるか?」
オレは慌てて冷蔵庫を開けながらラーメンを探し出した。
早くしないと優斗の気が変わってしまう気がして、のんびりとはしたくなかったからだ。
だから気付かなかった。
優斗が音もなくオレの背中に立っていたことも、その優斗の手に握られていたものがなにかも。
気付いた時には、すべてが遅すぎたんだ。
「いいよ、急がなくて」
オレのすぐ後ろから優斗の声がすることに驚いて、オレが振り向くと先ほどまでは階段の近くにいたはずの優斗が目の前にいた。
いつの間に?
足音は愚か、気配にさえ気づかなかったなんて。
「でも、腹が減ってるんだろう? ごはん食べたいって……」
「ああ、うん。あれね、嘘だからいいよ。お前が作ったもんなんて食べたくないし」
「え?」
嘘?
優斗は一体なにを言っているんだろう。
「あの化け物を仕舞って欲しかっただけ。アレがあるから俺に勝っているとか思ってるんだろ?」
「優斗? なにを言ってるんだ? 勝ってる?」
「そうだ。自分か特別に選ばれたなにかだと思って俺に命令したり偉そうにしてるんだろ? お前はそんな汚い人間だ」
「そんなことは一度も思ったことはないっ!」
命令? 一体いつオレが優斗に命令なんてしたんだよっ。
「噓つき。お前は自分だけが特別だと思っているんだ。違うよ。今日から特別なのは俺の方だ」
「っ!」
優斗は突然オレの右手腕を強く叩いた。
なんだ?
オレは右腕を見ると……。
「お札?」
古びた札がオレの腕に張り付いていた。
「はは。お似合いだぜ、マモル。お前は今から普通の人間に戻ったんだよ」
普通の人間?
まさか……。
「魔永久っ!」
手のひらに向かって名前を呼んでも、魔永久は剣先を出すどころか返事すら帰ってこない。
「おや、勘が良いね。守君」
知らない声が聞こえる。
優斗の声でも、魔永久の声でもない男の声が。
「人間からはそのお札の効能、あの封印の石と同じ構成でできてるからわからないはずなんだけどな」
優斗の影から真っ黒い羽がでてくる。
まるで烏の羽の様に黒い羽は大きく大きく広がって、やがて真ん中に人影を作った。
やや長い黒い髪に、着物のような、スカートのような、ズボンのような服を着た男が一人、金色の長いジャラジャラした棒を持って楽しそうに笑っていた。
「……誰だ?」
「ハロー。僕はね、烏天狗のネクロ。漢字で書くと難しいから英語みたいな発音で呼んでくれていいよ」
ネクロと名乗った男が二本の指を横に切れば、オレの腕に激しい痛みが走った。
「っ!?」
このお札、まさか……。
「お前が、優斗に……っ」
このお札を渡したのか?
「そうそう。優斗君にお願いしたら貼ってくれて助かったよ。封印の石の最後の効力である嗅覚だけはまだ戻ってないみたいでよかった。一瞬僕のフローラルな匂いがするって言われてドキッとしたけど、優斗君の影に隠れてたらわからなかったなんて、笑っちゃうよね。あの魔永久が、さ」
魔永久が感じていた匂いは、勘違いじゃなかったってこと?
そう言えば、鳥の匂いがするって……。
いや、待てよ。
「まさか、包丁の化け物を片づけたり、封印の石を戻したのも……」
だって蛇乃目が言っていたじゃないか。『カラス』の気配がしたって。
「ご名答。魔永久がどこまで能力が戻っているか確認したかったのと、封印の石の構造を知りたかったんだよ。この世の中探しても、魔永久を封印できるだけの代物は中々お目にかかれないからね。だから、他の妖怪や魔永久に気付かれる可能性があったとしてもどうしても見ておきたかったんだ」
意味のある行動に、ゾクリと肩を震わせる。
今まで魔永久を通してみてきた妖怪は、自分の力だけで襲ってくるやつらばかりだった。純粋な力比べで魔永久を襲ってきていたのに、ネクロは違う。
「驚いてる? 知的な妖怪もいるって。なに言ってんの。人間にも色々な部族や人種がいるみたいに妖怪にだって色々といるんだよ。烏天狗はその中でも最高に近い知能を持った集団だ。ま、僕は烏天狗の集団から追い出されちゃったわけだけど」
「……嫌われてるのか?」
「さあね。でも、烏天狗の集団から外れて一ついいことがあるんだ。烏天狗っていろいろルールが沢山あるんだよ。アレもダメ、コレもダメ。つまらない集団でさ。この頭脳も能力も仲間のため以外使わずに山の中にいろってね。なんてつまらないんだと思わない?」
そう、ネクロは笑った。
一体、なにが言いたいんだ?
「ネウロ、話しすぎだろ。早くマモルをやっつけろよ」
「まあまあ、優斗君。焦らない、焦らない。守君、あんな集団抜けてよかったとおもうこと、なんだと思う?」
「……ルールをまもらなくていいこと、だろ?」
「おや、正解だ。烏天狗のルールの一つに不殺の誓いというものがあってね、妖怪も人間も我々の領域を冒さないものは殺さないってルールなんだけどさ、バカバカしいと思わない? 僕たちは生まれて羽の根が乾いた瞬間から烏天狗として厳しい修行をさせられる。強く強くなるために。でも、烏天狗は既に強すぎて他の妖怪も人間も我々と喧嘩しようとはしてくれない。じゃあさ、僕はなんのためにあんな血の吐くようなことをされられたんだろうね。なんのために、使わない力を与えられたんだろうね。他の烏天狗は知らないけど、僕はその修行の成果を見たいんだよ」
「それって……」
「烏天狗の集団から抜けた僕には色々な妖怪からの依頼がくる。なんたって、あの最強の烏天狗だからね。自分たちの力じゃ到底倒せれない敵を殺してくれって、色々な貢物を持ってくるんだ。食べ物、酒、金銀財宝に金に、山。自分の仲間や娘を対価として差し出すやつもいるぐらいだ。今回は最高額だよ。魔永久」
「っ!」
ネクロの手の動きに、腕がまた激しく痛みだす。
「魔永久は死なない。切っても、焼いても、煮てもなにしても、死なない。この世の理とは違う『魔人』という外の世界から来た異世界人だから、この世の理では殺せないんだ。けども、それは魔永久が魔永久の時に限った話。この世のもが入れば、魔永久でもこの世の理の中で殺せる」
オレの中であの時の魔永久の言葉が流れた。
『ボクはマモルで、マモルはボクだ』
もしかして、そのこの世のものって……。
恐る恐る顔をあげると、ネクロが細い目をもっと細めて笑った。
「そうだよ、君のことだよ。守君っ」
「わっ。急に飛び出してきて、どうしたんだ?」
今日は久々に母さんたちの帰りも遅いし、優斗が降りてこないなら一緒に魔永久とごはんを食べる予定だったんだが、キッチンにつくやいなや急に魔永久が俺の手から飛び出してきてた。
オムライス、そんなに食べたかったのかな?
「なんか、鳥くさい」
「鳥? オムライスの中に鶏肉入ってるから?」
そんなに匂うか? どちらかというと、ケチャップの匂いしかいないけどな。
「違う。そんないい匂いじゃない。山ン中で泥くっさい修行を無駄に積んだ汗くせぇ鳥の匂いがするって言ってんのっ!」
「なんだそれ」
そんな限定的な鳥いるのか?
「おいっ! そこにいるんだろっ!」
魔永久が階段に向かって叫ぶと、上からゆっくりと誰かが降りてくる。
オレは階段から降りてくる白い靴下を履いた足を見て、とても驚いた。
同時に、声をあげる。
「優斗っ!?」
オレをずっと避けていた優斗が、自分から俺のいるところに来てくれた。
「……マモルの弟?」
「そうだよ、魔永久。だから、優斗に剣先向けないでくれるか?」
「あれぇ? 他に誰かいたと思ったんだけど……」
でも、そこには優斗以外誰もいない。きっと魔永久の勘違いかなにかだろう。
「マモル、そいつ早く仕舞って」
「あ? なんだこのガキ。後から出て来て偉そうに」
「いやいやいや。誰でも日本刀が自分に向かって剣先向けてたら怖いだろ。ほらほら。オムライスはあとで作るからちょっと待っててくれよ」
「マモルも甘やかすなよ。弟君も、もう齢十を超えてるんだろ? 平安時代だと大人に属するんだぞ?」
「今は平安時代じゃないだろ。でも、優斗も魔永久のことをそいつ呼ばわりは良くないな。魔永久はオレたちのことを助けて……」
「頼んでない」
「……優斗」
なんでそんな言い方を……。
「魔永久、ごめんな。ちょっと優斗の機嫌が悪いみたいで……」
なんて言えばいいのかわからなかった。優斗にも、魔永久にも。
「はぁ、いいよ、いいよ。ボクは大人しく腕の中にいるからいいよ。でもさ、マモル。さっきの話じゃないけど、馬鹿正直なのは褒められることばかりじゃないんだよ。ちょっと考えて、話し合った方がいい」
「魔永久?」
どういうことだ?
「……すぐ人に聞くのはいいところも悪いところもあるってこと。じゃ、オムライスできたら声かけて」
そういうと、魔永久はさっさとオレの腕の中に入ってしまった。
「うぇ……」
俺の中では見慣れた景色だったが、初めて見る優斗には中々気持ち悪い様子だったのか舌を出される。
隠した方がよかったのかな……。
「ごめんな、優斗。あ、そうだ。 腹は減ってるか? 何か食べるか? ごはんがいいか?お菓子がいいか? 飲み物は?」
オレはせっせと優斗の場所を用意して、何が欲しいかを聞きながらお菓子を出して、ジュースを注いで。いつもみたいに世話を焼きはじめた。
どうせ優斗は何も言わない。全部出せばどれか当たるだろう。
なのに。
「……ごはんが食べたい」
「えっ?」
いま、なんて?
「ごはん」
「あ、ああっ。わかった」
「なに?」
いや、だって。
今までオレの質問に答えてくれたことなんてほぼないのに。なんで今日は答えてくれるのか。驚かない方が無理ってもんだろ?
しかし、そのまま素直に言ってしまえば絶対に優斗の機嫌は悪くなる。
正直に言ってなにが悪いのかわからないけど、優斗は昔からわがままだしなぁ……。
「なんでもない。今日オムライスだけどいいか?」
優斗が一緒にたべるだなんて思ってなかったから、卵足りるかな? 最悪、俺の卵を魔永久にあげれば……。
「は? いやだけど。オムライス嫌いなの知ってるだろ?」
「え」
まさか断られるとは思っていなかったので、思わず聞き返してしまった。
「だから、それいやがらせかって聞いてんだよっ!」
「あ、いや、ごめん……」
優斗がオムライスを嫌いだなんて今日初めて知ったことだ。
オムライスが駄目なら、ラーメンでも……。
「違うのを作るから少し待っててくれるか?」
オレは慌てて冷蔵庫を開けながらラーメンを探し出した。
早くしないと優斗の気が変わってしまう気がして、のんびりとはしたくなかったからだ。
だから気付かなかった。
優斗が音もなくオレの背中に立っていたことも、その優斗の手に握られていたものがなにかも。
気付いた時には、すべてが遅すぎたんだ。
「いいよ、急がなくて」
オレのすぐ後ろから優斗の声がすることに驚いて、オレが振り向くと先ほどまでは階段の近くにいたはずの優斗が目の前にいた。
いつの間に?
足音は愚か、気配にさえ気づかなかったなんて。
「でも、腹が減ってるんだろう? ごはん食べたいって……」
「ああ、うん。あれね、嘘だからいいよ。お前が作ったもんなんて食べたくないし」
「え?」
嘘?
優斗は一体なにを言っているんだろう。
「あの化け物を仕舞って欲しかっただけ。アレがあるから俺に勝っているとか思ってるんだろ?」
「優斗? なにを言ってるんだ? 勝ってる?」
「そうだ。自分か特別に選ばれたなにかだと思って俺に命令したり偉そうにしてるんだろ? お前はそんな汚い人間だ」
「そんなことは一度も思ったことはないっ!」
命令? 一体いつオレが優斗に命令なんてしたんだよっ。
「噓つき。お前は自分だけが特別だと思っているんだ。違うよ。今日から特別なのは俺の方だ」
「っ!」
優斗は突然オレの右手腕を強く叩いた。
なんだ?
オレは右腕を見ると……。
「お札?」
古びた札がオレの腕に張り付いていた。
「はは。お似合いだぜ、マモル。お前は今から普通の人間に戻ったんだよ」
普通の人間?
まさか……。
「魔永久っ!」
手のひらに向かって名前を呼んでも、魔永久は剣先を出すどころか返事すら帰ってこない。
「おや、勘が良いね。守君」
知らない声が聞こえる。
優斗の声でも、魔永久の声でもない男の声が。
「人間からはそのお札の効能、あの封印の石と同じ構成でできてるからわからないはずなんだけどな」
優斗の影から真っ黒い羽がでてくる。
まるで烏の羽の様に黒い羽は大きく大きく広がって、やがて真ん中に人影を作った。
やや長い黒い髪に、着物のような、スカートのような、ズボンのような服を着た男が一人、金色の長いジャラジャラした棒を持って楽しそうに笑っていた。
「……誰だ?」
「ハロー。僕はね、烏天狗のネクロ。漢字で書くと難しいから英語みたいな発音で呼んでくれていいよ」
ネクロと名乗った男が二本の指を横に切れば、オレの腕に激しい痛みが走った。
「っ!?」
このお札、まさか……。
「お前が、優斗に……っ」
このお札を渡したのか?
「そうそう。優斗君にお願いしたら貼ってくれて助かったよ。封印の石の最後の効力である嗅覚だけはまだ戻ってないみたいでよかった。一瞬僕のフローラルな匂いがするって言われてドキッとしたけど、優斗君の影に隠れてたらわからなかったなんて、笑っちゃうよね。あの魔永久が、さ」
魔永久が感じていた匂いは、勘違いじゃなかったってこと?
そう言えば、鳥の匂いがするって……。
いや、待てよ。
「まさか、包丁の化け物を片づけたり、封印の石を戻したのも……」
だって蛇乃目が言っていたじゃないか。『カラス』の気配がしたって。
「ご名答。魔永久がどこまで能力が戻っているか確認したかったのと、封印の石の構造を知りたかったんだよ。この世の中探しても、魔永久を封印できるだけの代物は中々お目にかかれないからね。だから、他の妖怪や魔永久に気付かれる可能性があったとしてもどうしても見ておきたかったんだ」
意味のある行動に、ゾクリと肩を震わせる。
今まで魔永久を通してみてきた妖怪は、自分の力だけで襲ってくるやつらばかりだった。純粋な力比べで魔永久を襲ってきていたのに、ネクロは違う。
「驚いてる? 知的な妖怪もいるって。なに言ってんの。人間にも色々な部族や人種がいるみたいに妖怪にだって色々といるんだよ。烏天狗はその中でも最高に近い知能を持った集団だ。ま、僕は烏天狗の集団から追い出されちゃったわけだけど」
「……嫌われてるのか?」
「さあね。でも、烏天狗の集団から外れて一ついいことがあるんだ。烏天狗っていろいろルールが沢山あるんだよ。アレもダメ、コレもダメ。つまらない集団でさ。この頭脳も能力も仲間のため以外使わずに山の中にいろってね。なんてつまらないんだと思わない?」
そう、ネクロは笑った。
一体、なにが言いたいんだ?
「ネウロ、話しすぎだろ。早くマモルをやっつけろよ」
「まあまあ、優斗君。焦らない、焦らない。守君、あんな集団抜けてよかったとおもうこと、なんだと思う?」
「……ルールをまもらなくていいこと、だろ?」
「おや、正解だ。烏天狗のルールの一つに不殺の誓いというものがあってね、妖怪も人間も我々の領域を冒さないものは殺さないってルールなんだけどさ、バカバカしいと思わない? 僕たちは生まれて羽の根が乾いた瞬間から烏天狗として厳しい修行をさせられる。強く強くなるために。でも、烏天狗は既に強すぎて他の妖怪も人間も我々と喧嘩しようとはしてくれない。じゃあさ、僕はなんのためにあんな血の吐くようなことをされられたんだろうね。なんのために、使わない力を与えられたんだろうね。他の烏天狗は知らないけど、僕はその修行の成果を見たいんだよ」
「それって……」
「烏天狗の集団から抜けた僕には色々な妖怪からの依頼がくる。なんたって、あの最強の烏天狗だからね。自分たちの力じゃ到底倒せれない敵を殺してくれって、色々な貢物を持ってくるんだ。食べ物、酒、金銀財宝に金に、山。自分の仲間や娘を対価として差し出すやつもいるぐらいだ。今回は最高額だよ。魔永久」
「っ!」
ネクロの手の動きに、腕がまた激しく痛みだす。
「魔永久は死なない。切っても、焼いても、煮てもなにしても、死なない。この世の理とは違う『魔人』という外の世界から来た異世界人だから、この世の理では殺せないんだ。けども、それは魔永久が魔永久の時に限った話。この世のもが入れば、魔永久でもこの世の理の中で殺せる」
オレの中であの時の魔永久の言葉が流れた。
『ボクはマモルで、マモルはボクだ』
もしかして、そのこの世のものって……。
恐る恐る顔をあげると、ネクロが細い目をもっと細めて笑った。
「そうだよ、君のことだよ。守君っ」
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