26 / 55
第2章:冷静に竜人国へ駆け落ちする
26:冷静に竜人基礎学
しおりを挟む翌朝、7:00には目が覚め身支度を始めていた。
ここのファッションってちょっとしたルールがあるのよね…そんなことを呟きながら私は、
シエルさんが選んでくれた月日色の短い小袖に、天色のスカートを巻いて、最後に透け感のある薄花桜の帯を締めていた。
ここの国では、月を第一に、太陽を第二に崇めている。そのため天候は神からのいわばお告げであり重要な事柄なのだそうだ。故に、服装もその日の天候に合わせて、晴れていたら空色系、曇っていたら鼠色系など、天気の様子を体に纏う習慣があるらしい。帯は季節の草花を意識して、それらが天とそして自分とを結び止める役割をするのだという。なかなか乙な文化だ。
湿気が多いこの国ではこれから髪はなるべく上げておこう。
鏡の前に立って髪を結びながら、窓から見える今日の天気の様子と自分の服装を見比べた。
今はちょうど桜が散り終わり新緑の香りがし始めたとき、天は晴天。
なんだか素敵な1日を迎えそうな気がする。
こうして8:30には身支度を終えると一階の居間にきていた。
いつもだったらマナーレッスンが始まる時間帯である。しかし、誰もいない。
夜はあんなにいたお手伝いさんの姿もからっきしない。私は仕方なく長椅子に腰かけるとただただポカーンとしていた。これからどうしよう。
そっと広場に目配せする。
広場には敷物が敷かれ、なにやら使い終わったグラスやらさらやらが小さな簡易テーブルの上で乱雑している。
暇だし片付けでもしよっかなぁ‥
(→えっえええ??)
おはよう、エフィス。
(→私は今二重の意味で驚いています。
一つ目は、この世界の令嬢は一人で身支度をこうも制服を着るようにきつけることはできませんし、食べ残しの後片付けなんか持ってのほかということ。
そして第二に、あなた、あんなに部屋の片付けが苦手なのにこれまたどういう風の吹き回しよ!)
なんと言いますか‥暇すぎて自分の身の置き場を探していまして。そしたら掃除する羽目になりました‥。それに、この家に泊めてもらえて、しかも竜人のことも教えてくれるのなら、私も何かした方がいいなと思いまして‥
私は広場に行きおもむろに片付け始めた。
そしてその間に、月光浴のことを思い出し、エフィスが言っていた、竜人は毎日するものという言葉を思い出し、納得していた。
「うん?アティスか??おはよう、早いな」
顔を上げるとファイさまが柱に寄りかかって私を見ていた。
「すまんな、月光浴と酒のせいですっかり騒いでそのままにしてしまった。
アティスは昨日月光を浴びていないし、今日は無理しないようにな。
そ、それとアティス…」
サーッと風が私たちの間を駆け抜けた。
広場に昨晩降り積もった桜の花びらが、弧を描いて舞い上がる。
あたり一面、ほのかな桜の香りに包まれた。
ファイさまは目を小さく見開きその後ゆっくり私に微笑みかけた。
「今日の日和は、アティスを映したようだ。」
そう言うと、ファイさまは門から出て行った。
その場で私はしばらくぽーっと立ち尽くしてしまうのだった。
****
10時ごろやっとみんな起き始め私たちはブランチを食べていた。
ファイさまは夜まで帰ってこないのだという。
食事の後、ダンテさんがある古そうで薄くて皺皺な本を私とショーンに渡した。
「竜人の基礎知識についてこの本に書いてあります。まずはそれを読み、わからないことがあれば私になんでも聞いてください。」
そういうと、ダンテさんは部屋を出て行ってしまった。
「ちえっつ!この本俺何回も読んでるし!!もう読みたくない!!アティス。悪いけど、俺、ミーヤたちと遊んできてもいいか??俺おとなしく座ってるの苦手でな。」
ミーヤたちとは昨日広場で走り回っていた子供たちのことなのだろう。
「いいですよ!遊んできてください!」
彼はそれを聞くと大きく笑って、勢いよく扉を開きかけて行った。
****
『5項目で学ぶ竜人基礎学書』
はじめに
竜人とは、もともとはドラゴンと、月人の間に生まれた天にゆかりのある血族を指す。
月は我々先祖の故郷であり、力の源。月は絶対的私たちの母なのである。
1:
竜人は三つの姿をもつ。
一つ、月人のすがた。
二つ、ドラゴンの姿。
三つ、鳥の姿。
(→そうでしたか、シエルさんは第一印象が鳥でしたが竜人さんでしたのね)
2:
竜人は月光浴をすることで魔力量を回復する。
できれば毎日することが好ましい。
諸説によるが、三日までは月光がなくとも体が動くらしい。
月光を過剰摂取すると、頭がホワホワして月酔いをするので注意。
三日って!私が気を失っている時、一週間気を失っていたから…危なかった。
3:
竜人の平均寿命は千から三千年と言われている。
なっ、長~!!
(→寿命は長いですけど、ここだけ説明異様に短っつ!!)
4:
竜人と人間の歴史
人間は愚かで臆病な生き物である。
寿命はとても短く、人が死ぬたびに、考えは変わるものだと心に刻め。
私たち竜人の驚異的な強さを見て、ある時代の人間は私たちを神として祀り、ある時代の人間は、私たちを神への生贄として捧げ、ある時代の人間は、神を滅したものとして攻め立てた。
今、そなたたちがこれを手にしている時代がどうであるかは知らない。
ただ、人間と手を結ぶことは竜人の私たちにとってなんの利も生まないことだけは言えよう。
5:
竜人の死後
我ら竜人は、死後、月の世に帰り、生者に魔力を付与するのを手伝う存在になると言われている。また、その恩恵で我らの死体はあらゆる効能を与える月の遺物となる。ドラゴンも、月の恩恵から、雄の鱗は鋼のように強く、雌の鱗は、煎じて飲むと薬になる。しかし、我ら竜人の場合、強いや効き目があるというだけではなく、魔力付与が加算され、ドラゴンよりも性能が格段良くなり、場合によっては、歴史で述べたように、術者が神への生贄として我らを呪いや占いに使った例もある。
我々は、同族の死体を決して人間に渡してはならない。渡る度に戦になる。
そして、我々は、死者に敬意を払い、力を借り、己の最後には力を返すことを繰り返さねばならない。
(→つまり竜人たちは、同族の死体を人間には渡さず、貴重な資源として自分たちで利用しているということですかね)
そ、そういうことか…要約してくれてありがとう。
最後に
この5項目で学ぶ竜人基礎学書を読んでくれた若者たちよ、ありがとう。
そして、若者たち。年配者には敬意を払え。なぜなら、自分より年下の竜人の感情は年上の竜人からは手に取るようにわかってしまう。いつもプンスカするな。
これから先は長い。堂々と月に恥じぬよう、生きてくれ。
著者:アクエス
****
(→アクエス~!!我が夫よ!!アクエスが書いたのですか!!それはそれは!!)
しばらくエフィスの興奮した感情が爆発していた。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~
紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。
行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。
※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

小柄な竜姫は美貌の宰相と結婚したい
歌龍吟伶
恋愛
竜人、それはドラゴンと人間の間に生まれた種族。
普段は人間の姿だか、戦いの場や感情が昂った時などはドラゴンに変化する。
長い時を経てその存在は世界から認められ、建国した。
デューレイシャ大陸の南東に位置するその名は、ドラリオン竜国。
国王の一人娘であるリューファは、火竜である父王の血を濃く受け継ぐ御転婆娘。
人間族である宰相に恋する乙女だ。
素敵なレディになって歳上宰相を振り向かせたいお姫様の物語
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる