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第二章 アーウェン少年期 領地編

伯爵は領都で報告を受ける ③

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たとえ平民だったとしても自分の身を飾る物が、夫となる男が貴婦人に侍った報酬として与えられた物だなどと、気を良くするはずもない。
しかも単にそばにいただけでなく──間違いなく身体を結んだなどと自慢するなど、正気の沙汰とも思えなかった。

ラウドとて健全な男性である。
今回のように妻が同行している時ならばあり得ないが、近隣国との小競り合いで魔術の使える斥候隊を本隊に先んじて率いるなど、男所帯での期間が続く時には娼館を利用することもないわけではない。
だがそんなふうに自分の中の澱を発散させたとしても、そこで娼婦に情けをかけるわけでもなく、もちろん妻に不快な思いをさせるような贈り物などすることもなかった。
それはターランド伯爵家に所属する以上決して破ってはならない規則であり、妻帯ではなく恋人がいる者でも遵守されている。
というよりも隊長や副隊長などの役職付きが自分の隊の者たちに目を光らせ、それぞれの隊がどれだけ規律を守るかと競っていた。
もちろん全員がそのように行儀がいい者ばかりではなく、男女間のいざこざで風紀が乱れる場合もある。
そういった問題がキッチリと片付かなければ、たとえ前線にあっても隊ごと王都のターランド邸に訓練の必要有りとされ、『出戻り隊』と揶揄される。
それはどう考えても『恥』で、行動が改まらない者は脱落していくし、そうでない者は精鋭として鍛えられていく──そうして培われた強い連帯感は、ターランド伯爵家に所属している兵だけでなく使用人にも根付いていた。

そしてそれは生まれた時からターランド伯爵邸で育てられ執事として代々勤めるダレニア家のひとり息子である、ロフェナ・グラウも例外ではなかった。

しかし気になるのは平民とはいえどアーウェンを『癒した』という一文である。
これは文字通り『治療』をしたのか、精神的に支えとなった意味なのか、あるいは魔力持ちという意味なのか──
「この村の方は……」
「はい。リグレ坊ちゃまから別に本邸の方へも三男殿から聞き出したことが伝えられ、今の報告書にまとめられたのが調査済みの部分ですが、旦那様がお気づきになった件に関して、引き続き深く探れないかと潜入して調査中とのことです」
最期まで言われずとも、ロフェナも次期当主であるリグレの専属執事として父であるバラットを越えようと、主人が手に入れたいと思う情報を先んじて手に入れようと努力していた。


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