その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

文字の大きさ
216 / 437
第一章 アーウェン幼少期

少年は眠って得たことを語る ①

しおりを挟む
そして今はラリティスが使った音を封じ込めて再び聞かせる魔術や、限定範囲の防音術について興味を示し、キラキラと目を輝かせている。
ヴィーシャムは先ほど宿を出る前に、午前の教育のために居残るエレノアを少し不安そうな目で見ながら、カラの手に縋るようにして出て行ったアーウェンの後ろ姿と、今目の前にいる好奇心にはち切れんばかりのアーウェンとを思い比べ、その違いに思考を巡らせた。
何より発声の量が違う。
少しどもりがちで自信の無さげだった朝の挨拶に比べ、今は実年齢に近い喋り方になっている。
しかも今まで使っていなかった喉の筋肉を酷使するかのようにとめどなく喋り、カラに自分の語彙では足りない言葉をどうにか説明しようとしているのだ。
「……アーウェン」
「あっ、はい!母様」
名を呼ばれてもまずは本当に自分が呼ばれたのかと伺い、躊躇うような返事をしていた少年は、素早くこちらに顔を向けて返事をした。
今までも尋常ではなかったが、今度は反対方向への異常性を見せていることで、ヴィーシャムは今すぐアーウェンに何が起きたのかを聞きたいという気持ちと、これは伝聞ではなく、実際に夫に見せた方がよいのではないかという葛藤に揺れる。
「眠っている間に、何がありましたか?」
「……長くなります」
「構いません」
けっきょく好奇心が勝り、ヴィーシャムはのどを潤すためのお茶や蜂蜜、そして厨房に軽食をと命じて、アーウェンに向き直った。


夢を見たこと。
産まれてからすぐにではないが、少なくとも一歳になるかならないかぐらいからの記憶が蘇り、もうすでにその頃から虐待が行われていたという認識。
二歳から五歳になるまで毎年七日間だけ滞在する父に荷物のように連れて行かれ、サウラス男爵領村に滞在する訓練兵に与える玩具として振るわれていた暴力と小動物虐殺の現場。
さすがに目に余る大怪我を負わされたアーウェンを癒しの力を使った長兄の妻と、その場に居合わせた使用人が領主家族についてあれこれ噂を立てるようになってからは、領村には連れて行かれず王都の家に閉じ込められていたこと。
家の中では下男として扱われ、すぐ上の兄は冷笑を浮かべ、父はあからさまな嫌悪感と暴力を持って罵りながらも、アーウェンを使い勝手のいい道具としてしか認識していなかった。
母は絶対父や兄たちに知られないようにアーウェンが眠っている時にほんのわずかだけ顔を見に来たのに、それ以外では徹底的に無視を続けた。
もちろん長兄から三人の兄はアーウェンを邪魔で要らないモノとして扱い、むしろ目につくこと自体を厭って家を出て行く時には「こんな出来損ないと暮らさなくて済む」と笑っていたことも思い出した。

ターランド伯爵家でも、自分はきっとすぐに捨てられると思っていた。
『引き取る』という形式を取るためだけに当主に会わされ、その後はきっと今までと同じように厨房のゴミと一緒に閉じ込められ、それから──
なのにアーウェンが恐れていたことはひとつも起こらず、起こそうとしたかつてアーウェンを虐待した者たちはターランド伯爵家の者や関係者によって、さらにアーウェンに味合わせた以上の恐ろしさを身に叩きこまれてから追放された。
カラもアーウェンも、何者かに呪いを受けていたことがわかり、そしてついさっきその最後の残滓というか、こびりついていた残虐の記憶がアーウェンの中の何かを刺激して、小さな命をむやみに奪うに至ったこと。

それらはとても断片的で、意識的に封印され、無意識的に忘れていたことを思い出し──やっと『アーウェン』を取り戻せたと、アーウェンは足りない語彙を何とか駆使し、ゆっくりと義母に語った。


しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう! 公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
アルファポリス様より書籍化! 転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。 《作者からのお知らせ!》 ※2025/11月中旬、  辺境領主の3巻が刊行となります。 今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。 【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん! ※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...