その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

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第一章 アーウェン幼少期

少年は眠ったままで自分を受け入れる ③

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だけど──だけど──

日に日にアーウェンの『物』が、『服』が、向けられる『気持ち』が増えていく。
それは『捨てられる時の絶望』をより深めようと、アーウェンのその様を愉しむためだけに、アーウェンを不幸にするためにそうしているのかもしれない。
でもアーウェンを乗せた馬車はどんどん王都を遠ざかり、さらにその先々でまたアーウェンのことを思った『アーウェンだけの物』が与えられる。
だが、それを期待するのは愚かなことだろう。

役立たず。
出来損ない。
胤もわからぬ卑しい生まれ。
拾われっ子。
知能が足りない。
まともに育つはずがない。

そう言われ続け、食べさせるのすらもったいないと捨て置かれていたのに──

ひと口、ひと口、身体を満たすスープが心まで温めると、代わりに嫌な汗が背中を伝わるような冷たい何かがズルリと抜け落ちていった。
エレノアが食べさせてくれる小さな小さなサンドイッチやクラッカー。
カラが心を込めて作ってくれる食事。
ルアン伯爵夫人が作ってくれた美味しい飴。
クレファー先生たちが一緒に来ることになったまちの八百屋さんで口に入れてもらったブドウ。
全部全部美味しくて、全部全部温かくて、全部全部アーウェンに必要なものだった。
それを受け入れていなかったのは──自分だ。
捨てられるのを嫌だと思ったことはない。
そう思うことすら許されていなかったから。
しかし常に『人間』として扱われていなかったアーウェンを、ターランド伯爵夫妻が、リグレ義兄様が、義妹のエレノアが、ロフェナが、カラが、皆が、『人間』に戻そうと心を傾け、大切に大切に『生きていい』と伝えてくれた。

食べる物だけでなく、ラウドが見込んで得たクレファー先生が与える『知識』も、芽吹いたばかりの双葉が降り注ぐ陽の光を、雨を、空気を土の中の栄養を糧にぐんぐんと伸びるように、アーウェンを成長させてくれた。

捨てられるんじゃない。
育てられる。
成長していい。
大人になることを──誰かの奴隷にならなくていい未来を──信じていい。

そう理解してアーウェンが目覚めた時、まるでカチリとピースが嵌るように、『言語化』と『精神』が年齢に追いついていた。


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