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第一章 アーウェン幼少期
家庭教師は頭を悩ませる ②
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クレファーの懸念を少しでも和らげているのは、思っていたよりも妹が奥手らしく、いまだにロフェナに突撃していないことだった。
よく厨房担当の女性と共にいると父に聞いたので、ニィザと名乗ってくれた女性に妹の様子を聞きに行ったのである。
「……まあ、今のところは可愛らしい夢を語ってくれていますよ?」
「ハハ……あなたにまでご迷惑をおかけしていないといいのですが」
「いえいえ。伯爵家に仕えているとあまり見聞を広げることが難しいこともあるので、可愛らしいお嬢さんの夢物語はとても聞きがいがありますよ」
にっこり笑ってくれる女性はクレファーの容貌に嫌悪感を示してはいないけれど、それが見せかけである可能性もある。
実際生まれ育った市では子供の頃に愛想のよかった友人の両親も、学校を卒業していざ就職先を見つけようとした時には難色を示し、あまつさえ関係まで断とうとしたのは一家族や二家族ではないのだ。
おまけにロフェナやラリティスがまったく交際関係を感じさせないほど完璧に使用人として徹しているのだから、『家庭教師』という肩書を与えられたとはいえ、正式な契約を交わしていない以上、クレファーもまだ『お客様扱い』であろうと思っている。
「そう言っていただけて、ありがとうございます。何分身体は大きくなっても、他人様とあまり関わってこなかったせいで、精神はまだ幼子のままなので……もし夢以上のご迷惑をおかけするようであれば、遠慮なく叱っていただければと思います」
「まぁ………」
ニィザのくりっとした目が見開かれ、たちまちのうちにさっきとは違う親し気のある笑みを向けられ、クレファーはドキッとした。
何せ想った相手に応えてもらうということは端から諦めているので、女性からこんなふうに好意のこもった笑みを向けられる経験はほとんどなく、本当に小学部の高学年や中学部にいた頃以来と言っても過言ではない。
「そう言えば、あの市では恋人はいらっしゃいませんでしたの?こんなに突然出てきてしまって、泣いていらっしゃる方もいるのでしょう?」
「え…いえ……いえっ。わ、私はそんな……こんな……あの、純粋なウェルエスト人ではないので……その、あまり相手にしてもらえなくて……」
「では、妹さんの今後に関してもいろいろ心配ですわね?私もちょうど相談できる相手がいなくて……よろしければ片付けが落ち着いた後で、お話しませんか?」
「は…はい……」
まさか──まさか──
思ってもみずに女性からアプローチを受け、クレファーは呆然とする。
だがこう言った面倒でも『会話をし』、『相手がフリーかどうかを確かめる』という手段を取るという手続きを経て誘ってきたニィザに手馴れた様子は感じても、さほど嫌な気はしない。
むしろこういうことがなければクレファーも自分からアプローチを試みることはなく、妹に対して説得することができたかどうか怪しいものである。
いやそれよりもまずはアーウェンたちの教育方針について、きちんとターランド伯爵に話さなければ──
霞みがかりそうな思考を頭を振って何とか振り払い、クレファーは気持ちを持ち直して視線を主人席へと向けた。
よく厨房担当の女性と共にいると父に聞いたので、ニィザと名乗ってくれた女性に妹の様子を聞きに行ったのである。
「……まあ、今のところは可愛らしい夢を語ってくれていますよ?」
「ハハ……あなたにまでご迷惑をおかけしていないといいのですが」
「いえいえ。伯爵家に仕えているとあまり見聞を広げることが難しいこともあるので、可愛らしいお嬢さんの夢物語はとても聞きがいがありますよ」
にっこり笑ってくれる女性はクレファーの容貌に嫌悪感を示してはいないけれど、それが見せかけである可能性もある。
実際生まれ育った市では子供の頃に愛想のよかった友人の両親も、学校を卒業していざ就職先を見つけようとした時には難色を示し、あまつさえ関係まで断とうとしたのは一家族や二家族ではないのだ。
おまけにロフェナやラリティスがまったく交際関係を感じさせないほど完璧に使用人として徹しているのだから、『家庭教師』という肩書を与えられたとはいえ、正式な契約を交わしていない以上、クレファーもまだ『お客様扱い』であろうと思っている。
「そう言っていただけて、ありがとうございます。何分身体は大きくなっても、他人様とあまり関わってこなかったせいで、精神はまだ幼子のままなので……もし夢以上のご迷惑をおかけするようであれば、遠慮なく叱っていただければと思います」
「まぁ………」
ニィザのくりっとした目が見開かれ、たちまちのうちにさっきとは違う親し気のある笑みを向けられ、クレファーはドキッとした。
何せ想った相手に応えてもらうということは端から諦めているので、女性からこんなふうに好意のこもった笑みを向けられる経験はほとんどなく、本当に小学部の高学年や中学部にいた頃以来と言っても過言ではない。
「そう言えば、あの市では恋人はいらっしゃいませんでしたの?こんなに突然出てきてしまって、泣いていらっしゃる方もいるのでしょう?」
「え…いえ……いえっ。わ、私はそんな……こんな……あの、純粋なウェルエスト人ではないので……その、あまり相手にしてもらえなくて……」
「では、妹さんの今後に関してもいろいろ心配ですわね?私もちょうど相談できる相手がいなくて……よろしければ片付けが落ち着いた後で、お話しませんか?」
「は…はい……」
まさか──まさか──
思ってもみずに女性からアプローチを受け、クレファーは呆然とする。
だがこう言った面倒でも『会話をし』、『相手がフリーかどうかを確かめる』という手段を取るという手続きを経て誘ってきたニィザに手馴れた様子は感じても、さほど嫌な気はしない。
むしろこういうことがなければクレファーも自分からアプローチを試みることはなく、妹に対して説得することができたかどうか怪しいものである。
いやそれよりもまずはアーウェンたちの教育方針について、きちんとターランド伯爵に話さなければ──
霞みがかりそうな思考を頭を振って何とか振り払い、クレファーは気持ちを持ち直して視線を主人席へと向けた。
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