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第一章 アーウェン幼少期
家庭教師は頭を悩ませる ①
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次にはエレノアが選んだ花と鳥と女の子の話だったが、さすがにアーウェンはやや興味を削がれたようである。
それから牛使いの男の子と狼の絵本をアーウェンが選んだが、男の子に出し抜かれたり痛い思いをする狼に感情移入したのか、だんだんと顔が歪んでいくのをクレファーは興味深そうに見ていた。
そうするうちに夕飯の時間であると給仕係のメイドが呼びに来て、全員で厨房馬車へと向かう。
「これは……すごいな……」
何度目の感嘆か、クレファーが組み立てられた長いテーブルに並ぶ料理を見まわす。
さすがに主人一家と同じテーブルに着くのは遠慮しているのか、兵士たちなどで手の空いている物は皆別のテーブルに着席していた。
「クレファー先生はご家族とともにどうぞ。アーウェン、エレノア、こちらへ来なさい」
使用人たちのテーブルの上席が開けられており、そこはラウドたちとも近い。
父と母が並んで座り、向かいに妹のシェイラが座っているが、その目はアーウェンと手を繋いでラウド側に向かうロフェナを追っている。
客人扱いのためかそんなシェイラに誰も何も言わないが、こちらと向かい合わせになるターランド伯爵夫人の横に移動するラリティスの表情に変化は見られない。
高位貴族の使用人というのはここまで自分の感情や表情を押し隠して仕えるものなのか──とうてい自分には向きそうもないと、クレファーは期間限定の家庭教師であることを感謝した。
さすがに夜まで勉強するにはまだアーウェンの体力が持たず、他の者たちよりもずいぶん早くアーウェンはカラに連れられて寝台があるというテントへ引き上げた。
続いてエレノアもラリティスに連れられてそれぞれ母と父に就寝の挨拶をするのは、さすがに貴族の娘と言える。
「……あんな小さい子にまで大人の真似をさせるなんて、可哀想」
「こっ、コラ!シェイラ!貴族様のお家のことに口を出すんじゃないよっ!」
ボソリとシェイラが正義感を滲ませて呟いたのを慌てて小声で母が窘めるのを、周囲は皆聞かないふりをしてくれる。
これではどんなにシェイラが望んでも、ターランド伯爵家の厨房どころか、下働きとしても雇ってはもらえまい。
自らロフェナとの距離を取っていることに、この愚かな妹はいつになったら気付くのかと思わないでもないが、それを注意するのは旅の目的地についてからでいいだろう。
人と関わることをあまりさせていなかったせいか、自分の感情を抑えるということを経験させなかったのは間違いだったかもしれない──クレファーは両親と話し合って、シェイラを好奇心と好色家の目から隠すような育ち方をさせたのは失敗だったのかと溜息をついた。
それから牛使いの男の子と狼の絵本をアーウェンが選んだが、男の子に出し抜かれたり痛い思いをする狼に感情移入したのか、だんだんと顔が歪んでいくのをクレファーは興味深そうに見ていた。
そうするうちに夕飯の時間であると給仕係のメイドが呼びに来て、全員で厨房馬車へと向かう。
「これは……すごいな……」
何度目の感嘆か、クレファーが組み立てられた長いテーブルに並ぶ料理を見まわす。
さすがに主人一家と同じテーブルに着くのは遠慮しているのか、兵士たちなどで手の空いている物は皆別のテーブルに着席していた。
「クレファー先生はご家族とともにどうぞ。アーウェン、エレノア、こちらへ来なさい」
使用人たちのテーブルの上席が開けられており、そこはラウドたちとも近い。
父と母が並んで座り、向かいに妹のシェイラが座っているが、その目はアーウェンと手を繋いでラウド側に向かうロフェナを追っている。
客人扱いのためかそんなシェイラに誰も何も言わないが、こちらと向かい合わせになるターランド伯爵夫人の横に移動するラリティスの表情に変化は見られない。
高位貴族の使用人というのはここまで自分の感情や表情を押し隠して仕えるものなのか──とうてい自分には向きそうもないと、クレファーは期間限定の家庭教師であることを感謝した。
さすがに夜まで勉強するにはまだアーウェンの体力が持たず、他の者たちよりもずいぶん早くアーウェンはカラに連れられて寝台があるというテントへ引き上げた。
続いてエレノアもラリティスに連れられてそれぞれ母と父に就寝の挨拶をするのは、さすがに貴族の娘と言える。
「……あんな小さい子にまで大人の真似をさせるなんて、可哀想」
「こっ、コラ!シェイラ!貴族様のお家のことに口を出すんじゃないよっ!」
ボソリとシェイラが正義感を滲ませて呟いたのを慌てて小声で母が窘めるのを、周囲は皆聞かないふりをしてくれる。
これではどんなにシェイラが望んでも、ターランド伯爵家の厨房どころか、下働きとしても雇ってはもらえまい。
自らロフェナとの距離を取っていることに、この愚かな妹はいつになったら気付くのかと思わないでもないが、それを注意するのは旅の目的地についてからでいいだろう。
人と関わることをあまりさせていなかったせいか、自分の感情を抑えるということを経験させなかったのは間違いだったかもしれない──クレファーは両親と話し合って、シェイラを好奇心と好色家の目から隠すような育ち方をさせたのは失敗だったのかと溜息をついた。
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