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第一章 アーウェン幼少期

少年は思い出すことを受け入れる ④

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ラウドはようやくアーウェンが自分に向けているものが信頼だけでなく、困惑と恐怖と、まるで命令を待つ──認めたくはないが確かに奴隷じみた表情を認めて、わずかに怒りを湧き立たせた。
「アーウェンは小さい時、一番上の兄上がいらっしゃる村へ行ったことがあるね?」
「……は…い……」
わざとではないが、わずかに低くなったラウドの声に、アーウェンの顔が歪んで喉が詰まったように返事が澱む。
「そこでアーウェンが大人たちにされていたことは、『遊び』などではない……本当の意味での、遊びではない」
ラウドの言葉の何かがアーウェンにとって禁忌だったのか、ブルブルと震えはじめたアーウェンはもう返事をすることもできないほど青褪めている。
「……今はそのことについて詳しく話したり聞いたりしないが、ターランド領都であるエミル市にある邸に着いたら、領都の魔術師長と会う」
やはり『呪いの残滓』という物が染みついているのか、アーウェンの過去に関することとなると目が虚ろになり、ラウドがどんな質問をしようと拒否しようとしているように感じた。
ラウドは溜め息をつき、ただ一言だけ囁くと、アーウェンの肩を抱いて優しく叩く。

「おやすみ」

その言葉が合図かのように、アーウェンは目を閉じて本当に寝入ってしまった。


「……やはり、許せんな」
「まともな感覚の持ち主であれば、産まれたての赤子に手心を加えようなどと思いもしないはず……旦那様のお怒りはごもっともです」
馬車に同乗するロフェナも、無表情で眠りにつくアーウェンを見て頷く。
無──それは幾度となく見てしまった、アーウェンの寝顔や寝起きの顔であった。
悪夢を見ているのかうなされることもあったが、まるで見も知らぬ場所に閉じ込められた小動物のように、寝具の端に縮こまって板切れのように身動きもしないアーウェンを見て執事らしからぬ驚きを現わしてしまったのである。
しかし冷静になってその軽すぎる身体をベッドの真ん中に置き直し、優しく宥めるようにトントンと叩いてやると、やがて緊張が解けたのか幼い寝顔から強張りが消えていく──その嬉しさで、今ではほぼ毎晩のようにそれを行っていた。
今は主人であるラウドが無意識にアーウェンの肩をリズムよく叩いているが、本当は自分が代わりたい。
そう言いたいのをぐっと堪え、ロフェナはラウドが義息子を心から愛して、どうにか慰めたいと思っているのを黙って見ていた。
それからは結局のところ、馬車の中でアーウェンと遊ぶことも、領地やこの先々に訪れる町や市で出会ってしまうかもしれない過去のことも、ラウドは切り出せずに目的地に着くまでを黙考して過ごした。
ロフェナはルアン伯爵家に設けられた牢屋で聞き出した・・・・・ことの中でも重要な『アーウェンを虐待した兵士たちの名前と所属、出身地』などが纏められた報告書を何度も眺めている。
そこから現在どこの部隊に所属しているのかなどがわかるわけではないが、少なくともこの先のどこに実家があるのかを先回りして知っておくのは、アーウェンにとって不必要な接触を避けるためにも有効だと信じていた。

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