その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

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第一章 アーウェン幼少期

少年は慕われる ④

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ターランド伯爵が黒い笑顔で何やら策を練っている間にも日々は流れ、アーウェンはようやくまた庭を散歩できるほどには回復した。
少しでも魔力回路の開く幅を間違えると、アーウェンは口から泡を吐いてもがき苦しむ──ゆえに、本当に慎重にわずかずつしか開けられず、本来の魔力量に戻すまでは二年はかかる計算である。
「うん。いや、いいんだ。いいんだけど……」
納得が、いかない。
リグレが今回の長期休暇で楽しみにしていたのは、むろん可愛い妹であるエレノアと触れ合うためではあったが、同時に父が養子にした『おとうと』と共に警護兵の訓練を受けるつもりだった。

リグレ自身はターランド次期当主に恥じない魔力の持ち主だった。
そのため適齢期に入って入学できた王都貴族学院では魔術研究で大学院にまで進むつもりであったが、剣術については心許ないどころか、自分自身を護ることすら覚束ない。
授業で使う模擬剣を振るための腕力をつけるよりも先に、魔術を使って筋力を補完してしまうのだ──『鍛える』以前に無意識でそんなことをしてしまえば、年齢相応の筋力でも最弱なままである。
「それなのに……アーウェンはまるでエレノアより少し大きいぐらいじゃないか……しかも魔力を使えないようにされて……いや、使えないじゃないどころじゃない。成長することすら阻まれて……」
ギリッと奥歯を噛みしめると、今日はアーウェンではなくリグレの側で世話を焼くロフェナが同意した。
「せっかく旦那様と奥様、そしてお嬢様がせっせとお食事を勧め、警備兵たちもアーウェン様のお身体が健やかになられるようにと、普段の鍛錬を学び易しくしてお教え申し上げていたのですが」
「ああ……うちに来てやっと半年近くになろうというのに、また寝付いてしまって……」
「はい。また痩せておしまいになられてしまいました。ですが……」
ふっとロフェナの口元が緩んで嬉しげな表情になったのを、リグレは希望を見出した顔で見つめた。
「カラが……お戻りになられた日の晩餐でリグレ様のご給仕を補助しておりました少年ですが、アーウェン様のお食事に魔力を混ぜる方法を編み出しまして、その効果が上がっているそうでございます」
「えっ?!」
たちまち眉を寄せて、喜びよりも懸念の色を浮かべる。
「だ、大丈夫なのかっ?!あの子に…アーウェンに近付けるなと、父上が言っていたはずでは?!」
「ふふ……それが……」


アーウェンとカラがそれぞれ解呪と洗浄による心身の回復を進めていた半月の間、秘密裏に行われたメイダス伯爵とターランド伯爵との協議は、結果的にいえば上手くいった。
いや、実際は前伯爵当主までも引っ張り出しての、一方的買収解決案ではあったが。
「……まさかメイダス伯爵家の実権を、引退したはずの前当主がいまだ握り、息子夫婦は単なる『社交的顔』として利用していただけだったとはな……」
「なかなかユニークなご老人でございましたね」
大人しいだけの息子夫婦に近づくいかがわしい連中を吟味し、直接もてなしたりいなしたりと、面倒な社交活動をせずとも遊べる駒を手に入れる快感を享受していた害悪。
新しい物好きではあったが、人を見る目のない息子が時々しでかす大ポカを未然に防ぐことも忠告することもせずに傍観し、失態を大袈裟になじって夫婦ともども人形に仕立て上げていた。
息子が思い出したように反抗心を抱いて『自分の意思』で手を出した山師話は大抵夢物語で、それをわざわざお膳立てしたこともあったらしい。
引きずり出された罪は重なって、脆くなった老人の腰を折るほどになるだろう。
売春も行っていた救貧院は三段構えで『食堂』、『料金的に優しい売春』、『金に糸目をつけねば味わえぬ背徳の買春』とランク付けがあり、ラウドが思いついた『救貧院のある地区ごと買い占めようぜ☆作戦』が実施されなければ、楽観視していたカラの妹まで含んだ少女たちを使った『幼女買春』が現実化する寸前だった。
バラットには最初冷たい目で見られたが、万事上手くいったと言えるであろう。

そしてその買収の結果、思わぬ形でターランド伯爵家にとって嬉しい利益をもたらしてくれた。
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