機械の神と救世主

ローランシア

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第二章 始まりとやり直し

030 救世主とセレスティアの悪意

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俺は次元の扉に飛び込み闘技場のど真ん中に踏み入れる

 タッ……!

「いっ! いやああああああっ!?こっ! 来ないで!?助けてえええええええええっ!?」
「救世主様。そのお力で試練を乗り越えてください」
「さあ討伐してください! その神器のお力で!」

 サイクロプスがこん棒を振りかざし振り下ろそうと下げた瞬間、
 俺は一足飛びで接近しサイクロプスの腕を切り落とす

 ザンッ……!

「……グオ!?」

 ドッ……!

 タッ……

 切り落とした腕とほぼ同時に着地する

 俺が切断したサイクロプスの腕が地面に血をまき散らしながら落ちる

 サイクロプスの胴体から激しい血が噴き出す

 ブシャアアアアアア……! 辺り一面が血のシャワーで赤く染まり、俺も少女もサイクロプスの返り血で全身血まみれになる

「いっ……いやあああああああああああああああ!!?」

「グオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!?」
「……うるせえな。黙ってろ」

 シュッ……!

 瞬時に斬葬で一八回斬りつけサイクロプスをバラバラに解体する

 ドサッ……! ドッ…………グチャッ……! ピチャッ!

 サイクロプスだった肉片がそのまま崩れバラバラと落ちる

「なっ!?……何者だ!?お前は…………! ……あっ! この間……の……!?」

「……これは一体どういう事ですか?」
 俺は観客席にいるディランを見上げながら睨みつけ話しかける。

 今日は貴族たちの姿はなく、ディランとセレスティア王だけだった
 二回続けて呼び出せない救世主だった場合を考えて今回は呼ばなかったんだろうな

「そっ! それはこちらのセリフです! 神聖な儀式の場に乱入とは非常識な!」
「……非常識? 召喚されてすぐの救世主に、大型の魔物と闘わせる事が常識的だとでも言うつもりですか」
「それがセレスティアのやり方です! いくら救世主様と言えどあまりに無礼ではありませんか!?部外者はひっこんでおいてもらおう!」
「……ふざけんな…………!?」
「ヒッ……!?」

 俺がディランに殺気を叩きつけると、生物としての本能で危険を感じ取ったのかディランが怯えた表情になる

 チッ……
 ディランの胸糞悪くなる態度に内心舌打ちしながら、少女のほうへ振り返る

「……大丈夫か?」
「あ……あぁ…………」

 ショックで茫然自失になってるな……いくら救世主で、神器を持ってたって、場慣れしてなきゃこうなるのは当たり前だ。
 ……見た感じ俺と同じくらいの年齢か? 初めての戦闘なんてゴブリンですら恐ろしい相手だと感じるはずだ。
 こんな状態の子を大型種の魔物、それもサイクロプスと闘わせる? これもうただの殺人未遂だろ……って!?
≪今マスターがお考えになった事は当たりです。
 最近では村に派遣すらせずに、ハズレ救世主は神器の実演と称し大型魔物と闘わせて殺していたようです。
 最近では一種の見世物になっていたようですね。女性救世主が魔物に凌辱され殺される様を見て楽しんでいたようです≫

 ……ダイジェストで早送りでいいから見せてくれ
≪……はい≫
 救世主と思われる少女がサイクロプスに凌辱され殺される様子が高速で頭の中に映し出される

 ────

 ……ギリッ!
 少女がサイクロプスに足を潰され凌辱された後殺される映像と音声が流れる

 映像を見て嫌悪感と吐き気を催しながらキレそうになるのを歯ぎしりで耐える

 どんだけクソな倫理観だよ……ドクズ過ぎるだろ…………!
≪セレスティアの倫理観ノーフューチャーですねー……≫
 これアルテミスが聞いたらキレんだろうなぁ……。俺もかなりブチ切れかかってるけどな…………!

 俺が少女に近づき膝をつき目線を合わせると、
 少女が顔をブンブンと振りながら手を地面に着き腰だけでズリズリと後退していく

「……もう大丈夫だ」
「いっ!?いやっ!?いやあああああ!?」

 ショックで大分混乱してるな。可哀想に……
 ……よし。

 マキナ? レティシアに緊急事態だって言ってすぐ俺の部屋に来るよう伝えてくれ。
 今のこの子を介抱するのならレティシアの方が適任だ。レティシアにタオル数枚持たせて持って来させてくれ。
≪わかりましたっ≫

「……もうじき医者が来る。大人しくしてろ」
「はぁっ……はぁっはぁっ…………! はーっ……あ……っ……ありっ……」
「……今は無理にしゃべらなくていい。落ち着いてから話せばいいから。今はじっとしてろ。な?」
「は……はっ…………い……っ!?う……っ……げほっげほっ……!」

 ……さて

 俺は陛下とディランの方へ向き直り話の続きをする

「……で? どういう事ですか?
 神器があっても戦闘の訓練をしていない人にはサイクロプスなんか倒せるわけないって、そんなの常識で考えればわかりますよね」

 実際の戦闘はアニメみたいに甘くない
 もし神器持ってるから倒せるとか思ってるとしたらアニメや漫画の見過ぎだぜ
 実戦ではアニメみたいにピンチになったら突然能力が覚醒して、
 必殺技を出せるようになって形勢が逆転し魔物を倒すなんて事はない、実際の戦闘はそれまで積み上げた戦闘技術だけがものを言う。
 戦う心構えも何もしてない状態でサイクロプスなんてけしかけられれば誰だってこうなるはずだ

 陛下が口を開く
「何か誤解をされているようですな。救世主様。これは試練です」
「……試練? どういう事ですか」
「これから救世主様は世界をお救いになられる、その偉業を成せるのは至難の業と思います。
 しかし、実戦の場は突然強い魔物と相対する事もあるでしょう? ですから我々が実戦の場を設けているのです……」
≪マスター! おまたせしましたっ! レティシアさんをお部屋に連れてきました!≫
 よし、じゃあレティシアにタオル数枚と……俺の部屋の水持って来させてくれ。変な咳してるからさ
≪はいっ≫

 ブォンッ……!

 タッ……!

 マキナに指示してから約三分後、次元の扉が開き、タオルと水が入ったポットとコップを持ったレティシアが俺の前に現れる

「つっ、司様っ!?あのっ! マキナ様に緊急事態だと聞いて来たのですが! お怪我は!?」
「ああ。来てくれたか。ありがとう、レティシア。……緊急事態なのは俺じゃない。
 そこの女の子を診てやってくれ。召喚されてすぐ魔物と戦わされて酷いパニック状態なんだ。
 怪我はしてないと思うが精神的ダメージが大きそうだ。……俺じゃ怖がらせてしまうみたいでさ、頼めるかな」

「はいっ! わかりましたっ! ……大丈夫ですかっ…………」
 レティシアが返事をし女の子に駆け寄る

「あ……」

「……可哀想に。…………ほら……大丈夫……。もう大丈夫ですから…………。さ……? お顔を拭きましょう……」
 レティシアが女の子に駆け寄り、肩を抱き背中をさすりながら顔を拭く
「あ……ありが…………とうっ……!?ゴホッゴホ……ッ……!」
「……このお水をどうぞ…………」

 レティシアが蓋つきのコップから二を外し、女の子の口元へ持っていく

 とりあえず、こんな土煙が舞うような場所じゃダメだな。部屋用意させるか

「陛下、ディランさん。この子を休ませる為の部屋を用意してください」
「えっ……!?な、なにを勝手な事を言ってるんですか…………!?
 試練に乱入した上こんな……! いくら救世主様と言えど無茶苦茶ですよ!?」
「……いいからやれ? オッサン…………」
「ヒッ……!?」

 ディランを殺気を込め睨みつけると縮み上がる

 ……ディランが何か話すたびに俺のイライラゲージが溜まっていく…………
 何が「試練」だよ……! ふざけんな…………! あんなもんどう見ても殺すのが目的の行為だろ……!
 マジでどうかしてるぜ、こいつら……!

「……ディラン。あの救世主様に部屋の用意をしろ」
「はっ、はいっ……!」

「あ、の……」
「どうかしました……?」

 少女が今だ震えが収まらぬ腕を懸命に上げ、人差し指を俺の方へ向ける

「……あの人は私の…………いえ、この世界の救世主様です」
「えっ……? 救世主…………?」
「そう、救世主様です。だから、もう大丈夫。あの人が守ってくれるから大丈夫ですよ……」

「お待たせしました……。お部屋の準備ができました。こちらへどうぞ…………」
「……さ、お部屋の準備ができたみたいです。行きましょう?」
「は、はい……。…………あっ……!?」

 少女が起き上がろうと腰を上げたところで尻もちをつく

「ご、ごめんなさい……」
「いいんですよ。さ。もう一回……」
 レティシアが懸命に支えながら立ち上がらせようとする

「は、はい……。…………あっ……」

 少女がやはり尻もちをつく

 腰が抜けて立てないのか。いきなりサイクロプスと対峙すればそうなるのは当たり前だろう

 レティシアは……体格的におぶっていくのは厳しいか…………

「……ご、ごめんなさ…………」

 俺は少女の前まで歩いていき背を向け膝をつく

「ほら。おんぶしてやるからおぶされ」
「えっ? あっ……あっ…………いいですっ!?先輩っ!」
「……先輩? …………ま、いいや。ほら。……レティシア、手伝ってやって?」
「はいっ。……さ…………がんばって……」
「あ……は、はい…………あの、すみません」

 レティシアが女の子を背負うのを手伝ってなんとか
 さやかならお姫様抱っこだが、アレは人によって好みが分かれるらしいから無難におんぶだ

「しっかりつかまっておけよ? よっと」
 掛け声をかけながら立ち上がる
「はっ! はいっ……?」

「あの……私重たくないですか? 大丈夫ですか」
「病人は気を使わなくていい。今はゆっくり休むんだ」

 部屋まで歩く間、この件をどう詰めるべきか考えていた

 案内された部屋に着き、レティシアに手伝ってもらいベッドに横に寝かせる
 レティシアに看病を頼み、俺は隣の部屋にディランと陛下を呼び出す

「……さて。改めて話を聞かせてもらえますか?
 なぜ実戦経験もない救世主を大型種のサイクロプスなんかと闘わせたのか? 納得のいく説明を願います」
「あっ、あなたには関係ないでしょう!?あなたはエルトの救世主なんでしょう!?
 エルトだけ守っていればいいじゃないですか!?」

 ……ガッ

 俺はディランの首を掴み力を籠め少し浮かす

「なぁ? さっき俺ふざけんなって言ったよな……?」
「ヒッ……!?」

 ディランの真っ赤だった顔が真っ青になる

 チッ……!
 内心舌打ちしながら手を離すとディランがドッと椅子に落ちる

 ドッ

「ゲホッ……ゲホッ…………!」
「正直、今日の状況は救世主を無理な相手と闘わせて、救世主を始末しようとしてるようにしか見えなかったんですが?」
「……っ!?…………それは言いがかりです。救世主様……。我々はきちんと救世主様の為を思って試練の場を用意してるんです」
「そ! そうです!」
「それじゃ、お聞きしますが、今までの救世主はどうだったんですか?
 今までも戦闘訓練を受けていない救世主がサイクロプスと闘ったんでしょう? 今までの救世主は勝てていたんですか?」
「……それは哀しい事故が起きていますね」

 ……事故? ああ、なるほど事故ね…………? あくまで召喚の議のひとつの催しとしてやらせて事故として殺してたわけか
 なるほどな、セレスティアに救世主に関する文献や本などが存在しない理由はこれか
 記録に残っていなければ記憶に残すしかない。しかし人の記憶は曖昧なものだ、時間が立てば人の記憶は曖昧になり、いずれ忘れ去られる
 確かに偽装して殺す予定の人間の記録を残させるわけにいかねえもんな。

 ……マキナ? アルテミスを次元の狭間から出して見せてやってくれ。
 こいつらがアルテミスにしていた事がわかるかもしれない
≪はいっ≫

「……なるほど? 事故、ですか」
「そうです……事故です。戦闘時に不慮の事故が起こる事は救世主様もご存じでしょう?」
「その試練を与える時点で事故が起きるとは思わなかったんですか?」
「誰が不慮の事故を予想できましょうか? 私どもは未来を視る力など持っておりません……」
 ……つくづく舐めてんな、おい

「神器を呼び出してすぐなら当然武器の扱い方すらわかってない状態です。
 扱い方がわかっていない神器はただの武器と変わりません。これはご存じですね?
 つまり、戦闘訓練もしていない人間がただの武器でサイクロプスを倒せると思ってやらせていた、
 しかし予測不能な不幸な事故が起こってしまっている。こういう事ですね?」
「まあ、そういう事になりますな。こう言ってはなんですが、救世主様が戦うのが下手だったのではと思いますが。ハハハ……」
「そっ! そうですよ! 救世主様が戦うのが上手だったら事故は起こっていないはずです!」

 セレスティア王とディランが僅かにニヤつきながら言う

 そのセレスティア王とディランの態度で、ブチッと俺の中で何かがキレた

 ……お前ら、俺を完全にブチ切らしたぞ?

 ……

 確認を取った後、俺はニイッ……と口角を上げる

≪あっ!?マスターが悪い顔してるー! と言う事はー?≫
 ああ。いい事思いついた
≪ふふふっ! 次はどんな隠蔽と捏造を考えたんですか?≫
 いんや? 今回はそのどっちでもないよ。むしろ逆だ
≪えっ? 逆? というと……≫
 マキナ? さっきのこいつらの言動と以前の救世主達が凌辱され殺される様の映像を用意しておいてくれ。
 こいつらと一緒になって楽しんでた貴族連中の顔も映ってる方がいい
≪はいっ≫
「……私も見ていいのか? マキナ」
≪あっ! アルテミスさんを出しました!≫
 アルテミスに伝えてくれ。今からお前の謎が解けるかもしれねえって
≪あっ。音声情報共有しましたから話せますよ≫
「……私の謎が解ける? どういう事だ、東条。…………ん? セレスティア王とディラン……?」
 今からやる事をお前にも見せたいと思ってな?
「……どういう事だ?」
 こいつらな? 救世主を召喚してすぐ城に連れてって、神器を召喚させるために「召喚の議」やるだろ?」
「ああ」
 神器がハズレだった場合さ? 最近じゃお前の時みたいに村に送りすらせず、あの闘技場で大型の魔物と戦わせて殺してたんだ
「何……!?それは本当か!?」
 そーだ。それで俺が飛び込んで助けてさ、今こいつらを問い詰めてるところだ。
「なんというか……お前らしいな…………」
 でな? こいつらが言うには「戦闘訓練受けて無くてもサイクロプスを倒せる」らしいんだわ
「……何を馬鹿な事を…………。異世界に召喚されてすぐでは戦いの覚悟すら持ってないだろ。そんな状態の者を戦わせるなど論外だ。
 神器は確かに強い武器だが、神器を召喚したすぐでは武器としての使い方すら知らんだろう。
 サイクロプス一匹でよく訓練された兵士300相当だぞ。いや、個体によれば400相当のもいるな」

 そうだよな。それわかっててこいつらサイクロプスと闘わせて、事故が起こったって事にしてハズレ救世主を殺してたんだよ。
 ところがそれを問い詰めるとさっき言ったように「いいや! できるはずだ。事故が起こったのは救世主が戦うのが下手だったからだ」と言い出してな?
「フン……、話にならんな」
 だろ? じゃあ、続き再開するぞ
「うむ……」

「……それでは、実際に陛下とディランさんに私の目の前でやっていただきましょうか」

「……え…………?」
≪……マスター…………?≫

「えっ……!?」
「……何を馬鹿な事を。ハハハ……」

セレスティア王の顔が醜く歪み俺を見下したような顔になる

「馬鹿な事? 訓練していない人間でもできるんでしょ? 実際にやって証明してくださいよ、ご自身の身をもってやってもらいましょうか」
「ハハハ……そんな無茶苦茶な。何を言い出すのかと思えば救世主様とは思えない発言ですなぁ」
「フッ……! 救世主様が何を言ってるのか私にはさっぱりわかりませんな…………」
 二人が俺を小馬鹿にしたようなニヤけた顔で答える

ああ、そうかい。そうだろうな、今まで何をしても咎める者がいなかったんだ、きっと俺だって文句言うだけ言って帰ると思ってるんだろ?

二人がニヤニヤと俺を見てくる 

ハッ……いいねえ、そのクズっぷり。そうでなくちゃ!

「救世主と言えど問題は起こしたくないはずだ。どうせ何もできないまま文句言うだけ言って気が済んだら帰るだろう。
自分たちに何かすれば犯罪者としてひっ捕らえてやる」とか考えてるんだろう。
こうやって余裕ぶっていられるんだ、心に相当な余裕が無ければこれはできないはずだ

おぉ、いいぜ?その喧嘩買ってやるよ、やれるもんならやってみろよ

「今しがた実戦訓練をしていない人間でもサイクロプスに勝てると言ったじゃありませんか?
 無理やりにでもやらせますよ? あなた達があの子にやらせたようにね」

 こいつらの言うように本当に「訓練してない人間がサイクロプスと戦って勝てる」のか見せてもらおうじゃねえか
 それで勝てるんなら、そもそも「救世主」なんていらねえよ

 俺は立ち上がり陛下とディランの後ろに回り込む……

「あっ!?なっ! 何をする!?」
「えっ……? な、何をするつもりですか…………!?」

 ガッ……ガッ…………

 ドッ……ドッ…………ズッ……ズリ……ッ……ズリズリズリ……

 陛下とディランの首ねっこを掴み、椅子から引きずり下ろし引きずりながら歩き始める

 陛下とディランが顔を青くし叫ぶ
「誰か! 誰かおらんか! 誰かこの者をひっとらえよ!」
「やっ!?やめなさい!?だっ! 誰か!?誰か来てくれええ!?」

「……えっ? …………と、東条? ……お、お……い……? お前……まさか本気か!?
 フッ……! ハハハハハハハ…………! やはりあいつはどこかおかしいぞ! ハハハハハハハッ!」
≪あはははははははっ! そう来ましたか! 確かに逆ですねっ! あはははははははっ!≫

 ズリズリズリズリ……!

 引きずって行こうとするとセレスティア王とディランがジタバタと手や足で抵抗を試みるが無駄だ

「ハハハハハハ! 見ろ! あいつらの顔! 必死だぞ! ハハハハハ!」
≪あはははははははっ! 子供みたいにジタバタしてるー!≫
「それだ! 親にイタズラが見つかった子供みたいだ!! ハハハハハハハ!」

 セレスティア国王とディランの叫び声に四~五人の兵士や騎士たちが駆け付けてくる

「どっ! どうされましたかっ!?へ、陛下!?それにディラン様……! おのれ何奴…………って……あなたは先日の救世主……様……!?」
「陛下! どうなされましたか! 貴様は何者だ!?陛下を離せ!」
「いや……待て。この方は救世主様だ」
「えっ? せ、先輩? この方……救世主様、なんですか…………?」
「そうだ。先日、巨大な神器を出した救世主がいると噂になっていただろう? その救世主様がこちらの方だ」
「えっ!?あの噂ですか!?あれって本当の話だったんですか!?自分はてっきり噂話かと……」
「そうだ。本当だ。あの日我々は確かに見たんだからな、間違いない。あれは噂等ではない、本当の事だ」
「団長もご覧になられたんですか……」
「ああ。私はこの方こそがこの世界を救える方だと確信したよ」
「……それで、救世主様? これは…………どのような状況なのでしょうか……?」
 団長と呼ばれた騎士が首を傾げセレスティア王とディランを見ながら言う

「おう。こいつらがな? 「訓練なんかしてなくてもサイクロプスくらい倒せる」とか言って召喚されてすぐの救世主を無理やり戦わせて凌辱した挙句殺してたんだ。
 それで問いただすと「救世主が死んだのは戦うのが下手だった」からだと言いやがってな?
 本当に訓練してなくてもサイクロプスを倒せるのか、今から実演して見せてもらう所だ。……ああ、お前らも付き合えよ。面白い見世物になるぞ」

 俺の言葉に駆け付けて来た騎士達が全員ムッした表情になる。
 そりゃそうだ。こいつらだって、俺と同じように毎日地べたはいずりまわって、
 血まみれになって……それでも国の為にって体張って戦ってるんだ。
 こんな事言われてムカっとしなきゃ嘘だぜ


「……っ! ほぉ…………それは、面白そうですなぁ。
私もぜひ拝見させていただきたいです。……お手伝いしましょうか? 救世主様」
「だろう? 手伝いはいいよ。……ああ、サイクロプスの準備だけ頼めるか?」
「はいっ! お任せください! 救世主様!」
「ああ。頼むぜ」
≪わーい。久しぶりにマスターが敬語も忘れてキレッキレだー!≫
 マキナこっちの俺も好きだろ?
≪はいっ! 大好きですっ! ふふふふふふっ!!!≫
「ハハハハハ!! ……あいつらどこまで人望がないんだ…………!」

「おい! すぐみんなを呼んで来い! 陛下達がサイクロプスと戦うお手本を見せてくれるそうだ!
 闘技場だ! 闘技場に全員集めろ! 民間人も入れて構わん! 私が許可する!」
「はいっ! すぐ呼んできます!」
「いやぁ、さすがは陛下! 自ら手本を示されるとは! 私、陛下の深いお心に感動致しました!
 陛下の雄姿この目にしっかりと焼き付けさせていただきます!」
「ディランさんもお人が悪い! 実は相当な実力をお持ちだったとは! ハハハハ! 今日はその実力を拝見させていただきます!」
「何を言っている!?貴様ら!?自分の言っている事がわかっているのか!?」
「あ、あなた達!?悪ふざけはいい加減に……!」
 ハハハハハ! セレスティアの人達ノリいいな! おい!
 やっぱ兵士達にも相当恨まれてるなこのオッサンたち

「……はぁ? 悪ふざけ? お前ら悪ふざけで召喚されて間もない救世主をあんな大きなサイクロプスと戦わせてたのか?」
「いっ! いえ!?決してそのような!」
「いい加減にしろ! 儂を誰だと思っている!」
「知ってるよ。セレスティアの国王だろ、そんで訓練してなくてもサイクロプスに勝てる強者なんだろ?」
「そっ! それは!?あああああ!?引きずっていくでない!」
「お。おい!?わかっているのか!?わしはセレスティアの国王だぞ! こんな無礼が許されると思ってるのか!?」
「セレスティアの国王……だからなんだよ。こっちは「救世主」だ。
 どっちの立場が上かわかってねえのか? 許す許さないの立場にあるのは俺だ、勘違いすんな。
 そもそもだな? 元々別の世界から来てこの世界と無関係の俺がきつい修行してまで救おうとしてる世界を、救われる立場のてめえらが乱してんじゃねえよハゲ。
 訓練なんてしなくってもサイクロプスくらい倒せるんだろ? やれるもんならやってみろよ。これは「救世主」としての命令だ」
「こっ! 国際問題になるぞ!」
「……国際問題だぁ? おぉ、いいねぇ。これが終わったら主要国首脳会議を開こうぜ?
 お前らのやってた事を全部世界中のお偉いさんの前で謳ってやるよ。これ聞いたら各国のお偉いさんや各国にいる救世主はどんな顔するんだろうなぁ?」

 俺の言葉でセレスティア王とディランが青ざめる

 そりゃ青ざめるよなぁ。他の国に公になったらまずいよなぁ。
 なんの罪もない「救世主」を勝手にハズレ認定して殺してたんだもんな。
 こいつらは破滅の王と変わらない敵だ

「おっ! お金! お金あげます! お金っ!」
「俺は衣食住を維持する以上の金に興味ねえよ。それよりお前はサイクロプスに勝つ算段でも考えとけ」

 ズリズリズリズリ!

「そっ! そうだ! エルト! エルトに抗議を入れますよ!?」
「俺はどこの国にも属してねえよ。俺はエルトに居候してるだけだ。この件は完全に俺が「救世主」として下した判断だ、エルトは関係ねーよ」
「そんな!?」
「ひいいいいいいいいいい!?嫌じゃ!?嫌じゃあああああ!」
「助けて!?助けてえええええ!?……っ!」

 子供のように悲鳴を上げながらさらにジタバタと暴れ続けるセレスティア王とディラン

「ハハハハハハハハハ! 東条!?私笑い死ぬって……! ハハハハハハハハハ! おい! とっ! とめっ、止めてくれっ! マキナ…………!」
≪ふふふふふふふっ! 無理ですっ! 私も笑いすぎてっ……!≫

 ガッ

 ディランがドアの縁にしがみつく

「っ……く~~~~っ私は…………! 行きませんよおおおおお!」
「……さっきのサイクロプスみたいに腕切断してやろうか?」
「ひぃっ……!?」

 俺が冷ややかな目でディランを見ながら言い放つと、
 ディランが声を上げながらぱっと手を離す

「ばっ!?馬鹿者!?ディラン!?離すでないわ!! 貴様の腕などどうなろうが構わん!」
「構うに決まってるだろ!?何言ってんだ! このクソジジイ!」
「なっ!?ディラン!?貴様っ! 儂にそんな口をきいていいと思ってるのか!?」
「この状況でいいも悪いもあるか!?いい加減にしろよ!?
 この色ボケジジイが! テメエがくだらない事考えたからこうなってんだよ! お前だけサイクロプスの相手して死ねよ!」
「なんだと!?貴様! 貴様こそサイクロプスに潰されて死ね! 死んでしまえ!」

≪……ホンットマスターって素敵! うふふふふふっ≫
「ハハハハハハハッ! 異世界にはこういうエンタメがあるのだな……」
≪いえ、マスターの周りだけだと思いますよ≫
「まぁ、そうだろうな。こんな事考えたとしても普通はやらんよな……! ハハハハハ!」

 ジタバタと暴れながら喧嘩し始めるセレスティア王とディランを引きずって行き闘技場に向かった
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