機械の神と救世主

ローランシア

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第二章 始まりとやり直し

030 王国騎士と救世主

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 俺は修行に専念する時もせっかく作ってもらった食事を無駄にするのは悪いと思い
 食事時だけは次元の狭間から戻り食事を取るようにしている
 良く修行し、よく食べ、よく休むが強くなるのにも大切な事だとマキナから教えられたからでもあるが

 マキナとの修行をはじめ二週間が経った頃……
 陛下やソフィア、さやかやレティシアと昼食を食べていた時だった

 うーん。やっぱ料理長の作る食事は最高だぜ!

「美味しいね! お兄ちゃん!」
「ああ、料理長の作る食事はいつも美味いよなー」
「私今料理長さんに色々教えてもらってるんだ! 今度みんなに作ってあげるね!」
「へぇ、この世界の料理勉強してるのか。さやか」
「うんっ。だって、私、神器出せないし、その分何かで頑張りたくて」
「おぉ。偉い! 楽しみにしてるからな、さやかの料理」
「うん! 任せて!」
「ふふふ。当家の料理を司様達に気に入っていただいて嬉しいですわ」

「ふふ……、司様と一緒にご飯…………幸せ……」
「そういえば、司様? 料理長が皆様のお好きな物はなんですか? と聞いていましたよ」
「うーん……料理長の作ってくれる食事はみんなおいしいから好きだけど、印象に残ってるのは肉と芋のスープかな。
 あの白いスープ美味しかった」
「あっ! あのクリームシチューみたいなのおいしかったよねー! 私も好きー!」
「私も好きです! あのスープ!」
「ほっほっほ! 先日、料理長がいつも皆様が褒めてくださるって喜んでましたよ」

 等と会話を楽しみながら、和やかな雰囲気で食事を楽しんだ後、修行に戻る為部屋に向かう途中
 見知らぬ甲冑に身を包んだ騎士に話しかけられる

「君が「救世主」の東条 司君。か?」
「あ、はい。私が東条ですが……あなたは?」
「ふっ、私は「ユリウス・ラインハルト」このエルト国の王国騎士だ」

 騎士が長い紫の髪をかき上げながら自己紹介する

「……うげ…………何? この人……」
「……コラ、さやか。失礼だろ? …………失礼しました。……騎士団の方なんですね。
 いつも騎士団長にはお世話になってます。よろしくお願いします」
「はぁい……」
「ふふ……団長と知り合いだそうだがあまり調子に乗らない事だ。
 どうやってソフィア様に取り入ったのか知らないが、自分がソフィア様に相応しいと思っているのか?」

「……はい? あの、どういう意味でしょうか」
「君のような人がソフィア様の横に立つのは相応しくないと言ってるんだよ。
 ソフィア様をお守りするのは僕のような優秀な騎士こそふさわしいと思わないか?」

 レティシアとさやかとマキナが顔をムっとする
 あ、まずい……。三人がムッとした…………さっさとこの場を離れよう

「はぁ……、そうですか。あ、じゃあ…………私忙しいんでこれで」

 こういう手合いは相手にしないほうが賢明だ。騎士団の人だし揉め事起こしたくない

「待ちたまえよ君? 逃げるのかい」

 ぐっと肩を掴まれる
 あー……面倒くさい人だー…………

「今までは救世主の肩書で好き勝手にやれていたのかもしれないが、
 今日この僕が王都エルトに帰って来たのだからこれまでのようにはいかないよ?
 君はソフィア様に相応しくない……自分でもそう思わないか?」

 今しがた出てきたダイニング・ルームに目を向けると
 ちょうどソフィアがダイニングルームから侍女を引き連れ職務室へ向かおうとしていた

「あの、私忙しいので……、この手を離していただけませんか?」
「今僕が言った事を君が認めたら手を放すよ。フフフ……」
「はぁ……、そうですか…………。じゃあ、本人に聞いてみましょうか」
「は……? …………聞く? 何を聞くっていうんだい……?」
「……ソフィアー? ちょっと聞きたい事があるんだけどー? ちょっとこっち来てくれるー?」

 すこし離れたダイニング・ルームの入口へ手を振りながら少し大きめの声で話しかける

「はーいっ! 司さまーっ! お呼びですかー?」

 ソフィアが俺に呼ばれウッキウキの表情で女の子走りで駆けてくる
 すげぇ! ソフィアが一歩踏み出すごとに胸が縦に横にバインバイン揺れてる!

「なっ!?きっ!?君!?何を言ってるんだ!?王女殿下だぞ!?」
 ラインハルトが驚いて俺の肩から手を離す

「そうですよ? それがどうかしました?」
「ど、どうかって!?しっ! しかも呼び捨てでこんな所から呼ぶとは失礼だと思わないのか!?」
「思いません」
「ソッ……!?ソフィア様ぁ!?なぜ姫様が君に呼ばれて走って来るんだ!?」
「なぜ走ってくるんでしょうねえ。歩いて来てもいいのにねえ……」

≪ふふふっ。マスター……! ちょっと遊んでるでしょ?≫
 ……バレた?
≪ほらっ! さやかさん達がお腹抑えて苦しんでますよっ≫
「……っ! つっ、つか…………っ」
「ちょっ……おにっ…………ふっ……く……っ……!」

 三人共お腹を抱えて笑いを堪えプルプル震えていた

「おまたせしましたっ! 司様っ!」
「ソフィア、忙しいのに呼び止めてごめんよ。
 ……あのさ? このラインハルトさんって人が、俺がソフィアを守るのは相応しくないって言うんだよ。ソフィアはどう思う?」
「えっ!?そんな!?そんな悲しい事言わないでくださいっ! 司様ぁっ!」

 ソフィアが涙を浮かべながら「お願い捨てないで!」と言うような目で縋り付いて来ながら見上げてくる

 ほら見ろー? あんたのせいでソフィアがこんな悲しそうな顔してるじゃんかー

「ああ、違う違う。俺じゃなくてさ? この人がそう言ってるんだ。俺じゃないよ? ソフィア……」
 俺はソフィアを安心させるため、微笑みながらソフィアの頭をなでながら慰めながら言う
「……誰ですか? あなた」

 ソフィアがラインハルトを冷たい目で見据え声低くマジトーンで言う

「だっ……誰って! 私です! 王国騎士団のユリウス・ラインハルトです!」
「はぁ、知りませんけど。……で? どういう事ですか…………?」

 こっわ……! ソフィア怖っ!

「え……あ、あのっ…………? …………」
 俺に目を泳がせ俺に視線で助けを求めるラインハルト

 わかりましたよ、俺がやり過ぎました。助け船出しますから許してくださいね?

「うん。なんかね? この人が言うには、自分こそがソフィアを守るのに相応しいんだって」

 ピシッ……!
 ソフィアを取り巻く空気が張り詰める
≪あははははっ! マスター! 容赦ないですね! ふふふふふっ!≫
 この人が言った事実しか言ってないぞ、俺は

「へぇ……? そうですか…………? 司様より、あなたが……へぇ、そうですか……」

 ソフィアが肩を震わせながら、全く温かみの無い声で言う


「え、あ……う…………」
 ラインハルトがそのソフィアの姿に青ざめる、ようやく自分が置かれている状況を理解できたようだ

≪マスター……ホント見てる観客を飽きさせないですね…………! ふふふっ……」

 さやかとレティシアがお腹を押さえながら、壁の方を向いて震えながら笑いを堪えていた
「「……っ! ちょ、無理…………っ」」

「……じゃあ、あなたが司様に「もし勝てたら」、私の専属騎士になってくださって結構ですよ?」
 ソフィアが「もし勝てたら」の部分を強調して言う
 大分頭に来てるな……コレ

「えっ!?本当ですか!?ソフィア様!?」
「ええ、私の司様に勝てればですよ? そんなに強い人なら是非お願いしますわ。ふふふふっ……!」

 ソフィアが暗い笑顔で答える

 怖っ!?ソフィアがガチで切れてるって!
≪そりゃあ、自分の彼氏を貶されたら誰だって怒りますよ≫

「よ、よおし! なら決闘だ! 東条司! 僕が勝ったらエルトから出ていけ!」
 言いながら手袋を脱ぎ投げ捨て俺の足元へ投げる

 ……決闘て、何言い出すんだこの人…………、漫画やアニメじゃあるまいし……

「あの? それ……私が勝ったらどうなるんです?」
「ふっ……あり得ない事だ。その時はそのままだ!」
「何を言ってるんですか? 決闘ですよね? 勝負は公平にやるからこそ意味があるんです。
 あなたが負けたら王国騎士団を辞めてこのエルトから出て行きなさい。これは命令です」
「えっ……ソ、ソフィア様…………!?」
「まさか、王国騎士ともあろう者が神聖な決闘の場において、騎士の誇りを穢す等ありませんよね」
 ソフィアが王女然とした態度で冷たく厳しく言い放つ

 ……おお、ソフィアが久しぶりに「第一王女」してる所見た気がする!
≪普段普通の女の子然としてるから忘れがちになっちゃいますよね≫
 だよな。付き合ってみるとホント普通の女の子だもんな。ソフィアって
≪マスターはそこが好きなんでしょ?≫
「そこが」じゃなくてソフィアの全部が好きだけど?
≪……ごちそうさまです≫

「そ、それは……!」
「うーわ……この流れ見て察する事ができなかったんだ、この人…………」
「司様っ。お怪我は私が治しますからねっ!」

 全員で騎士団が運営する決闘場へ向かう
 決闘場では普段は騎士団たちの訓練を行っている

 決闘場へ向かう途中さやかが不安な表情でマキナに話しかける

「でっ、でも大丈夫かな……? あの人自信があるから決闘なんて言い出したんだよね…………? 怪我しないかな……お兄ちゃん」
≪大丈夫ですよ、さやかさん。……ちょうどいい機会かもしれません。
 この異世界に来て一か月でマスターが積み上げた物を見てあげてください≫
「……あの人は何年も剣とかの修行とかしてるんでしょ…………? お兄ちゃんが勝てるわけ……」
≪マスターなら大丈夫です。さやかさんのお兄さんは強いですよ≫
「えぇ……? だってお兄ちゃんはマキナさんが取り憑いてる以外は普通の高校生なんですよ?」
≪私を悪霊みたいに言わないでくださいっ!?私はマスターの神器ですっ。悪霊の類じゃないですっ!
 皆さん……。人の一生は短いです。病気や事故、理不尽な暴力でその寿命を全うする事なく終える人も珍しくありません…………。
 人が一生の内に本気になれる事は少ないです。マスターは本気でこの国、この世界を救おうとしています。
 マスターが本気で積み上げた物を見てあげてください≫

 コンコン

「はい。どうぞ……」

 ガチャ

「っ!?ソッ!?ソフィア様っ!?それに救世主様たちまで……!?こ、このような所へ何かご用でしょうかっ…………!」

 ガタッ……!
 騎士団長が驚き、椅子から立ち上がり直立する

「ええ、この方が司様に決闘を挑まれまして。訓練場を貸していただきたいのです。騎士団長」
「ラインハルト……!?そ、それはもちろん構いませんが…………あの、どういうご事情でしょう?」
「この人が司様が私を守るのは相応しくないと言って、私を守るのはどちらが相応しいのかを賭けて決闘を申し込んだんです」

 そのソフィアの言葉を聞き騎士団長が青ざめる

「なんですと!?……ラインハルト…………!?救世主様とソフィア様になんと無礼な事を!?」
「だ、大丈夫ですよ。私は勝ちます! 騎士団長! ソフィア様の為に! 勝って見せます!
 ソフィア様に対し口のきき方も知らない田舎者なんぞには負けません」
 ソフィア達が嫌そうな顔をする

 おぉ~~いいねー。その気迫好きだぜ?
 なんにせよやる気がある騎士がエルトにいてくれるってのはありがたい

「そういう事じゃない! 貴様は事の重大さがわかっているのか!?」

 騎士団長が必死の形相でラインハルトを叱りつける

≪これ陛下が聞いたら青ざめるでしょうねー≫
 ……やっぱ問題になるかな?
≪なりますよ。だって、マスターが居なくなるってエルトからしたら一大事ですよ?
 結果がどうであれ陛下にこの事がバレたらこの人と騎士団長はもちろんですが、ソフィアさんも陛下に怒られますよ?≫
 ……じゃあ、あまり大事にならないようにしないとな
≪ここから大事にならないようにできます……?≫
 ようするに「決闘」から「訓練の手合わせ」してたって事にすればいいんだろ
≪……できます? 相当手加減しないと厳しいですよ≫
 だなぁ。……まあ、一応考えはあるよ
≪マスターにお考えがあるのなら、安心ですが……≫

「……騎士団長。ちょっと「訓練で手合わせ」するだけなんで大丈夫ですよ」
「と、東条様……」
「っ! 貴様!?決闘だぞ! 騎士の誇りを穢す気か!?真剣にやれ! !」

 おいおい……。俺が「訓練で手合わせ」と言う事にしようとしてる苦労を無駄にしてくれるなよ
 ……頼むよ…………もっと大きく物事を見てくれ。これがバレたらソフィアと騎士団長が陛下に怒られちゃうだろ……?

「……。なるほど「訓練の手合わせ」ですな。わかりました、東条様。この者に胸を貸してやってください」
「はい。「訓練の手合わせ」ですね。承ります」

 やったぜ! さすが隊長! 話が分かる!
 これであくまで俺が訓練に付き合ったという体になるから、大きな問題にはならないはずだ

≪なるほど、こういう風に持っていきましたか。さすが隠蔽と捏造が特技なだけありますね≫
 おう! 隠蔽と捏造なら任せろ!

「……感謝致します。救世主様。ではご案内いたします。おい、ソフィア様達を観客席へお連れしろ」
「ハッ……!」

 騎士団の闘技場に備え付けの木剣を借りる

「お兄ちゃーん! 頑張ってー! 怪我したらやだよー!?」
「司様ー、頑張ってくださいっ」
「司様! 怪我したら私治しますからー!」
「……え?」

 闘技場の中央に二人で向かい迎え立つ

「くっ! 訓練の手合わせだと……! ふざけるな…………! これは神聖な決闘だ! 君は我ら騎士団の誇りを穢す程積み重ねて来たというのか……!」

 騎士団の訓練中だった騎士達が騎士団長の指示で脇に退避させられ、騎士団たちの見守る中緊張の空気が流れる

「いや……別に穢すつもりはないんですが…………」
「……ふざけやがって!」
「いえ。すごく真面目に言ってます……」
 本心です!

「これより! 我が騎士団の誇りを穢した不貞の輩へ忠を下す! 我が同胞たちよ! 見届けてくれ!」
 ラインハルトが木剣を天に掲げ宣言する

 ……言ってて恥ずかしくないですか? そのセリフ。
 あの、成人してますよね? 周りもっと見ましょうよ……誰もこの決闘を歓迎してないですよ…………

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「はぁぁぁぁぁぁ…………」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 あ……はい。ホントすみません…………。訓練の邪魔ですよね……

 訓練を中断させられた騎士団員たちから、盛大なため息が漏れ俺達を眺めていた
 ほらー……。騎士団の皆さん呆れてるじゃん…………

 学校にもいたなー。こんな感じで一人で突っ走って周りの人に迷惑かけちゃう奴……
 大抵こうしてみんなに迷惑かけた奴って、後でみんなからハブられたりイジメの標的にされたりすんだよな

「行くぞ! うおおおおおおおお!」

 ラインハルトが木剣で切斬りかかってくる

 袈裟懸けの斬撃を拳一つ分で回避し、瞬時にラインハルトの右側に回り込む
 ラインハルトの肩を軽く木剣で叩く

 コンッ

「まず一回」
「くっ……!?」

 振り下ろした斬撃をそのまま振り向きざまに左切り上げてくる
 バックステップで拳一つ分で回避し、切り上げ終わった瞬間に接近し、木剣で腹を薙ぎ軽く鎧を叩く

 カンッ

「二回目……」

「えっ……、何。これ…………お兄ちゃん……避けてる!?避けてますよね!?アレ!」
≪はい。完璧に見切ってますね≫
「私の司様に勝てるわけないですっ!」
「司様ー頑張ってくださーいっ!」

 攻撃が一切当たらず苛立ちを募らせブンブンと半ばヤケクソに剣を振り回すラインハルト

「はぁっ! はぁっ! っ! これならどうだ!?」

 段々とラインハルトの額に汗が流れ始め息が上がってくる

「はぁっ! はぁっ! 何故! 何故まともに攻撃してこない!?」
「してますよ?」
「ふざけるな! こっちは真剣にやってるんだぞ!」

 いやー、気持ちはわかるけど乗ってあげられないです、ソレ。あなたにこの勝負で怪我してほしくないんで……
 レティシアの神器は理不尽に傷つけられて苦しんでいる人達の為に使う物だと思ってるんで
 あなたの変な言いがかりでレティシアの仕事増やしたくないんですよ。
 神器を使うって心身ともに疲れるの知らないでしょ?

 フェザーステップで回避しながら話しかける

「スタミナ切れるまで付き合いますから、どうぞ打ち込んでください」
「くっ……! 舐めおって!」

 手加減して攻撃し回避し続けると、ラインハルトのスタミナが枯渇してきたのか、フラフラと揺れ始める

「……一72回」

 ラインハルトが完全にスタミナを切らしたのか足元がおぼつかなくなってきた
 対して俺は一切息一つ乱していない、そのことが余計に焦りを生む

「はぁっはぁっ……! なんで…………当たらないんだ!?」

 ガンっ! !

 剣を地面に叩きつけ八つ当たりをするラインハルト

「まだ一時間も経ってませんよ? どうぞ打ち込んでください」
「このっ!?舐めるな……っ!」

 俺のその言葉にラインハルトが激昂し立ち上が牢とするが足をもつれさせ地面にうつ伏せで倒れる

 ドシャッ……!

 あ。顔からいったな。今……痛そう

「あの……大丈夫ですか? 顔ぶつけましたよね? 今」

 上から覗き込むとラインハルトが憤怒の表情で立ち上がってくる

 バックステップで距離を取る

「うおおおおおおおお!?……このっ! 精霊魔法! ファイアエレメンタル!」

 ビー玉程の赤い光がラインハルトの周囲に出現し俺の周りを浮遊しながら取り囲む

 おい。今の熱血な立ち上がり方だったら剣構えて咆えながら向かって来るもんだろ! そこで魔法ってどうなんだよ!

「やれっ! ファイアエレ……」

「……」

 シュッ……!
 ババババババババババッ……!

 ラインハルトが言い終わる前に周囲の炎の聖霊を全て木剣で叩き落す
 最速の最短で叩き落した為恐らく常人には剣を一振りしただけに見えたはずだ

「ミーア!?な……。なんだそれは…………! 一振りで僕のファイアエレメンタルを全て消した!?何かの魔法か!?」
「ただの斬撃で叩き落しただけですよ」

「くっ……! くっそおおおおおおおおおお!?」

 ドン……! ドンドンドン! ドン…………!

 ラインハルトが闘技場の土を握りしめ、拳で地面を何度も叩きながら悔しそうな顔で咆える

「……ほら、立ってください。まだやるんですよね?」
「くっ! 僕が! 僕こそがソフィア様に相応しいんだ……! うおおおおおおお!」

 ラインハルトがまた気合を振り絞りヘロヘロの状態で立ち上がり突進して攻撃してくる

「……二三八回」
「はぁっ……はぁっ…………ぜぇっ……ぜぇ……っ……ひゅーーーーっはーーーーーっ……!! ……うっ……げえええええええ! …………ぺっ……」

 ラインハルトが剣を杖代わりにし、立っているのがやっとの状態になる
 ラインハルトの顔が青ざめ息も絶え絶えになり嘔吐する

 騎士団の皆さんが嫌そうな顔をする
 そりゃ嫌ですよね、訓練する場所のド真ん中でゲロ吐かれたら……

「君は……! 君は何者なんだ…………!?」
「ただの救世主ですよ」
「神器も使っていないはずなのに……! その若さでその強さ…………! ありえないだろ! その動き……どうやって身に着けた!?」
「どうやってって、……ちょっとお待ちを。マキナー? 俺って今修行の合計年数って何年だっけ?」
≪2397年です。マスター≫
「そっか、ありがとー。……約二千年の間最強の存在に修行つけてもらいました」
「な……!?にっ、二千!?何を馬鹿な事を…………!」
「ああ、私の神器マキナは時間を操れるのでこの世界の一時間が十年になるんですよ」
「は……? 冗談、だろ…………? 一時間が十年って……」
「冗談言ってるように見えます?」
「二千……う、嘘…………だ。そんな……」
「事実です」

「……私の負けだ。私が身の程知らずだったようだ…………。すまなかった……」
「……これは「訓練の手合わせ」なんでお気になさらず」

 そう言い残し、俺は歩き出しソフィア達の方へ足を向ける

 がっくりとラインハルトが四つん這いになり顔を伏せ震えていた

「ただいまー」
「お疲れ様ですっ! 司様っ」
≪お疲れ様ですっ! マスター!≫
「お疲れ様! おにーちゃん! カッコよかったよ!」
「お疲れ様ですっ! 司様!」

 みんながねぎらいの言葉をかけてくれながら出迎えてくれる
 ラインハルトが俺たちの所へ来て話しかけてくる

「……東条君…………、教えてほしい事がある……」
「はい。なんでしょう?」
「……僕には、君がわからないんだ。君は…………、二千年以上も修行をしたと言った。
 君は一体何を目指してるんだ? どこに行くつもりなんだ? どこまでいくつもりなんだ?」

 俺は瞑目し考える

 どこまで、か。そう言われると答えに困るな
「マキナのマスターとして相応しくなりたい」ってのはあるけど、明確なゴールって定めた事ってないな……
 敵の明確な強さがわからない以上、どこまでやればいいのかわからないしなぁ……

 ……

 俺は目を開きニッと口角を上げて口を開く


「────どこまでも。この命が続く限り、高く高く積み上げ続けますよ。大切なものを失わない為にね」


 ソフィアの肩にポン……と手を置きながら言う
「あ……」

「……フッ。負けたよ、君には。君こそソフィア様に相応しい騎士だ…………!」

「もうっ! 司様ったら! うふふふふふっ!」
 ソフィアがいつものニコニコ顔になり、俺の腕をギュっと胸に挟んで体を寄せて来る

「あっ! おにーちゃん!?ソフィアさんばっかりズルい!! 今のは「さやかの為に頑張ってます」って言うとこでしょ! !」
「司様! たまには「レティシアの為に頑張ってる!」とか言ってください!」
「ふっ……司様の一番は私なんですよ? 当然の事でしょう」

 ソフィアが余裕の笑みで言う

「みんなの分も頑張ってるよ……?」
「「ホントに!?」」
「う、うん。ホント」
≪マスターが修行頑張ってるのは私の為ですよ?≫

 マキナちゃん! 強くなる理由として、それは確かにあるけどそれ今言う!?さらにカオスになるって!

「「「えええっ? 司様(おにーちゃん)争奪戦にマキナ様(さん)参戦ですか!?」」」

≪参戦も何も私はすでにマスターに「マキナは俺の神器だろ? 死ぬまで一緒だ!」てプロポーズされましたし。
 私はすでにマスターから言質を取ってゴールしてますので……のんびり皆さんを見てられる立場というか…………≫

「「「ええええええ!?プロポーズ!?まさかのゴール済み!?どういうこと(なの)ですか」」」
「……あれっ!?アレをそういう意味で受け取っちゃった!?」
≪彼女とか奥さんは別れたらそれでおしまいですけど、私とマスターは何があっても死ぬまで一緒ですからねー!
 まぁ……、「死が二人を別つまで」と言いますか? …………ふふふふふっ≫

 マキナが勝ち誇った表情で胸を張りながら腰に手を当て宣言する

「……あっ!?そうか! だからマキナ様はいつも余裕の表情だったんですね!?
 ヤキモチ焼いたりしないのかなって不思議に思ってたんです! アレはそれがある故の余裕だったんですね!?」
≪そうですよ? 私とマスターはいつまでもどこまでも何があっても一緒です! ふふふふっ≫
「私は絶対離れませんからね! 司様が元の世界に戻られる時はエルト捨てて司様に着いて行きますからね!」
「えっ!?王女様なのに!?それはもったいないですよ!?さっさと諦めて別の人探したほうがいいんじゃないですか!」
「何言ってるんですか!?司様と別れるなんて絶対嫌です! レティシアさんこそ他の人探したほうがいいんじゃないですか!」
「絶対嫌です! 私の運命の人なんです! それにその序列一位の座はそのうち入れ替わりますから!」
「それは絶対にありえません! 私は司様と運命で結ばれているんです! そう神様がお決めになられた事なんです!」
「……」

 レティシアが手をチョキの形にして、ソフィアと俺の間を切る

「私と司様の赤い糸に何してるんですか!?なんて陰湿な事を思いつくシスターなのかしら!」
「運命の赤い糸で結ばれてるのは私です! ソフィア様のは間違って絡まっちゃっただけです!」
「人の運命の赤い糸間違いとかよく言いますね!?貴方のこそ間違いですっ!」
「運命的と言うなら私こそがそうですよ! 私八年妹ポジで我慢して来てようやく私のターンが来たんですから! これもう運命でしょ! 私のターンですから今!」
「いやいや、そんなターン来てないですから! それ勘違いですから! 別れてもさやかさんは妹ポジがあるからいいじゃないですか!」
「よくないですよ! また妹ポジに戻るとか余計辛いじゃないですか! レティシアさんこそ他人ポジに戻ったらどうですか!」
「他人ポジ!?私の生きる意味を奪うつもりですか! よくそんな酷い事を人に言えますね!?」
「お互い様でしょ! 私だって絶対嫌ですよそんなの! !」
「妹ポジなら少なくとも一緒にいられるでしょ! !」
「「……くぬ~~~~っ!?」」
 レティシアとさやかが睨み合う

「しかし、マキナ様がそうとは……これは予想外でした…………。……でも、ふ……ふ……」
≪あっ!?ソフィアさん!?私のおっぱいチラ見して今安堵の表情を浮かべましたね!?≫
「ふふっ。嫌ですわ、言いがかりですよ。マキナ様……」
≪言っておきますけどマスターが強くなったら私成長した姿にもなれますからね!≫
「えっ……!?そうなんですか!?マキナ様!」
「で、でもおっぱいまで育つとは限らないですよね……」
≪ふっ……どうして、おっぱいだけが育たないと思うんです?≫

 マキナがニイっと口角を上げながら言う
 うん。やっぱマキナって俺の神器だよな……

「「え!?そんな!?おっぱいも大きくなるんですか!?マキナ様はさやかさんと同じ貧乳ロリ枠じゃないんですか!?」」
「失礼な! 誰が貧乳ロリ枠ですか!」
≪違いますっ! 勝手に貧乳ロリ枠と決めないでください! 私だって大きくなればソフィアさんと同じくらいになるはずですっ≫
「おにーちゃん!?マキナさんのおっぱい大きくするために修行してたの!?」
「さやか!?それは酷い誤解だぞ!?」
「どう違うの! そう聞こえるんだけど!」
「……俺が今修行に励んでるのは、ソフィアの為でもあるし、マキナの為でもあるし、
 もちろんレティシアやさやかの為でもあるし、俺を大事にしてくれる人みんなを守る為だよ? この間も言っただろ?」

「……ちょっと? おにーちゃん…………? 今の言い方気に入らないんだけど……?
 今レティシアさんと私をひとまとめにしたでしょ? 序列二位でまとめたでしょ? 今……」
 さやかが虚ろな目で俺を見据えながら言う

「まとめてないよ!?」

 ウッソだろ!?こんな言葉尻つかまえて因縁つける!?
 ヤバい、かなり機嫌悪いぞこれ……
 これは……さやかの機嫌を取らないとまたキレるな…………

 ……よし

「あのな? さやか? 俺はちゃんとさやかの事も大切に思ってるよ」
「……本当に?」
 さやかがジト目で睨んでくる。滅茶苦茶疑ってる目だ

「本当だ。大体考えてもみろ? この中で一番長く俺と一緒にいるのはさやかだぞ?」
「う、うん……そだね…………」
「俺はさやかが一番気兼ねなく話が出来て気持ちが安らぐんだよ」
「ふっ……ふふふふふふっ! そっ! そう! そうだよね! 私が一番長くおにーちゃんと一緒にいるんだもんね!」
「うん、そうだよ? 俺はさやかが一番落ち着くよ。前にも言っただろ? さやかは見てるだけで心が安らぐ花だって」
「ふふふふっ! そうか、そうだったよ! お兄ちゃんにとって私はお花なんだよねっ。そっかー……! 私お花かぁ、そっかー! ふふふふふっ…………」
「そうだよ。さやか……、さやかはそうやって笑ってる顔が一番可愛いよ」
「なーんだ! 心配する事なかったんだよね! ふふふふっ!」

 さやかがニコニコ顔になる
 ……よし! 機嫌治った!
 ふう……危機は脱した…………

「司様……?」
 振り向くとソフィアが目を据わらせこっちを睨んでいた

 ああああ!?こっち(太陽)はこっち(太陽)で核融合しかけてる!?

「ソ、ソフィア……?」
 俺は恐る恐る太陽(ソフィア)にコミュケーションを取ろうとする

「ねえ、司様? 司様の一番好きなのは誰ですか?」
 ソフィアがニッコリと笑顔でいつもの質問をしてくる

「もちろんソフィアだよ! 俺はソフィアが一番好きだよ! ソフィアは俺の太陽だよ!」
「そうですよね? ええ、それならいいんです。それなら。ふふふふっ!」

 ソフィアがニッコリと花咲く笑顔に戻る

≪出た、出ましたよ。レティシアさん。これ覚えがあるでしょ≫
 少し呆れたような声でマキナがレティシアに話しかける

「はい。私、本当にこの国が一夫多妻制でよかったと思いました。しかし、これはゆゆしき事態ですね。急がなくてはなりません……」
「……ソフィア様はあのイケメンさんと付き合ったらどうですか? あの人ソフィア様の事が好きみたいですよ」
「いえ、私には司様がいますので結構です。レティシアさんこそどうぞ?」
「私だっていらないですっ! 私は司様がいいんですっ! あっ、だったらさやかさんどうぞ! 今ならイケメン騎士がリサイクルできますよ?」
「えっ!?私だってこんなナルシスト入ってる人いらないですよ! 顔ならおにーちゃんの方が100倍かっこいいですし! 無関係な顔して暇そうなマキナさんどうぞ!」
≪……えっ!?わ、私ですか!?私だっていらないですよ! 私暇じゃないですっ。私はマスターの事考えるので忙しいんですっ! 皆さんでどうぞ!≫
「「「私だっておにーちゃん(司様)の事考えるので忙しいですよ!」」」
 四人が言い合いをギャアギャアと言い始め止まらなくなる

 あの……みんな? いるとかいらないとか、ラインハルトさんの人権はフリー素材じゃないんだよ?

「……ソフィア? ソフィアが怒る気持ちもわかるけど、今回は見逃してあげてよ? きっといい騎士になるよこの人」
「……司様がそうおっしゃるのなら…………わかりました……。今日の事は「ただの訓練」と言う事にしましょう」
「ありがとう、ソフィア。俺そういう優しいソフィアが大好きだよ」
「うふふふっ! もぉっ! 司様ったら……!」
「東条様。感謝致します。ラインハルトには私からきつく言い聞かせておきますので……」
「今日は訓練に来ただけなんでお気になさらず。隊長。……あっ。騎士団長」
「感謝致します。きゅ……東条様。…………ははは。隊長でかまいませんよ。私も「救世主様」と呼び慣れてしまって言いかけますし」
「ハハハ……。ですよねー…………」
「みんな今日ここであったことはただの「訓練」って事でよろしくー」

「「「はーいっ」」」


「隊長もそういう事なんであまりきつく叱らないであげてください。……あまり大事にすると…………ほら? ね……?」
「……ふむ。そうですな、わかりました。東条様…………。素晴らしいご配慮深く感謝致します」
 小声で最後の方をいうと隊長が察した表情になり頷いて返事をしてくれる

「いえ。じゃあ私達はこれで失礼します。ああ。騎士団の皆さんに今日の事は「訓練の手合わせ」だと伝えてください。
 後お騒がせしましたと伝えてください」
「承知しました。東条様」
「では。失礼します。部屋帰ろうか、みんな」
「「「「はーい」」」」

 騎士団の闘技場から部屋に戻り、お茶を呑みながら一息ついているとマキナに話しかけられる

≪……マスター。セレスティアで動きがありました。新しく救世主が召喚されたようです≫
 何? やっと動きあったか! モニターで見せてくれるか

 はい

 ブォン……!

 マキナが漆黒のタブレットを次元の扉から出し両手で渡してくれる

 大聖堂が映し出され、救世主と思われる少女がシスター達に囲まれて褒めちぎられている姿が映し出される
 ……おいおい、こりゃどういうことだ。うちの学校の制服じゃん。黒髪のショートカットがよく似合う可愛い女の子だ

 よし、ここまではさやかと同じだ……

≪レイザーさんに連絡しましょうか? マスター≫
 ……いや。
 あの噂が本当の話なら、あの子がセレスティアにとってハズレ救世主の場合、
 数日セレスティアで過ごした後村に向かわされるはずだ
 もしあの噂が間違いならレイザーさんに無駄足をさせてしまう事になる
 連絡は召喚の議の反応を見てからでも遅くはないはずだよ。

≪そうですね≫
 ……一応次元の扉はいつでも出せるように備えておいてくれ。万が一の時には飛び込んで助ける事になるかもしれない
 セレスティアについて詳しい事がわからない以上予防線は張っておこう
≪わかりました。いつでも出られるようしておきます。……あっ、動きがありました≫
 え? もう? ……本当だ、今回は随分馬車の準備されるのが早いな…………。
 さやかの時は大聖堂で褒めちぎっている間に、この部屋から出て門のところで少し言い合いになって、
 それから大聖堂まで走って行って……それでもまだ少しさやかと話す時間があったのに…………
 ディラン……なんだかやつれたな…………
≪さやかさんの件でこっぴどく怒られたんじゃないですかね……≫
 むしろ今までの救世主が全て神器を呼び出せてたってのが驚きだけどな
≪ですね。世の中には伝説の武器の名前を知らない人だって沢山いるでしょうに≫
 だよな……

 色々と考えているうちに画面にセレスティア城が見えてくる

 ……王城に着いたな

 謁見の間、久しぶりだな二週間ぶりか

 画面に召喚された救世主が跪く姿が映し出される

 ……やっぱ国王に謁見って言ったらみんな跪くよな…………

 セレスティア陛下に自己紹介して……で。召喚の議の為に移動。か
 さやかの時とまるっきり同じだな。やっぱ

「あの、神器って何ですか……?」
「で、ですから! 神器とは救世主様に宿っているものです……。自分の中にある最も強い武器をイメージしてください」
「……? イメージ…………。はい。できました」
「ではその神器の名前を呼んでください」

「来て! ────金属バット!」

 シーン……

 ハハハハハハハ!!! そうだよな! 現代人に「強い武器」って言ったら、普通そういう物を連想するよな! わかる! わかるよ!
≪あはははははははははっ! 金属バットは確かに強い武器ですよ!≫
 ハハハハハ! ディランが青ざめてるぞ!
≪アレは絶対「また神器が出せない救世主か!?」って思ってる顔ですよ! ふふふふふっ≫

「……あれ? こうじゃない? じゃあ…………」
「────────来て? 天羽々斬!」
「おっ? 伝説の武器の名前知ってる人か!」

 ブ……ン…………!! !

 その瞬間少女の手が光に包まれ閃光を放ち、あたりを光で包む

 次の瞬間────────光輝く刀が少女の手に握られていた

 おいおい……! マジかよ…………すげぇもん呼び出したな。この子……
≪そんなにすごい神器なんです?≫
 そうだなぁ。クラスとしてはマキナくらい凄いかもな
≪えっ!?あれってそんなにすごい武器なんですか!?≫
 日本神話に登場するスサノオがヤマタノオロチを討伐する時に使っていたとされる神剣で「三種の神器」に並ぶ程有名な神器だよ。
≪でも……セレスティア王とディランたちの反応が…………ため息ついてますよ?≫
 ……ホントだ。…………天羽々斬が当たりじゃなかったら何が当たりなんだよ

 おっ。ディランがすげぇ安心した顔してるぞ
≪でしょうねえ。二回つづけて出せない人だと思ってヒヤヒヤしたんじゃないですかね≫
 だろうな

「……それでは召喚の議を無事終えられましたので、次は恒例のサイクロプスを相手にした神器の試し切りを行いたいと思います」

 ……え…………? サイクロプスの試し切り……? 何そ……れ……
≪……何を言ってるんですか…………この人……≫

 そのディランの言葉に俺とマキナが青ざめる

 闘技場の奥の扉が開きサイクロプスが一体出てくる

 魔物の試し切り!?召喚されて間もない救世主にいきなり大型の魔物と戦わせるのか!?絶対に無理だ! 殺されるぞ! あの子!

 マキナ!
≪はいっ≫

 ブォンっ!
 次元の扉が出現する

 マキナ! エルトは頼んだぞ!

≪はいっ! 次元の扉で闘技場に行けますっ≫

 ズン……ズン…………と地面を踏み鳴らしながらサイクロプスが少女に歩いて行く

「え……何っ…………何これっ!?……い……っ……!?いやっ!?いやああああああああああああああ!?」

 カチャッ……!

 画面に映り出される少女が神器を取り落とし、尻もちをつき泣き叫びながら後退りする

 俺は少女の叫び声の中、次元の扉に飛び込んだ────
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