機械の神と救世主

ローランシア

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第二章 始まりとやり直し

012 レイザーと手合わせ

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「オラァッ! いくぜぇっ!」
 レイザーさんが大剣を構えている状態で猛スピードで突っ込んでくる

 っ

 ブン! ブン! ブン!

 大剣は超重量武器の一種で一撃に重さを置いた武器だ
 その広いリーチと重い一撃は驚異的な制圧力と破壊力を持っている

 超重量のこん棒や斧を振り回すサイクロプスやオーガと何度も戦った経験が生きてくる

 短剣の刃で力の方向を変え受け流しながらいなす

「オラオラ!? どうしたどうしたぁ!? 守ってばかりじゃ勝てねえぞ!?」

 確かに、攻撃に転じなければいずれミスをして致命傷を受ける事になる
 しかし、この人の大剣さばきは、一般的な超重量武器のそれではなく、
 大剣をまるでショートソードでも扱うかのように振り回してくるためうかつに手を出せない

「オラァっ!?」

 受け流し損ねたため、短剣でまともに受けてしまい吹き飛ばされる

 っ!?

 空中で体勢を整え両足と左手を地面につき、弧を描きながらスライドして吹き飛ばされた衝撃を抑え込み、
 何とか地面に叩きつけられるのを防ぐ

「ハ! やるじゃねえか! 今のでぶっ倒れねえとは……っ!?」

 レイザーさんが話終わる前に瞬時に左下に入り込み、
 跳躍し連撃を叩き込もうとするが即座に全ての斬撃を大剣でガードされる

「っ……!」

 金属同士がぶつかり合い俺とレイザーさんの間に火花が舞う

 ガガガガガガガガガッキンッ……! !

 金属同士がぶつかり合う音が訓練場に響き渡る

「っ! 速ぇっ! だがっ……軽いっ!」

 レイザーさんが大ぶりの横なぎを放った一瞬の隙を見逃さず、がら空きになった鳩尾めがけて蹴りを入れる
 鳩尾は人間が鍛える事が出来ない急所の一つだ! どんな相手だろうが効果があるはずだ!

 ガッ!

「……!」

 っ!?
 硬ってぇ!?
 ぶ厚い鉄板でも殴ったかのような感触だった

 急所にぶち込んだ足の方が痺れていた

「フッ! 驚いたか!? これが俺のスキル「パーフェクトボディ」だ! 通常鍛える事ができない急所も瞬間的に鋼鉄並みに硬くできんのよ!」

 言いながら大剣を振ってくる

 っ!? やべっ!

 足の痺れに気をとられ受け流しに失敗し低空で吹き飛ばされながら確信する

 やっぱりそうだ、この人……!
 受け流ししにくい角度を狙って的確に斬撃を放ってくる!

 俺はこの人の事を思い違いしていた
 その見た目から「力任せのパワーファイター」という先入観を持っていた

 考えてみればそうだ……!
 あれだけ相手の事を観察して、考えて行動できる人がパワーにだけ頼るわけがない!

 相手の得意技を見抜く観察眼、己の体を鍛え続けナイフですら刃を通さない鋼鉄化する肉体、
 俺の連撃を防ぎ切る反応の速さ、瞬時に俺の受け流しがしにくい角度を見抜いて的確に狙える技術!

 間違いなくこの人は「強者」だ!


 ダンッ ダッ……! ダッ…………! ザザーッ……! !

 吹き飛ばされ、地面に叩きつけられ二度ほどバウンドして仰向けで倒れる
≪マスターっ!?≫

「やったあ! ぶっ倒れたぞ!? あいつ!」
「ざまあみろ! 副隊長の仇だ! そのまま死ねよっ!」
「死ーね! 死ーね! 死ーね! 死ーね! 死ーね!」
「死ーね! 死ーね! 死ーね! 死ーね! 死ーね!」
「死ーね! 死ーね! 死ーね! 死ーね! 死ーね!」
「死ーね! 死ーね! 死ーね! 死ーね! 死ーね!」

 俺が倒れた事で「死ね」というコールと罵声がが訓練場全体に広がっていた

 地面に叩きつけられた衝撃で激痛が走る

 くっ!?

 ッ痛ってぇ!

 こんなのいつ以来だ? そうだ……サイクロプスの振り回すこん棒をまともにくらった時以来だ…………!
 大の字で仰向けに倒れたまま、二ィっと自然に口角が上がり顔がにやけだす

 ハッ……ハハハハ…………! 面白ぇ!

 思い出した……!
 これだ……! この高揚感…………!
 久しく忘れていたこの感覚だ……!

 ハハハハハ……! たまんねぇ!

「っ……! ハハハハハ…………!」

 足の反動で即座に起き上がり構え直す

 さぁ! やろうか……!

「よおし、俺のとっておきを見せてやる……!」

 レイザーさんが大剣を天に掲げ……

「ぬうんっ!」
 レイザーさんが大剣を地面に叩きつけ巨大な斬撃を放ってくる

 巨大な土煙を上げながら凄まじい速度で斬撃が迫ってくる

 っ! 間髪入れずに追撃か!

「出たあ! レイザーさんの十八番!」
「……終わったな。ま、救世主なんて言っても神器がなけりゃただのガキだ」
「やっちゃってくださーい! レイザーさーん!」

 戦ってわかる。この人は……今まで様々な修行と実戦を超えてきてる
 かなりのものを積み上げてきてる強者だ……!

 だが

 俺も積み上げてきたものなら……ある!

 斬撃が激突する寸前に短剣に剣気を込め斬撃を発生させて相殺する

 ズッ……バァァァァアッァァン! !

 斬撃同士が激突し派手な音を出し消滅する

 斬撃が相殺される衝撃で俺の周りに巨大な土煙ができる。衝撃の余波で土煙の波紋が訓練場全体に広がる

「ハ……! ハハハハハハハ!!? ざまあみろ! 吹っ飛んだはずだ!」
「マジで死んだんじゃねえか? あの救世主!」
「ハッ……、やるじゃねえか…………!」

 周辺の土煙が収まりお互いに姿が確認できるようになる

「ガキが調子にのってるからだ……? あ…………!?」
「おっ! おい!? なんで……なんで、死んでないんだよ!? あいつ!? おかしいぞ! !」
「おいおいおいおい!? どうなってんだ!? あいつ今喰らったよな!?」
「あっ……ああ! 喰らったはずだ! あいつなんで生きてるんだよぉっ!?」

「……この程度で死んでたら「救世主」なんてやってられないんでね」

「……ぺっ! っ!」

 口の中に入った土を吐き出し、駆け出す

「男は黙って真っ向勝負か! いいね! いいねえ!!?」

 駆けだした俺に合わせレイザーさんも駆け出す、
 真っ直ぐに駆ける俺たちに合わせ、俺たちの後ろに直線に土煙が舞い上がる

 大剣の攻撃範囲ギリギリ手前で跳躍しさらに速度を上げ接近する。
 自分の攻撃可能範囲に入った瞬間に大剣に最速で最短の線を引く

 斬葬……!

 シュッ……!

「っ!?」

 一瞬で二四回の斬葬による斬撃を大剣に叩き込む

 カカカカカカカシュッ! カカカカカカカシュッ! カカカカシュッカカカッ! !

 ……バァンッ!

 ゴアッッ! !

 ちょうど訓練場の中央で二つの土煙が一瞬遅れて激突し、
 俺たちの周辺を巻き上げ一面を砂嵐のように舞い上げる

 二四回中2一回の線を瞬時にずらされて線を引けなかった

 レイザーさんの大剣が四つに切断されボロボロと落ちる

「ハ……! すげぇな、お前…………! ……俺の負けだ」
「……レイザーさんこそ凄かったです」

 俺達は見あったまま二っと口角を上げ口を開く

 いやマジで……
 次やったら勝てるかわからないぞ、これ……

「な……!? レイザーさんが負けた…………!?」
「お、おい……なんで…………レイザーさんの大剣が折れてるんだ!?」
「そ! そうだ!? きっとズルしたんだ! 神器使ってレイザーさんの大剣を壊したんだろ!!?」
「そっ……、そうですよね! きっとそうに違いない! あの衝撃波だってきっと神器に守らせたんだ! !」
「そっ、そうか! あんなガキがレイザーさんに勝てるわけがない! ズルして勝って嬉しいか!?」
「卑怯者! 不正をしてまでして勝ちたいのか!?」
「正々堂々と戦えよ! クズ野郎! !」
≪マスター……この世界…………滅んだ方がいいんじゃ?≫
 レティシアみたいな事言わないで!? 最近ブラックジョークに磨きがかかって来たね! マキナちゃん!
「馬鹿野郎どもがあ!? こいつと俺のサシの勝負にいちゃもんつけんじゃねえよ!?
 こいつは自分の力で俺に向かってきた それは闘った俺が一番よくわかってんだよ!?
 これ以上余計な事をほざいてみやがれ! 俺がぶっ殺してやるからな! !」

 シン……

 レイザーさんの一喝で、訓練場内が静まりかえる

 マキナが俺の元へ駆けてくる
≪マスター、怪我を治療します≫
 ああ、ありがとう。マキナ

「そんな……ありえるのか…………? こんな事が……だって、レイザーさんだ……ぞ……?」
「……っ! …………今のが、アイツの実力……!?」
「……じゃあ、本当にレイザーさんが…………一対一の勝負で負けた……?」
「う、そだ……そんな…………あんなガキが……」
「闘技大会一〇連覇の伝説を作り上げたレイザーさんが……あんなガキに…………負けた……?」
「い! いや!? 俺は認めないぞ!? おい! 次は俺と勝負しろ!」

 金髪イケメン兵士の副隊長がツカツカと近寄ってくる

「いいですよ? でも、私が戦ってもどうせ「ズルした」とか言うんでしょ? じゃあ今度は最初から神器使いますね」

 レイザーさんがせっかくフォローしてくれたけど、
「ズルしたんだろ」とまで言われて黙ってるほど、俺は大人じゃねえからな……

≪いいぞっ! いいぞっ! マ・ス・ター! ゴーゴー! マスター! やっちゃえマスター!≫
 マキナちゃん!? いつの間にチアガールの恰好になったの!?

 マキナがいつの間にか青色のチアガールの服装に着替え、チアダンスしながら笑顔で黄色いポンポンを両手で振っていた

「えっ!?」
「レイザーさん……すみません。せっかくフォローしてくださったんですけど…………今の発言は私も許せそうにないんで……」
「いいって。俺だってお前の立場ならそうする。ブチ切れてねえ分、お前は俺より大人だよ」
「……そう言ってもらえると救われます。じゃあ、すみませんが通路に行っておいてもらってもいいですか?」
「おう。気張れよ」
「気張ったらまずいことになるんで、手は抜きます」
「ふっ! ハハハハハ おもしれえもんが見れそうだ! 楽しみにしてるぜ!」
「えっ? あ、あの!? 神器なしで闘うんじゃ……!?」
「だから、さっきも言ったでしょう? 私が神器なしで闘って勝ったとしても、
 どうせあなたは言いがかりつけるつもりなんでしょう?
 もうあなたにどう思われても構いませんし、今回はちょっと強めにやりますから覚悟してくださいね?」
「マキナ? この間のお兄さんがまた俺らと遊びたいんだって」
≪ふふふふふふふふっ、そうですかっ! 仕方ないですねっ! 遊びましょう!≫
「えっ、あ、の……っ!?」
「マキナ? あのサイズな」
≪はいっ。マスター≫

 パッシャアアアアアン !
 バチバチバチバチッ !

 マキナが巨大化した状態で顕現する
 金髪イケメン兵士が青い顔で見上げていた

≪さぁ! いよいよ始まりました! DEMリーグ! グループリーグ第一節! 実況はわたくしマキナがお送りします!
 本日の試合解説には東条司さんをお招きしております! 今日もよろしくお願いします!≫
 どうも、こんばんは。よろしくお願いします
≪今や世界最高峰の一つとなったこのリーグ。他と比較しても最もエキサイティングなリーグと言えるのではないでしょうか!≫
 そうですね。このリーグは激しいプレイが魅力という事もあって熱狂的なサポーターも多いんですよね!
≪私、ファンとしても、この試合を非常に楽しみにしてましてー≫
 なるほど! では、今日はファンとしても楽しめる試合であってほしいですね!
≪まもなくキックオフです!≫

 軽ーく蹴っ飛ばして訓練場の外に蹴り出すか
≪はいっ!≫

 パッカーン !
 マキナと俺が金髪イケメン兵士を訓練場の外へ蹴りだす

≪さぁ、キックオフ! 今日はどんな試合展開を見せてくれるのでしょうか!≫
≪やややっ? ここで試合終了の笛ー。いやー、いい所がひとつもありませんでしたねー≫
 いやぁ、非常に残念な試合結果となってしまいましたね

 マキナを解除しレイザーさんの元に向かうと、レイザーさんが腹を抱えながら笑い転げていた

「ハハハハハ すげぇ! なんだよありゃ 勝てる気がぜんっぜんしねえ! ハハハハハ! !」
「ハハハ……」
「嬢ちゃん! おめえもすげぇな ハハハハハ! いやぁ、俺は久しぶりに腹の底から笑ったぞ……!」
≪ど、どうも……≫

「……何を騒いでおるのだ?」

 訓練場の入り口から声をかけられ振り向くと隊長がいた

「おぉ、オッサン! 帰って来たのか、久しぶりだな」
「……レイザー…………。お前いつ王都に戻った? ここで何をしている」
「街で噂の救世主とよ、酒場で偶然知り合ってな。噂の救世主がどんなもんか闘ってた」
「救世主様と……!? まったく…………お前と言うやつは…………。……救世主様、この男がご迷惑をおかけしました」
「いえ、お気になさらず、隊長。私も楽しかったですし」
「……そう言っていただけると救われます。…………このやんちゃ坊主は手がかかったでしょう?」
「オッサン。二五の男に坊主はねえだろ……」
「警備隊の隊長を突然辞めて、私に仕事を押し付けて街を飛び出すような奴は子供だ」

 警備隊の隊長!?
 えっ!? 警備隊の隊長って、隊長じゃ……

「……ああ。救世主様、ご紹介いたします。この男は、「レイザー・バルド」…………私の前の警備隊隊長です……」

 警備隊の元隊長か!
 そりゃ強いはずだ……!

「レイザー? この街に戻って来たという事は……決着はついたのか」
「いんや、まだだ。だがな? 今日! こいつと手を組んだ」

 ガシっと肩を掴まれる

「救世主様と……? …………なるほど、あの事か。という事はしばらくこの街にいるのだな?」
「ああ、そのつもりだ」
「それなら、ちょうどいい! こっちに来い!」
「あっ!? オ、オッサン!? ちょっと! 引っ張るなって おい!」
「うるさい! お前が突然いなくなった事で、どれだけ私が迷惑を被ったのかわかっているのか! 今からたっぷりと陛下からお叱りを受けろ!」
「えっ!!? ちょっ! お、俺は今自由な冒険者で……」
「……冒険者だと? 残念だったな、今日で廃業だ。来い! …………おい! すぐに馬車を用意しろ! 城に向かう!」
「は、はいっ! !」

 隊長の命令で兵士がかけていく

「ああああ!? オッサン!? 俺の話を! 俺はまだやらなきゃいけないことが!」
「お前のやるべき事はここで警備の仕事に就く事だ! 来い! 馬車の準備ができるまで今までの文句を言ってやる……! !」
「お、おい!? 救世主っ!? 俺を救ってくれぇっ!? この破滅の王が俺の自由を奪おうとするんだ! !」
「馬鹿者! 誰が破滅の王だ!? ……そうだ、先日の事もある!
 救世主様がいたからこそ、先日の魔物の襲撃に対応できたのだぞ!? もし救世主様がいなかったら……!
 その件も含めてお前には文句が山ほどあるのだ!」
「そっ、それっ俺いなかった時だから関係な……ああぁー!!?」

 隊長に引きずられてレイザーさんが警備隊本部の奥へ消えて行った

 あ、あー……なるほど

 隊長が騎士団の隊長と警備隊の隊長を兼任ってどうもおかしいと思ったんだ
 そんな重要な役割、二つも兼任なんて普通はしないものな……

 特に王国騎士団と首都警備隊なんて防衛の要だし
 もし手が回り切らず防衛に穴があったら大事になるしな

 今日のレイザーさんとの手合わせを思い出す

 ……

 何とか、勝てた……けど!

 ギリッ……!

 ……あのレイザーさんをボコボコにできる連中がこの世界にはいる…………
 もっと、もっと強くならねえと……!

 そして、未だわかっていないマキナの情報収集を妨害できる奴も気がかりだ……

 ……まだまだ足りねえな! 修行が足りてねえ…………!

 グッと拳を握り締める

 帰ろうか? マキナ
≪はいっ≫
 よっし! 帰って修行だ! 今日も頼むぜ! マキナ!
≪はいっ。マスター!≫


 新たな決意をし、吹き抜ける冷たい風の中俺たちは歩き出した────

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