機械の神と救世主

ローランシア

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第二章 始まりとやり直し

011 レイザーと冒険者ギルド

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 人質救出の翌日の朝、俺は謁見の間へ呼び出されていた

「お待たせしました、陛下」
 陛下の座る玉座の横にソフィアさんが立って微笑んでくれていた

「救世主、先日の魔物の襲撃時の防衛、そして昨日の国民の人質救出、エルトの代表として最大の感謝を申し上げます」

 ……こまったな。俺こういうかしこまったお礼言われるの初めてだから、
 なんて返事をしたらいいかわからないぞ。自分の無教養さが露呈されて辛い……

「あ、いえ。そんな……」
「救世主様にせめてもの褒賞をご用意いたしました」
「褒賞……ですか」

 万が一だが城から追い出された時の為にお金ならありがたくいただこう

「ええ、救世主様には男爵の爵位と領地と心ばかりのお金を用意しました……」

 ええ!? 爵位と土地って! あれだけで!? そんな大した事したつもりないんだけど……
 なんかすげぇ乗せられてる気がしてならないぞ……

≪うーん。でも、マスターは救世主としてやるべきことはやってると思いますよ? 私≫
 そ、そうか? 褒賞とかもらうの初めてだから何か裏があるんじゃないかって勘ぐっちまうんだけど……

 ……。報酬? いやいや、何言ってるんですか。陛下…………
 報酬なんて俺に渡してる余裕があるんなら監視塔修理してくださいよ

「……陛下。それでは、私から一つお願いがあります」
「おぉ、何なりとお申し付けください。救世主様」

「私はその褒賞を受け取らない代わりに、監視塔を修理し、
 できれば増設して安心して街の人達が暮らせるようにしてくださる事を望みます」

 リリアさんや攫われて人質にされ嬲り者にされていた人達、そしてレティシア……
 ……俺がこの世界へ来てから一週間に満たない短い期間で多くの理不尽に見舞われる人達を見てきた
 きっと、俺が見ていないだけで今この瞬間も理不尽な暴力に傷つけられてる人がいるかもしれない

 ギュっと拳を握りしめる

「救世主様……。しかしそれでは…………」
「陛下。私はまだこの世界の事も、お世話になっているこの国の事もよく知りません。
 ですが、この国が危機的状況に置かれている事くらいはわかります。
 この監視塔を修理し、出来れば増設する事以上に大事な事はないと考えます。
 どうか、私のわがままを聞いてくださいませんか」

「わかりました……。救世主様。…………他に何か希望のものがおありでしたら、出来うる限りご用意させていただきます……」
「いえ……、陛下が用意してくださった衣食住で満足しております」
「救世主様は崇高なお心であられる……」
「さすがは東条様ですな……」
「いや、まったく」
「いままでの救世主様とは大違いですな……」
「ええ、本当に……」

 ────


 人質救出から一週間が経過していた

 マキナの能力をいちまる100%引き出すために俺は修行を習慣化させるため
 俺は人質を救出した日から、夜三時間、朝二時間の修行を日課と決め始めていた

 レティシアの安全を得るため、レティシアが起こした一連の真相は伏せ、陛下に頼み王宮の俺の隣の部屋にレティシアの部屋を用意してもらった
 シスター達とは約束したが、街の人たちが以前のようにレティシアを虐めたり、強姦しては元の木阿弥だからだ
 基本レティシアは内向的な性格の為、部屋からほとんど出ずに過ごしている、
 レティシアが治癒の仕事で城の外に出る時は、王国騎士団数人に護衛をしてもらえるように隊長に頼み込んだ

 数日後、俺は隊長に警備隊本部に呼び出され警備強化について相談を受けていた
 俺の要望が通り壊された監視塔を修理し新しく増設する予定らしい
 マキナの見張れる範囲と照らし合わせたりと建設に適切な位置のすり合わせを行っていた
 俺やマキナがこの世界から帰った後や他の国や街に応援に行くなどの不在時の事も考え、
 地形やその他見晴らしを含めた最適な場所はどこか話し合っていた

 一通り話し合いが終わり、隊長とお茶を飲みながら世間話をしていると隊長から話を振られる

「救世主様。冒険者ギルドには行かれた事はありますか?」
「冒険者ギルド……。いえ、ありません」

 冒険者ギルドなんて、ゲームやアニメやラノベでしか聞いた事ないぞ
 マジであるのか……そういう組織って

「冒険者が集う酒場兼情報交換の場です。ギルドからの依頼や国が発行した魔物討伐などの依頼も数多くあるようです」
「へぇ。そういう組織があるんですね」
「冒険者ギルドはこの世界で起こる様々な事件を取り扱っているため、様々な冒険者の交流の場となっております。
 それゆえ情報が集まりやすいのです。一度覗かれてみてはいかがでしょう。何か救世主様に有益な情報を持つ冒険者がいるかもしれません」
「そうですね。早速この後行ってみようと思います、情報ありがとうございます」
「何をおっしゃいますか。お礼を申し上げなければいけないのはこちらのほうです。救世主様」
「先日の魔物襲撃と人質救出、頭が下がる思いです」
「いえ、そんな……」

 コンコン……!

「来客中失礼します、隊長」
「どうした? 今は救世主様が来ておられるのだぞ」
「いえ、それが警備塔建設について貴族派閥からクレームが入ったらしく至急隊長へ伝えろと伝達が……」
「何……。全く…………、ゆっくりお茶も飲めんな……」
「あ……、それじゃあ、私はこれで…………失礼します。隊長」
「おぉ、救世主様、本日は相談に乗っていただき感謝いたします!」

 俺たちは警備隊本部から冒険者ギルドに向かった

 冒険者ギルド前

 ここか?
≪はい。ここがローランの冒険者ギルドです≫

 よし、入ろうか
≪はいっ≫

 おお! ウェスタンドアだ! 実物初めて見た!

 などと田舎者丸出しで感動しながら中に入ると隊長が話していた通り……

 冒険者と思われる目つきの悪い男たち、
 まるで踊り子のような布地の少ない色っぽい衣装に身を纏った少女
 杖を背中に背負い、とんがり帽子を被っている中学生くらいの年頃の女の子
 ひと際大きな大剣を背に背負う、長めの金色のスパイキーヘアのガタイのいい男
 本当に多種多様な人がいるようだ

 中にいる人達の多様さに目を見張っていると声をかけられる

「ようこそ! 首都ローランの冒険者ギルド「アルストロメリア」へ! 今日はどのようなご用でしょうか?」
 酒場に入ったすぐ横のカウンターにいる受付嬢から声をかけられる
「あ……、情報収集をしたくて来たんですが」
「情報収集ですね。どのような情報をお求めですか?」

 さって、説明に困ったぞ
「あの方」としか知らないぞ

「……説明しにくいんですが…………、先日、この街の人達を攫った一味についてなんですが」

 俺のその言葉が聞こえたのかカウンター脇の男たちから声をかけられる

「ハハハハハ! おい? 坊主! 新米冒険者がずいぶん大層な事調べてんな!?」
「やめとけやめとけ。新米冒険者が取り扱えるヤマじゃねーって!」
「そりゃそうだ。なんたって「救世主様」が解決した」なんて噂があるくらいやべぇヤマだったらしいからな」
「「救世主」ねぇ。うさん臭さが半端ねえな。本当にこの世界が救えるんならやってみろってんだ」
「おい、新入り!? 可愛い嬢ちゃん連れてデートか? ロリコンかよ! 気持ちわりぃ!」

≪マスター? 人間滅ぼしていいですか≫
 絶対ダメ! 種族単位で嫌いにならないで!?
≪……はぁい…………≫

「おーい? 泣いちゃった? ねえ? 泣いちゃった? ハハハハハ!?」
 男の一人が言いながら俺の肩を掴みながら覗き込んでくる

≪……≫

「おい────」

 その男の声がした次の瞬間、俺の肩を掴んでいた男が壁に投げ飛ばされ激突した

 ドガッシャアアアア !

 俺の肩を掴んでいた男が料理を食べていた別の客のテーブルにぶち当たりテーブルごと破壊する

「なっ!? てめえ!? 何しやがる」
「喧嘩売ろうってのか!?」
「おい!? 大丈夫か!?」

 ガタッと投げ飛ばされた男の連れがテーブルから立ち上がる

「おいおい……。俺はお前らの連れの命の恩人だぜ? むしろ感謝してほしいくらいだ。なあ? 新入り」

 そう、平然と言い放つ男に目を向けると
 先ほど冒険者ギルドに入る時目に入った、金髪のスパイキーヘアで長い後ろ髪を赤い紐でしばっている男だった

 っ? この人……

「何が、命の恩人だ! 死ねよっ!?」
 男の一人が激高しナイフを持ち出し、金髪スパイキーに襲い掛かり刺した……ように見えた

「っ……!?」

 っ!?

 ナイフの切っ先は男の筋肉に止められ傷一つつけられていなかった

 ハハハ……
 なんだよ、そりゃ……? この世界ファンタジーすぎるだろ…………

 余りの事に乾いた笑いが漏れる

「ハ……! この程度か? あん!?」

 ドガァッ !

「ぶっ!?」

 そう言った瞬間、金髪スパイキーヘアの男が襲ってきた男の頭を鷲掴みにし壁に叩きつける

「くっ!? おっ!? 覚えててやがれっ!?」
「覚えててやるからまた来いよ!?」

 あーあ。アイツら仲間じゃないのかよ
 やられてノビてる仲間ほったらかしで逃げちゃったぞ

「おーい? 悪かったな? お前らの食ってた物弁償するから勘弁してくれ?」
「はっ、はぃぃぃっ!?」
 最初に投げ飛ばした男がぶち当たったテーブルで食事中だった冒険者たちに声をかける、
 青ざめた表情で冒険者たちが返事をしていた

「おーい、受付のねーちゃん? すまん。また色々壊しちまった。こいつらの食ってたのと同じもの作り直してやってくれ。
 俺の報酬からさっ引いといてくれ」
「はいはい……。わかりました。いつもの口座からでいいですか? レイザーさん」
「ああ。頼む」
「はーい」
「……どうも。助かりました」
「この場合どっちが助かったんだろうな? 助かったのはむしろあいつらのほうじゃねえか」
「ハハハ……」
「この店は俺が唯一ツケの利くお気に入りでよ。血で汚されちゃ困るんだよ」

 ああ、やっぱりそうだ
 この人知ってるか、わかってるな

「なぁ、一応確認で聞くけどよ。最近この街に現れた救世主ってな……お前らの事だろう?」
「……はい。そう呼ばれてます」
「やっぱりな。そうだと思ったぜ。……その若さでどんだけ魔物殺してんだお前…………」
「……何匹か、なんて覚えてませんよ。貴方は生まれてから今まで歩いた歩数を覚えてます?」
「ふっ……! おもしれえ事言う奴だ。そりゃあ覚えてねえわ。…………ここに何の目的で来た?」
「先日、この街の人達を攫った一味についてなんですが「あの方」と呼ばれる人物について情報が欲しくて……」
「あぁ……!?」
「はい?」
「「あの方」だとぉ……!? おい!? お前 その話詳しく聞かせろ!」

 突然肩を両手でがっしりと掴まれ、自分が座っていた席にひきずるように連れて行かれる

 ええええ!?

 席に座らされレイザーと呼ばれる男もどかっと座る

「おーい!? ねーちゃん!? 適当になんか持ってきてくれ!」
「はあい。ただいまー」
「よしっ。で、話の続きだ。……ああ、俺は冒険者をやってるレイザーってもんだ」
「……東条 司です、よろしく」
≪マキナです≫
「ああ、よろしくな。……で、さっきの話詳しく聞かせろ? 「あの方」って言ったよな? さっき…………」

 レイザーさんが前のめりになりながら話してくる

「……あの、何も知らないに等しいんですけど…………」
「それでもいい! なんでもいいからその「あの方」って野郎の話を聞かせてくれ! 頼む!」
 頭をテーブルに着く寸前まで下げられる
「わ、わかりました。お話しますから……。あの、頭上げてください…………」
「おお! 頼む!」

 今回の一連の騒動をかいつまんで説明する
 説明している間に料理と飲み物が運ばれてくる

「────なるほど、な。確かにお前の言うように何も知らねえに等しい。
 ……が! その話だとその「あの方」ってのは、少なくとも最近この街にいたって事だよな…………」
「恐らくは……。そのシスターがその人物とどこで知り合い、どこで会っていたのかまではわかりませんが…………」
「いや、それだけでも大収穫だ……あんがとよ。ああ、適当にやってくれ」
「じゃあ、いただきます」

 運ばれてきた食事に二人で手を付け始める

「ん? 嬢ちゃんは食わねえのか? ここの飯はうめえぞ?」
≪……私は食事を必要としません≫
「へぇ、ダイエットってやつか。……ふむ、てことは…………だ……」

 フォークにあらびきウインナーを刺し、プラプラと振りながら話始める

「……なぁ、お前もその「あの方」って野郎を追いかけてるんだよな?」
「はい。手がかりを探してます」
「それならよ。俺と協力しねえか?」
「協力、というと?」
「俺もその「あの方」って野郎を長年追いかけててよ。少しでも何か情報が欲しいと思ってる。
 追いかける対象が同じなら、お互いに情報交換をする協力体制が取れると思ってな」
「……その前に一つ確認をさせてください。マキナは人の心が読める能力を持っています。
 あなたの心の中を確認させてもらってもいいですか?」
「ああ。構わないぜ。この街じゃ特にそういう慎重さは必要だ。なかなかわかってるじゃねえか? お前」
「ご理解ありがとうございます。じゃあ、あなたが「あの方」を追いかけている理由を教えてもらってもいいですか」
「……ああ」

 よし。記憶を探る許可は得た。
 マキナ? この人が嘘を言っていないか、情報確認しながら聞いててくれるか
≪はい。マスター≫

「……俺の故郷はよ。アルザード山脈の麓にあった、小さな村だった…………」

 だった……?

「毎日、朝から晩まで泥だらけになりながら農作業で生計を立てる。……そんな普通の村だ」
「そこに、あの野郎が……! 「あの方」って野郎が来た! !」

 っ!?

 ガタッ

 思わず体を乗り上げ前のめりになる

「ちょっ……! 「あの方」を見たことがあるんですか!?」
「ああ……、ある。黒いマントと気持ちの悪い仮面をかぶってやがったから顔まではわかんねえが…………」

 マキナ? その時の「あの方」って人物の映像や画像でるか

≪はい、マスター……こちらです。今から三年前の映像です≫

 マキナが俺の目に直接画像を送ってくれる

 ────

 ……っ!

 俺はその姿を見た時冷たい汗が背中を伝う感触を感じた

 この人物がレティシアの言っていた「あの方」という確証はない、が……

「体格からして、おそらくは男だと俺は思う」
「……男ですか」
「ああ。体格が男のものだった」
「あいつらは……俺達の村を占領して植民地にしようとしたらしい…………、反抗した奴らは殺された……!」
「俺が「冒険者になる」なんてほざいて家を飛び出して、……数年ぶりに帰った時…………村はほぼ壊滅状態だったっ……!」
「生き残ってた奴に話聞いてよ……。俺がぶっ飛ばしてやろうと思ってそいつらが来るのを待ってたら…………きやがった」
「それで……っ! それで…………!」

 ギリ……と歯ぎしりの音を出しながら

「俺はそいつらに殴りかかった、……情けねえ事に逆にボコボコにされてよ…………死ぬ寸前まで痛めつけられた……。
 血まみれで押さえつけられた俺の前で……あいつらは残ってた村人を一人一人殺していった…………! !」

 下を向きすごい形相で苦しそうに言葉を繋げるレイザーさん

「俺が殴りかからなけりゃ……あいつらは殺されなかったかもしんねぇ…………。けど……! けどよ! !
 アイツらの顔を見た時……どうしても…………、どうしても自分を止められなかった……!
 俺の親父を! お袋を! 妹を……! 殺したあいつらだけは…………!」

「……その後、俺は生き残った…………、惨めったらしく、無様に生き残っちまった……!
 ……生き残ったってのは何か意味があると思ったんだ。…………俺にはまだやる事があるってな……!」
「……」

 マキナ? どうだ
≪本当の事のようですね。全て残されている記憶と一致します
 そう、か……

 こんな悲惨な話……作り話であってほしかったぜ…………

「……事情は分かりました。協力しましょう。こちらも、「あの方」という人物の情報は欲しいところでしたし…………。ただ……」
「……ただ、なんだ?」
「こちらの探している「あの方」という人物とレイザーさんの探している「あの方」が、
 同一人物ではないという可能性もあります。そこはご了承ください」
「ああ! もちろんだ。こっちの出した情報だって、お前らの探してる「あの方」じゃねえかもしれねえんだからな。
 そりゃお互い様ってやつだ」

「じゃあ、連絡手段はどうしましょう?」
「ああ、それならいいマジックアイテムがある」

 ゴソッ

 レイザーさんが腰に付けた小物入れから二つの石を取り出す

「……これは?」
「黒曜石に連絡用魔法陣を封じ込めてあるらしい。
 これで連絡するのはどうだ? 魔紋くらいは出せるんだろ?」
「ええ、それは……」

 魔紋

 魔法力を発現させると固有の文様が描かれる。指紋のように一人一人違っていて同じ魔紋は存在しない
 異世界における指紋のような役割をするもので、魔法技術を覚える際一番最初に覚える最初歩魔法技術だ
 異世界における重要書類にサインをする際、この魔紋でサインが行われる
 現代社会で言うと重要書類に拇印を押すようなものらしい

 ……このアイテムに不審な点はあるか?
≪不審な点は見られませんね。本当にただ連絡用魔法陣が封じ込めてあるだけのようです≫
「じゃあ、ありがたく使わせていただきます」
「ああ。有力な情報が入ったら知らせる」
「はい、お願いします。こちらも「あの方」の情報が入り次第連絡します」
「期待してるぜ、救世主」
「ところで、さっき私の事知ってる風でしたけど、どこかで聞いたんですか?」
「あん? 誰にも聞いちゃいねえよ? まぁ、「街に救世主が現れた」とか、
「人質を救出したのは救世主だ」なんて噂話はここで酒を呑んでいたら聞こえてきたがな」
「じゃあ、どうして……」
「そんなもん見てりゃ修羅場くぐってきた奴かどうかなんてわかんだろ?」
「え……」
「俺も色んな奴と戦ってきたからよ。歩き方や仕草、癖なんかである程度そいつがどんな戦い方するのかわかっちまうのさ」
「へぇ……。そりゃ凄い!」

 凄いなこの人!? そんな事わかるの!?

「じゃあ、私がどんな戦い方をするか、当ててもらってもいいですか?」
「いいぜ? 最初に目に着くのはやはりその歩き方……、フェザーステップを得意とする奴の癖が出てる、
 軸足に体重がかかりきる前に次の足を出す癖はフェザーステップを得意とする奴特有の癖だ」

 っ! おいおい……!? マジか…………

「次に得意技がフェザーステップなら、まず遠距離武器と攻撃魔法の線は消える。速く動いちゃ狙いをつけられないからな。
 そのフェザーステップって技術はよ? 極めれば実戦でもかなり強い戦闘技術だ。
 だが、その身軽さを武器にする性質上使える武器が軽量武器に限られる」
「つまり。短剣かチャクラム、あるいはそれに近しい軽量武器だ。後は体術ってところだが……、そこでお前のその手の豆だ」

 言いながら俺の右手を取り手のひらを上に向けるレイザーさん

「……こりゃ相当に使い込んだ手だ…………。短剣を握り締めてできた豆がつぶれて堅くなって、
 さらにその上に豆が出来て……そうして何回も潰して固くなった手だ。
 それこそ今まで何匹の魔物を倒したのかなんて、答えられない程殺してきたはずだ」

「す、すげぇ……」

 思わず、敬語も忘れて感嘆の声を上げてしまう

「何言ってやがる、凄いのはお前だ。その若さでその手をしている奴を俺は今まで見た事ねえよ」

 ハ……、ハハハ…………
 やべぇ、なんかめちゃくちゃ嬉しい……

≪マスターはもっと自分に自信をもった方がいいと思います……≫
 自信……ね
 俺が自信を持てるようになるとしたら、マキナが100%の力を出せるようになった時かな……
≪……っ! も、もうっ…………! すぐそうやって私を口説くんですから……≫
 えっ!? 今の口説いた内にはいるの!?
≪うふふふふっ……もぉ…………マスターったら……!≫

 マキナが顔を真っ赤にしながら頬を押さえ顔をいやいやをするように振っていた

「……ふふ、この手を見てると…………、やってみたくなるぜ。よし。おい? この後、暇か?」
「え? ま、まあ、特に予定はありませんけど……」
「じゃあ、ちょっと付き合え、腹ごなしにちょっと遊ぼうぜ。おじさんがいい所に連れてってやる。ハハハハハ!」
「え……。いい所…………?」


 冒険者ギルドから外に出るといつの間にか夕方になっていた

 俺たちはレイザーさんの後をついていく

 いいところ……

 ……夜のお店の服を着たソフィアさん…………

「うふふ……、司様? こういうお店は初めてですか…………?」
「さあ……こっちにきて私と夜の運動会に参加しましょう…………?」

 ……へへへ…………、はい! 参加します! 参加しますとも!

≪マスター……? ソフィアさんにチクりますよ?≫
 やめて!? マキナちゃん! それだけはホントやめて!?
 妄想も許してくれないの!? 違うって! これは自然な事なんだよ!
 だってもう異世界に来て十日も経ってるんだよ!? 俺だってそういうのに興味のあるお年頃じゃん!?

≪そもそもですよ? どうしてそこで私をイメージに出さないんだって話ですよ! 正しくはこうです!≫

 マキナが俺の心に直接イメージを送ってくる
 夜のお店の服を着たマキナが同じポーズでイメージされる

≪うふふっ、マスター? こういうお店初めてですか……?≫
≪マスター……こっちにきて私と夜の運動会しましょう…………?≫

 ……サーッ…………

 ……。…………いえ、結構です……

≪なんでですか!? 今マスターの血圧が急に下がりましたよ!?≫
 だって、ねえ……
≪だって、ってなんですか! 私じゃ不満ですか!≫
 ……いやいや、マキナさんや? ちょっと考えてみて?
≪……何をですか≫
 まだソフィアさんだからいいじゃん
≪……≫

 マキナが口を三角の形にし、半目になる

 マキナがソフィアさんの事考えないでって言うのはわかるよ? でもいいじゃん? 女の人だし、可愛いし、綺麗だし
 我慢し続けて我慢の限界がきて男に走っちゃったらどうする? これがレイザーさんの事考えないでだったら……

 マキナのイメージしたものが流れ込んでくる

 ホストのようなスーツ姿のレイザーさん

「よぅ、こういう店は初めてか……?」
「こっちに来いよ。可愛がってやるぜ? 俺と夜の運動会やろうぜ」

≪……いっ、いやあああああああ!?≫

 な? そうなったら……マキナ大分惨めだぞ?
≪……わかりました。じゃあ…………、ソフィアさんに関してだけは認めます。……ソフィアさんだけですよ!?≫
 やったー!

 そんないつもの調子でマキナと話していると、見慣れた警備隊本部前に来ていた

 あれ……警備隊本部に戻ってきちゃったぞ?

「着いたぞ、ここだ」
「えっ、ここは……」
「よぉ、久しぶりだな。オッサンはいるか?」
「……! レイザー殿!? お久しぶりです! いつこの街へ戻られたのです!?」
「一昨日都に入ったぜ。それよりオッサンは?」
「隊長は今外出中です。警備についての会議に出席なさってます」
「そうか。じゃあルードはいんのか?」
「はい。いらっしゃいます」
「じゃ、ちょっと話つけてくるわ。先にこいつを訓練場に案内してやってくれ」
「救世主様を……? は、はい…………」
「おぉ、さっすが有名人だな? 先に訓練場でまっててくれや。訓練場の使用許可取って来るからよ」

 俺たちは訓練場に行く途中の通路を歩いていると、一日の訓練を終えた兵士たちとすれ違う。
 みんな必死に訓練をしていたのか疲労困憊の表情だ

 やっぱ……すげぇなぁ、
 俺ももっと修行頑張って強くならねえとな……!

「悪い。待たせたな? 聞いたぜ、ルードの野郎をぶっとばしたんだって?」
「あー……えっと、まあ…………俺の力じゃないですけどね」
「何を言ってやがる、神器で倒したんだろ? そりゃ十分お前の力だろうがよ」
「えっ……」

 マキナと同じことを言うとは思わなかったため驚いてしまう

「……俺は神器ってのは一種の才能のようなものだと思っている。神器が特殊な能力なのは間違いない。だがな、考えてみろ?
 生まれつき足が速い、力が強い、魔法力が強いってなよくあるだろう? そりゃ生まれついての天性のもんだ。
 神器も生まれ持った能力だ。……神器と才能は何が違う? 何も違わないさ」

 そういう考え方もあるのか……なるほどな

「俺はよ、さっき酒場でお前の手を見た時思ったんだ。こいつと闘ったら絶対おもしれえってな!」

 あー……やっぱり? そういう事か。
 まぁ、警備隊に来た時点でなんとなく想像してたけどね……

「いいですよ。その勝負受けますよ」

 訓練場の円形広場にヒュウ! と夕刻の冷えた風が吹く

「レイザーさん!? やっちゃってくださいよー!」

 包帯まみれの金髪イケメン兵士が通路の脇から乗り出し声をかけてくる

 気が付くと訓練を終えた兵士達や、非番の兵士達までもが平服で観戦に来ていた

 マキナ? 見ててくれるか?
≪……はい≫

「じゃあ、俺からも提案いいですか」
「なんだ?」
「俺、神器なしでやりたいです」
「ハ……! さっきの俺の言葉聞いてなかったのか?」
「聞いてましたよ。だからこそ、です」

「クックッ! レイザーさんにサシの勝負を挑むなんて、いい度胸してるな!? お前なんか神器が無かったら何もできねえだろうが!?」
「そ、そうですよね!? 結局、隊長や副隊長と戦った時だって神器があったから勝てたようなもんだ!」
「そうだそうだ! レイザーさん! やっちゃってくださいよー!」
「……すまねえな。どうやら馬鹿ばかりのようだ」
「いえ。以前はその通りでしたし……」
「……気に入ったぜ! お前!」

 レイザーさんが後ろに跳び距離を取る

 シュン……!

「……」
 短剣を出現させ構える

「おぉ~! いいね! いいねえ! その気迫! その目! 這い上がった奴はみんなそういう目をしてんだ!」
「そして! そういう奴と闘うのは! サイコーに楽しい時間になるって決まってんだ!」

 天を仰ぎながら雄たけびを上げるが如くレイザーさんが叫ぶ


 その言葉が戦いの幕を上げる合図となり俺達の手合わせは始まった────
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