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続・四章 攫われたルー

1 閑話、身勝手な首謀者

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なぜ、あの日あの時あの男の家に向かったのか。
ムシャクシャしていたのかもしれない。
心が弱っていたのかもしれない。
でも、行って何をしようとしたのか、思いつかない。
愚痴でも言いに行ったか?それとも嫌味?
会えば、慰めてもらえるとでも思ったのだろうか?
くだらない。
あの男と自分は赤の他人だ。
そんな道理はない。
なのに、どうして向かってしまったのだろう。
家の前に来て、扉に手をかけて、たまたま鍵が開いていた。
扉を開いて声をかけても、誰も反応しない。
留守だ。
本来なら、そこで帰るべきだった。
だがその時、それは運命だと思ってしまった。
だからそっと、脱いだ靴を持って家に上がり、少しだけ、借りられるものを探した。
少しの間借りるだけ。
そう、お金ができたら後で返せばいい。
家探しを始めてすぐに金庫を見つけたのも、きっと神様がそうしろと言ってるのだと思った。
思いつく限りの番号を適当に回してみる。
すると偶然にも、カチリ、と、金庫の鍵が開いた。
罪悪感よりも、偶然に偶然が重なったその巡り会わせに感謝した。
そうだ。これはそう言うことなのだ。
神が、運命が、この幸運を自分の前に差し出してくれた。
あの男のものを自分が勝手に貰ってもいいじゃないか。
きっと、許してもらえる……
そんな身勝手な思いを抱きながら、金庫の中を見た。
中には、書類しかなかった。
とたんに、意気消沈する。
何を大切そうにしまっているかと思えば、オタクにとってはこんなものが宝なのか。
くだらない。
自分の行為が完全に犯罪であることなど棚に上げて、思わせぶりな物を置いていることに腹が立った。
腹いせにせめて中身を読んでやろうと思ったが、その文字は公用語で使われているものではなく、書かれている図形や数字も意味不明。
舌打ちして、その書類を元に戻そうと思ったとき、大きさの違う別の紙がはらりと床に落ちる。
手間を増やされたことにまた舌打ちして、落ちた紙を拾う。
そこに書かれている文字を読んだとき、雷が落ちた気分だった。
そして、やはりこれは運命なのだと確信した。どこまでも身勝手に。
"真理に至る呪印"
そのメモ用紙には、そう書かれていた。

しかし神様は、最後に意地悪を残していた。
せっかく手に入れた書類をギルドに持って行ったのに、書類を納入した自分ではなく、あの男に名誉と金が送られることが決まったのだ。
自分のしたことは、わざわざあのくだらない紙切れを運んであげて、奴に施しを与えただけ。
身勝手な喜びは、全て怒りと恨みに変わった。

だから。
手に入れるしかないと思った。
紙切れなどではなく、本物を。
そのためには、どんなことでもしてやると。
だって、これは神様がそうしろと囁いたのだから。
そうだ。自分のすることは正しいんだ。

新しい術式の噂が街で囁かれるようになったのは、それからしばらくしてのことである。
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