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連載
皇帝陛下からの手紙
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役所の執務室にて
リックがシャドーを撃退して20日程経った頃、ズーリエの街はこれまでにない程活気づいていた。
「リックさん、今さらですけど本当によろしいのですか?」
「これは皆で逃げずに戦った結果だから俺だけが独占する訳にはいかないよ」
ズーリエが魔物の大群に襲われた際、街の外には俺が倒した無数の魔物の素材が転がっていた。
通常なら魔物の素材は倒した者の総取りだけど俺は街に寄付することにしたのだ。
その素材を売って出来たお金の半分は憲兵の装備を一新したり、商人が街の外で商売しやすいよう護衛を雇うための補助金を出したり、住民達に一律で給付金出すことにした。そして残りの半分は住民の⋯⋯特に子供の教育のための学校や職業訓練所を作るために使ってもらった。やはり義務教育ではないが最低限の知識はあった方がいい。手に職があれば食いっぱぐれることもないだろうし、街の生活の質の向上にも繋がるはずだ。
だけどこの世界の人達は学校に通うという概念がないので、定期的に来てもらうために学校で学べば昼食はタダで配ることにした。
すると子供達は親の仕事を手伝うのではなく、学校に通うことを優先してくれるようになってくれたので、きっと将来はこの子達が街の繁栄に役に立ってくれるだろう。そして学校では道徳も教えるようにお願いしてあるので街の治安も少しずつ良くなっていくはずだ。
「はるなが⋯⋯ルナさんがいてくれて助かったよ」
この案は前の世界で実際にあったことを多く取り入れており、はるなは俺の考えを瞬時に理解して行動に移してくれた。
特に学校運営に関しては俺は全くわからないから本当に助かった。
「これも全てリクくんが⋯⋯リックさんが協力してくれたおかげです」
この世界でズーリエの街はまだ治安に関しては良い方だ。国の王や街の代表の多くはスラムや孤児が生まれるのは当たり前だと思っている。だからルナさんみたいにスラムや孤児を何とかしようと考えるトップなどほとんどいない。
実際ドルドランドのスラム街はズーリエの数倍の大きさはある。それにスラム街はその街の代表や領主に取っては都合の良い部分などもある。例えば盗みや人の殺害など汚れ仕事を頼むにはスラムの人達は打って付けの存在だから無くしたくないという思いもあるのだろう。
「少ないですけどスラムを無くすことに反対する声もあります。それならもっと他のことにお金をかけた方がいいと。私達のしていることは偽善なのでしょうか?」
「偽善も善だよ。何もしないよりはいい。それに教育に力を入れないで国が成長するわけがない。前の世界でそれで没落していった国を知っているだろ?」
「そう⋯⋯ですね。ズーリエをそのような街にはしたくはありません」
自分達の今の利益を優先して未来に投資をすることを怠った結果、国力が低下するなんて目も当てられないからな。
トントン
「ルナ代表、リックくんいいかな?」
俺がルナさんとお金の使い道について話をしていると突然ドアがノックされた。この声はハリスさんだな。
「どうぞ」
この部屋の主であるルナさんが部屋の中に入るように促す。するとドアが開きハリスさんともう1人、グランドダイン帝国の甲冑を来た兵士がいた。
「失礼します」
何故ここにグランドダイン帝国の兵士が?
危険なことはないとは思うが俺は一応兵士の動きに注視しつつ警戒する。
「こちらの手紙をお読み下さい」
兵士がルナさんに近づき1枚の手紙を差し出す。
そしてルナさんは封を破るために裏面にひっくり返すとそこに皇家の紋章が刻まれていた。
「こ、これはまさか皇族からのお手紙ですか!」
ルナさんは予想外の出来事に思わず声を上げているが無理もない。皇族が他国の⋯⋯街の代表宛に手紙を送るなんて前代未聞のことだ。
「拝見させて頂きます」
ルナさんは少し慌てた様子で封を切り手紙の内容を読んでいく。そして何故か手紙を読んでいる最中にこちらに視線を向けてきた。
何だか嫌な予感がする。まさかとは思うけど俺のことが書いてあるんじゃないだろうな。1番現実的にあり得そうなのがこの手紙は皇帝陛下からで「ズーリエの街にいるリックに決闘を申し込む。もし邪魔立てするなら容赦はしない!」と街の代表であるルナさんに対して忠告した内容の手紙だと言うことだ。
もしそうなら本当に勘弁してほしいぞ。
「リックさん⋯⋯これはリックさんに関係する内容なので読んでください」
ルナさんが神妙な顔で手紙を渡してくる。
おいおい。まさか本当に皇帝陛下との決闘が書いてあるわけじゃないよな? 自分でフラグを立てておいて言うのも何だけどこの時の俺は自分の予想が外れてくれと本気で思っていた。
そして仕方なくルナさんから手紙を受け取り中を見る。
結果として俺の予想は外れていた。
しかしだからと言って無視できる内容ではなかった。長々と書いてあったが要約するとこうだ。
俺の父親と兄であるゴルドとデイドはグランドダイン帝国を追放されたため、現在ドルドランドの領主の座は空席となっているらしい。そして元々統治能力のないゴルドとデイドが治めていたドルドランドは経済が崩壊寸前で治安も悪く、いつ破綻してもおかしくない状態になっているため、領主一族の血を持つ俺に統治してほしいとのことだった。
あの2人が無能だとは思っていたけどまさかここまでとは。
だけどゴルドとデイドがいなくても俺は今さら帝国に戻る気などない。
ただ手紙には続きがあり、もし領主になりなくたいのであれば断ってもいいが、その際には1度ドルドランドの現状を見てからにしてほしいと皇帝陛下からの手紙だった。
領主になってしまったら俺のスローライフ(既にその真逆の方になりかけてるが)は完全に崩壊してしまうから断りたい。
だけどドルドランドが崩壊寸前になっているという所は気になる。正直な話街が無くなろうが別にどうでもいいけど困るのはそこにいる住人達、特に毎日食べる物も困っている貧しい人達だ。
元いた国のこととはいえ、それで大量の餓死者が出たら目覚めが悪い。
「わかりました。なるべく早くドルドランドに向かいます」
俺はそうグランドダイン帝国の兵士に返事をして翌日にはドルドランドへと向かうのであった。
リックがシャドーを撃退して20日程経った頃、ズーリエの街はこれまでにない程活気づいていた。
「リックさん、今さらですけど本当によろしいのですか?」
「これは皆で逃げずに戦った結果だから俺だけが独占する訳にはいかないよ」
ズーリエが魔物の大群に襲われた際、街の外には俺が倒した無数の魔物の素材が転がっていた。
通常なら魔物の素材は倒した者の総取りだけど俺は街に寄付することにしたのだ。
その素材を売って出来たお金の半分は憲兵の装備を一新したり、商人が街の外で商売しやすいよう護衛を雇うための補助金を出したり、住民達に一律で給付金出すことにした。そして残りの半分は住民の⋯⋯特に子供の教育のための学校や職業訓練所を作るために使ってもらった。やはり義務教育ではないが最低限の知識はあった方がいい。手に職があれば食いっぱぐれることもないだろうし、街の生活の質の向上にも繋がるはずだ。
だけどこの世界の人達は学校に通うという概念がないので、定期的に来てもらうために学校で学べば昼食はタダで配ることにした。
すると子供達は親の仕事を手伝うのではなく、学校に通うことを優先してくれるようになってくれたので、きっと将来はこの子達が街の繁栄に役に立ってくれるだろう。そして学校では道徳も教えるようにお願いしてあるので街の治安も少しずつ良くなっていくはずだ。
「はるなが⋯⋯ルナさんがいてくれて助かったよ」
この案は前の世界で実際にあったことを多く取り入れており、はるなは俺の考えを瞬時に理解して行動に移してくれた。
特に学校運営に関しては俺は全くわからないから本当に助かった。
「これも全てリクくんが⋯⋯リックさんが協力してくれたおかげです」
この世界でズーリエの街はまだ治安に関しては良い方だ。国の王や街の代表の多くはスラムや孤児が生まれるのは当たり前だと思っている。だからルナさんみたいにスラムや孤児を何とかしようと考えるトップなどほとんどいない。
実際ドルドランドのスラム街はズーリエの数倍の大きさはある。それにスラム街はその街の代表や領主に取っては都合の良い部分などもある。例えば盗みや人の殺害など汚れ仕事を頼むにはスラムの人達は打って付けの存在だから無くしたくないという思いもあるのだろう。
「少ないですけどスラムを無くすことに反対する声もあります。それならもっと他のことにお金をかけた方がいいと。私達のしていることは偽善なのでしょうか?」
「偽善も善だよ。何もしないよりはいい。それに教育に力を入れないで国が成長するわけがない。前の世界でそれで没落していった国を知っているだろ?」
「そう⋯⋯ですね。ズーリエをそのような街にはしたくはありません」
自分達の今の利益を優先して未来に投資をすることを怠った結果、国力が低下するなんて目も当てられないからな。
トントン
「ルナ代表、リックくんいいかな?」
俺がルナさんとお金の使い道について話をしていると突然ドアがノックされた。この声はハリスさんだな。
「どうぞ」
この部屋の主であるルナさんが部屋の中に入るように促す。するとドアが開きハリスさんともう1人、グランドダイン帝国の甲冑を来た兵士がいた。
「失礼します」
何故ここにグランドダイン帝国の兵士が?
危険なことはないとは思うが俺は一応兵士の動きに注視しつつ警戒する。
「こちらの手紙をお読み下さい」
兵士がルナさんに近づき1枚の手紙を差し出す。
そしてルナさんは封を破るために裏面にひっくり返すとそこに皇家の紋章が刻まれていた。
「こ、これはまさか皇族からのお手紙ですか!」
ルナさんは予想外の出来事に思わず声を上げているが無理もない。皇族が他国の⋯⋯街の代表宛に手紙を送るなんて前代未聞のことだ。
「拝見させて頂きます」
ルナさんは少し慌てた様子で封を切り手紙の内容を読んでいく。そして何故か手紙を読んでいる最中にこちらに視線を向けてきた。
何だか嫌な予感がする。まさかとは思うけど俺のことが書いてあるんじゃないだろうな。1番現実的にあり得そうなのがこの手紙は皇帝陛下からで「ズーリエの街にいるリックに決闘を申し込む。もし邪魔立てするなら容赦はしない!」と街の代表であるルナさんに対して忠告した内容の手紙だと言うことだ。
もしそうなら本当に勘弁してほしいぞ。
「リックさん⋯⋯これはリックさんに関係する内容なので読んでください」
ルナさんが神妙な顔で手紙を渡してくる。
おいおい。まさか本当に皇帝陛下との決闘が書いてあるわけじゃないよな? 自分でフラグを立てておいて言うのも何だけどこの時の俺は自分の予想が外れてくれと本気で思っていた。
そして仕方なくルナさんから手紙を受け取り中を見る。
結果として俺の予想は外れていた。
しかしだからと言って無視できる内容ではなかった。長々と書いてあったが要約するとこうだ。
俺の父親と兄であるゴルドとデイドはグランドダイン帝国を追放されたため、現在ドルドランドの領主の座は空席となっているらしい。そして元々統治能力のないゴルドとデイドが治めていたドルドランドは経済が崩壊寸前で治安も悪く、いつ破綻してもおかしくない状態になっているため、領主一族の血を持つ俺に統治してほしいとのことだった。
あの2人が無能だとは思っていたけどまさかここまでとは。
だけどゴルドとデイドがいなくても俺は今さら帝国に戻る気などない。
ただ手紙には続きがあり、もし領主になりなくたいのであれば断ってもいいが、その際には1度ドルドランドの現状を見てからにしてほしいと皇帝陛下からの手紙だった。
領主になってしまったら俺のスローライフ(既にその真逆の方になりかけてるが)は完全に崩壊してしまうから断りたい。
だけどドルドランドが崩壊寸前になっているという所は気になる。正直な話街が無くなろうが別にどうでもいいけど困るのはそこにいる住人達、特に毎日食べる物も困っている貧しい人達だ。
元いた国のこととはいえ、それで大量の餓死者が出たら目覚めが悪い。
「わかりました。なるべく早くドルドランドに向かいます」
俺はそうグランドダイン帝国の兵士に返事をして翌日にはドルドランドへと向かうのであった。
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