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街を護った英雄達前編

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「お兄ちゃん」
「リックさん」

 シャドーと魔物が撤退した後、ノノちゃんとリリがこちらに駆け寄ってきた。

「ごめんなさいノノのせいで⋯⋯」
「違うわ。ノノは私を庇ってくれたから⋯⋯悪いの私なの」
「2人とも悪くないよ。悪いのはシャドーだ」

 シャドーの不調の原因とノノちゃんが何故あの時声を上げたのか気になるけど今は考えている暇がない。

「それにお兄ちゃんいっぱい怪我をして⋯⋯」
「怪我? そんなものもうどこにもないよ。だから2人とも気にしないで」
「お兄ちゃん⋯⋯」
「リックさん⋯⋯」

 実際は死ぬ寸前だったけど余計なことを言って2人に心配をかけたくない。それより今はまだやらなくちゃならないことがある。

「2人ともこのまま西門の方へ行くけど大丈夫?」
「そっか、魔物は西門にも向かっていたね」
「私は大丈夫よ」

 シャドーや魔物達はもう南門には戻ってこないと思うけどいつまた2人が襲われるかわからないからこのままここに置いていく訳にはいかない。
 影を移動する能力か⋯⋯厄介なことこの上ないな。何か対策を立てないといずれリリがシャドーに拐われてしまうかもしれない。

「冒険者の皆さん、俺達は西門に行きます。この場をお願いしてもよろしいですか?」

 俺はこの場に残ってくれた冒険者の中で1番年齢が高そうな中年の男性に話しかける。

「お、おお⋯⋯さっきは悪かったな。あの黒い奴を見たら何故か声が出せねえし動けなくなっちまった」

 動けない?
 もしかしたらシャドーは何かスキルを使って冒険者達の動きを封じていたのかもしれないな。俺やノノちゃん、リリが影響を受けなかったのは冒険者達よりレベルが高かったからだろうか。まあ今となったら原因はわからないけど。

「あの男はかなりの強敵でしたからね」
「こんな情けねえ俺達が言っても信用できないかもしれねえがこっちは任せてくれ。西門を頼む!」

 彼らはこの魔物の大群を前に逃げることより戦うことを選んでくれた心ある人達だ。俺の中に冒険者達のズーリエを護りたいという気持ちが伝わってきた。

「わかりました」

 俺は冒険者の人達に頷きノノちゃんとリリを連れて西門へと走る。


 西門には南門にいた数の半分、約数千の魔物が向かっていた。
 正直な話補助魔法で強化したテッドと憲兵や冒険者達では厳しい相手だ。
 もしかしたら既に西門は破られているかもしれない。

 俺は焦る気持ちを抑えながら探知スキルを使い西門の様子を探る。だけどまだ西門までは2㎞程の距離があり、探知スキルの範囲外のためどういう状況なのかわからない。
 ただ今わかっているのは魔物の姿を捉えることが出来ていないということだ。
 魔物は既に街に突入しているのだろうか、テッドはやられてしまったのだろうか、俺はこういう時にどうしても悪い方を考えてしまう。

「ん?」 

 西門まで後1㎞程の距離になった頃、俺は走っていた足を止める。

「お兄ちゃん?」

 そして俺に合わせてノノちゃんとリリも足を止め、こちらを不思議そうに見ていた。

「どうやら西門は大丈夫みたいた」
「本当!?」
「魔物はもう撤退していてルナさんやテッドの無事な姿が視えるよ」

 おそらく南門にいたシャドーが撤退したタイミングで西門の魔物も逃げたのだろう。

「良かった⋯⋯」

 リリは危険が去ったことに対して安堵のため息をつきその場に座り込んでしまう。
 だけどその気持ちはわかる。今回シャドーは俺とリリを狙って魔物の大群を引き連れて攻め込んで来たからな。もちろん悪いのはシャドーだけど少なからず負い目を感じていたと思う。
 後は人的被害がなければいいけど探知スキルで視た所、傷を負っている者はいるけど致命傷を受けている人や事切れている人はいないのでたぶん大丈夫だろう。

「それじゃあゆっくり歩いて西門に行こうか」
「うん」
「ええ」

 そして俺達は西門へと徒歩で向かうと2つの影がこちらに迫ってくるのが見えた。

「リック!」
「リックさん」

 テッドとルナさんだ。
 2人は声を上げながらこちらの方へと走って向かってくる。

「リックさんお疲れ様です。南門は大丈夫でしたか?」
「こっちにいた魔物は撤退したよ。西門の方は大丈夫だった?」
「それはこのテッド様の活躍に恐れをなして皆逃げていったぜ⋯⋯と言いたい所だがこの嬢ちゃんが魔法をぶっぱなして魔物を駆除してくれたお陰だな」
「ルナさんが?」
「最近魔法の調子が凄く良くて。でも街を護る役に立てたなら嬉しいです」

 魔法の調子が良い? もしかしたら聖女の称号のせいなのかな? 何となくだけど聖女の称号なら魔法に補正値がついてもおかしくないような気がする。

「街の代表が持つ力じゃねえよ。まるでラフィーネ様のようだった」
「そう言って頂けるととても嬉しいです」

 ラフィーネさんが目標のルナさんにとっては最高の褒め言葉だな。

「さあそれでは街の皆さんにも魔物の脅威が去ったことをお伝えしましょう」
「おお、そうだな。街を護った英雄様達の姿を見せてやらねえとな」
「そうですね。?」

 ルナさんは意味深な視線を向け言葉をかけてくる。
 この問いに込められた気持ちは重い。ここで首を縦に振れば俺のこれからの運命は変わってしまうだろう。

「わかった」

 だけど俺は躊躇いもなくルナさんの問いに頷くのであった。
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