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帝国の企み

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 カバチ村から帝都グラスランドに戻ったギアベルは、城にある自室で塞ぎ込んでいた。

「くそっ! くそっ! 何故こうも上手くいかない!」

 俺は帝国の皇子であり勇者だぞ。誰もが憧れ、尊敬する人物のはずが今はどうだ。勇者パーティーの依頼は失敗続き。このままでは勇者の称号を剥奪されてしまう。
 そのような屈辱を味わう訳には行かない。次の依頼は絶対に成功しなければならない。そのためには使えない雑魚共を排除して、一流の力を持つ者だけのパーティーを作るしかない。
 ファラやマリー、ディアンヌは女としては良かったが、勇者パーティーの一員としては力不足だ。
 パーティーを一新する時は必要ないな。俺に必要なメンバーは⋯⋯
 ギアベルはこの時、何故かユートのことが頭に思い浮かんでしまった。

 ユートが勇者パーティーだと?
 あの無能だけは俺のパーティーには必要ない! 奴を入れるくらいなら一人の方がマシだ。
 それに帝国を追放されたユートとは二度と会うことはないだろう。だがもし次に会った時は、傷つけられたプライドの分だけ地獄を見せてやる。

 トントン

 イラつき、機嫌の悪い中、突如部屋のドアがノックされた。
 しかしギアベルは人と会う心情ではなかったので、無視を決め込む。

 トントン

 だが扉の外の者は諦めず、何度もドアをノックをしてきた。

「ええい! 誰だ私の気分を害する者は!」

 ギアベルはノックの音が煩わしくなり、思わず返事をしてしまう。
 するどドアが開き、太った中年の男が部屋に入ってきた。

「貴様は⋯⋯ハメード伯爵」
「お久しぶりです。ギアベル様」

 ギアベルはハメードとは会う価値がないと判断し、踵を返す。

「帰れ。私は今誰かと会う気分ではない」
「それは次の依頼を失敗すれば、勇者の称号を剥奪されてしまうからですか?」
「貴様!」

 ギアベルは素早く剣を抜き、ハメードの首の前で止めた。

「私を愚弄するとは良い度胸だ。今の私は機嫌が悪い。首と胴体を分かれさせたくなければ、黙って部屋から出ていけ」
「これは訪ねるタイミングを間違えてしまいましたか。ですがそのようなことをされてもよろしいのですか?」
「どういうことだ」
「ギアベル様は勇者としての実績に飢えているのではありませんか? 戦うだけが勇者の実績ではありませんよ」
「回りくどい言い方はやめよ! 貴様は何が言いたい?」
「私があなたに勇者としてこれ以上ない実績を与えましょう」
「ほう? だがただではなさそうだな」

 ギアベルはハメードの首に当てていた剣を下ろす。話を聞く価値があると判断したようだ。

「そうですね。どのようなものでも対価というものが必要です。私はこの伯爵という地位で満足している訳ではありません。もしギアベル様が皇帝になられたあかつきには⋯⋯」
「側近として取り立てろと言うことか」
「ギアベル様は話が早くて助かります。その通りです。もしギアベル様が実績を上げたいと仰るのであれば、私とムーンガーデン王国に同行して頂けませんか?」
「ムーンガーデン王国だと? あの国はクーデターが起きたのではないのか?」
「ええ⋯⋯ですが今は前国王の弟が王位に就いています。ちなみにこの新国王の妻が私の姉でして」
「詳しく話せ。行くか決めるのはそれからだ」
「わかりました。実は今回のクーデターですがそもそも――」

 ハメードは今回のムーンガーデン王国のクーデターについて、そしてギアベルにはどのような利益があるかを説明するのであった。

 ◇◇◇

 再び時は戻り、ユートがグラザムからクーデターの真相を聞いてから一週間が経った頃。

「約束の時間は明日の昼だったか」
「はい。出来れば今日中に関所に到着したいですね」

 俺はリズとレッケさん、そしてマシロとノアを引き連れて、国境沿いにある関所に馬車で向かっていた。
  
「リスティヒのお屋敷で見つけたお手紙には、帝国のハメード伯爵が来られると書いてありました。私は一度だけこの方とお会いしたことがあります」
「リスティヒの妻の弟ですからな。婚姻を結んだ時、ムーンガーデン王国に来たのを今でも覚えています」

 だがそのリスティヒの妻であるゲルダも既に捕らえられていて、軟禁状態となっている。さすがに帝国の伯爵家の者なので、牢獄に入れることはしなかったようだ。

「それにしてもつい先日この道を通ったことが、まるで遠い昔のように感じます」

 リズのその気持ちもわからないでもない。
 カザフ村でニナさんと出会い逃亡、レッケさんとの出会い、国王陛下と王妃様の救出、リスティヒとグラザムの捕縛と色々あったからな。

「そういえばニナさんはリズのメイドとして雇うことになったんだっけ?」
「はい。身内の方もいらっしゃらないとのことでしたから」

 リズは少し伏し目がちになる。
 ニナさんの両親はクーデターの際に国王陛下側について死んだと言っていた。おそらくだがリズは責任を感じてニナさんを雇い入れたのだろう。

「それとアホードは今牢屋にいるんだよな」
「はい。お父様を助けた後、すぐにレッケさんにお願いして捕まえてもらいました」

 やはりリズもアホードの傍若無人の振る舞いには、怒りを感じていたのだろう。対応が早い。

「リスティヒに加担した者達は全て牢獄行きとなっているため、スペースが足りなくなっているようだ。そのため、近い内に処分すると国王陛下が仰っていた」

 処分とはおそらく命を奪うということだろう。まあリスティヒの元でやりたい放題していたんだ。仕方ないだろう。
 だがそんな奴らも全て。自業自得とはいえ哀れなものだ。

「そろそろ関所に到着します。リズリット王女はお疲れではありませんか?」
「大丈夫です。それより?」
「既に到着しています。そして帝国の使者もサルトリアの街にいるとのことです」
「わかりました。明日が楽しみですね」

 こうして俺達の乗った馬車は国境沿いにある関所に到着した。だがこの時の俺は、因縁の相手と再会することになるとは、夢にも思っていなかった。

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