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ユートの策

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「き、貴様! 私の命令に⋯⋯なんだと!」

 リスティヒはリズの味方をする兵士を叱責することより、重要なことを目撃してしまう。

「何故兄上と王妃がお前の手に!」
「ここにいる全員がリズを見ていたから、その間に取り戻しただけだ」

 そう。俺は兵士となって国王陛下と王妃様を救出するタイミングを見計らっていたのだ。
 クーデターが成功し、新たに設立された軍隊だったので一人や二人⋯⋯いや、十人くらい紛れ込むのは簡単だった。
 それにしてもリズはさすが王女様だな。可愛らしく華やかで、カリスマ性もあるから、皆リズを注視してくれた。そのため国王陛下と王妃様を助け出すことが容易に出来た。
 ちなみにリズの横にマシロとノアを置いたことにも理由がある。もし兵士が襲いかかってきた時、リズの護衛をしてもらうためだ。
 ここまでは上手く行った。だがこれで終わりじゃない。
 リスティヒとグラザムをぶちのめし、リズや国王陛下、王妃様を安全な場所に連れていくことが、俺の任務である。

「なるほど。リズリット王女が過剰なパフォーマンスをしていたのは、兄上と王妃を助け出すためだったか。素直にやられたと褒めてやろう。だが一対千が二対千になっただけだ。この人数差を覆すことなど不可能だろう」
「さあ、それはどうかな?」
「なんだと?」

 俺の策はまだ終わりじゃない。

「私もリズリット様に従います!」
「リスティヒとグラザムの横暴を許すな!」
「ムーンガーデン王国を取り戻すのだ!」

 一部の兵士達がリスティヒの軍から離脱し、リズの元へと向かう。この兵士達も俺が仕込んだ者達で、国王陛下と王妃様を助け出した後、反旗を翻してくれと頼んでいたのだ。

「貴様ら⋯⋯この私は裏切るとは良い度胸だ! 家族共々処分してやる!」

 リスティヒは怒りの表情を浮かべ激昂しているが、内心ではまだまだ余裕があるだろう。
 兵士に化けたレジスタンスは十人。
 二対千が十二対九百九十になっただけだからな。

「自分に従わない者は全て処分する。あなた方はこのような卑劣な王に仕えるというのですか! 今リスティヒを倒さなければ、必ずあなた方に災いをもたらしますよ」

 リズが再度兵士達の説得を試みるが、俺達の味方になってくれる者はいないようだ。
 残念だけど今リズの味方をしている兵士達は、レジスタンスのメンバーだ。
 そのため、リスティヒを裏切ってこちらの味方になった者はまだ誰もいないということになってしまう。
 だけど兵士達の表情を見ていると、心からリスティヒの側についているようには見えない。
 後一押ひとおし⋯⋯後一押あれば反旗を翻してくれるはず。
 だったらそのきっかけを使ってやろう。
 タイミング的にはそろそろのはずだけど。

「お遊びはこれまでだ! 皆の者反逆者を始末しろ! だがリズリット王女には傷一つつけず捕らえよ!」

 多少の裏切りがあったとしても兵士達の心は変わらなかった。
 リスティヒの命令に従って兵士達が押し寄せてくる。
 このままだと俺はともかく、リズ達がヤバそうだ。

「マシロ! ノア!」

 リズを守れという意味を込めて、二人の名前を叫ぶ。

「ニャーっ!」
「ワンワン!」

 俺がリズの元に行けたらいいけど、こっちも瀕死の状態の国王陛下と王妃様を守らなくてはならない。
 とにかく今は時間を稼ぐしかない。
 俺は剣を抜き、兵士達に切っ先を向ける。
 残念だけど衝突は避けられないか。こっちも余裕がないので向かって来る者に関しては再起不能にさせてもらう。
 俺は襲いかかってきた兵士に対して、剣を振り下ろそうとしたその時。
 突如城の方から大歓声が聞こえてきた。

「皆の者! 城は落とした! 勝ちどきを上げよ!」
「「「エイ、エイ、オー!」」」

 どうやら間に合ったようだな。さすがにギリギリ過ぎて肝を冷したぞ。

「どど、どういうことだ! 何故城から歓声が聞こえてくる!」
「ち、父上! 城を見て下さい! レジスタンスの旗が⋯⋯」

 グラザムの言葉通り、城には沢山の旗が掲げられていた。これなら誰が見ても、城がレジスタンスの物になったということがわかるだろう。
 実はリズがリスティヒや兵士達の注目を集めている間、王族だけが知る隠し通路から、レジスタンスのメンバーが城に侵入したのだ。幸いほとんどの兵士は正門前に配置されていたため、容易に城を落とすことが出来たという訳だ。
 それだけリズを捕らえたかったようだが、正門に全軍集めたことが仇となったな。
 そして大歓声が湧く中、城の正門の扉が開かれる。するとレジスタンスのメンバーが武器を携えてこちらに向かってきた。

「これより反逆者の討伐に入る! 国家を乱した逆賊をけして許すな!」
「「「うおぉぉぉぉっ!!」」」

 レッケさんの掛け声により、レジスタンスの士気は最高潮に達した。
 レジスタンスのメンバーは今までの恨みを晴らすかのように、突撃を開始する。
 すると戦場に変化が訪れた。

「し、城が落とされたんだ。リスティヒにもう勝ち目はない」
「これ以上奴に加担する必要はなくなるってことか!」
「そうだ! 我らが味わった屈辱を返す時だ!」 

 兵士達は反旗を翻し、リスティヒとグラザムへと体を向ける。その数は多く、最早二人の味方をする者などいないかのように見えた。

「た、父上! どうすれば!」
「バカ者! この状況で戦える訳がなかろう! 逃げるぞ!」
「ひぃぃぃっ!」

 リスティヒとグラザムの情けない声が戦場に響き渡る。
 国を手に入れるためにお前達はやり過ぎた。その報いを受けるがいい。
 兵士達やレジスタンスのメンバーの怒りは凄まじいものを感じる。捕まったら五体満足でいられないのは明白だろう。

「お前達の時間はもう終わりだ」

 俺は逃げ惑うリスティヒとグラザムに向かって、そう宣言するのであった。

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